Musical Theater Japan

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「ミュージカルの社会的意義」第五回東京ミュージカルフェス・トークショーレポート

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出演の皆さんで「LOVE!MUSICAL!」。上段左から岡幸二郎さん、増原英也さん、梶山裕三さん、前列左から笠松はるさん、飯野めぐみさん、三森千愛さん、Musical Of Japan角川裕明さん。(C)Marino Matsushima
日本でのミュージカル振興に寄与すべく、非営利団体「Musical Of Japan」が毎年、ミュージカルの日(3月26日)前後に開催している「東京ミュージカル・フェス・トークショー」。5回目の2020年は本誌、Musical Theater Japanとのコラボ企画として例年通り、劇場にて観客の前で行われる予定でしたが、コロナウイルス禍の発生により準備停止。そのまま中止となりかけるも3月22日、無料配信形式での開催が実現しました。 
会場となったのは都内の某ミニ・シアター。Musical Of Japan代表、角川裕明さんのご挨拶に続き、急遽アシスタントを務めて下さった三森千愛さんと司会・松島が、最初のゲスト、笠松はるさんをお迎えします。“ミュージカル愛をみんなで共有する”意図で今回、誕生したイベントのスローガン・ポーズ“LOVE!MUSICAL!”をご披露いただき、早速セッションがスタート。

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(左から)笠松はるさん、増原英也さん、飯野めぐみさん
笠松はるさん「オペラ/ミュージカル、それぞれの歌声」
1月に日本オペラ協会創立60周年記念公演『紅天女』にて、ミュージカル俳優としておそらく世界で初めて、全幕オペラに主演した笠松さん。高校時代から『ガラスの仮面』の大ファンだったと言い、その劇中劇のオペラ化である本作への出演を“こつこつやっていれば、人生にはこんな(嬉しい)サプライズもあるんだなと思いました”と振り返ります。

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歌劇『紅天女』
ミュージカルとは異なり、マイクを使わず大ホール(オーチャードホール)に歌声を響き渡らせることには不安もあったけれど、共演者たちの体の使い方を参考にしつつ、少しずつ慣れていったのだそう。日本オペラ協会所蔵の舞台映像も特別に本邦初公開。オペラにおける笠松さんのふくよかな歌声に驚いた視聴者から、チャット機能で続々コメントが寄せられました。劇団の後輩にあたる三森さんも笠松さんのお話に興味津々、“挑戦することの大切さを感じます”と頷きます。 
増原英也さん・飯野めぐみさん「あの感動を再び!『CHESS』を語る」
 続いてはラミン・カリムルーさんら海外キャストと佐藤隆紀さんら日本人キャストのコラボレーションが大きな話題を呼んだ『CHESS』から、体制側の“圧”を重厚な声で表現しきったモロコフ役の増原英也さん、アンサンブルとして八面六臂の活躍を見せた飯野めぐみさんが登壇。

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動画メッセージを寄せて下さったティム・ライス(C)Marino Matsushima
今回の舞台のダイジェスト映像に感銘を受けたという作者、ティム・ライスからこの日のためにいただいたスペシャル動画メッセージをご紹介した後、“オーディション段階では日本語と英語が混在する演奏会形式の公演と聞いていましたが、気が付けば全編英語のフルステージ上演になっていました(笑)”(飯野さん)“モロコフはなかなか稽古に呼んでいただけなかったので様子を見に行ってみたら、アンサンブルの方たち汗びっしょりで振りを入れていたよね”(増原さん)“チェスの駒の象徴としてカチカチ動く振りで、一般的なダンスの流れが通用しないので覚えにくかったです”(飯野さん)…等々、怒涛の日々を振り返るトークがさく裂します。

