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『モダン・ミリー』2024観劇レポート:鮮やかに、軽快に描く、モダン・ガールの“幸福探し”

『モダン・ミリー』©Marino Matsushima 禁無断転載

軽やかな序曲に続いてステージ上に現れる、ロングヘアの若い女性、ミリー。
スーツケースを抱えた彼女は、ここNYで何かを成し遂げようと、まずは垢ぬけた服装&ショートヘアに変身します。
しかし“モダンな女性”の道を歩もうとした矢先に財布を盗られ、すっからかんに。
それでも“私には何もない、だから失うものもない!”と思い直したミリーは、通りかかった青年ジミーに教えられた宿へと向かい、NYでの生活を始めようとしますが…。

『モダン・ミリー』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

ジュリー・アンドリュース主演の1967年の映画を舞台化し、2002年にブロードウェイで開幕。最近では2022年に小林香さんの演出で評を博した『モダン・ミリー』が、引き続き小林さんの演出のもと、一部に新キャストを迎え、内容的にもブロードウェイ版クリエイターらの協力を得てブラッシュアップし、再演中です。(2022年観劇レポートでは、より詳しいあらすじをご紹介)

『モダン・ミリー』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

華やぎに満ちた音楽とダンス。
カラフルなキャラクターたちがテンポよく繰り広げる、台詞の応酬。
コミカルな中にスリルも、ほろりとさせる瞬間も巧みに織り込まれたストーリー。
そしてなにより、“夢”に向かってスーパー・ポジティブに邁進する主人公、ミリー。

『モダン・ミリー』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

まさに“王道ミュージカル”にふさわしい要素満載の作品ですが、今回のブラッシュアップでは一人の登場人物の造型が大きく変わり、作品に新風が吹き込まれています。

『モダン・ミリー』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

“女優の卵”たちが集う宿を切り盛りする、ミセス・ミアーズ。
前回公演での彼女は“中国人のフリをしたマダムだが、実は…”という、“怪しさ”全開のキャラクターでした。
今回はこの“偽中国人”設定が無くなり、衣裳もチャイナドレスから、(前時代風ではありますが)一般的なドレスに。奇抜な要素が取り払われたことで、ミアーズという人物の“若い頃に俳優として成功出来なかったことによる鬱屈と、二度目のチャンスへの渇望”が、より鮮明に浮かび上がります。本作を“女性の自己実現の物語”として見たときに、ミリーとミアーズが“光と影”的な対照をなしていることに気づかされる方も多いでしょう。(この物語のおよそ10年後のNYが舞台の『アニー』でも、孤児院で子どもたちを世話するミス・ハニガンが、同じく“望んだ人生を送れていない”という鬱屈と渇望を抱えており、興味深い相似性を見せています)

『モダン・ミリー』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

前回公演からの続投組と初登場組の混在するキャストも息が合い、ミリー役の朝夏まなとさんは、“新しい女性の生き方=条件のいい男性との結婚”と思い込んでいたのが、様々な出会いを通して目覚ましく変化してゆくヒロインを、古き良き時代のハリウッド映画を思わせる軽快な口跡とダイナミックなダンスで表現。ジミー役、田代万里生さん(新キャスト)は序盤にたっぷり“嫌味なヤツ”感を醸し出し、ミリーとの交流の過程で変化していく様を面白く見せています。

『モダン・ミリー』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

ミリーが“玉の輿”の相手として狙う(⁈)グレイドン社長役の廣瀬友祐さんは、最後の最後まで目で追いたくなる“おとぼけキャラクター”にさらに磨きをかけ、ミリーの親友となる令嬢ドロシー役の夢咲ねねさん(新キャスト)は、堂々たる“天然”ぶりが作品に明るい笑いをもたらしています。

『モダン・ミリー』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

チン・ホー役の大山真志さん(新キャスト)は朴訥とした中にも、ひとめぼれしたドロシーに花を渡すくだりなどで押しの強さを見せ、大スターにして大富豪のマジー・ヴァン・ホスミア役の土居裕子さん(新キャスト)は、端正な歌声で作品世界に品格を与えつつ、迷走するミリーに自分の体験を話し、そっと彼女の背中を押すさまが温か。

『モダン・ミリー』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

そしてミセス・ミアーズ役の一路真輝さんは、絶妙の間合いの台詞でしばしば場内の空気を緩ませつつ、ミアーズの“闇落ち”後は大きな存在感で空間を支配。スリリングな後半の展開に大いに貢献しています。

『モダン・ミリー』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

“女性たちよ大志を抱け”とのメッセージが聴こえてきそうなラストの演出も爽やかな本作。お一人様、カップルはもちろん、母娘での鑑賞にもぴったりの舞台と言えましょう。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『モダン・ミリー』7月10~28日=シアタークリエ、8月3~4日=新歌舞伎座、8月11日=Niterra 日本特殊陶業市民会館ビレッジホール、8月16~18日=博多座、8月24~25日=昭和女子大学人見記念講堂 公式HP