一年を通じて、ファミリーで楽しめる演目が最も多い季節が、夏。2024年は“お馴染みの人気作”はもちろん、個性的な作品や体験型の舞台など、さまざまな舞台が登場します。
敢えて一人で出かけて童心に浸るのにも、子供と一緒に思い出を作るのにもお勧めできる作品を厳選、シリーズでご紹介します!
第一弾は埼玉公演を経て現在、各地を巡演中の音楽劇『死んだかいぞく』。
海に沈んだ一人の海賊を通して“生と死”を描き、ボローニャ・ラガッツィ賞2024年特別部門「海」で特別賞を受賞した、下田昌克さんの同名絵本(ポプラ社刊)が原作です。
脚本・演出をノゾエ征爾さん、音楽を田中馨さん、そして美術・衣裳・小道具デザインを下田さん自身が手掛けた舞台とは…?
柔らかなスティールパンの音色に包まれた劇場空間。舞台上にはタイトルを一文字ずつ立体化した木のオブジェが置かれ、その合間を縫うように出演者たちが、「こんにちは~」とリラックスした様子で現れます。
♪三日月のよる、ふねのうえで かいぞくが はらをさされた…♪
波にたゆたうような東郷清丸さんの歌声に乗せて、物語がスタート。山内圭哉さん演じる、お腹に刀の刺さった“かいぞく”が数人のキャストによってふわりと担がれ、ゆっくりと海の底へ沈んでゆくさまが表現されます。
そこに現れるひとくいザメなどの海の生き物が、“かいぞく”の自慢の帽子や立派な歯など、彼の持ち物、体に目をつけては、一つまた一つと取ってゆく。最後に残ったものとは…?
という骨子は下田さんの絵本の通りで、東郷さんによるナレーションの歌詞にも、絵本の文章がほぼそのまま使われています。
下田さん自らデザインした海の生き物たちのパペットもそれぞれに創意が溢れ、たった数分の出番が惜しまれるほど魅力的。
それに加え、今回の舞台ではノゾエさんが“かいぞく”の生涯を書き加え、海の生き物たちに何かをはぎとられるごとに、それに因んだエピソードを挿入。体がゆっくりと死を受け入れてゆくいっぽうで、“かいぞく”の想念は彼の“人生の始まり”へと逆行してゆくという構成が、シンプルな命のドラマを感慨深く見せています。
上演時間は“休憩なし、100分ほど”とあって、子供たちがどこまでついて行けるかが注目されましたが、山内さんはじめキャストのメリハリの利いた芝居、終始途切れることのない心地よい空気感も手伝い、筆者の鑑賞回では客席の半数近くを占めていた(未就学児を含む)子供たちが、驚くほど舞台に集中。似顔絵を描くシーンやちょっとした台詞に対して、その都度無邪気な笑い声が響きました。
そこここで笑いを誘い、終盤にほろりとさせる舞台は、いったんカーテンコールの後、絵本の最終ページを表現。台詞、舞台美術と照明、音楽が一体となった幕切れの美しさは、年齢を問わず心に残るものとなりそうです。
(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報 音楽劇『死んだかいぞく』7月20~28日=彩の国さいたま芸術劇場小ホール、8月4日=サントミューゼ小ホール、8月7日=オーバード・ホール 中ホール、8月10日=ハーモニーホールふくい 小ホール、8月17日=神戸文化ホール 中ホール、8月21日=J:COM北九州芸術劇場 中劇場、8月24~25日=岡山芸術創造劇場 中劇場、8月31日=まつもと市民芸術館小ホール 公式HP