Musical Theater Japan

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『Count Down My Life』作曲・小澤時史、音楽監督・成尾憲治インタビュー:“実家のようなTipTap”でこそできること

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『Count Down My Life』

上田一豪さん率いるTipTapがこの秋上演するのは、脚本家を目指す青年が主人公の『Count Down My Life』。30歳までにデビューできなければ夢を諦めようと決めている彼は、何度も戯曲賞に応募するも軒並み落選。最後の一作を執筆中、彼のファンを名乗る不思議な男が現れます。男はいったい何者で、なぜ今、ここに現れたのか…。意外な展開に胸揺さぶられる100分間ノンストップ・ミュージカルの、久々の登場です。

2010年の本作初演に大きくかかわったのが、作曲の小澤時史さんとギタリストの成尾憲治さん。それまで経験したことのない量のナンバーを無我夢中で仕上げていった当時の思い出から、今回、音楽監督をつとめることになった成尾さんの抱負、自粛期間を経て抱く二人の音楽観まで、楽しく、ざっくばらんに語っていただきました。

ストレートでひねりもなく、雑多。
『CDML』の音楽には時々無性に還りたくなる魅力があります

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小澤時史 1989年、東京都出身。東京音楽大学作曲指揮専攻芸術音楽コース卒。作曲を三枝成彰、服部克久、千住明、小六禮次郎の各氏に師事。在学中からミュージカルの作曲を始め、TipTap『Count Down My Life』『Play A Life』『Suicide Party』イッツフォーリーズ『獅子吼』等多数。音楽監督作品に『笑う男』『オン・ユア・フィート』ほか多数。

――お二人は大学が同じだったそうですが、在学中から一緒に音楽をなさっていたのですか?
成尾憲治(以下・成尾)「顔見知りではありましたが、学年が僕の方が一つ上というのと、コースも違うということもあって、共演したり…という感じではなかったです。授業が一緒だったことはありましたけれど」
小澤時史(以下・小澤)「数学とかね」
成尾「数学の課題で答えを共作したことはありましたね(笑)。で、その授業で、小澤君が3年生の時だと思うけど、“今度初めてミュージカルを書いたんです”と、TipTapの『宇宙ダイヤモンド』のチラシを渡してきたんですよ。観に行かなかったけど(笑)、そのチラシは今も持ってます。妙にチープな仕事してるな~なんて思ったけど(笑)、翌年、同じTipTapの『Count Down My Life』(2010年初演)に(ギタリストとして)誘っていただいて、今に至ります」

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成尾憲治 1988年、熊本県出身。5歳でギターを始める。東京音楽大学作曲指揮専攻ポピュラーインストゥルメンツコース卒。野呂一生氏に師事。ギタリストとして『キューティ・ブロンド』『ラヴズ・レイバーズ・ロスト』TipTap『夜明けを待ちながら』イッツフォーリーズ『獅子吼』等多数の作品に参加。アーティストのレコーディング、ライブでも活躍。

――ということは、お二人のコラボレーションはTipTapで始まったのですね。
成尾「数学の宿題の答えは大学でも共作していましたけど(笑)」
小澤「音大なので、音楽の授業はたくさんあるけれど、数学とか一般教養みたいな科目は緩かったですね」
成尾「この前、(前作『獅子吼』の出演者である)松村桜李君が当時の問題を見て、“なぞなぞレベルですね”って言ってましたね(笑)」

――先日まで上演されていた『獅子吼』(浅田次郎さんの小説が原作のミュージカル)でもお二人はコラボをされていて、小澤さんが作曲と音楽監督、成尾さんはギター。楽器はギターとパーカッションだけという、異色の組み合わせで斬新な作品でしたね。
小澤「パーカッションが中心で、確かに変わっていたかもしれないですね。成尾さんたちと一緒に(曲を)書きました」

――『Count Down My Life』に戻りますが、小澤さんが成尾さんを誘ったのはなぜだったのでしょう?
成尾「本当は別のギタリストにお願いしたかったらしいんですけど、その方が都合がつかず、致し方なかったみたいです(笑)。本当はバンドを後輩で固めたかったそうなんですけど…」
小澤「だって言うこと聞いてくれそうじゃないですか(笑)」
成尾「それなのに一番言う事聞かない人を引き入れてしまった(笑)」

――でもやってみたら波長が合ってしまった?
小澤「僕は当時、別の仕事があって。初日ぐらいまでしかいられなかったので…」
成尾「波長が合うかどうかその時はまだわからなかったです」
小澤「曲が書けるのがギリギリになってしまって、(最低限書くと)あとはほとんど構想で(バンドに)指示を出す感じでした」
成尾「バンド合わせ中に小澤君、書いてましたね」

――対応能力の高い方々の集まったバンドだったのですね…。
成尾「決してそういうことでもなかったんだけど、何がなんだかわからない中で一生懸命やっていて、振り返ると懐かしいですね」

