Musical Theater Japan

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“奇跡の配信”で堪能したい、三者三様の『スリル・ミー』

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『スリル・ミー』撮影:田中亜紀

2011年の日本初演以来、熱狂的なファンを増やし続けている二人ミュージカル『スリル・ミー』。この春も3組のキャストの競演が話題を呼ぶも、緊急事態宣言によって一部の公演中止を余儀なくされた本作の舞台映像が、5月29~30日にかけて配信されます。
アーカイブや見逃し配信は無く、3組それぞれ一度きりの配信とは言え、海外ミュージカルの配信が実現すること自体、非常に稀なケース。実現に至った経緯とともに、3バージョンがそれぞれに魅力を放った今回の舞台を振り返ります!



この作品を届けたい、という強い思い 

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『スリル・ミー』撮影:田中亜紀

今回は大阪公演が中止となった後で配信が決定し、その報は多くの舞台ファンを喜ばせましたが、主催側としては初期段階から、配信を視野に入れていたのだそう。主催のホリプロ担当者によると、「コロナの影響で元々の客席数も少なくなっており、加えてどれだけ感染予防をしていたとしても、いつ公演が止まるか分からないという状況だったため、早い段階から配信については相談していました」とのこと。

万が一に備え、東京公演の舞台を撮影しておいたところ、4月24日、緊急事態宣言が発出。4月25日以降の17公演、そして大阪の8公演全てが中止という事態を受け、権利元と交渉した結果、コロナ禍という非常事態ということもあってか、“各組1回ずつのアーカイブ無し”という条件でなら、と配信が許諾されたのだそうです。

もちろん、演劇は生で観てこそ。
とりわけ『スリル・ミー』という作品は、劇場空間の中で生まれる独特の緊張感とエネルギーが魅力の演目ではありますが、配信には、このコロナ禍で外出がままならない方、普段は劇場に足を運ぶ機会のない方にも御覧いただけるという利点があります。そこで「より多くの方にこの作品を知っていただく機会になれば」、と主催者は配信を決定。その先には、「配信でご覧くださった方が、本作をまた劇場で、生で観て頂けるよう、今後も上演を続けられるようにしていきたい」という思いがあるのだそう。彼らの強い作品愛があってこそ、実現した配信であることがうかがえます。

3組それぞれの風合いを体感する絶好の機会

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『スリル・ミー』撮影:田中亜紀

 1924年に全米を震撼させた殺人事件をベースに、54歳の“私”が、19歳の時に幼馴染の“彼”と犯した殺人を、仮釈放審議の場で回顧する二人芝居『スリル・ミー』。薄闇に包まれた場内が完全な沈黙に包まれると、第三の出演者であるピアニストが現れ、上手上方のピアノで狂おしくも切ない旋律を奏で始めます。(今回の公演では3人のピアニストが交互に出演、楽曲は同じでも音色はそれぞれに異なりました。この度の配信では篠塚祐伴さん、落合崇史さんが演奏しています)

客席通路を重い足取りで通り過ぎ、舞台に上がる“私”。何度も繰り返されてきた審議を虚しそうにやり過ごそうとするも、“本当の動機は何なのか”と隠された真実を語るよう迫られると、時間が遡り、19歳の初々しい“私”が現れます。旧友の“彼”との久々の再会を喜ぶ“私”に対して、“彼”はすげない態度。それでも“私”は彼に言われるまま、ある契約を交わし、放火や窃盗に手を貸すように。それにも飽き足らなくなった“彼”は、“超人”である証として、“偉大なる犯罪”に手を染めることを提案しますが…。

今回の出演は田代万里生さん×新納慎也さん、成河さん×福士誠治さん、松岡広大さん×山崎大輝さんの3ペア。台本も栗山民也さんによる演出も同一ですが、例えば“彼”が“私”の求めに応じて横たわる際、様式的に両手を広げる新納さんに対して、福士さん、山崎さんはリアルな動きを見せており、こうしたディテールの積み重ねが“彼”という存在を三者三様に形作ります。ここにいるのは実際の“彼”であるのか、それとも“私”の記憶の中の、ある種理想化された虚像なのか。観察しながらあれこれ推測できるのも、本作の醍醐味の一つでしょう。

全編を通しても、田代さん・新納さんペアには愛ゆえの悲劇、成河さん・福士さんペアにはパワー・ゲームとしての緊迫感、松岡さん・山崎さんペアには若さゆえの暴走といった色味があり、観終わった後の余韻もそれぞれ異なります。配信は二日間にわたっていますが、自宅でリラックスしながら観ることのできる、またとない機会です。出来れば3組すべてを見届け、それぞれのアプローチを比べてみてはいかがでしょうか。

なお、29日から6月13日までの期間には、キャスト対談やバックステージ・ツアーなどをまとめた約75分の特別映像も配信。本編を観た後の“アフタートーク”として楽しめそうです。

(取材・文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
新納慎也さん福士誠治さん松岡広大さんへのインタビューも併せて御覧下さい(読者プレゼント有)。
*配信情報『スリル・ミー』舞台本編映像(アーカイブなし)5月29日(土)17:00~ 松岡広大・山崎大輝/ピアニスト:篠塚祐伴、5月29日(土)20:00~ 成河・福士誠治/ピアニスト:落合崇史、5月30日(日)17:00~ 田代万里生・新納慎也/ピアニスト:落合崇史
特別映像配信(アーカイブあり)5月29日10:00~6月13日23:59  公式HP