Musical Theater Japan

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『銀河鉄道999』佐藤流司インタビュー:“一役でありながら二役”を演じる

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佐藤流司 宮城県出身。2011年『仮面ライダーフォーゼ』で俳優デビューライブ・スペクタクル『NARUTO』シリーズ、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ等多くの舞台作品に出演。映画、TVドラマでも活躍し、音楽活動も行っている。(C) Marino Matsushima 禁無断転載


1977年の連載開始以来、漫画からTVアニメ、映画と展開、今も幅広い層に愛されている『銀河鉄道999』が、高橋亜子さんの脚本、小山ゆうなさんの演出でこの度、ミュージカル化。この舞台で中川晃教さんが演じる主人公・鉄郎に対して、“宿敵”ともいえる機械伯爵役を演じるのが、ライブ・スペクタクル『NARUTO』シリーズ、ミュージカル『刀剣乱舞』等で活躍する佐藤流司さんです。

21年には『ジェイミー』で海外ミュージカルも体験した佐藤さんですが、今回のミュージカルにはどんな意欲で臨んでいるでしょうか。これまでの歩みも含め、たっぷり語っていただきました。

【あらすじ】富裕層が肉体を機械に変え、永遠の命を手にする一方で、貧しい人間が虐げられている未来社会。母を機械伯爵に殺された少年・鉄郎は謎の美女メーテルに出会い、彼女と共に機械の体をもらえる星を目指し、銀河鉄道999に乗り込む。旅の途中でキャプテン・ハーロックやクイーン・エメラルダス、大山トチローらと出会い、限りある命の価値に気づく鉄郎。そんな彼を見守りながら、メーテルはあることを決意する。汽車は刻々と終着駅へと近づき…。

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『銀河鉄道999 THE MUSICAL』

 

決して表面的ではない、
深い感動のある作品です


――2月の会見の最後に、佐藤さんが“俺を見に来ていただきたい、その一心です”とおっしゃっていたのが印象的でした。その心は?

「ああいう会見ではいつも最後に、お決まりのように言っているんです。ただ、あの時はいつもよりまじめな感じの会見だったので、失敗したなと思ってます(笑)」

――原作のある作品なので、それがどう舞台化されるかばかりフォーカスされるかもしれないけれど、演じる自分にご注目をということかなと思われましたが…。

「本音としては、逆です。自分自身に注目していただきたいというより、演じる役の株が上がるというか、その役の魅力を引き出せたらと思っています。今回で言えば、“機械伯爵ってかっこいいんだな”と思っていただけたら本望です」

――そのスタンスはこれまで、ずっとお持ちだったのですか?

「そうですね。役の魅力や作品の面白さを最大限伝えるのが役者の仕事であって、自分の魅力を前面に出すのはアイドルの仕事だという気がしています。俺は役者になりたいから、役や作品の魅力を伝えることを第一に考えないといけないかな、と思っています」

――佐藤さんはこれまで多数の2.5次元ミュージカルに出演されていますが、2.5次元では体型も含めて役に自分を“寄せる”ということを皆さん、献身的になさっていると聞きます。その根底には、先ほどおっしゃっていた“役の魅力が第一”という考え方があるのでしょうか?

「それって2.5次元に限った話ではないと思っています。ハリウッドスターも1年かけてとんでもなく痩せたり、逆に筋肉をつけたりするとよく聞きますし、日本でもそういう方、いらっしゃるじゃないですか。役者をするうえでルックスを役に近づけていくというのは大事な作業かなと思っています」

――今回の『銀河鉄道999』ですが、まず、台本の第一印象はいかがでしたか?

「やはり不朽の名作だけあってストーリーが面白いし、表面的なところではなく、深い感動を与えてくれる作品だなと感じました。夢であったり、人間が持つ感情のジレンマであったり、苦しさ、そして興奮のある作品だと思いますね」

――原作が生まれた1970年代的な空気は感じますか?

