
一幕ものの3つの新作オリジナル・ミュージカルを、同じ劇場、同じセットで上演する。
そんなコンセプトで、オリジナル・ミュージカルの可能性を模索するフェスティバルが、この秋誕生します。
劇作家のモスクワカヌさんはじめ、ピクニック好きのクリエイターたちが青空のもとで集まり、歓談する中で生まれた企画。それぞれの作家性を活かした、全く個性の異なる三作品が、一堂に会します。
日替わりで上演されるのは、
Group B『檸檬SOUR』(脚本=エスムラルダ)
DAWN PROJECT『ロミオ アンド ジュリエット アット ドーン!』(脚本・作詞=オノマリコ)
noo『モイ・ミリー~ユリウス・フチーク 最後の手紙~』(脚本・作詞=モスクワカヌ)
の三作。それぞれに主演する上野哲也さん、工藤広夢さん、前田隆太朗さんに、作品の印象や稽古の手応え、そしてフェスへの思いをうかがいました。

一見、全く異なる3作品を見比べることで
フェスのテーマが浮かび上がる…⁈
――皆さんはもともと、今回の主催者やクリエイターたちとご縁がおありだったのですか?
工藤広夢(以下・工藤)「僕は二年ぐらい前に、稲葉賀恵さん演出、(今回の主催者である)モスクワカヌさん脚本のお芝居に出たことがありまして、その時に今回、『ロミオアンドジュリエットアットドーン!』の翻案・脚本をされているオノマリコさんも参加していました。今回はその流れでお声がけをいただきました」
上野哲也(以下・上野)「僕は、今回の『檸檬SOUR』の作曲の大部胡知さんと、とあるイベントで歌った時に知り合いまして。打ち上げの場で、大部さんがユニットを組んでオリジナル・ミュージカルを作っているとお聞きして、その後お声がけいただきました」
前田隆太朗(以下・前田)「僕は作曲家の伊藤祥子さんと何度かご一緒したことがあって、そのご縁で今回、お話がありました」
――今回のフェスには、三者三様の作品が並んでいます。それぞれ、台本を読まれての第一印象はいかがでしたか?

工藤「僕は『ロミオアンドジュリエットアットドーン!』に出演するのですが、『ロミオとジュリエット』って、これまでいろいろな形で上演されている演目で、その中にはミュージカルもありますが、今回は、現代に生きる若い世代のことが大きなテーマになっているなと思いました。ゲイのロミオと、レズビアンかもしれないというクエスチョニングのジュリエットが主人公で、本来なら恋に落ちるロミオとジュリエットが、恋に落ちないんです」
上野「『檸檬SOUR』は、梶井基次郎の『檸檬』という小説が原案になっています。今、日本にはある種の停滞感が漂っていて、物価が高かったり生活費がどんどん上がっていったりと、苦しい思いをしている人が少なくありませんが、そんな中で生きる喜びを再発見するという物語が、すごく“今”に合っているような気がします。
原作小説は、八百屋で並んでいたレモンに目が行くところから話が始まるのですが、どんな時でも(自分次第で)幸せになれるヒントはあるんじゃないか、というメッセージが、今を生きる方々にとって、ちょっと心を軽くしてくれるような作品になりそうだな、と思いながら今、取り組んでいますね」
前田「『モイ・ミリー』は実在した人物(ナチス・ドイツ占領下のチェコで投獄されたジャーナリスト、ユリウス・フチーク)が題材になっています。最初に台本を読んだ時に、あらすじを読んで受けた印象より読みやすいし、とっつきやすい作品だなと感じました。
何が起こるか分からない、来るかどうかもわからない”明日”というものに対する主人公の恐怖を感じて、明日が来ることって当たり前じゃないな、と再認識したし、この人がこんなにポジティブに生きているから、僕も頑張って生きようという気持ちになりました」
――ご自身の演じる役に対して、どのようにアプローチされていますか?

