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『モンティ・パイソンのSPAMALOT』観劇レポート:心をほどく、強靭な楽観主義

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『モンティ・パイソンのSPAMALOT』写真提供:エイベックス・エンタテインメント

英国のコメディ集団モンティ・パイソンの人気映画『Monty Python And Holy Grail』(1975年)を舞台化し、2005年にブロードウェイで開幕。アーサー王伝説を徹底的に笑いのめした原作映画のテイストはそのままに、多彩な楽曲とブロードウェイ・ネタをふんだんに盛り込んだミュージカルが2012年、15年に続き、三度目の日本公演中です。

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『モンティ・パイソンのSPAMALOT』写真提供:エイベックス・エンタテインメント

序曲に続いて幕前に歩み出る“歴史学者”。大仰に映し出された地図の前で彼は、疫病や飢饉に見舞われていた10世紀の英国に、一人の男が出現した…と語りだします。ふむふむこれからアーサー王の物語が始まるのだな、と観客が心づもっていると、幕が開き、唖然とするようなナンバーが展開。それも振り付き、小道具付き、もちろん大勢の衣裳やセットもきっちり作りこまれています。歌終わりに明かされるオチ一つのためにここまでやるか、と驚かせる幕開けですが、このモンティ・パイソン的“馬鹿馬鹿しさ”とブロードウェイ・ミュージカルの“華々しさ”の掛け合わせは終始一貫。日本版ではさらに福田雄一さん(上演台本・演出)による様々なギャグが加わります。

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『モンティ・パイソンのSPAMALOT』写真提供:エイベックス・エンタテインメント

一人また一人と仲間を増やした王は、神の啓示を受け、“聖杯”を探すことに。口の悪いフランス兵、負けず嫌いの騎士に世にも恐ろしい〇〇〇など、珍妙なキャラクターたちと出くわしながら、探求の旅を続けますが…。

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『モンティ・パイソンのSPAMALOT』写真提供:エイベックス・エンタテインメント

ミュージカル・ファンとしては、有名ミュージカルのパロディ曲など全編にまぶされたミュージカル・ネタも楽しめますが、今回の舞台ではまず、荒唐無稽な物語に臆せず溶け込み、愛すべきキャラクター達を演じるキャストが魅力的です。

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『モンティ・パイソンのSPAMALOT』写真提供:エイベックス・エンタテインメント

山田孝之さんが朗々たる声で演じるアーサーは、どこから見ても“王様”の風格たっぷり…にも関わらずその言動はどこかズレているという造型で、まさしく“Spamalotのアーサー王”。思いがけない展開が待ち受けるランスロット卿、意味不明なほど文学的?に喋るフランス人兵士ほか、個性的な諸役を担当する賀来賢人さんともども、確かな存在感で物語を牽引します。

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『モンティ・パイソンのSPAMALOT』写真提供:エイベックス・エンタテインメント

パッツィ役の矢本悠馬さんは王の一番の理解者のつもりが相手にされない従者の哀愁をそこはかとなく漂わせ、三浦宏規さんは泥集めの男から雄々しき騎士ガラハッド卿への転身が鮮烈。

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『モンティ・パイソンのSPAMALOT』写真提供:エイベックス・エンタテインメント

また勇敢に見えて実は臆病なロビン卿役・小関裕太さんは華やかなダンス・ナンバーでミュージカルの楽しさを体現しつつ、二枚目俳優にはあるまじき?情けない姿も見せるのが逆にお茶目。その情けなさを誘発する吟遊詩人等を飄々と演じるお笑い芸人、シソンヌのじろうさん、長谷川忍さんは台詞も明瞭、ミュージカル・コメディとの相性の良さをうかがわせます。

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『モンティ・パイソンのSPAMALOT』写真提供:エイベックス・エンタテインメント

そしてもう一人、忘れてはならないのが、アーサー王の探求を見守る“湖の貴婦人”役・新妻聖子さん。彼らの旅立ちを祝福する壮大なゴスペル調のナンバー等で迫力の歌声を聴かせるばかりでなく、“おふざけ”要素も余裕でこなすエンターテイナーぶりです。また一人、“福田組”の常連誕生の予感。

