Musical Theater Japan

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『ブラッド・ブラザーズ』ウエンツ瑛士インタビュー:“揺るぎない芯”を抱いて

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ウエンツ瑛士 東京都出身。幼少より芸能界で活躍、9歳で『美女と野獣』にチップ役で出演。俳優、タレントとして映画、TVに出演する一方、小池徹平とのデュオWaTで音楽活動も展開。14年『天才執事ジーヴス』で本格的にミュージカルに進出、『スコット&ゼルダ』『紳士のための愛と殺人の手引き』『リトル・ナイト・ミュージック』に出演している。

 

血の繋がりを知らずに育った少年たちの悲劇を描き、1983年の初演以来、日本を含めて世界各地で愛されてきた『ブラッド・ブラザーズ』が、久々に日本で上演。主人公の双子のうちの一人、エドワード(エディ)を演じるのがウエンツ瑛士さんです。

本作の背景である階級社会を、英国留学時代に肌で感じたウエンツさん。今回は裕福なミドルクラスで育ったエドワード役に、どう向き合っているでしょうか。留学時代の学びのお話も含め、たっぷり語っていただきました。

【あらすじ】1960年代前半のリバプール。子だくさんのミセス・ジョンストンはさらに子を授かるが、妊娠中に夫に捨てられ、お腹の子が双子であることを知り、途方にくれる。家政婦として働いていたライオンズ家でミセス・ライオンズにこぼしたところ、子のない彼女は“一人譲って”と提案。毎日、仕事の合間に会えるならとミセス・ジョンストンは承服するが、出産後、契約通りに一人を渡すと、警戒した夫人によって解雇されてしまう。

時は過ぎ、7歳のミッキーは裕福な地区に住む同い年の少年、エドワードと知り合い、意気投合。実は生まれてすぐ引き離された双子であることを知らずに義兄弟の契りを交わすが、彼らの接近を知ったミセス・ライオンズによって仲を引き裂かれる。ジョンストン家はある事情で移住を余儀なくされ、彼らが引越した先には…。

ライオンズ家の親子愛を
大切に演じたい

――本作のことは以前からご存じでしたか?

「全く知らなかったのですが、留学していた時に、(イングランド南部の町)ブライトンでツアー公演を観ました。その日は客席の年齢層が高めで、ミュージカルを観るというより、思い出に浸っている、当時を懐かしむという空気がありましたね。内容よりも、作品がそういう存在であることが印象的でした」

――では出演が正式に決まり、作品に改めて向き合ってみての印象は?

「どうしたらこのエディという役に辿り着けるかな、辿り着けて初めて作品(のメッセージ)が見えてくるだろうな、と思いました。

具体的には、階級が上の、いいところの子を、日本語でどうやったら表現できるか。日本には英国のような“階級”が無いので、それに代わる何かをどう足せるかな、と考えました。

(1年半の)英国留学で感じたのですが、この国では一言喋っただけで階級が分かってしまうんですね。それは日本には無いものだし、今回の台本では例えば、エディはナンバーの中で詩的なことをさらっと言いますが、それはシェイクスピアからの引用なんです。エディにとってはそういうふうに喋るのが当たり前であって、それが階級の証にもなっていますが、果たしてそれが日本のお客様にどれだけ届くのか。日本と英国では文化的背景が違うとはいえ、完全に放棄するわけにはいかないので、今は柿澤(勇人)くん演じるミッキーを前にして、やれる範囲でそういうものを表現できたらと思って稽古しています」

――昔の映画でリサーチをされたり…?

「観てはみましたが、(正解は)そういう方向ではなかったです。映画の中の、リアルな“いいところの子”像を、舞台の演技でやろうとするのは難しい。今は、台詞のスピード感で工夫したり、相手役とのコントラストで見え方が変わってくると思うので、相手にも協力していただいたりしています」

――本作のメッセージについて、話し合われたりは?

「特にしていないですね。本読みは4日間ぐらいありましたが、シーンが一つずつ成立することで、結果的にそれらがどう繋がるかを見てみよう、それによって“こういう思いを経てここに繋がった”というものが浮かび上がる、というのが(演出の吉田)鋼太郎さんの作り方だと感じます。

そのため、柿澤くんが演じるミッキー、僕がやるエディというのをすごく大事にして下さっています。先に人物像を決めずに、僕らから自然に(キャラクターが)出てくるのを待ってくださっていました」

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『ブラッド・ブラザーズ』

 

――では、ウエンツさんから見て柿澤さんのミッキーはどんな人物になってきていますか?

「エネルギーが溢れていて、悲しみも辛さも知ったうえで、それでも前に行こうとしている人、ですね。だから人に優しくできる。育ちが悪くても、彼の周りにいつもそばにいたいという人が現れるのは、そういうことなんだと思います」

――それに対してウエンツさんのエドワード像は?

