Musical Theater Japan

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『遠ざかるネバーランド』神田恭兵・青柳塁斗・川原一馬に訊く、“ダークファンタジー”の醍醐味

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(左から)青柳塁斗さん、神田恭兵さん、川原一馬さん。写真提供:イッツフォーリーズ

ほさかようさんの人気戯曲をミュージカル化し、2018年にイッツフォーリーズが初演。好評を博した舞台が、キャストを一新して上演されます。

17歳の女子高生、いずみが“ネバーランド”へと迷い込んでゆく物語の中で、ピーターパンはいずみに“空を飛ぼう”と誘いますが、いっぽうではフック船長、海賊フォガーテ、“少年”らが飛ぶことを否定。彼らは何者なのか、そして“空を飛ぶ”とはどういうことなのか…。

一筋縄ではいかないダークファンタジーに取り組む覚悟、充実した稽古の様子など、少年役の神田恭兵さん、フック船長役の川原一馬さん、フォガーテ役の青柳塁斗さんにたっぷりうかがいました。

【あらすじ】17歳のいずみは永遠に大人にならない世界を夢見、ふとネバーランドに迷い込む。迷子たちやタイガーリリー、ピーターパンに出会い、“ウェンディ”と名乗った彼女は、空を飛ぶための妖精の粉を探しに出発。しかし“空を飛びたくない”海賊たちやウェンディをいずみに戻したい“少年”が現れ、皆の“飛びたい気持ち”は揺らぎ始める。いずみ=ウェンディは空を飛ぶことが出来るのか…?

覚悟を持って
重いテーマと向き合っています

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『遠ざかるネバーランド』

 

――皆さん、イッツフォーリーズへの参加は今回が初とのことですが、どんなカンパニーだと感じていますか?

神田恭兵(以下・神田)「すごくほのぼのしたカンパニーですよね。みんな一生懸命だし、一緒にやっていて、すごく空気感がいいなと感じています」

川原一馬(以下・川原)「今回、僕らとピーターパン役の工藤広夢君以外は全員イッツフォーリーズの女性メンバーなのですが、皆さん本当に仲がいいんですよ。作品を作るという明確な目標があるんだなと感じます」

青柳塁斗(以下・青柳)「僕が思ってたような“劇団”ではなかったです(笑)。上下関係が厳しかったり、堅苦しいものがあるのかな?と思っていたけど、新人の子たちも含めてぎくしゃくしたものが全くなくて、それぞれにアイディアを出したり助け合っていますね」

神田「羨ましいですよね」

――今回のミュージカル『遠ざかるネバーランド』、初演は御覧になっていますか?

川原「上演していたことは知っていますが、拝見はできていませんでした」

青柳「僕もです」

神田「以前、東京ミュージカルフェスに出演した時、初演のキャストがプレゼンをされていて、こういう作品があるんだなと思っていました。まさか自分が出ることになろうとは思っていなかったので、今回の縁に驚いています(笑)」

 

――では今回、出演が決まって作品に触れ、どんな印象を持たれましたか?

神田「本作では社会に出る前の高校生の内面が描かれているのですが、この年代の子供たちが考えていることってどういうことなんだろう?と最初に感じました。本作では、ある重いテーマが出てくるのだけど、僕は幸せなことに、そういうことを考えたことが全くなかったんですね。いまだに、それがどういうことなのか、探しながら稽古に向き合っています」

青柳「初めて台本を読んだ時には、ピーターパンが出てきて夢のある話かと思ったらすごくダークで、読めば読むほどわからなくなりました(笑)。稽古に入って演出がついて“こういうことなんだ”と見えてきて、今、やっと理解できて来たという段階です」

川原「僕だったらフック船長をどう演じられるだろう、と想像しながら読みました。作品のテーマについては、僕自身、いずみの感情はちょっとわかる部分があります。

というのは、僕は比較的に体育会的というか、いいもの・悪いものがはっきりした中で教育を受けてきたと思うのですが、特に最近は“もっと個性豊かに育てよう”となって選択肢が広がった分、人と比べることが多くなってきたような気がするんです。そんなとき、一人だと怖いけれど、あいつと一緒なら…と、つい軽く極端な行動に走ってしまう。いかにも日本人ぽいけれど、そういうことってあるんだろうなと想像できます」

――今回演じる役柄について教えていただきたいのですが、まず川原さんが演じるフック船長はどんなキャラクターでしょうか?