「(鉄郎が乗るのが)SLというところかな。俺はぎりぎり、走っている姿を見た記憶がありますが、平成や令和生まれの子たちは、蒸気機関車って知らないかもしれないですよね。でも、内容的な部分では全然色あせていないというか、今読んでも古さを感じる部分はありません」

――佐藤さんが演じるのは主人公・鉄郎にとって、母の仇である機械伯爵。悪役ではあるけど、実は…という役でもありますね。

「もともとは心の優しい、平和を愛する人間だったのが、外部の影響で全く別の存在になってしまっています。潜在意識が増大してそうなったというより、俺の現時点の解釈としては、やはり外部からの影響で、全く異なる心を植え付けられてしまったという感じかな」

――一役ではあるけれど、二役のようでもあります。

「変化の前と後を突き放して表現したいです。似通っては面白くないし、全く違う性格なので、変化前は明るく陽気で優しい、素晴らしいキャラクターであればあるほど、変化の後のギャップが、観ている人に、より恐怖を与えることが出来るかなと思っています」

――佐藤さんは身体表現も得意な方なので、“機械”伯爵ならではの動きも期待してしまいますが…。

「ギーンガシャン、みたいに動くのは違うかなと思っています。今時のロボットも滑らかな動きをするけれど、この作品は2221年の話なので、人間とほぼ一緒の動きをするのではないかな。ただ、負傷した時に回路が狂ってちぐはぐな動きをしたりというのはあるかもしれないですよね。俺としては、身体表現よりも感情の部分で、人間ぽくない、無機質な感情を垣間見せられたら機械っぽさが出るかな、と思っています」

――声色はいかがですか?

「変えようかなと思っています。変化の前と後では陽と陰に分かれているので、意識せずとも変わってくるかなと思っています」

――ということは、いろいろな佐藤さんが観られそうですね。

「自分自身、二役やらせてもらえるようなイメージで、すごく有難いなと思っています」

――本作の音楽はいかがですか?

「自分が歌う楽曲に関しては、ポップでキャッチ―で耳馴染みがいいという印象です。ただ、アドリブの箇所があるんですよ。任されているのはいいんですが、鉄郎役の中川(晃教)さんとデュオをするのが怖いですよ(笑)。会見の時、中川さんが楽曲披露されていましたが、(音楽監督の)ミッキー吉野さんとその場でアクティブにアイディアを出して、すごいセッションされていたじゃないですか。果たして自分が中川さんと歌うとどういうことになるのか。頑張って追いついて、こちらからもお芝居でいろいろ提案していきたいなと思います」

――どんな舞台になったらいいなと思われますか?

「こういった情勢もあいまって、やはり“いいものを観たな”と思っていただきたいです。明日からも頑張ろうと思っていただけるような、人生のエネルギーになるような舞台になればと思っています」

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佐藤流司さん (C)Marino Matsushima 禁無断転載

 

――プロフィールについても少しうかがわせてください。佐藤さんはこの世界に入るにあたって、もともとどういうビジョンをお持ちだったのですか?

「最初は映像系をやりたいと思っていました。事務所入所時の進路アンケート用紙に"これからどういう仕事をやりたいですか“というチェックシートがあって、映画やCM、ドラマといった欄にはチェックを入れていたんですが、 “舞台” “ミュージカル”にはその時、チェックしなかったんです。役者を始める以前、舞台って下積み時代にやるのかなという偏見を持っていて。でも実際に舞台に出るようになって、その面白さ、過酷さを知ったり、人に与えられるこの感動は生ならではだなと思うようになり、ぜひやりたいと(舞台を)志すようになりました」

――ということは、舞台との出会いは偶然だったのでしょうか?

「はい、『忍たま乱太郎』のミュージカルのオーディションに行くように事務所から言われて、それに合格したところから舞台人生が始まりました。

この舞台では、ミュージカルの大変さを感じる以前に、サンシャイン劇場という700人くらいの規模の劇場で、千数百の目がすべて集まる中で、こちらがギャグをすれば笑ってくれたり、感動シーンで泣いてくれたり、悔しいシーンで一緒に歯を食いしばってくれるお客様がいらっしゃる、その光景に “すごい世界だ…”と面喰いました。