工藤「僕は19歳でゲイのロミオ役なのですが、まず大前提として、今作のロミオは明るいところもあるけどセンシティブな青年で、王室という難しい立場にいます。そこに対しての繊細さは常に持っていたいなと思っています。いろいろな情報、想像も持ち込んで、自分の中でリスペクトを忘れないようにしたいというのが一つ。
そして今回のロミオは、マキューシオに対して恋心を抱いているという設定なので、これまでの作品でもそうだったのですが、(恋愛ものの場合)演じている方を(人間として)本当に好きになるのが一番速いという考えがありまして、今回もマキューシオ役の方とコミュニケーションをとりながら、役とは関係なく、その人の好きなところを自分なりに見つけているところです」
上野「僕は、チェーン展開している居酒屋の店長役で、40代の同級生たちの中には結構出世している人たちもいて、自分の人生はこれでいいんだろうかという、ミドルエイジクライシスみたいなものを抱えています。
たぶん誰しもそうだと思うのですが、僕自身もそういうところがあるので、その感覚を大事に、自分と重なる部分を今、一つ一つ見つけています。
あと、今回、脚本を読みながら、登場人物をちょっと動物に例えてみたりしています。この人は自由に飛んじゃう、鳥みたいな人だなとか、この人は好きに生きている猫だな、とか。僕は、言うのは恥ずかしいですが、柴犬かな?(笑)。日常的なシーンが続くなかでそれぞれに個性的なキャラクターが登場するので、そんなふうに分析しながら、自分の中で物語がダイナミックに見えてくるよう、試しています」

――『檸檬SOUR』では、日常に鬱屈した人たちが、爆発しそうな心を抱えながら、あることに取り組みますが、その感覚、わかりますか?
上野「同調圧力に従ってしまっている自分と常に葛藤していて、合わせなきゃ、合わせなきゃと思い込んでいる気持ちが限界に達して、もう世界ごと〇〇〇〇〇!(←ネタバレを回避しています)みたいな気持ちだと思いますが、わからなくもないですね(笑)」
――前田さんは、明日をも知れぬ状況の中で何かを残そうとするユリウス役ですが…。
前田「僕はまだまだ苦戦中です(笑)。本作にはもう一人、”青年”という役が登場するんですけれど、彼と会話をするあるシーンがどうしてもうまくいかないと思っていたら、ああそういことか、と発見したりして、自分の中でまだまだ収拾ついていない感じではあります。
でも、この前、演出家やプロデューサーさんから、実際のユリウスさんの写真を見せられて、雰囲気似てるよねと言われまして」
上野「それ、大事大事!」
前田「似てるし、俺…と思って、その一本柱で頑張っています(笑)」

――実際のユリウスは、亡くなった時、前田さんよりずっと年上だったのですよね。そういう役柄に前田さんがキャスティングされたということには、きっと深い意味があるように感じます。
前田「亡くなった時は40歳ぐらいだったそうです。無理に自分を大人っぽくみせたりということはせず、等身大でいこうかなと思っています。
これも全部想像の話ですけど、僕が40歳になった時に本当にしっかりした大人になれるのかなと考えた時に、ならないだろうと思って(笑)。40歳でこの役をやったとしてもたぶん同じようなことをするだろうから、僕の今のイメージを大事にしたいなと思いました。だから無理に声を作ったりというのは意識しないようにしています。稽古の過程でもしかしたら変わるかもしれませんが…」
――音楽はいかがですか?
工藤「僕らのチームはすごくポップスっぽい曲もあれば、すごく古典味を感じる曲もあったりと、振り幅があるなと思います。小劇場ということで、普段、大きなミュージカルでの歌い方とは違うトライの仕方ができているし、ピアノ一本でやるので、伴奏も僕らの歌に寄り添ってくれていて、すごく繊細なことが出来ている印象です」