――TipTapの魅力をお二人はどうとらえていますか?
小澤「自分を殺さないでいられる場というか…」
成尾「ずっと変わらないんですけど、いい意味で何でもありな場所だと思っています」
小澤「いいこと言ってる!」
成尾「僕も小澤君も30代に入って、(演出の上田)一豪さんも大先生みたいになってきてるけど、TipTapでやってることは今も学生のノリなんですよね」
小澤「いいこと言ってるなー」

――その心は?
小澤「キャストもスタッフも、作品に関わる人が毎回、楽しいという感覚を持てるんですよね」
成尾「まるくおさめようという感じが誰もしないのもいいですね(笑)」

――自分はこうやりたいんだというものが飛び交う現場?
成尾「飛び交ってますね」
小澤「最初のころはお仕事として、言われたリクエストに応えようとしてたけど、だんだん自分が台本に対してこうやりたいんだと主張するようになって。そういうことができる数少ない場ですね」
成尾「実家みたいなものですね」

――そういう場がある、というのは素敵ですね。
成尾「いいですよね」

――今回、この時期の上演に本作が選ばれた理由は何だと思われますか?
成尾「僕らにとっては思い出深い作品で、ちょこちょこ“やりたいですね”と言っていたんですよね」
小澤「うちの親が、去年のクリスマスの時かな、上田さんとお話した時に『Count Down My Life』をやってほしいと言ったらしいんですよ。あれを書いてたときはまだミュージカルを書いたことが全然なくて、ミュージカルもほとんど観ていなかったから、ポップスとかロックの曲を(ミュージカルと意識せず)書いていました。親もミュージカルはほとんど観ていなかったから、そういうところで親しみを感じたのかもしれないです」

――ミュージカルの形式にこだわらず、みずみずしい感性が発揮されたのかも…。
小澤「そうかもしれないですね。ストレートな曲ばかりで、全然凝ってないです」

――作品の内容的に今、この時期にふさわしい部分など感じますか?
小澤「僕自身は全然心当たりはないけど、30歳までに自分がどうなるか…という話を、作者の一豪さんも、僕らも30代の今、どういうふうに上演するかという点には興味があります。今、少し人生が分かってきた中で、どういうものが出来るのかな、と」
成尾「僕にとっては初のTipTap作品ということもあってあまり客観視できないんですけど、久しぶりに作品を見返してみて思ったのは、すごくストレートですよね。ひねりもなく詰め込まれていて、雑多な感じもあるけど、そういうところにすごく面白さを感じるし、音楽的にも洗練されてない、がちゃがちゃしているところがあって、それがいい。時々やりたくなる何かがある作品だと思います」

――かなり歌が多く、オペラに近い形のミュージカルですよね。
成尾「そうですね。こんなに歌っていて主役の方は大変だろうなと思います」

――ということは演奏もそれに比例して大忙しという…。
成尾「今、思い出しました。初演の時にはずっと氷嚢で手を冷やしながら弾いていました」
小澤「僕は書くばかりだったのでそれはなかったですね。時間が間に合わなくて、とにかく簡単なスコアを書きまくって…」
成尾「ほとんどコード譜みたいでした(笑)」
小澤「大変すぎてそうなっちゃった。その時は経験もなかったから、何かと比較することもなく、無我夢中で書いていました」

――今回、成尾さんが音楽監督をされることになったのは?
成尾「2,3年前から、TipTapの現場で小澤さんから(音楽監督を)やれば?と言われていたんです。もう僕はいいから、と」
小澤「スケジュールが忙しくてというのもあったけれど、最近の自分のブームが、作曲したものが自分の手を離れていくのを見ることなんです。いつまでも自分の手元に置いておくのじゃなくて、(他の誰かが音楽監督をつとめることで)自分の想像していなかったくらい曲が変わっていく様がいいんですよ。成尾さんは譜面がない時点からこの作品をやってくださっていて、一番この作品を知っているので、(音楽監督をやってもらうことで)面白くなるんじゃないかと思いました」

――小澤さんから見て、演奏家の成尾さんはどんな方でしょうか?
小澤「基本的に、何事にも対応できる。アドリブしても、面白くて手をたたいて笑っちゃうくらい凄いことを返してきます。よく、喋っていて楽しい人と一緒にいたくなるじゃないですか。それと同じかな」

――音楽的なボキャブラリーが豊かでいらっしゃるのですね。
小澤「そうです」

――成尾さんとしては今回、音楽監督としてどんなコンセプトをお持ちでしょうか?
成尾「この作品についてはもともと25%くらいは僕のサウンドだと思うんですが(笑)、今回、何か特別なことをというのはあまり考えていません。今回、バンドメンバーには新しい人がたくさん入ってきていて、それによって自然と変わる部分もあると思います。今回、上田さんや(プロデューサーの柴田)麻衣子さんから、(ヴァイオリンの代わりに)サックスを入れたら?と提案されて、はじめどういう感じになるかイメージが分からなくて、だからこそ入れたほうがいいんじゃないかと思いました」

