Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート LIVE配信鑑賞レポート:“素晴らしき人生の時”の物語

f:id:MTJapan:20200721135349j:plain

コロナウイルス禍をうけて一度は上演中止となったミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が、コンサート版という形で復活。劇場に観客を迎えての上演は事情により、予定より遅れ、23日からとなりましたが、それに先駆け、無観客公演が実現。そのうちの某日の配信の模様をレポートします!

f:id:MTJapan:20200721135911j:plain

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート 写真提供:東宝演劇部

開演時刻の数分前、帝国劇場2階の喫茶コーナーで演出の藤田俊太郎さんが視聴者に向けて挨拶。そのまま彼が客席へといざなうていで、画面は帝劇のあの広々とした舞台へと切り替わります。

上手袖のカメラに向かって中川晃教さんが挨拶し(“~日目”としっかりおっしゃっており、これが録画ではなく、確実にライブであることが実感できます)、“Oh, What A Night”のイントロがスタート。ニック役のspiさん、大山真志さん、ボブ役の矢崎広さん、東啓介さん、トミー役の尾上右近さん、藤岡正明さん、そしてフランキー役の中川さんが順にカメラに向かって会釈をするのですが、クールなウインクで観客を悩殺(?!)する矢崎さん、ちょっとはにかんだような東さん、治安のよろしくない環境で育ったトミーらしさ全開の藤岡さんら、数秒ずつのカットでそれぞれの個性が浮き彫りに。そして画面はステージ全景に替わり、ホワイト・スーツの彼らがスタンドマイクとともにずらりと並び、その他の役を担当するキャスト、そしてバンドとともに生き生きと歌う様を映し出します。

f:id:MTJapan:20200721140104j:plain

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート 写真提供:東宝演劇部

1曲目が終わるとステージには藤岡さん、尾上さんが残り、頭上の巨大なスクリーンには、 “SPRING”の文字に続き、トミー役の扮装写真が。フォーシーズンズの成功物語は俺なしには始まらなかった、と二人はグループ結成のいきさつを語り始めます。彼らの栄光と分裂、そして再会の物語をグループ名に因んで4つに分け、4人がかわるがわるナレーターをつとめるというミュージカル本編のコンセプトはそのままに、芝居部分に関しては過去の舞台映像を使い、ダイジェスト的に紹介。ドラマ性は保ちつつ、たっぷりと歌を聴かせてくれるのが今回のコンサートです。

f:id:MTJapan:20200721140143j:plain

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート 写真提供:東宝演劇部

フランキー以外はwキャストですが、(日替わりではなく)毎回、全員が出演するのも今回の公演の特徴。ソロを歌う際には同役の二人がかわるがわる歌ったり、一人はバックコーラスをつとめるなど、歌唱のバリエーションも様々です。また、本来は別のキャラクターが歌っていたいくつかの箇所もナレーターが担当することで、“フランキー中心”に見えがちなミュージカル本編より四人の均等度が増して見えるのも、このバージョンならでは。

f:id:MTJapan:20200721140237j:plain

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート 写真提供:東宝演劇部

キャストのパフォーマンスも期待に違わず、フランキー役の代名詞と言える驚異のファルセットはじめ、一つ一つの音をのびやか、かつ丁寧に発する中川さん(日本初演、18年)、旋律に命吹き込むように歌う藤岡さん(日本初演)、プレーンなメロディを艶やかに磨きあげる矢崎さん(日本初演、18年)、爆発時と“静かなる男”状態のコントラストを際立たせるspiさん(18年公演に出演)…と、過去の公演にも出演しているメンバーは抜群の安定感を発揮。

f:id:MTJapan:20200721140345j:plain

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート 写真提供:東宝演劇部

そこに初参加の三人、巻き舌気味の喋りでニュージャージーっ子と江戸っ子を重ね合わせた表現が面白い尾上さん、ナイーブに見えて実はなかなか世慣れているボブを絶妙のバランスで演じる東さん、人懐こさとおおらかさがチャーミングな大山さんが新風を吹き込み、ボブ・クルー役の加藤潤一さん・法月康平さん、ノーム・ワックスマン役の畠中洋さんらその他のキャストも含めた全員のナンバーではボリュームたっぷりの美しいハーモニーを響かせます。

f:id:MTJapan:20200721140640j:plain

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート 写真提供:東宝演劇部

スターダムに上り詰めたフォーシーズンズは様々な出来事に直面し、メンバーは散り散りに。年月を経て再び一堂に会したグループが懐かしのヒット曲を笑顔で歌った後、彼らは一人ずつ、“その後の自分”を語ります。最後にしみじみと、自分の人生で何が最高だったか、を振り返るフランキー。殿堂入りしたこと、レコードが売れたこと…それぞれに素晴らしかったけれど、昔、街灯の下で無名の四人が自分たちのサウンドを生み出した時が何より最高だった…だからこれからも自分は音楽を追いかけてゆく、という台詞は一途な音楽愛に溢れ、ミュージシャンでもある中川さん自身の生き方とも重なって聞こえて来ます。数十年の時を経ても失われることのない“初心”の奇跡に、誰もが胸熱くなる瞬間と言えましょう。

f:id:MTJapan:20200721140028j:plain

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート 写真提供:東宝演劇部

カラフルな衣裳で皆がメドレーを歌い継ぐアンコールでは、中川さんから“一緒に歌って”の声が。ステージ上のスクリーンでは歌詞が映し出されているようですが、カメラは主にキャストを追っていますので、これから配信をご覧になる方はフォーシーズンズの主だったヒット曲の歌詞をあらかじめさらっておくと、“シングアロング”も楽しめそうです。また、チャット画面には多数の88888…(拍手)や率直な一口コメントはもちろん、作品の核にぐっと迫ったコメントが上がることもあり、新たな視点を得られそう。自分は書き込むつもりはなくとも、ログインをして他の方のコメントを見られるようにしておくと良いかもしれません。

f:id:MTJapan:20200721140540j:plain

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート 写真提供:東宝演劇部

(取材・文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます

公演情報『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート 7月23日~8月5日=帝国劇場 (LIVE映像配信 7月18~20日、8月1~5日 アーカイブや見逃し配信は無し) 公式HP