柴門ふみさんの漫画を原作に、1990年代にはTVドラマ版が社会現象となるほど話題を呼んだ『東京ラブストーリー』がこの秋、満を持してミュージカル化。バブル期から2018年に設定を変更し、“今”の空気の中で描かれる本作のポイントを、演出の豊田めぐみさん(『アリージャンス~忠誠~』)、作曲のジェイソン・ハウランドさん(『生きる』)に伺いました。
【あらすじ】2018年春。愛媛に本社のある「しまなみタオル」の東京支社に異動になった永尾完治は、同僚の赤名リカと新プロジェクトを担当することになる。先に上京していた高校の同級生・三上健一と久々に会うと、そこには彼が高校時代に思いを寄せていた関口さとみの姿も。動揺する完治の前に、リカが現れて…。
――お二人は、本作の原作はご存じでしたか?
ジェイソン・ハウランド(以下・ジェイソン)「プロデューサーの梶山(裕三)さんからお話をいただいて漫画を読み、ドラマ版も少し拝見しましたが、“Let’s have Sex”と突然リカが言い出したりして、面白いなと思いました(注・完治にリカが発する有名な台詞「セックスしよ!」)。
そのいっぽうで、思いやりを育みながら他者との関係性を築いてゆくストーリーもとてもいいなと思いました」
豊田めぐみ(以下・豊田)「私はTVドラマ版はリアルタイムで観ていましたが、当時はやはりキャラクターに自分を重ねて…というかリカに感情移入しすぎていたのか、今、改めて見てみるとずいぶん見え方が変わりました。
特に感じたのが、(日本人女性としては奔放に見える)リカが実はずいぶん日本人的な感性を持っているのだな、という点。彼女は海外育ちという設定なのですが、ドラマ版を見返してみて、(登場人物の中で)一番日本人らしい心を持っているのがリカだな、と感じました」
――舞台化はどんなコンセプトで進めていらっしゃいますか?
豊田「最初にプロデューサーの梶山さん、ジェイソン、脚本の佐藤万里さんと(キャラクターの)設定を含めてどういう方向にもっていこうかという話をした時に、もちろん恋愛要素は必要だけど、それに終始するのではなくて、それぞれのキャラクターがどこを向き、何を乗り越えていくかということを軸にしたいね、ぶつかり合いやいろいろな体験を経ながら彼らが成長していく物語にしたいねと話しました。
完治とリカ、三上とさとみ、そして尚子の5人の男女がいかに成長していくか、人生で何を求めていくかというストーリーの要として恋愛を描いていますが、今回は今治のタオルメーカーの東京支社を舞台としているので、2月に梶山さん、万里さん、そして美術の松井るみさんと今治に取材に行きました。その旅を通して、タオルの糸と人間関係の糸を掛け合わせるというイメージが生まれ、舞台美術にも反映することになりました。ジェイソンから上がってくる楽曲からも“この曲はこういうことなんだ”と発想が生まれてきて、とても刺激的な創作の場となっています」
――まだ完成版ではないと思いますが、(取材時の)最新版の台本を読む限り、いくつもの人間関係がクロスし、様々な夢が共存する場としての“都市論”のようにも感じられます。
ジェイソン「どんな素晴らしいストーリーも核にあるものは同じで、本作でも恋愛という枠組みはあるけれど、その中心には“自分探し”というテーマがあります。
若者たちが東京と言う大都会で自分探しをする姿には、夢を持ってLAに移り住んだ22歳の頃の自分が重なり、当時の不安や期待も懐かしく思い出されますし、思いやりを育みながら他者との関係性を築いてゆくストーリーもとてもいいなと思います。
また本作では、若者が忘れがちなルーツや伝統の価値を再認識しているのもいいですよね。自分が何者であるかを忘れない、ということが大きなテーマになっていると思います」
――本作の作曲はいかがでしたか?