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『CHESS』撮影:岸隆子(Studio Elenish)
膨大な英語の歌詞と格闘しつつも、“『CHESS』の音楽は難しいというイメージがあったけれど、今回原語で歌ったことで、いったん覚えてしまうと不思議に歌いやすかったです”(飯野さん)“書かれた言語で歌うとこんなにも気持ちよく歌えるのだと思いました”(増原さん)と、発見があった模様です。
ラストの演出については“登場人物がそれぞれに次のステップに踏み出してゆくという、余韻のある演出ですよね。モロコフは出世する筈だったのに、ヴィーガントは試合に負けるし、この後ソ連は崩壊していくし…(笑)。個人的にはフローレンスのその後が気になります”と、増原さん。かつて日本語上演版でフレディー役を演じ、今回この舞台をご覧になった中川晃教さんの『CHESS』愛溢れるコメント動画をご覧いただき、最後に増原さんが「アンセム」を披露(伴奏・西出真理さん)。舞台ではアナトリーが歌う楽曲ですが、“いつか歌う機会があるだろうと思って歌詞は覚えていました。心を強く持って生き抜くというこの曲のメッセージを、大変な状況の今、お伝えできれば”と選曲、力強い歌声が響き渡りました。
岡幸二郎さん、(映像出演 中川晃教さん)『新作『チェーザレ』の魅力世界』

次に柔らかなオーラをまとって登場したのは、岡幸二郎さん。岡さんの可愛い「LOVE!MUSICAL!」ポーズに続いて、ビデオ出演の中川晃教さんのポーズも紹介。何を隠そう、今回のこのポーズはいくつかの候補の中から中川さんが選んで下さったものなのです。

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(左から)岡幸二郎さん、梶山裕三さん、三森千愛さん

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「LOVE!MUSICAL!」ポーズを選定してくださった中川晃教さん。(C)Marino Matsushima
『ミス・サイゴン』で共演されて以来の三森さんに“きれいになったね、いろんな役をやっていくことできれいになるんだね”とジェントルマンぶりを発揮する(⁈)岡さんとともに、まずは製作発表で中川さんが披露した楽曲「チェーザレ」をじっくり視聴。岡さんから“普通、ミュージカルナンバーはABCABというふうに(メロディが)進行してゆくけれど、この曲は繰り返しがなく、ABCDE…と進行する、難しい曲なんですよ”との解説が。“この製作発表の時、僕たちもこんなに難しい曲を歌うのかなとドキドキしたけど…私のソロ・ナンバーは繰り返し、ありました”と飄々と語る岡さんに“岡さんってこんなに面白い方だったんですね”と視聴者からコメントが届きます。

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『チェーザレ 破壊の創造者』
中川さんの「チェーザレという人物へのアプローチ」「本作の見どころ」等についてのインタビュー動画を観た後で、岡さんからはご自身の役どころ(この役のために300万円かけて鼻を高く…というのは勿論ご冗談)や豪華な衣装のお話、そして先ほどのトークを受け、原語である英語上演を行った『CHESS』とは対照的に、日本人のクリエイターが日本語で創り、日本人俳優が上演する作品であることが語られ、最後に中川さんからの視聴者への祈りのこもったメッセージ動画で、このコーナーは締めくくられました。 
梶山裕三さん(ホリプロ)「日本から世界へ、ミュージカルを創り、発信するということ」
 続いて登場の梶山裕三さんは、意欲的な演目を次々発信しているホリプロで、『デスノート』『生きる』とオリジナル・ミュージカル路線を切り拓いてきた、注目のプロデューサーです。一見、クールで優秀なビジネスマン然としていますが、「LOVE!MUSICAL!」ポーズはばっちり。それもそのはず、梶山さんは早稲田大学のミュージカル・サークルのご出身で、TipTapの上田一豪さんの先輩にあたるそう。いつしか“創ること”が面白くなり、裏方にまわるようになったけれど、当初はバリバリの役者さんだったのです。

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『デスノート THE MUSICAL』2020年 撮影:田中亜紀 (C)大場つぐみ・小畑健/集英社
卒業後は吉本興業で3年間、吉本新喜劇を担当した後、縁あってホリプロに入社。学生時代からミュージカルの企画を考えることが好きで、友人に100個ほどのアイディアのリストを見せて反応をうかがったりしていたが、ホリプロ社長が“そろそろ海外に出せるものを創りたい”と考えていることを知り、企画を多数提出したところ、その中で通ったのが『デスノート』だった。次の『生きる』ともども、はじめは周囲から“この素材がミュージカルになるのか?”と訝しがられたけれど、それを跳ね返せるくらいの情熱がなければ、100人のスタッフを動かして新作なんてとても作れない。オリジナル・ミュージカル第三弾も実は水面下で進行中で、近日発表予定。"その際はぜひ皆さん(と会場でお話を聞いている出演者の方々に向かって)出てください"と、早くも出演交渉モードの梶山さんです。