俺は昔から、弁護士や検察官みたいな、誰かの人生を変えるような仕事に対して憧れがあって、ミュージカルってそれにすごく近いなと感じたんです。劇場という場で、こんなに近い距離で、お客様の人生観を変えることのできる仕事だと感じました」

――2.5次元ミュージカルで引っ張りだこの理由は、身体能力の高さにもよるのでしょうか。

「どうしてこんなに役をいただけるのか未だにわかっていませんが、体は人より利くというのはあったと思うし、空手を10年ほどやっていたのでアクションも多少できたというのはあるかと思います。ただ、2.5次元ミュージカルではスキルが必要とされる舞台もあれば、キャラクターの匂いがあるかを問われる舞台もあるので、そういう部分で出させていただけたものもあると思います」

――では『道』(2018年)でデヴィッド・ルヴォーさん(ブロードウェイやウェストエンドでも活躍している演出家)と出会われた時は、カルチャーショックなどありましたか?

「一つ印象に残っているのが、(ルヴォーさんから)“センターに立つな”と言われたんですよ。舞台上にたった一人、自分だけがいるシーンだったのですが、“センターに力は無い”と言われて、ほえーっとなりました(笑)。反論ではないけど、実際のところ、お客様から見てフォーカスの真ん中がセンターであるということは事実ですが、彼の言う、センターに立つことのダサさは理解が出来ました。なんでもかんでもセンターに立てばいいというものではないな、と今なら理解できます」

――ロックオペラ『R&J』(19年)ではロミオ役。近未来を舞台にした風変わりな”ロミジュリ“は鮮烈でした。

「あの作品では “自由にやってくれ”という(演出の)スズカツさん(鈴木勝秀さん)の言葉があって、例えばミルクプラスという麻薬みたいなものが出てくるので、“これ哺乳瓶で飲むことにしようぜ”といって自分で買ってきたりしていました。世間が思うロミオ像からとにかく突き放していきたくて、ロミオをやっているという意識をまず、捨てました。スラム街とまでは言わないけれど、荒んだ場所でくすぶっている若者の話として演じましたね」

――今、こうして相対していても佐藤さんの目には大変、力がありますが、『R&J』ではあれほどの大きな空間にいらっしゃりながら、射るような目力が印象的でした。

「以前、ベテランの先輩に教えていただいたのが、“ポケットに手をいれる芝居はなるべくしないほうがいい”ということでした。一番感情が表現できるのが顔で、次が手だ。ポケットに入れると感情が半分くらい消える。…そう言われて、なるほどな、それなら一番伝わる顔での表現は大事にしないと、と思うようになりました。大きな劇場で演じることが多い分、歌舞伎スタイルで、顔面で語るようにしています。最後列の席に座っている方にも、視力の低い方にも、感情をしっかり伝えたいと思っています」

――昨年の『ジェイミー』では、いわゆるグランド・ミュージカルに初出演。2.5次元ミュージカルとは何か違いがありましたか?

「歌の表現の違いを感じました。2.5次元だと、歌では個々のキャラクターの魅力を最大限伝えることが大事だけど、『ジェイミー』では主役がどんと立っていて、その周りでみんなが群像として状況を表現している。"人ごみ“を体現して"個”を消す。それが大きな違いかな、と感じましたね」

――これからミュージカルで活躍されるにあたり、さらに伸ばしていきたい要素はありますか?

「年を重ねるというのは一長一短で、役の幅が広がったり表現に深みが出てくる一方で、確実に体は利かなくなってくると思います。それがわかっているからこそ、体に頼ったパフォーマンスを必要としないお芝居を磨いていかなければならないし、歌唱力のある方はずっと続けていけると思うので、もっと歌のスキルを磨いていきたいと思っています」

――どんな表現者を目指していますか?

「とにかく何でもできるようになりたいし、何でもやりたいです。全てがお芝居に返ってくる、何をやっても芝居の足しになると思っているので、最近は声優にも挑戦しているし、来年は脚本・演出もさせていただく予定です。やったことのないことをやってみて、いろいろな方面に向かっていこうかなと思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『銀河鉄道999 THE MUSICAL』4月8日~18日=日本青年館ホール 公式HP

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