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『モンティ・パイソンのSPAMALOT』写真提供:エイベックス・エンタテインメント

物語中盤、とあるトラブルで途方に暮れるアーサーを、従者のパッツィは口笛交じりに“人生らく~に生きようよ”と慰めますが、心張り詰めることの多い昨今、このシンプルにして緩やかなポジティブ・ソングにはひときわ染み入るものが感じられます。思えば本作の原作者にしてこの曲“Always Look on the Bright Side of Life ”を(もともとは他のモンティ・パイソン映画のために)作曲したエリック・アイドルは、10年前の日本初演製作発表で、こんなことを語っていました。「(東日本大震災から1年も経たずに、こんなにふざけた)この作品を上演すべきか、プロデューサーたちと話し合いました。でもこんな時だからこそ、人生の明るい面を見よう、という歌を歌うべきじゃないか、と思うのです」

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『モンティ・パイソンのSPAMALOT』写真提供:エイベックス・エンタテインメント

日本人にとってはあまり馴染みのない遠い国の伝説を材にとった本作が、観る者の緊張をほどき、不思議な心地よさを味わわせているのは、作者の強靭な楽観主義を、上演台本・演出の福田さんはじめ、日本版に関わる人々がしかと継承していることによるのでしょう。カーテンコールでもこのナンバーはリプライズされ、ほっこりとした余韻の残る舞台となっています。

取材会で意気込みを語る出演者たち

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『モンティ・パイソンのSPAMALOT』キャストと演出・福田雄一さん。(C)Marino Matsushima

開幕前日には名キャストと上演台本・演出の福田雄一さんの取材会が開催。今回の見どころを聞かれ、山田さんは迷いなく「賀来賢人のお芝居です」と回答。

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アーサー王役・山田孝之さん。(C)Marino Matsushima

舞台を未見の記者たちから「どういう意味…?」と熱い注目を浴びることになってしまった賀来さんは、ご自身のことには触れず。「あー楽しかった、と思ってから2時間もすると“何の話だったっけ”と思えるような、素敵な作品になっていると思います」

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ランスロット卿ほかを演じる賀来賢人さん。(C)Marino Matsushima

小関さんは「2021年の一発目が笑いで始まる、いい作品じゃないかな。大爆笑がとれるよう頑張ります」と爽やかに語ります。

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ロビン卿役・小関裕太さん。(C)Marino Matsushima

三浦さんは「新妻さんの歌を初めてオーケストラ付きで聞いたときは泣きそうになりました」、矢本さんは「僕だけ9,10キロほどの荷を背負いながら演技しています。汗や疲れも一人だけ相当なものだと思います」とコメント。

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パッツィ役の矢本悠馬さん。(C)Marino Matsushima

シソンヌのじろうさんは「歌で勝負していきたいです」、長谷川さんは「足をひっぱらないよう、歌も踊りも一生懸命やっています」と語り、新妻さんは「これぞブロードウェイ・ミュージカルという華やかで楽しいシーン満載の素晴らしいミュージカル。皆さまに笑顔になって帰っていただけるよう頑張ります」と抱負を。

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湖の貴婦人役・新妻聖子さん、ガラハッド卿役・三浦宏規さん。(C)Marino Matsushima

福田さんは「ミュージカルとして締めるところは締め、自由なところは自由に。まだ台詞が決まっていない箇所もあり、その辺りを存分に楽しんでいただければ」と語り、山田さんが「僕のあの曲は…」と確認する一幕も。最後に山田さんが「(今は)いろいろあるだろうけど、ここにいる時間くらいは嫌なことも忘れ、笑ってもらうことを目標にがんばって稽古をしてきました。思いっきり笑ってもらえたら」と観客にメッセージを送り、終了となりました。


(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『モンティ・パイソンのSPAMALOT』1月18日~2月14日=東京建物BrilliaHALL、その後大阪、福岡で上演。公式HP