ジェイソン「リカや完治たちの内面的な成長を個性豊かな楽曲で表現していくのが楽しかったです。
リカのナンバーはとてもカラフルで、完治を励まそうと笑いの効果を説く“ワハハ”のようなナンバーもあれば、“この角を曲がれば”というエモーショナルな大曲もあります。三上に関しても、最初は“56人の女たち”というナンバーでモテ男ぶりを軽快に表現するけれど、終盤には切々たる大曲を歌います。キャラクターそれぞれの音楽的な“旅”をぜひ楽しみにしていただければと思います」
――豊田さん、ジェイソンさんの音楽はいかがですか?
豊田「お気に入りばかりです。“この角を曲がれば”も、完治がリカへの恋心を歌う“これが恋”というナンバーもいいんですよ。初めて原作を読んだ時には、完治の中にはさとみに対する気持ちがずっとあったことはわかるけれど、リカに対してはどうだったのかがよくわからない部分があって、今回の舞台ではそこを明確に示したいと思いました。このナンバーを通して、完治には本当にリカに恋する時間があったんだと感じていただけると思います」
――新作ミュージカルでは曲の書き直しや入れ替えも珍しくないと聞きますが、本作ではいかがでしょうか?
豊田「ありました…。(ジェイソンさんに)ごめんなさい(笑)」
ジェイソン「いつものことです。一つのミュージカルで最終的に22曲を書くために、私は大体60から80曲書いています。梶山さんに送るナンバーは、たいてい二度、三度と書き直したものです。それに対してめぐみさんから“これじゃないです”とダメ出しをいただくのですが(笑)、そういう段階を経ることで作品の構成がよりしっかりしたものになって行きます。本作でもいいコラボレーションが出来ていると思います」
――一番大きく変わったのは?
ジェイソン「上司の和賀さんのナンバーかな」
豊田「1幕終わりのリカのソロも」
ジェイソン「最終的にはすごく良くなったでしょ?」
豊田「(力を込めて)すっごくいいですよ。泣けます」
ジェイソン「本作のエモーショナルな中心点になっていると思います」
――原作の頃と今とで異なることの一つに、若者の恋愛観というものがあるかと思います。今の時代は“草食男子”という言葉があったり、恋愛が億劫という若者も少なくないと聞きますが…。
豊田「そうなんですよね。すごく驚いたのが、20代の男子の8割がデートしたことがないというアンケート結果があるそうです。そういう若者たちに、本作を通して“恋愛ってすごくいいんだよ、恋をしようよ”と伝えたいです」
ジェイソン「アメリカではもう少し恋愛に積極的かもしれません。我が家の場合、娘にはボーイフレンドがいるし息子は(同居に向けて)家を買ったばかり。ただ、コロナ禍で2年間全てがストップするなかで、行動に対して人々が臆病になってしまっている空気感はあります。恋愛はするけれど行動は恐る恐る…という感じかもしれません」
――観客にどんなことを感じていただきたいですか?
ジェイソン「自分らしく生きようとしている登場人物たちを好きになっていただいて、私も自分らしくいようと思っていただけたら嬉しいです。あと、5人の恋模様をご覧いただきながら、リカはこの後どうなるんだろう、と彼女の未来に思いを馳せていただけたらと思います」
豊田「まずは“恋をしたい”と思っていただけたら。でも若い女性だけでなく、男性にも、リアルタイムでドラマ版をご覧になっていた年代の方にも楽しんでいただけると思います」
――ジェイソンが関わったことで、海外展開も視野に入っていそうですね。
ジェイソン「そうなるよう祈っています。日本で初演されるからと言って、私は日本のためだけに書いている訳ではありません。テーマさえしっかり定められていれば、どのミュージカルにも世界的な成功の可能性がありますが、本作はまさにそれに該当します。ブロードウェイで受け入れられうる作品だと思っています」
豊田「アジアでは本作を知ってる人が多いので、まずはアジアで展開出来たら。そしてそこを足がかりにブロードウェイに…ということになったら嬉しいです。せっかくジェイソンが曲を書いてくれたのですから」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 ミュージカル『東京ラブストーリー』11月27日~12月18日=東京建物Brillia HALL 公式HP
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