Musical Theater Japan

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『チェーザレ』岡幸二郎インタビュー:骨太の人間ドラマを華やかに、輝かしく

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岡幸二郎 福岡県出身。大学では中国語を専攻。劇団四季にシーズンメンバーとして参加。1994年『レ・ミゼラブル』のアンジョルラス役をオーディションで射止め、その華やかな風貌と圧倒的な歌唱力で一躍ミュージカルスターへと躍進。2003年からは同作品でジャベール役を演じ、17年にわたり『レ・ミゼラブル』に出演。最近の出演作に『1789 バスティーユの恋人たち』『ロミオ&ジュリエット』等。(C)Marino Matsushima
ヨーロッパ統一を夢見た中世の軍人、チェーザレ・ボルジアを描く惣領冬実さんの歴史漫画『チェーザレ』。現在も連載中の本作が、中川晃教さんの主演でミュージカル化されます。
華やかなルネサンスの時代にチェーザレの父ロドリーゴと壮絶な権力闘争を展開するのが、岡幸二郎さん演じるジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ。聡明なチェーザレをもってしても難攻不落の強敵として大きな存在感を放つこの役に、岡さんはどんなアプローチをされているでしょうか。俳優としての矜持、その原点のエピソードまでじっくり語ってくださいました。
 
【あらすじ】1491年、ピサ。ヴァチカンの枢機卿ロドリーゴ・ボルジアの庶子として生まれたチェーザレ(16歳)は、サピエンツァ大学で学びながら、宿敵ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレと時期教皇の座を巡って対立する父を助け、理想の世界を実現すべく画策していた。まずはピサの大司教ラファエーレ・リアーリオを籠絡しようとするが…。

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c惣領冬実・講談社/ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』製作委員会
“本物の輝き”というひそかな見どころも
どうぞお楽しみに
 
――近年、実在した人物を演じることの多い岡さんですが、どのようにアプローチされていますか?
「その人物がどのように生きたかは調べます。自信を持って舞台に立つには、いかにその人のことを理解しているか、が重要だと思いますので。
今回演じるジュリアーノ・デッラ・ローヴェレは、ボルジア家との対立やあらゆる手腕でのし上がって行く人物としての印象が強いですが、システィーナ礼拝堂の絵を描かせたりとか、自分の墓所の為にミケランジェロにモーセ像を作らせたりした人物です。私はもともと美術が好きで、イタリアで彼の業績を実際に見てきたことがあるんです。かつてこの目で見て感動したものを作らせた人物を演じるとは…と思いながら調べましたが、彼については材料が多く、肉付けがしやすいです」
 
――台本についてはどんな第一印象を抱かれましたか?
「情報量が多くて難しい作品だな、と感じました。外国人、それも(私たちの耳に馴染んだ)アメリカ人の名前ではない、(中世イタリアの)難しい名前がたくさん出てきて、誰と誰が対立しているのか、が頭に入りにくい。でもこれは(文字という)二次元から、人間や舞台美術が一緒になった三次元になった時にわかりやすくなっていくのだろうなと思いました。演出家さんの腕の見せ所ですよね」
 
――今回、担当される小山ゆうなさんはどんな演出家でいらっしゃいますか?
「役者の意見を聞いて下さる方です。それらを頭の中で取捨選択して、こうというものがおありの方だと感じます。歴史の中でチェーザレと彼を取り巻く人間たちをしっかり描きながら、チェーザレ・ボルジアが指導者になってゆく過程をお見せできると思います」

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『チェーザレ』製作発表にて、演出の小山ゆうなさん。(C)Marino Matsushima
――その中で、岡さんが演じるジュリアーノ・デッラ・ローヴェレはチェーザレの父、ロドリーゴ・ボルジアの政敵。次期教皇の座を虎視眈々と狙う、非常に重要な存在ですね。
「出番は少ないけれど、インパクトのある役ですね。当初はちょっと“嫌な感じ”で(役を)作っていこうかと思ったけれど、終盤の彼のソロ・ナンバーを読み込んでみると、彼は信仰心で生きているということが分かる。生い立ちをあわせて考えてみると、(お客様が)そうかこの人はこういう考えでのし上がってきたのか、この後どうなるんだろうと思って下さった方がいいだろう、単なる悪人で終わる役じゃない、と思えてきました」