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『生きる』2018年公演より。写真提供:ホリプロ
“うち(ホリプロ)はリーディングカンパニーではないと思っていて、“絶対当たる”というものではないものにも挑戦させていただける。蜷川さんの演出作品を通して海外とのコネクションがあり、作品ごとに最適な人材を集められること、そして舞台制作が本業ではなく、タレント・マネジメントという本業がある会社という点でも恵まれていると思います”と語ります。“情熱の塊”のような梶山さんのトークに胸躍った視聴者も多かったらしく、“次の作品も楽しみ!”といった声が寄せられました。 
イッツフォーリーズ“歌のプレゼント” 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』より「再生」
個別トークが終了したところで、アシスタントとして資料を読み上げたり、あたたかなコメントを発したりと大活躍の三森千愛さんより、近日出演するオンライン・イベント「After Hours」開催のお知らせが。(後日、このイベントは延期となりました)。

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イッツフォーリーズ『ナミヤ雑貨店の奇蹟』
続いて、ミュージカルフェス・トークショーではお馴染みの劇団「イッツフォーリーズ」より、“歌のプレゼント”が。数日後に初日を迎えるミュージカル『ナミヤ雑貨店の奇蹟』より、全員がラストで歌う主題歌「再生」の歌唱映像が披露されました(別バージョン=楽曲の一部の映像はこちら。人生がうまくいかず、悩みを抱える二つの時代の人々が、“手紙”を介し、時空を超えて心通わせるファンタジー。歌声の美しさに定評のあるイッツフォーリーズのメンバーたちが、小澤時史さんによる優しい旋律に乗せて歌う“地図が白紙ならすべてはあなた次第”“未来は希望に満ちているのです”“どうか信じて”という歌詞(作詞・大谷美智浩さん)が、時節柄ひときわ心に染み入ります。 
全体トーク「ミュージカルの社会的意義」
ミュージカルフェス・トークショー恒例の全体トーク。岡幸二郎さんを筆頭に本日の出演者がひな壇状に着席し、まずは今回、避けて通るのはかえって不自然、ということで“このウイルス禍の中で今、思う事”を率直に語っていただき、続いて“事態の収束後を見据え、日本社会におけるミュージカルのプレゼンスを高めるため、必要なこととは”を巡って活発な議論が展開されました。(皆さんの具体的な発言については事情により割愛しますが、司会からは“日本のクリエイター発掘のためコンクールを実施”等のアイディアをお話させていただきました) 
この議論を受け、チャット欄には視聴者からの長文のコメントが増え、“ミュージカルをより一般の人々に広めるには、配信を活用しては““それなら権利関係があるからオリジナル作品を増やさないと“観たことのない人がまず足を運べるよう、一部の劇団・劇場が行っているような安価な立ち見席や直前学生半額制度はどうだろう”“もっと席種が細分化されると嬉しい”といった意見が続々。最後に再び動画にて中川晃教さんが登場、「今、改めて思う事」として“ミュージカルの素敵さ”を語り、皆さんで締めのポーズ「LOVE!MUSICAL!」。視聴者からは“日本のミュージカルについて色々考えることができました”“貴重な機会になりました”との声が届き続けました。 
例年のようなリアルな会を開催できず、苦肉の策で行われたオンライン版・トークショーではありましたが、結果的には首都圏に限らず、日本各地の多くのミュージカル・ファンが視聴(配信中の延べ閲覧回数4024回)。チャット機能で届いた声を交えて進行することで双方向感も生まれ、意義あるひとときとなりました。出演下さった皆様、3時間以上に及ぶ長尺にお付き合い下さった視聴者の皆さまに御礼を申し上げます。 
(文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
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