Musical Theater Japan

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『NINE』観劇レポート:現実と妄想の往来の果てに

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『NINE』(C)Marino Matsushima

現在と少年時代の主人公が紗幕越しに手をあわせて始まる舞台。スランプ中の映画監督グイドは不仲の妻ルイザと共にベネチアに赴きますが、愛人カルラに追われ、プロデューサーのラ・フルールには新作の進捗を追求され、困惑。

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『NINE』(C)Marino Matsushima

妄想の中で母や自身の性を目覚めさせた娼婦サラギーナを思い、新作のためにと旧知の大女優クラウディアを呼び寄せますが…。

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『NINE』(C)Marino Matsushima

イタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニの自伝的映画『8 1/2』をアーサー・コピット(脚本)とモーリー・イェストン(作詞・作曲)が舞台化、1982年にブロードウェイで初演されトニー賞で作品賞を含む5部門を受賞したミュージカルが上演中です。

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『NINE』(C)Marino Matsushima

演出の藤田俊太郎さんはコロッセオ(あるいは胎内とのダブルミーニング)を思わせる形状のセットと、頭上のスクリーンに映る映像を組み合わせ、現実と妄想を忙しく行き来するグイドの見る・感じる世界を表現。様々なタイプの女性を愛し…というより依存してきた彼が人生の危機を経て一歩を踏み出すまでを、ダイナミックに描きます。また一部の楽曲は原語で歌唱。

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『NINE』(C)Marino Matsushima

この広い空間を駆使した演出で大きな存在感を放っているのが、グイド役の城田優さん。仕事もプライベートもうまくゆかず、ベネチアへ、そして非現実世界へと逃げ込む彼を、時に遊び心を見せ、時に鬼気迫る表情で演じています。

グイドの人生を彩る女性たちもそれぞれに魅力的ですが、報われないと知りつつも狂おしい愛を全身で放つカルラ役・土井ケイトさん、かつてレビュー・スターだった頃を圧倒的な華々しさで再現するラ・フルール役・前田美波里さんが鮮烈。実らぬ恋を諦観を交えて歌う「Unusual Way」での、すみれさんの憂いを含んだ歌唱も印象的です。

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『NINE』(C)Marino Matsushima

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『NINE』(C)Marino Matsushima

グイドの撮影スタッフとして登場するダンス・グループ、DAZZLEの流れるような動きも興味深く、もう少し彼らを前方で観たい瞬間も。

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『NINE』(C)Marino Matsushima

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『NINE』(C)Marino Matsushima

なお、千穐楽公演はライブ配信も有。映像ならではのアングルで作品世界を楽しめそうです。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『NINE』11月12~29日=TBS赤坂ACTシアター、12月5~13日=梅田芸術劇場メインホール 12月13日12時公演はライブ配信あり 公式HP