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『チェーザレ』製作発表にて、岡幸二郎さん。(C)Marino Matsushima
――意外にも、チェーザレと直接絡むシーンは…。
「ないんですよ(笑)。これまでも、(主要人物と)絡まない役は多くて、『1789』でも宮廷側にいるのにマリー・アントワネットとは絡まないし、『ロミオ&ジュリエット』でもジュリエットのお父さんなのに、絡みは彼女をひっぱたくワンシーンしかなかったですね」
 
――でも娘への思いは深いという…。
「そうそう」
 
――絡まずして、強烈な存在感を残されました。
「若い子たちにはない“圧”はあるかもしれません(笑)」

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『チェーザレ』製作発表にて、別所哲也さん。(C)Marino Matsushima
――別所哲也さん演じるボルジアと言い合うシーンはあるようですが、ここでは丁々発止と言う感じでしょうか?
「そういう感じです」
 
――大人の男性の喧嘩って怖いですよね…。
「権力が関わってくると、余計怖いですよね。この人たちが出てくると面白いな、と思える場面になるといいですね」
 
――チェーザレ役の中川さんはいかがでしょうか?
「共演は『キャンディード』以来なのだけど、真面目だし、彼の中でこうやりたいというのがしっかりあるのが伝わってきます。彼のいいところは、例えば私が演出家とディスカッションしてても、自分が直接関わってないシーンでも意見を言ってくれる。自分のシーンだけちゃんとやればというのではなく、座長としての責任感を持って、作品がどういう方向に向かっていけばいいかを常に考えている人です」

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『チェーザレ』製作発表にて、中川晃教さん。(C)Marino Matsushima
――島健さんの音楽はどんな感じでしょうか?
「クラシカルなものからポップなものまで、いろいろな曲をお作りになっています。作品の重たさをちょっと軽やかにしていて、面白いのではないかなと思います」
 
――どんな舞台になりそうでしょうか?
「私自身、まだ“どんな舞台になるんだろう”と思っています(笑)。一番いいのは、お客様がわかりやすい舞台。色々観てると、途中でわからなくなって、目で追っているだけになってしまう舞台ってあるじゃないですか。そうではなく、原作を読んでいない方がご覧になっても最後まで見入ることができる舞台になるよう、これからさらにディスカッションを積み重ねて練り上げていくのではないかと思います」
 
――本作はオリジナル・ミュージカルということで、このところ海外作品の印象の強い岡さんですが、オリジナル・ミュージカルについてもお話うかがわせてください。近年では『ひめゆり』で久しぶりに演じられた滝軍曹役、震え上がるような存在感でした。彼の行動は信念に突き動かされたものなのでしょうか、それとも狂気でしょうか?
「信念のあまり狂っていったのでしょうね。(『ひめゆり』の登場人物の中で)一番弱く、悲しい人だと思います。私が最初に参加した2002年版で滝軍曹のソロが出来たのですが、“この美しい私のふるさと…”と歌うなかで、彼は悪いだけの人ではないことが伝わってくるんですね。それまでも1幕では住民を逃したりと親切に扱っているし、2幕でも基本的には(防空壕で)彼らを守ってるわけじゃないですか。そんな彼が(追い詰められ、精神的に)ダメになっていく。戦争の一番の犠牲者だと思います」
 
――今後、日本のミュージカル界においてますますオリジナル作品への期待は高まってゆくと思われますが、その中で“こんな素材をミュージカル化してみては”というアイディアをお持ちでしょうか?
「歴史ものもいいけれど、私が一番やりたいのは『黒蜥蜴』なんです」
 
――三島由紀夫さんのテキストを使って…?
「ええ、三島さんの言葉は綺麗だし、一番ミュージカルになりそうな気がします。なかでもここは絶対(ミュージカルに向いている)と思えるのが、(ソファに明智小五郎を閉じ込めたと思った黒蜥蜴が独白する)ソファのシーン。彼をいかに愛しているか、すごい愛のアリアを歌えそうじゃないですか」
 
