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親子で楽しめる“体験型ミュージカル”『PLAYISLAND ももたろう』レポート&小林遼介インタビュー【親子で観たい!2024夏の舞台②】

『PLAYISLAND ももたろう』©Marino Matsushima 禁無断転載


子どもを観劇デビューさせたいけれど、“うちの子、大丈夫かな? 最後まで集中できるかな?”と心配な親御さんにご提案したいのが、観るだけでなく“参加”も出来る、イマーシブ・ミュージカル。日本ではまだ知られ始めたばかりですが、欧米では“気軽に演劇に触れられる機会”として、ファミリー層に人気だそうです。

今回は、海外在住中にこのジャンルを手掛け始めた演出家・渋谷真紀子さんが、年少~小学2年生までのお子さんと保護者のため、一流のスタッフ、キャストと作り上げたイマーシブ・ミュージカル『PLAYISLAND ももたろう』をご紹介。初演のオーストラリアでは、異国の物語である『桃太郎』が、現地の親子たちに大好評だったそうです。

さらにブラッシュアップして行われる8月の東京公演を前に、5組の親子を招いて行ったゲネプロのレポートを、出演者の一人・小林遼介さんへのインタビューとともにお届けします!

 

「遊び」「ミュージカル鑑賞」「ミュージカル体験」が一つに!

 

『PLAYISLAND ももたろう』ミュージカル本編が始まる前に、子供たちは遊びを通して作品の世界観を体験。©Marino Matsushima 禁無断転載


カラフルな装飾を施された会場。案内された子どもたちはまず、自分の“小道具”となるサコッシュを作ります。袋の部分は既に出来上がっていて、好きな色の袋を選び、両端に紐を通すだけですが、幼い子供には意外と大変。キャストやスタッフに声をかけられながら完成させると、どのお子さんも嬉しそうな表情で早速、斜め掛けしています。続いては紙をまるめて“きびだんご”を作ったり、桃の形に切り抜いた紙を壁に貼ったり。

 

『PLAYISLAND ももたろう』子供たちが最初に取り組むサコッシュ作り。©Marino Matsushima 禁無断転載


保護者に見守られ、リラックスしながらひとしきり工作を楽しんでいると、ウキウキするようなピアノの演奏(久田菜美さん)とともにキャストが英語のオープニング曲“Let’s Go”(作詞Polly Hilton、作曲Minhui Leeによるオリジナル曲)を歌い始め、子どもたちも一緒にジャンプ! “インターナショナル・プリスクールの空気感”が違和感なく味わえる瞬間です。

 

『PLAYISLAND ももたろう』©Marino Matsushima 禁無断転載


さて歌が終わると、「昔々、あるところに…」と日本語にスイッチ。
キャストがかわるがわるナレーションを受け持ち、『桃太郎』の物語を演じます。
“どんぶらこっこ”と流れてくる、柔らかなカラーペーパーに覆われた“桃”。おばあさん役の大浴ちひろさんが二つに切ると、すぐさま部屋の電気が消され、元気な赤ちゃんの姿が影絵で現れます。アナログ感を前面に出したお芝居はテンポよく進行し、それに応じてアクティング・エリアも次々に移動。その都度、子どもたちは体の向きを変えてお話に見入り、飽きる暇は無いようです。

『PLAYISLAND ももたろう』©Marino Matsushima 禁無断転載


成長した桃太郎を溌剌と演じるのは、片岡芽衣さん。みんながよく知る民話の通り、桃太郎は鬼の悪行の噂を聞き、きび団子で仲間を募ると鬼退治に出かけますが、いざ鬼が島に到着すると、ちょっと意外な展開に。脚本も担当した渋谷さんのメッセージが感じられるハッピーなエンディングに、思わず立ち上がって踊り出す子も現れました。

 

『PLAYISLAND ももたろう』©Marino Matsushima 禁無断転載


最後のセクションでは、観客自らも『桃太郎』の世界を体験。「桃太郎役」「動物役」「鬼役」の3パートに分かれ、今まで見ていたお芝居を短縮バージョンで演じるべく、段取りと大事な台詞をおさらいします。

 

『PLAYISLAND ももたろう』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

この日は子どもたちのほとんどが「鬼」を希望。思わぬ人気ぶりに鬼役の小林遼介さんは驚きつつも、角(の冠)をつけた“チビ鬼”ちゃんたちに笑顔で指導。希望の少ない役にはスタッフが入り、みんなで見事に“PLAYISLAND版ももたろう”を演じました。

プログラムの進行中は終始緩やかな空気が流れ、子どもたちはストレスフリーに『桃太郎』の世界をエンジョイ。遊びの延長線上の感覚で、TVやスマホで映像を見るのとは全く異なる“お芝居”を体験したことは、きっと彼らの記憶のどこかに刻まれ、いつか何かの拍子にふと呼び覚まされることでしょう。終了後の子どもたちの晴れやかな表情が、ゲネプロの“成功”を物語っていました。

 

“鬼”役・小林遼介インタビュー:“演劇の起源”のようなひとときを味わって

 

小林遼介 東京都出身。早稲田大学、劇団四季を経て『ダンス・オブ・ヴァンパイア』『よろこびのうた』(主演)『ミス・サイゴン』『THE PARTY in PARCO劇場』『ラ・マンチャの男』等、様々な舞台で活躍している。©Marino Matsushima 禁無断転載


――本作にはどのような経緯で関わることになったのですか?