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川原一馬 静岡県出身。幼少の頃からTV等で活躍。近年の舞台に『ALTAR BOYZ 』『イヴ・サンローラン』『In This House~最後の夜、最初の朝~』『ジェイミー』がある。

 

川原「最初に台本を読んだ時、フックでありながら全くフックの要素がないなと感じました(笑)。ポイント、ポイントでこの作品の(理解する上での)ルールを説明したり、自分の過去をふわっとにおわせているだけで、フックらしいシーンといったら、ピーターパンとの対決のみ。そこに至るまでのフックがどういうキャラクターなのか、1幕と2幕で見え方も全然変わって来ると思うし、ぜひ楽しみにしてほしいです」

――青柳さん、神田さんから見て川原さんのフックはいかがですか?

神田「かっこいいですよ。すごく人間くさくていいな、と日に日に感じます。フックらしさというものをうまく人間らしく見せているし、それを一馬の中にあるものに昇華して表現しているように見えます」

川原「今回は、人間くささとキャラクター感のバランスが難しいなと思っていて、人間っぽさを消すことは簡単だけど、作品テーマとして重いものがあるので、それはしっかり感じて欲しいな、と思いながら作っています」

青柳「彼とは15年ぶりの共演ですが、めちゃめちゃ芝居人だと思いますね。キャラクターというものがありつつも、一馬らしいナチュラルさがあるし、出番以外の稽古もしっかり見てアドバイスをくれます。15年の積み重ねってデカいんだなと思います」

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青柳塁斗 90年北海道生まれ。アクターズスタジオ北海道本部校を経て上京し、ミュージカル『テニスの王子様』で人気を博す。以来『FROGS』、地球ゴージャス『海盗セブン』『HEADS UP!』『三文オペラ』『The PROM』『October Sky~遠い空の向こうに』等の舞台、映画、ドラマなど様々な分野で活躍している。

 

――フォガーテさんはどんなキャラクターですか?

青柳「フックの手下の海賊ですが、飛ぶことにかっこ悪さを感じていて、誘惑があっても何としても“飛ばない”と決め、常にかっこつけています。熱い、世話好きな男で、いずみの中の理性だとも言えます」

川原「今回、他の手下の海賊は女性が演じていますが、フォガーテだけ男性が演じているんですよ。なぜフォガーテは男の俳優が演じるのか。稽古で塁斗のフォガーテを見ていると、男としてのかっこよさや耽美的なものを追求しながらも、不器用な愛というのがものすごくあって、それって本作のフックの実像と通じるものがある。この二つの役がリンクできたら面白いな、と思って、塁斗がやっている“めんどくせえな”みたいな表現を僕もトレースして使いたいな、とさっき稽古を見て思いました(笑)」

――耽美的なんですね!

青柳「自分ではわからないです(笑)」

川原「筋肉美が見えるように、衣裳にスリットを入れるかも、と聞きましたよ」

神田「めっちゃ楽しみだな、それ」

――トラウマを抱えたキャラクターがそれを克服できるよう、特訓する熱さもありますね。

青柳「自分のトラウマと相手のトラウマが一致する部分があったのかもしれません。僕自身は、頼まれもしないのに…ということはしないかな。お願いされたら、ですね」

神田「塁斗君を見ていると、優しい人だな、と感じます。ワンシーンだけ二人のシーンがあるんだけど、そこでは威圧されている筈なのに、彼に包まれているように感じるんですよ。あからさまな優しさじゃなく、滲み出てるのがいいんです」