――いいですね!あと、それより前に、黒蜥蜴と明智が“最後に勝つのはこっちだ”と渡り台詞を発してゆくところも…。
「あそこもミュージカルになったら面白いですね。京マチ子さん主演版の映画(1962年、監督=井上梅次、音楽=黛敏郎)を観ると、半分ミュージカルなんです。黒蜥蜴が男装して踊りながら出て来るし、用心棒の歌もあるんですよ。“用心棒、用心棒、用心棒ったら用心棒…”って。これ、絶対ミュージカルになるなと思いますね。あと、市川海老蔵さん・野村萬斎さん主演で映画化された『花いくさ』もミュージカルに出来るんじゃないかと思います」
 
――実現していくといいですね。
「今回の『チェーザレ』も、(主催の)明治座さんとしてはすごいトライだと思います。私が今回出演をお受けしたのは、中川さんにしても藤岡くん、今ちゃん、別所さんにしても、ちゃんと歌える人で作ろうとしているミュージカルだなと思ったから。若い子達が聴いたらびっくりするような歌しか歌わない彼らの歌を聴いて、これまで2.5次元ミュージカルで活躍してきた若い出演者にとっても刺激になったらいいなと思っています」
 
――2.5次元ミュージカルのファンの方々にも、一般のミュージカルを知っていただける機会になりますね。
「そうなんですよね、私がたまに2.5次元作品に出るのはそこ(が狙い)で、2.5次元と一般のミュージカルのファンが双方の演目を観るきっかけになる。それは私たちがやらないと、と思っています。このジャンルは出る、これは出ない、と決めず、私はフリーなので、楽しいと思ったもの、現場の人がちゃんと作ろうとしているものに出たいと思っています。今回も初の演出家で初の明治座さんで、という面白みでお受けしたのです」
 
――では最後に、どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「私は、日本のミュージカルってブロードウェイやウェストエンドとは違って、“文化”ではなく、“娯楽”だと思っています。娯楽を“文化的に”やろうとするのではなく、娯楽俳優としてお客様を楽しませられればと思っています。
ちょっと辛気臭い話になるけど、私は大学生の時に仕送りが6万円でした。でも月に1本ミュージカルを見ようと、5万円の中から家賃を払って食費を払ってという生活をしていたので、舞台をどれだけ楽しみに観に行ってる人がいるかというのを自分の中でもちょっとわかっているつもりです。だからそういう人たちを本気で楽しませようと思って作っている作品に携わりたいし、13000円のチケットなら最低でも15000円分のものをお見せしたい。衣裳まで気を遣いたいですし、私が舞台上でつけるジュエリーも全部本物です。(伝説のバレエダンサーである)ニジンスキーを扱った作品でディアギレフというパトロンを演じた時には、彼は気に入った男の子にサファイアをあげていた人物だったので、私は8キャラットの本物のサファイアを身に着けました。それも年代的に考えて、ノーヒートという非加熱の8キャラットのサファイアを探して」
 
――そ、それは…緊張しますね。
「本物を身につけると、ものすごく自信になって、役を助けてくれるんですよ。今回の『チェーザレ』も、宣伝ビジュアルに扮装写真が写っていますが、私の衣裳はイタリアから仕入れたシルクで出来ているそうです。大きいけれど、捌きがとても楽なんですよ。今回は私に限らず、皆のお衣裳が非常に楽しめると思います。女性があまり出てこないから華やかさとは程遠いと思われるかもしれないけれど、ルネッサンス期の男性の衣裳って、下手したら女性より豪華です。今さんなんてメディチ、お金持ちなんて軽々しく言えないくらいのお金持ち役ですからね。それに皆長身でしょう? 私なんてこれまで大きいと思ってたら今回180センチ以上ばかりですから、それはそれは豪華です。そんなキャラクターたちが明治座の大舞台に並ぶわけですから、そこも楽しみの一つとしていただけると思います」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『チェーザレ 破壊の創造者』4月17日~5月11日=明治座 公式HP
↑政府による緊急事態宣言を受け、公演は中止となりました。詳細は公式HPをご覧下さい。
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