「本作でおばあさんや動物を演じている大浴ちひろさんが、僕と早稲田大学ミュージカル研究会の同期でして、彼女から昨年、”ある演目で英語も日本語も出来る俳優さんを探しているのだけど”と連絡がありました。僕が帰国子女ということで、まずはスケジュールが合うかどうかの問い合わせでしたが、概要を聞いてぜひやってみたいなと思っていたところ、幸いにも(演出の)渋谷さんが僕を選んで下さいました」

 

――小林さんは劇団四季のご出身でファミリー・ミュージカルにも出演経験がお有りなので、子どもと関わることには慣れていらっしゃいそうですね。

「子どもと関わるのはたやすくはないですね。劇団時代、『ライオンキング』で子役担当の先輩が指導しているのを、子どもに教えるには自分自身が相当、出来る人でないといけないんだなと思いながら、尊敬の眼差しで見ていました」

 

『PLAYISLAND ももたろう』©Marino Matsushima 禁無断転載


――今回のモチーフ「桃太郎」は、日本古来のお話ですが、異質な存在とどう関係を築いていくかという問題を扱っている点で、デリケートな作品でもあるかと思います。観客が幼ければ幼いだけ、原体験として価値観にも影響しかねないと思いますが、小林さんはどんなことを感じながら演じていらっしゃいますか?

「稽古が始まった頃は、確かにそのことについて、気をつけながら演じていました。異質な存在だったり、姿かたちが違うものに対して、人はどう関わるべきなのか。今後、上演規模が変わっていくなかで、例えば40人くらいの方に囲まれながら演じる時には、さらに気をつけながら演じないといけないなと思っています。

僕自身の記憶にも、リンクする部分があります。
僕は8~10歳の頃にシリコンバレーで暮らしていたのですが、いろんな国からアメリカに来て英語を習おうとしている子どもたちが集まると、どうしても自分に近い肌の色の人同士で集まる傾向があって、自分と違う色の人たちに対して、悪口を言ったり、英語特有の悪態をついたりというのが強烈でした。

日本で暮らしていると肌の色が違う人たちと接する機会があまりなかったので、自分と違う人たちとの出会いに怖さも感じつつ、いろんな人がいることでこの世界が出来上がっていることを痛感し、今では貴重な経験が出来たなと思っています」

 

『PLAYISLAND ももたろう』©Marino Matsushima 禁無断転載


――子どもと関わることでのご苦労はありますか?

「輪に入りたがらないお子さんが多いかなと予想していましたが、実際には皆さん、最終的には作品に入り込んでいらっしゃるなと思います。親御さんが一緒であるという安心感があるからかもしれません」

 

――このプログラムの良さはどんなところにあると感じますか?

「“どんな演劇もこんなところから始まるんじゃないかな”と思えるような手作り感、オリジナリティが溢れています!」

 

――子どもたちに何が残るといいなと思われますか?

「興行的に規模の大きい作品もたくさんありますが、本作のような小規模なプログラムに参加することで、いつか“あの時、鬼が怖かったな”とか、ベートーベンの『運命』を聴いて“この曲は鬼が歌っていた♪Looks So Yummy♪(と同じメロディ)だ!”といったことを思い出していただけたら嬉しいです。論理的に残るというより感覚的に残ってくれたらいいんじゃないかな」

 

――小林さんにとっても本作に出演することで得るものはありますか?

「それはたくさんあると感じています! 僕の演劇歴はもともとサークルでオリジナル・ミュージカルを作るところから始まったので、既成の作品の中で歯車を担うよりも、自由度の高い作品のほうがやりがいを感じるタイプではあります。

台詞のスピード、歌の間合いなど技術的なこともそうですが、お子さんは感覚がシビアなので常に試されている感じがあります。大作ミュージカルに出ている時とはまた違う緊張感がありますね」

 

――どんな方にいらしていただきたいですか?

