Musical Theater Japan

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『オトコ・フタリ』観劇レポート:ミュージカル・スターたちの“もう一つの貌”

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『オトコ・フタリ』写真提供:東宝演劇部

軽快な音楽とともに場内が暗くなり、現れる“画家のアトリエ”。長身の画家が後ろ向きに筆を走らせているのは、モノクロの風景画です。(後にそのタイトルが分かり、沸く場内)。
ふと立ち上がった彼が舞台中央に置かれた巨大な白いキャンバスを見つめていると、家政婦が登場。彼女お手製のケーキを画家が味わっているところに、やおら若い男が思い詰めた表情で押し入って来ます。“僕を弟子にしてください!” 

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『オトコ・フタリ』写真提供:東宝演劇部

驚いた画家は“弟子はとらない主義だ”と言いますが、青年の決意は固い様子。“(描きだせない作品の)きっかけになるかもしれませんよ”との家政婦の口添えもあり、画家は青年を受け入れますが、この若い男にはある目的があり、また画家には長年抱えてきた問題が…。

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『オトコ・フタリ』写真提供:東宝演劇部

大河ドラマ『篤姫』『江~姫たちの戦国』などを手掛けてきた田淵久美子さんが脚本を書き下ろし、山田和也さん(『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト』『ローマの休日』)が演出。山口祐一郎さん、浦井健治さん、保坂知寿さんが出演するストレート・プレイ『オトコ、フタリ』が、シアタークリエで上演中です。
ほんのりコミカルに始まる舞台は途中、意外な方向に展開。(ここでの出来事が後半のストーリー全体に影響を及ぼすため、詳述は避けます)。男とは…女とは…それぞれにとっての愛とは…といったテーマを、重すぎず、ふわりと投げかける、“大人のドラマ”の味わいです。

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『オトコ・フタリ』写真提供:東宝演劇部

見どころは何といっても、日頃はミュージカルで輝かしい活躍を見せる山口さん、浦井さん、保坂さんが、3人という絞られた人数で、今回はストレート・プレイを演じている点。といっても皆さん、ストレート・プレイはお手の物で、山口さんは劇団四季時代、『ハムレット』タイトルロール、二人芝居『スルース』の颯爽たる色男役等で強い印象を残し、保坂さんも劇団四季時代、数々のストレート・プレイに主演。お二人は共演も多く、『オンディーヌ』『永遠の処女テッサ』等でのゴールデン・コンビを忘れられない観客も多いのではないでしょうか。かたや浦井さんもシェイクスピア劇等を通して、とことん言葉に向き合う台詞劇を数多く経験しています。

賑々しい音楽や激しい動きはなく、台詞の応酬によって進行する舞台では、出演者の言葉のセンス次第で面白みもかなり異なってきますが、今回はお三方の口跡、間の取り方が実に絶妙。何気なく言葉が飛び交うリアルな光景の中で、ある一言が場の空気を瞬時に変え、それが積み重なってドラマとなってゆく過程を、じっくりと楽しむことが出来ます。(特に作品の分岐点となる場面での保坂さんの、爆発に至る台詞運びが印象的)。

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『オトコ・フタリ』写真提供:東宝演劇部

人生をマイペースに生きているように見えるモテ男だが、実は…という画家・禅定寺をさらりと、大人の男の魅力たっぷりに演じる山口さん、禅定寺という男を知る過程でわだかまりが不思議な親しみへと変化してゆく様を鮮やかに、チャーミングに演じる浦井さん、物語的には一歩後ろに下がった存在と見えて、実は…という“含み”のある家政婦役を的確に演じる保坂さん。今回はいわゆる“あて書き”だったとのことで、各役柄のフィット感も申し分なく、浦井さん演じる青年が何かと(アカペラで)歌いだすという設定も、ファンには嬉しい趣向。加えて、大塚千弘さんが重要な役どころで声の出演をはしています。ストレート・プレイという場での、出演者たちの(ミュージカルとはまた)一味違う魅力が再確認できる場と言えましょう。
(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報 『オトコ・フタリ』12月12日~30日=日比谷シアタークリエ、2021年1月15~17日=梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、1月23~24日=刈谷市総合文化センターアイリス 公式HP