川原「彼は昔からちょっと天邪鬼というか、不機嫌に見えたり、誤解されがちなんだけど、話してみると全然違うんですよね」

神田「いいなぁ、昔から知っているって」

川原「この15年間で(人間的な)重心が重くなっているので、言葉の重みが全然違いますね。30を超えてパフォーマンスが全然衰えないのも凄いし、もともと“頼れるお兄ちゃん”的な存在でした。ちょっと俯瞰して、ぼそっと一言言って去るみたいな位置取りも変わらないです」

青柳「次に行きません?(笑)」

神田「今日は褒めちぎる会だから!(笑)」

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神田恭兵 神奈川県出身。昭和音楽大学卒業後、俳優デビュー。『ミス・サイゴン』(2007年)でトゥイ役に抜擢。近年の出演作に『夜明けを待ちながら』『ビューティフル』『屋根の上のヴァイオリン弾き』『ナイツテイル』等がある。

 

――では神田さんの演じる“少年”に行きましょうか(笑)。ネバーランドでピーターパンたちと一緒に“空を飛ぼう”としているいずみの前に立ちふさがり、飛ばすまいとする謎めいたキャラクターですね。

神田「いろいろ考えましたが、“少年”というのはすごく等身大のキャラクターだと思います。この役のとらえ方として、僕は彼はいずみのネバーランドにたまたま入り込んでしまった存在だと思っていますが、そこでみんなの感情を素直に受け取れるよう、限りなくフラットで、等身大でいたいなと思っています。実年齢では少年と20歳くらい違うけれど、変に無理をせず、作り込まずにやっています。僕の視点がお客様の視点になってくるところがけっこうあると思うので、毎日新鮮に感じられればと思いながらやっています」

――問い詰めるような台詞が多いですね。

神田「ネバーランドがおかしな事態になっているので、それがなぜか、問い詰めることで引き出そうとしています。序盤は直球で攻めていますが、それでは何も出てこないと察して、だんだん変化球を使いだすことで相手から本音が漏れてくる。稽古をしながら、この台詞ってこういうことなのか、と見えてきました。初日があいてからもそういうものを探して、いずみの繊細な内面をお見せ出来るといいなと思っています」

川原「カンちゃんはストーリーテラー的な役が多いけれど、見ていて本当にフラットな役が合っているなと感じます。淡々としゃべる中にパワーがあるのが凄いんですよね。そしてとにかく歌がうまい!一発一発の破壊力が半端ないです。そのうえでフラットで、“僕はただ(存在して)いますよ”、という神田恭兵君のストーリーテラーを観てほしいです」

青柳「神田さんは、稽古での居方、取り組む姿勢が熱いんですよ。瞬きしてないんじゃないか、というくらい集中してます。演出に対しても、意見も言うし細かいところ一つ一つ確認していて、見習うべき先輩だと思っています」

神田「確認しないと、忘れちゃうからだよ(笑)」

青柳「ちょっと経験を積んでくると、台本を見ずにやってしまうようなところでも、神田さんはちゃんと確認していますから。初心忘れるべからずなんだな、と改めて学ばせていただきました」

――渋谷真紀子さんの演出はいかがでしょうか。

神田「作品が作品なだけに、いろんな解釈の仕方があるし、共通見解をとるのが難しいので、テーブルワークは大事にされていましたね。でも日々の稽古で移り変わることもいろいろあって、昨日も今日も、初めて気づいた部分がけっこうありました。面白く、興味深く稽古しています」

――本作はストレート・プレイではなくミュージカル版。音楽がどんな効果をあげていると感じますか?