「僕が聞いた話で、お子さんが障がいをお持ちということで躊躇されているお母さんがいらっしゃったそうなのですが、“こういうふうに楽しまなくてはいけない”と決まっている作品ではなく、渋谷さんも僕らを信頼していろんなことを試させてくれています。ぜひいろいろなお子さんに楽しんでいただけたらと思います」
(注・不安のある方は主催迄ご相談を。また、対象から多少はみ出た年齢のお子さんでも、該当年齢のきょうだいがいらっしゃればご一緒に参加出来ることもあるそうです)

 

『PLAYISLAND ももたろう』©Marino Matsushima 禁無断転載



――小林さんは最近まで、ミュージカル『この世界の片隅に』に出演されていました。ご覧になった読者も多いかと思いますが、序盤の回想シーンで晴れやかに歌い出していたのが小林さんですよね。

「はい、そうです。♪吐く息しらむ正月の~♪ですね(笑)。もう一つ、主なパートとしては、二幕で音月桂さんが演じる、主人公・すずさんの義理の姉・径子さんの回想シーンで、亡くなった旦那さんを演じています。原田薫さんが僕と(若き日の径子役の)般若愛実さんにすごく繊細なダンスを振り付けて下さって、音月桂さんの素晴らしい歌声と相まって、“あのシーンいいね”と言ってくださる方が多く、嬉しかったです。

長期間この作品を演じる中で、自分の感覚とお客様の感想が完全に一致して熱を帯びていくのを感じました。作品ではもちろん主人公のすずさんが(出番も多く)一番大変なのですが、皆ですずさんを支えたり、舞台装置も自分たちで変えたりという役割もまっとうでき、とても充実感のある作品でした」

 

――小林さんは『この世界の~』の演出家、上田一豪さんの先輩にあたるのですよね。

「僕が4年の時に彼が新入生としてミュージカル研究会に入って来まして、“なんと輝くスーパースターが入ってきてくれた!”という驚きと喜びがありました。実際、僕らの期待を遥かに超える活躍をしてくれて、1年生の早い段階から脚本も書き、演出もし、主演もしていましたね。今の作風とは違う、明るく楽しい作品が多かったです。

在学中は彼の作品に出る機会がなく、彼の代表作『Count Down My Life』にお声がけをいただいた時も、当時僕は劇団四季に入ったばかりで、出演が叶わなかったのですが、その後『Play A Life』を“あてがきしました”と言って下さって、出演させていただきました。僕の何にそこまでのことを感じて下さるのかわからないけれど、一豪さんに一目置いていただいていることが、僕のアイデンティティになっています」

 

――大学時代にはオリジナル・ミュージカルをなさっていた小林さんですが、既存の作品を多数上演している劇団四季に入られたのは?

「僕の二つ先輩で、ダンスがそれほど得意ではなかった方が四季に入り、『ライオンキング』や『李香蘭』で活躍されていました。その方から“ダンスのレッスンが無料で受けられるぞ”と言われ、記念受験をしたら研究所に受かってしまったんです。43期です。

僕、本名は匡人(まさと)と言うのですが、当時“小林”姓の方が劇団に何人もいらっしゃる中で、浅利(慶太)先生に“この名前何と読むんだ”と尋ねられ、印象にも残らなくて読みにくい名前は芸名向きじゃないのかな、と思って、ある漫画の主人公に因んで、“小林遼介”に改名しました。いろいろ教えていただきましたが、浅利先生と言うと何よりこのことを思い出します」

 

――長くミュージカル界で活躍されている小林さんから、俳優を目指している若い方々に、何かアドバイスをいただけますでしょうか?

「能力があり、背が高く、ダンスや歌に秀でた方がどんどん出てくる中で、どれだけ自分に自信を持って、自分にしか出来ないことが出来るか…ということも大事だと思います。

でもそれに加えて僕自身、大切にしたいなと思っていることがあります。
ミュージカルを華々しい世界だと思って入って来られる方の中には、メインの方を支える俳優たちの役割を、知らない方もいらっしゃいます。
自分の名前が一番最初に載っていなくても、出演者である限り、誰もが大事な存在です。僕はよく、自分の出番がなくとも稽古場に残ったりしていますが、それは僕が拍手をすることで、演技をしている方の心の支えになることもあるかもしれないし、それによって作品がうまくまわっていくかもしれないと思ってのことです。
一つの作品に参加していることを、どれだけ楽しめるか。どれだけ作品に貢献できるか。そんなことを、僕自身は大事に思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『PLAYISLAND ももたろう』8月4日(11時と13:30の2回)=ロハスキッズ・センター クローバー(二子玉川)、8月7日(11時と13時半の2回)=座・高円寺 阿波踊りホール(高円寺)、8月18日(10:45と13時の2回)=publico(パブリコ梅が丘)参加費 親子で2000円~4000円(会場によりアクティビティ内容と金額が異なります) 公式HP
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