上野「さきほど、作曲の大部さんとの出会いが今回の出演のきっかけというお話をしましたが、その打ち上げの時に、大部さんが藝大の大学院でスティーブン・ソンドハイムを研究してるという話を聞いていたんです。
今回、出演が決まって楽譜が上がってきて初めて大部さんの曲に触れたのですが、なんというか、歌おうにも伴奏が難しすぎて、どこに拍の頭があるのかが全くわからない、という楽譜だったんです。何これ?これどうやって歌えばいいの?みたいな(笑)。
大部さんはソンドハイムを研究していたんだと思い出して、なるほどと思いました。ソンドハイムを分析してきた方の曲なので、かなり隙なく作られてるんですよね。
俳優としては、自分の感情でもってそれをこう、えいって曲げちゃうのではなくて、まずは歌いこなすところに全力をかけてみようかなと思っています。そのうえで、自分の色を入れられるようにしなきゃな、と思いながらやっていますね。かなりソンドハイム味のある、難解だけどめっちゃ面白い曲ばかりです」

前田「『モイ・ミリー』は、素敵な曲ばかりです。作曲してくださった伊藤祥子さんがそのまま稽古場でもピアノを弾いてくださっているので、寄り添ってもらっているというか。”ここ歌いづらかったら、ちょっと変えましょうか”と言って下さったりしますが、”いや一回やらせてください”とトライしたり、やりとりをしながら曲を発展させていっている感じがすごくあります。
なので、最初にいただいた楽譜とは、ちょっと色が違うものになっているかもしれません。芝居を作っていく中で、伊藤祥子さんも、『じゃあもうちょっとここはこうしてみようか』みたいな感じで変えてくださったりしています」
――今回、ミュージカル”フェス”ということを踏まえつつ、どんな舞台になったらいいなと思われますか?
工藤「三作品がそれぞれにメッセージを発していると思うので、何かフックがかかればいいなと思いながら演じたいです。
『ロミオアンドジュリエット~』に関していうと、これは僕個人の考えですが、この世に差別や偏見が全くゼロな人間っているのかなと思っていて、もちろん僕もいい人間でありたいし、そうであるよう努めてはいますが、人ってやっぱり、生まれた環境やシチュエーションによって、節々でそういうものが出てくると思います。
誰しも、人を第一印象で判断することがあると思いますが、本作にはそういうものがものすごく渦巻いていて、自分はどうやって人を判断しているんだろう、と考えさせられます。何を持って好き、嫌いとするのか、何をもって友情と呼ぶのか。僕はこの作品を通してそれらを振り返らせてもらうきっかけになったので、このテーマがお客様にも伝わって、身の周りの人との関係性を考えてもらえることに繋がったら、すごくいいだろうなと感じています。人と人との繋がりや関係性を感じていただけたら嬉しいです」

上野「この三人は今日、(この取材を機に)初めて揃ったんです。工藤さんや前田さんに会ってそれぞれの作品の話を聞いていて、作品一つ一つにテーマがあるけれど、さらに、三作を並べた時にワンアクトミュージカルフェスのテーマも浮かび上がってきたらいいなと思いました。
今、工藤さんが話していたように、例えば『ロミオアンドジュリエット~』はかなり人間のセンシティブなところがテーマになっていたり、『モイ・ミリー』は生きるか死ぬかという生死の部分が取り上げられているのに対して、『檸檬SOUR』は日常の中の小さなきらめきを描いていて、生きていく上でのヒントというか、スパイス的なものが、このフェスのテーマの一つになってくるのかな…そんな方向性が見えてきたような気が、今3人で話しているなかでしてきました」
前田「『モイ・ミリー』に関しては、生死についての話になってくるので、観てくださる方の精神状態によっても受け取り方が変わってくるのかな。僕も精一杯取り組んでいます。
そして今回のフェスについては、やっぱりお客様に何かを届けて、楽しんでいただいて、二回目、三回目と続けていけるようなものになるといいなと思います。今日、僕もお二人のお話を、へえ~面白そう、と一観客として聞いていました(笑)。どれも間違いなく面白いと思うので、出来れば3作品とも楽しんでいただいて、時間の無い方は一つでもいいので、何かを感じてもらって、『またやってほしいな』と思っていただけるフェスになるといいなと思っています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報「ワンアクト・ミュージカルフェス」10月9~20日=シアター風姿花伝 公式HP (日替わり、回替わりで3作品を上演。詳しいスケジュールは公式HPをご覧下さい)
*上野哲也さん、工藤広夢さん、前田隆太朗さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼント致します。詳しくはこちらへ。