川原「どのミュージカル作品でもそうだと思うのですが、曲が入ることで平面だったものが立体的になって、伝えることのグラデーションがつけやすくなるし、ストレート・プレイだと10ページ必要なものが一曲でジャンプできます。でも本作は、ストレート・プレイの要素がないといけない内容だし、ジャンプすることで嘘をついてはいけない、と難しさも感じています。心の中でしっかりとつじつま合わせを作るようにしています」

青柳「台詞が歌詞になって、メロディやテンポが加わることで、より感情も伝えやすくなるし、お客様もその世界観に入り易くなるのではないかなと思います」

神田「この仕事を始めたころ、『ミス・サイゴン』でエンジニア役を演じていた筧(利夫)さんが、歌って自由にやっていいと思っていたけれど、音符の一つ一つに忠実に歌っても自分の表現が出来ることが分かったとおっしゃっていたことがありました。ミュージカルって、楽譜があると世界観が固定されてその通りに歌うだけと思いがちだけど、どう歌うかは何万通りもあって、その選択によって、無限の可能性があるんですよね。だからこそ音符に対して繊細にならないといけないし、だんだん歌っている感覚がなくなってくるんですよ。今回は特に“喋る曲”だと感じています。楽譜があっても、それは“道”があるというだけで、それをどう表現するかは自分なりに模索できる。楽しいな、と思いながらやっています」

――どんな舞台になればいいなと思われますか?

川原「内容柄、若い方たちが観に来てくれると思いますが、直接的に苦しくなってほしくはないけれど、オブラートにも包みたくないです。ショックを受ける方もいるかと思うけれど、僕らも覚悟をもって作っています。どうしたら、この本のメッセージを強く出しつつ、陰の部分を観ている間に消化できるか。頑張って取り組んでいるところです」

青柳「若い子に響くようなメッセージのある作品です。今後生きていく糧になるだろうし、考え直すこともあると思うし、観た人同士で話し合ったりする、その時間を大事にしてくれたら、作品としてメッセージを残せるのかな、と思っています」
神田「まさにそうですよね。若い人たちも、子育て中のお父さん・お母さんたちも、自分の人生に重ねあわせる瞬間がきっとあると思います。状況が100パーセントあてはまらなくても、きっとどこかのピースに対して、共感できると思います。そこに目を向けて、どのように付き合って生きていくか、考える機会になったらいいですよね。希望を感じていただけたら、と思っています」

――最後に、世界は今、激動の時を迎えていますが、その中で改めて、芸術に対して思われることはありますか?

川原「表現をする人間として、役者としての覚悟はそれほど感じたことがなかったのですが、僕が関わった作品で救われたという方が実際、少なからずいらっしゃることを知り、責任も芽生えましたし、そういうこともひっくるめてフラットでありたいと思っています。ただ、ポジティブなメッセージだけでなく、みんながたくさん考えるきっかけになれるように、とすごく思っています。世の中がいつどうなるかわからない中で、僕らは今ここで共有している一瞬一瞬を、考えて生きていくしかありません。受け入れる強さをもっていけたら、と思っています」

青柳「コロナ禍の中で、エンタメはいち早く自粛を余儀なくされたけれど、人間が同じ空間で感情を動かすって、大事なことだと思うんです。僕らが芝居をやって、来てくれた方がその時間だけでも笑顔になったり、悲しんだり怒ったり、日常では味わえない感情を出す。そして、なかなか人と会えない状況だけど、劇場に行くことで大勢と一緒に時間を共有できる。僕らがそういうライブ・エンタテインメントを届けて、皆さんと共有することを大切にしていきたいです」

神田「今、ウクライナにしてもコロナにしても、命というものを考える出来事が多い中で、命って人間にとってすごく大きいものであるはずなのに、軽く考える傾向があると思います。そんな中で、一つの命の大きさをこれほど表現できるツールって、舞台芸術以上にないなと僕は思っています。ニュースで読まれたら一行で終わってしまう“死”には共感しづらくても、舞台なら、響く重さが違ってきます。命を軽くとらえてしまう人は舞台を観ればいいのに、と心の底から思います。きっと価値観が変わります。
僕らの仕事は、そういうものをちゃんと形作る仕事だと思っています。それを愛する人がいる限り、舞台はなくならないと思っているし、僕らが真摯に表現し続ければなくならない、そう信じてやっています」

(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『遠ざかるネバーランド』3月23~27日=俳優座劇場 公式HP
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