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『パレード』堀内敬子インタビュー:胸に突き刺さるような舞台に

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堀内敬子 東京都出身。劇団四季在籍中『アスペクツ・オブ・ラブ』『美女と野獣』『ウェストサイド物語』『エビータ』『ユタと不思議な仲間たち』等でヒロインを演じ、退団後は『レ・ミゼラブル』『アナスタシア』等の舞台に出演する傍ら、映画『THE有頂天ホテル』、TVドラマ『エール』に出演するなど映像でも活躍している。©Marino Matsushima

20世紀初頭にアメリカで起こった冤罪事件を描き、トニー賞で最優秀楽曲賞(ロバート・ジェイソン・ブラウン)、最優秀脚本賞を受賞した『パレード』。2017年の日本初演(演出・森新太郎さん)で主人公レオ・フランクの妻ルシールを演じ、渾身の演技が絶賛されたのが、堀内敬子さんです。かつて劇団四季のヒロイン女優として一世を風靡した堀内さんですが、本作では夫レオ役・石丸幹二さんとの久々の共演も話題に。劇団時代や最近の出演作の思い出なども含め、たっぷりお話をうかがいました。

夫を信じ、愛しているから
一人きりの闘いも、孤独ではないんです

――『パレード』初演にはどんな経緯で出演されることになったのですか?
「プロデューサーさんからお声がけいただいたのですが、その時点ですでにレオ役で石丸さんの名前がありました。劇団四季では何度も共演していたマルちゃん(石丸さん)と退団後、全く共演機会がなかったので、マルちゃんと共演できるなら、ということもありましたし、当時、舞台からは少し遠ざかっていたこともあって、いい機会をいただけたな、と思ってお受けしました。なぜ私だったのか…はわかりませんが、プロデューサーさんは当時、ご自身の好きな俳優さんに集まってもらったとおっしゃっていました」

――当時、台本をお読みになっての第一印象は?
「本当にあった話ですし、内容的にもとても重いので、簡単にはいかないなと思いました。日本ではあまり知られていないので、その点でも(このミュージカルが)受け入れてもらうのは大変かも、とも思いました」

――アメリカ北部出身で南部の鉛筆工場の工場長であるレオは、そこで起こった殺人事件の濡れ衣を着せられ、権力者の意向で追い込まれてゆきます。地域ぐるみで彼を犯罪者に仕立ててゆく過程には、震撼せずにはいられません。
「そうなんですよね。そして、それは今の時代にも言えることかもしれません。例えば、ネットを介して皆が一つの意見に染まり、誰かをバッシングしてしまうということもありますよね。そう思うと、本作は重いテーマを扱っている作品だと思います」

――初演は、どんな公演として記憶にとどめていらっしゃいますか?
「舞台自体、久々で舞台勘を忘れていたということもあって、新人の気持ちで取り組みました。演出の森さんは最初に白いボードを使って時代背景を説明して下さって、わかりやすかったです。私とマルちゃん以外はみな複数の役を兼ねていらっしゃって、皆で一から作っていきましたね。ベテランの方が多く、優しくしていただきましたが、勘はそう簡単には戻らない、と痛感しました。演技については劇団(四季)を辞めてからいろいろ挑戦していたのでまだ大丈夫でしたが、歌に関しては家でもほとんど歌わない生活だったので、なかなかブランクが埋められなくて。舞台の厳しさを感じました」

――堀内さんといえば甘く伸びやかな歌声が魅力的で、四季時代はレパートリーの多くでヒロインを勤められましたが…。
「いえいえ、劇団ではいつも歌を怒られていて、自分では苦手意識があったんですよ。でも劇団のレパートリーには素敵な作品がたくさんあって、それらに出たいという一心で努力していました」

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『パレード』

――本作で演じているルシールという女性ですが、はじめは夫に対して遠慮がちで、あまり対等な関係ではなかったようですね。
「とてもいい夫婦であったという感じではないですね。本人的にはちくちく主張はしているけど、時代的に主張できる感じではなかったのかもしれません。そんな彼女が、夫が窮地に落ちて立ち上がるのは、それまで一番近くで見てきた彼がそんなことをするはずがないとわかっていたからです」

――でも立ち上がるにあたっては一瞬、心が揺らぐのですね。
「それは揺れると思いますよ。大きすぎる敵に立ち向かうのですから、震えますよね。それでも意志を貫くのは、愛ゆえなのかな。やると決めたらどこでもいくと決めていたので、州知事にさえ物を言える。理不尽なものに対して戦う人って、強くなれるじゃないですか。共感できますね。最後まで、信じているからこそ踏ん張れるんだと思います。
(信念があるから)孤独ではなかったです。でも演じていると、舞台上では皆が敵に見えてきて、殺意のような感情すら覚えました。最後も、私は睨んでいて、毎回、客席のあのあたりをと決めていました。後で、ご覧になっていた方から“自分が睨まれているように感じた”と言われましたが、まさにお客様に、自分が睨まれているように感じていただきたかったので、視線を一か所に決めていてよかったと思いました」

――ジェイソン・ロバート・ブラウンの楽曲はいかがですか?
「“どんどん進んでいく音楽”という印象を持ちました。息をつく間もなく進んでいく。そして複雑に組み合わさって、不協和音的に聞こえるところもあって、特徴的ですね」

