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『チェーザレ 破壊の創造者』の世界観を披露、「中川晃教コンサート2020」初日レポート

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「中川晃教コンサート2020 feat.ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』」より 撮影:岩村美佳

この4月、コロナウイルス禍により中止を余儀なくされた新作ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』。明治座が創業以来、初めてオーケストラピットを稼働させる本格ミュージカルであり、原作は人気の歴史漫画。スタッフ・キャストの豪華さも話題になっていただけに、開幕直前の中止は衝撃とともに受け止められましたが、都の休業要請解除を受けてこの度、チェーザレ役・中川晃教さんのコンサートが実現。本作の楽曲も多数、披露されるとあって、大きな注目を集めました。

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「中川晃教コンサート2020 feat.ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』」より 撮影:岩村美佳

7月11日夕刻、照明を落としたステージほぼ中央のピアノから、ぽろりと響く音。中川さんが笑顔で客席に手を振るのが見え、場内には、音量的には控えめだが思いのこもった拍手が広がります。投げキッスで応えた中川さんがはじめに歌ったのが、デビュー曲の「I WILL GET YOUR KISS」(弾き語り)。丁寧かつ自在に声を操る彼に、2曲目からはバンドも加わり、華やかなサウンドが劇場空間を包み込みます。

「マイソング」「止まらない一秒」「相対性理論」と中川さん自身の楽曲が続いた後は、出演作『モーツァルト!』『SHIROH』『銀河鉄道999 GALAXY OPERA』のナンバーを、思い出話を交えつつ披露。『SHIROH』ではサービス精神たっぷりに、数人分の台詞も一人でこなしながら歌う中川さんです。

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「中川晃教コンサート2020 feat.ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』」より 撮影:岩村美佳

さて中盤からはいよいよ『チェーザレ 破壊の創造者』の世界。トークゲストとしてアンジェロ役の山崎大輝さん、ドラギニャッツォ役の井澤勇貴さん(初日のみ)が登場し、演じた役どころ、wキャストでの稽古の様子など和やかに三人で振り返った後、中川さんの「僕こそミュージック」の物まねが得意だという井澤さんが、実際にワンコーラスを披露することに。“大げさなほうが面白いと思うので…”という井澤さん、最後に思い切り“その部分”を誇張して歌ってみせ、みごと場内の笑いを誘います。

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「中川晃教コンサート2020 feat.ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』」より 撮影:岩村美佳

イントロダクション的な2分間の映像に続く本作の楽曲一曲目は「チェーザレ」。記者会見での歌唱映像が公式HPでもアップされており、既に“お馴染みの曲”といえるかもしれません。腐敗した世を憂えたチェーザレが正しき政治を志し、立ち上がるまでの心のうちが、めまぐるしく変化する曲調に乗せて表現される大曲を、中川さんはいっそう劇的に歌い上げます。

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「中川晃教コンサート2020 feat.ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』」より 撮影:岩村美佳

続いての「民衆の処し方」では山崎さん演じるアンジェロが台詞で加わり、「ダンテの理想」「皇帝」では上手から横山だいすけさんが登場。ダンテが語る理想的な施政者、ハインリッヒ7世としてたたずみ、崇高な政治信条を歌い上げます。この時の歌声が『おかあさんといっしょ』で聴き慣れた“だいすけおにいさん”のそれからはかけ離れた、深みある声楽ボイスとあって、驚かれた方も多いのでは。続くお二人のトークでも言及がありましたが、皇帝と教皇の権力争いという構図の中で、自分の父を教皇の座につけようとしているチェーザレは、一見、教皇派ではあるが、実は過去の皇帝ハインリッヒ7世を憧憬していた。これは彼の生き方の核となる部分でもあり、いずれ実現するであろう本編鑑賞に備え、覚えておきたいポイントです。

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「中川晃教コンサート2020 feat.ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』」より 撮影:岩村美佳

続いて中川さんが「祈り」(ラテン語のナンバー)と「プリマヴェッラ」を歌い、『チェーザレ』コーナーは終了。50余曲にも及ぶというナンバーの一部とはいえ、島健さんによるスコアのスケールの大きさ、曲調の多彩さは存分にうかがえ、本編ではこれらがどのような流れのなかで歌われるのか、いっそう興味が募ります。

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「中川晃教コンサート2020 feat.ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』」より 撮影:岩村美佳

パイプオルガンのサウンドで始まるラストナンバー「マタドール」に続いては、ほっこりとした曲調のアンコール曲「FAMILY」。大曲から軽やかなナンバーまで、鮮やかに歌い分ける中川さんの歌唱力ばかりでなく、ゲストにかけるちょっとした言葉に滲む敬意、折に触れ、客席通路に設されたカメラに気持ちをこめて語りかけ、ライブビューイングで鑑賞中の方々にも配慮をみせる姿から、その人柄も浮き彫りとなった一夜でした。

(取材・文=松島まり乃)

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*3月の東京ミュージカルフェス・トークショーで配信した、中川さんの『チェーザレ』についての動画インタビューはこちら。↓

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