――ヴァイオリンだと登場人物に寄り添うような響きですが、サックスだと随分違ってくるかもしれないですね。
成尾「ヴァイオリンは温かくなじむような感じがあるけど、サックスだと人の声にもギターにも近く聴こえる。ややもすると喧嘩するかもしれないけれど、いい意味で喧嘩してもらえるといいですね」
小澤「寄り添うこともできそうですね。アメリカンな感じで…」
成尾「昔のアメリカのホームドラマみたいにね。実際、今回来てくださったサックス奏者も音楽的ボキャブラリーが豊富で、予測不可能な方。今回、一つ危惧するとすれば、僕らが多少大人になって、初演のころのがちゃがちゃ感が出るんだろうかという点ですが、何が出るかわからない要素が一つあればドキドキできるんじゃないかと思っています」

――どんな舞台になったらいいなと思いますか?
成尾「まずは無事、終わることを祈っています。それと、このご時世、楽しいことがなかなかない状況でもあるので、観た方が楽しかったな、と思っていただけるといいなと思います」
小澤「まずは普通に、無事に終わってほしいです。舞台作品って上演されないと忘れられちゃうように思うんですが、5,6年やっていない間に、僕自身忘れてたところがいっぱいあって(笑)、ここ、こうだっけという部分もありました。上演していくことでこの作品のファンの方に喜んでいただいたり、新しいお客様にも知っていただけると嬉しいなと思います」

“生音の力”を信じて

――今年はコロナウイルス禍という未曽有の事態に見舞われていますが、ステイホーム中はどうお過ごしでしたか?その間に感じたことをふまえて今、どんな表現者でありたいとお考えでしょうか?
小澤「確かにしばらくは仕事もなくて暇でしたが、僕はもともと、東日本大震災があったからか、“音楽より命が大事、生きるためには水が大事”みたいな感覚だったので、(自粛期間になっても)そうだよね、今、人を集めてライブやる時期じゃないよね、くらいにとらえていました。そうしたら、夏ぐらいから少しずつ仕事が来て、音楽が必要だと言って下さる人たちのために、僕なりに一生懸命、面白くなるように作り上げてきました。その姿勢はコロナウイルス禍以前から変わっていなくて、いただいた仕事を一生懸命、面白くなるように書き続ける。これからも変わらないんじゃないかな」
成尾「自粛期間中はおうちでワインを飲みながら映画を観て、時々ギターを弾くのが楽しくて、何か思い詰める瞬間は無かったです。音楽がなくなるはずはない、と思っていましたから。今は、来たお仕事をなるだけいいものにしたいということしか考えていません。ただ最近、こういうご時勢で、予定されたお仕事が最後までできることは当り前じゃないと意識しています。ステージに立てる喜びは前より覚えますし、皆で仕事をするって楽しいなという気持ちはあります」
小澤「『獅子吼』の時、バンドが初めて入ってきた瞬間、生音を聴くのが1か月半ぶりくらいで、生音がなくなる事なんてない、と思えるほど感動しました。ギターとパーカッションだけでも感動したし、テンションもあがるんだなと思えましたね。いいミュージシャンがいれば、音楽がなくなることはないなと感じました」

――ネットで聴く音で満足してしまい、生音を体験するに至らない方もいらっしゃる時代ですが…。
小澤「自分も、DVDとかユーチューブをよく利用するタイプの人間なので、生音を聴きに行こうとしない人間の気持ちもわかります。でも、やっぱり生音って感動するし、いいモノを創っていればきっと伝わると信じてやってます」
成尾「生の体験をしようとする気持ちって太古の昔からなくなってないし、僕らが心配する必要はないんじゃないかな。手軽に楽しめるツールをうまく使いつつもいつか観に来ていただければと願っています」
小澤「僕だったら、誰かが乗馬してる動画を見たら自分もやってみたくなる。いいライブ配信はきっといい入口になってると思いたいです」
成尾「我々みたいな発表する側からしても地球上の誰にでもスターになれるチャンスがある。インスタグラムからスターになるミュージシャンもいるし。よりいろんな人にチャンスがある時代っていいことだなと思います」

――お二人の“これから”を楽しみにしています。
小澤「成尾さんはこれから仕事増えるかもしれないからね(笑)。今回、音楽監督をすることになって“音楽監督やります”とツイートしただけで、“おめでとう”っていう反響がたくさん来ていたし」
成尾「友達が多いだけです(笑)。まずは『Count Down My Life』頑張ります」

(取材・文=松島まり乃)
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公演情報 TipTap『Count Down My Life』11月27~29日=中目黒キンケロシアター。28日18時公演はライブ配信もあり。 公式HP