――久々に共演した石丸さんは…。
「私がミュージカルが久々ということで、かなり気を遣ってくれました。お互い、役の幅も広がったし、人間も丸くなったねと言いあいましたが、お芝居については劇団時代にお互いの演技を知り尽くしているので、その部分での新たな発見はなかったです(笑)」

――再演にあたっては、何かご自身の中でテーマをお持ちですか?
「“やってやろう”みたいな感じは全くないです。でも勘が戻りつつあるのは感じています。野獣やガストン役で(『美女と野獣』で)ご一緒していたキヨさん(今井清隆さん)が今回、ご一緒なのもあって心強いです」

――どんな舞台になればと思っていらっしゃいますか?
「前回ご覧になった方から、終演後、席からすぐ立ち上がれなかったと聞きました。それほど衝撃的な話なのだと思います。(カンパニー)みんなの力で、お客様の胸に突き刺さるようなものが残ればいいですね。前回は口コミで広まったらしく、お客様が日に日に増えて、立ち見も出たのが嬉しかったし、感動的でした。カンパニーと、お客様と、みんなでいい舞台にできたらいいなと思います。前回ご覧下さった方も、初めての方も、特に最近はこういう時代で(ネットで簡単に)情報が手に入るから若い人の中には政治や社会問題に興味のある方が多いと聞いているので、そういう方にもぜひこの作品をご覧いただきたいです」

――プロフィールについても少しうかがいたいのですが、堀内さんにとって劇団四季での日々とは…?
「“黄金時代”でした。だってすごい(メジャーの)作品ばかり出演できたのですから。あれだけ王道作品をできることって、なかなかない。そういう意味ではとてもありがたかったです」

――団員がたくさんいらっしゃる中でチャンスものにできたのは…?
「やっぱり努力と運ですね。努力だけでも運だけでも、続かないです。当時劇団では毎日がオセロのようで、今日は白が黒になるというのを目の前で見ているので、誰が外されても驚きません。だから競争はしても皆“仲間”で、できる人は認められていました。海外作品のオーディションではまた新たなスターも生まれて、いろんなチャンスがありました。それを掴むには、やはり運と努力のバランスがあったと思います」

――一番の思い出の役は?
「『美女と野獣』のベルですね。『ウェストサイド物語』のマリアなどでヒロインも経験していましたが、海外作品のオーディションにブルーの衣裳を着て臨んで合格し、ロングランも経験できました。かけがえのない日々でしたね」

――個人的にはやはり石丸さんと共演された『アスペクツ・オブ・ラブ』のジェニーが忘れられません。石丸さん演じる年上の男性に恋をするのだけどどうしても思いが通じない、切ないお役でしたね。
「マルちゃんと初めて共演した作品ですね。私はまだ19歳ぐらいで、あのラストは本当に(思いが通じず)悔しかったんです。袖に入ってからも役に入り込み過ぎて、ずっと泣いていました。ロンドン版では、ジェニーははじめ子役が演じ、後に大人の女優さんが演じるのですが、四季版では一人で演じ、衣裳の引き抜きで成長する様を見せるという加藤敬二さんのステージングが素敵でしたね」

――退団後は三谷幸喜さん作品でもお馴染みです。
「川平慈英さんと舞台をやっていた時、三谷幸喜さんが観て下さっていて、その時探していた『12人の優しい日本人』のおばさん役がここにいる、と思って下さったそうです(笑)」

――劇団四季のヒロイン女優だった堀内さんに“おばさん”役を‼
「私としては”なんでもやります!“という気持ちでしたが、その後、“お若いのに申し訳なかった”ということで(笑)、『コンフィダント・絆』の若い役に起用してくださいました」

――三谷作品の魅力は?
「三谷さんは笑いながら泣かせる。泣いてても笑っちゃう、みたいなところがあって、人の痛みも笑いに変えられる、あったかいところだと思います」

――以前、堀内さんは劇団四季か劇団キャラメルボックスのどちらかに入りたいと思っていたとうかがったことがありますが、キャラメルボックスの作品と三谷作品には何か共通項があるでしょうか。
「キャラメルボックスと劇団四季は通じるものがあると思うんですよ。どちらもファンタジーな感じがあって、好きですね。それに対して、三谷さんのほうがリアルかなと思います」

――舞台に加えて映像でも活躍されていて、今、とても充実されていますね。
「そうですね。『パレード』でブランクを脱して、今は一~二年に1回、舞台に立っていますが、子供を産んでからまた舞台に挑戦したいと思っていたので、あきらめずにやってきてよかったと思います。子育てとの両立は難しいけれど、子供の人生を邪魔しないように、彼の成長を見ながら、2年に一度でもいいので、タイミングのいい時にこれからも舞台をやっていければと思っています」

――どんな表現者でありたいと思われますか?
「先輩方とご一緒していると、人間ができた方が多いんですよね。みなさんお優しくて、“人に優しく自分に厳しく”されています。最近だと、『アナスタシア』でご一緒だった麻実れいさんが“すべて”を持っていて、それでいて謙虚に役に取り組んでいらっしゃる。そしてメインキャストでただ一人、シングルキャストで通されていた。ただ者じゃない、と思いました。そういう先輩がいると、まだまだ疲れてちゃいけないんだと思えるし、勇気もわいてきます。私も頑張ろう、と」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『パレード』1月17日~31日=東京芸術劇場プレイハウス その後大阪・愛知・富山公演あり 公式HP