「僕はまだ、色々試している状況です。昨日も(吉田さんから)、育ちの悪いミッキーよりエディの方が元気なのはどうして?と言われました(笑)。小さい男の子(の活発さ)の部分と、大人っぽくて礼儀正しい部分のバランスがまだ決まっていなくて。

あと今回、(養子として引き取られた先の)ライオンズ家のママ、パパとのシーンは少ないのだけど、養子としてもらわれることが不幸なことではない、というのを僕は大事にしたいと思っています。台本上、ミッキーの方がママに甘えたりする描写があるので限界はありますが、エディのママだって愛情は確かにあって、エディは幸せだった。そういうことをちゃんと呈示したいので、僕はミッキーとして、ライオンズ家のパパ、ママと愛し合うことをテーマにしたいと思っています」

――ではエドワードがミッキーと出会い、親友になるのは、家族に対して何か欠落感を抱いているからではないのですね。

「エディは“いいところの子”ではあるけれど、やはりミッキーと同じ血が流れているというか、ミッキーの持っている爆発的な感性はエディの中にもある筈だと思うんです。だからこそミッキーとの会話で琴線に触れてくるものがあって、“うわ、楽しい”という感覚が呼び覚まされていったのではないかと思います」

――お稽古も佳境かと思いますが、手応えはいかがですか?

「僕はまだまだ心も体もバラバラで、もっとできることがあると思いながら通し稽古に臨んでいます。この作品の中でエディが果たせる役割がもっとあるんじゃないか、と常に思っていますね。エディの小さな芯が一個あれば、あとはその瞬間、瞬間に起きていることにエディとしていられると思うので、僕の状態、体調などに左右されることなく、小さくてもぶれない、揺るぎない塊をしっかり持っていたいなと思っています」

――ウエンツさんがブライトンでご覧になった時、現地の観客にとって本作はノスタルジックな存在だったかもしれませんが、今回、日本の観客にとってどんな体験になりそうでしょうか。

「日本でこの作品を観たことがないのではっきりとはわからないけれど、この作品の劇的な展開をご覧になって、いろいろなことを感じていただけるんじゃないかと思います。人生って上り詰めることもあれば、次の瞬間に地の底に落ちることもある。その時にどうふるまうかは、それまでの自分の生き方の集大成なのではないか。そしてその瞬間に本気で助けてくれるのが、友人や家族であったり…。そういったことが感じられる作品ではないかと思います」

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『ブラッド・ブラザーズ』稽古より。写真提供:ホリプロ

 

――留学時代のお話も少しうかがえますでしょうか。ウエンツさんは18か月英国にいらっしゃいましたが、前半は語学学校に通われていたそうですね。

「9か月間、9時から17時までは語学学校に通って、夜にボイス・トレーニングや歌のレッスンを受けていました。演劇学校は3年制のカリキュラムで、フルで入学することは出来なかったので、10か月目からはある程度演劇経験のある方の“学びなおし”のコースに通いましたね。

そこでは俳優だけでなく、今はサラリーマンだけど(演劇をやると)人生が豊かになる、と言って通っている人もいたし、音楽家の方で、“言葉で感情を表せない人間には楽器で表現することもできない”と言って通っている方もいて、目から鱗が落ちる思いでした」

――特に興味深かったレッスンは?

「やっぱり初日に体験したコマですね。その場で起こったことにどう反応するか、という内容だったのですが、僕は英語ネイティブではないので言葉に詰まっていると、“日本語でいいからやれ”と言われて、思い切って日本語でやってみたんです。するとみんなも面白がってくれたし、自分でも予期しない言葉が出てきました。意味はわからなくても、感情が通っていたら言葉は伝わる。怒りや喜び、脱出したい、そういう感情伝わるんだな、と思って、台詞のいい方も大事だけれど、それ以上に“それを本当に思っているかどうか”が大事だし、ばれてしまうんだな、と肝に銘じた瞬間でした」

――感情の普遍性を体感されたのですね。逆に、英国人と日本人の違いを感じたことはありましたか?

「欧米での“あるある”かもしれませんが、生徒が先生に“僕・私はそう思わない”と言えるって、すごくないですか? 教わる立場で学校に行っているのに、生徒たちが先生に対して異を唱えるんですよ。でも、先生のほうも怒ったりせず、“そうかもしれない、じゃあそういうふうにやってみよう”となる。日本だったら“先生の言うことはとりあえず聞きなさい”となるだろうけど、あちらでは全員が同じ立ち位置なんだな、と感じました」

――現地で学んだことで、今役立っていると感じることはありますか?

「正直、わからないですね。ただ、前よりは、やっていて楽しいと感じます。本来、お芝居はみんなで作り上げていくものなのに、以前は“何とかしなきゃ”“なんて自分はダメなんだ”と、ベクトルが自分にしか向いていなかったように思います。でもいろいろな積み重ねを経て、今ではもっと周りを見渡すこともできるようになってきました。留学はそうした積み重ねの一つだったのかな、と思います」

――今は世界的に“激動の時”と言えますが、そのような中、芸術の存在に対して、どんな意義を感じていらっしゃいますか?

「今回の舞台の意義として言えば、僕は“発散”だと思っています。

(コロナ禍で)なかなか人に会うことが出来ず、出来たとしてもオンラインで喋るだけだったりする今、“内なる気持ち”が滞ってしまいがちだと思います。僕自身、時々胸が(思いが鬱屈して)うわっとなってしまうことがありますが、そういうものを外に出させてくれるのが芸術ではないでしょうか。ポジティブな感情ばかりでなく、ネガティブなものでもいいと思うんです。外に出してこそ、周りに自分を伝えることができます。スタートとなる一歩目を踏み出させてくれるのが芸術なのかな、と思います。舞台をご覧になることで、帰り道の足取りが少しでも軽くなる。そういう意義があると思って、僕は取り組んでいます」

(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『ブラッド・ブラザーズ』3月21日~4月3日=東京国際フォーラム ホールC その後愛知、久留米、大阪で上演 公式HP
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