Musical Theater Japan

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『Play a Life』佐藤隆紀・上田一豪インタビュー:人生の“あたたかいお守り”をお渡しする舞台

(左)佐藤隆紀 86年福島県出身。国立音楽大学で声楽を学び、卒業後ボーカルグループLE VELVETSでデビュー。アルバム発表、ライブ活動で人気を得る一方で15年『タイタニック』でミュージカルに初出演。以降『エリザベート』『スカーレット・ピンパーネル』『キューティ・ブロンド』『マタ・ハリ』『ベートーヴェン』『レ・ミゼラブル』等の舞台で活躍している。 (右) 上田一豪 熊本県出身。早稲田大学教育学部卒、東宝演劇部所属。演出作に『笑う男』『キューティ・ブロンド』『オン・ユア・フィート!』『四月は君の嘘』『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』『next to normal』『グリース』、自身の劇団TipTapでの作・演出作に『Play a life』『Count Down My Life』『Second of Life』等がある。©Marino Matsushima 禁無断転載


ロビン・ウィリアムズ主演の映画『いまを生きる』をきっかけに恋に落ち、結婚した一組の夫婦。夫は俳優志望だったが挫折し、世界史の臨時教師をしている。妻もまた教師だ。

一人の教育実習生が、彼らとの出会いを語る。全くの偶然に思えたその出会いの意味とは…?

 

『笑う男』『四月は君の嘘』等の東宝ミュージカルの演出で知られる、上田一豪さん主宰の劇団Tip Tapの代表作で、2015年の初演以来再演を重ねてきた『Play a Life』が2月、銀座・博品館劇場で上演。今回は2組での上演となりますが、そのうち「白猫」チームで“夫”役を演じるのが、『レ・ミゼラブル』ジャン・バルジャン、『エリザベート』フランツ・ヨーゼフ等、海外の大作ミュージカルでお馴染みの佐藤隆紀さんです。

今回が初のオリジナル・ミュージカル出演という佐藤さん。実は本作への出演は自身が熱望していたとのことで、(取材時点では)稽古の開始が待ちきれないご様子の佐藤さんと、本作の作者であり演出家でもある上田一豪さんに、作品へのそれぞれの思いをじっくりとうかがいました。

 


「大切な人と“繋がっている”、その思いの強さに心打たれます」

 

――佐藤さんには様々な作品のオファーがあると思いますが、今回お受けになった決め手はどんなことでしたか?

佐藤隆紀(以下・佐藤)「僕は2016年にこの作品を拝見して、おそらくミュージカルで初めて泣きました。というか爆泣きしまして(笑)。作品にとてもいいイメージを持っていたのと、翌年『キューティー・ブロンド』で(演出の)上田一豪さんとご一緒して、とても楽しかったんです。

当時、まだミュージカルに出始めて間もない頃で、はじめに一豪さんに“いろいろ教えてください”とお願いしたら、“(お芝居は)技術でするものではないです。役の立場を理解して、そのシーンで何を表現すればいいかを理解していただければ、佐藤さんは出来る方ですから大丈夫です”と言ってくださって、それは今でも大事にしている言葉です。

『キューティー・ブロンド』の時には本当に大切なものをたくさんいただいて、舞台に立つのが楽しくなった作品だっただけに、いつかまた上田さんとご一緒したいな、とずっと思っていました。そんな中で声をかけていただいたので、是非とお返事しました」

上田一豪(以下・上田)「『キューティー~』の稽古は楽しかったね」

 

――上田さんは今回何故、佐藤さんにこの役をと思われたのですか?

上田「僕、2016年に観劇してくれたときの、シュガー(佐藤さん)のまなざしを覚えているんです。あの、赤らめた目を…(笑)」

佐藤「(笑)」

上田「その時、“あ、(佐藤さんには)届いたんだな”と思って。作品の芯を味わえる人とこの作品をやれたら嬉しいなというのがありました。『キューティー~』以降、いろいろオファーはしていましたが、お忙しくてなかなかタイミングが合わなかったのですが、そんな中で本作をやることになり、声をかけさせていただきました」

 

――お役のフィット感も意識されていましたか?

上田「この作品ってもともと誰かにあて書きせずに書いた、初めての作品で、(役のイメージは)あまり限定してないんです。年代の設定はもちろんありますが、演じる人によってどういう色を出せるかということを公演ごとにチャレンジしています。この役だからシュガーがいいんだというより、シュガーとやりたい、この役ならシュガーの魅力を素敵に引き出せるんじゃないかという思いがあります」

 

――佐藤さんはそもそもなぜ、本作にそれほど感動されたのでしょうか?

佐藤「逆に、特に後半は“なぜ感動しないのですか?”と言いたいです(笑)。公演DVDも何バージョンも観てますが、毎回ティッシュがぐちょんぐちょんになるくらい泣きますね(笑)。自分の人生ともリンクするのか、人を大切に思う気持ちだったり、“繋がっている”思いの強さというものを感じます。例えばちょっとシチュエーションは違うけれど、振られても相手のことがずっと好きで、執着したくなる。そんな人生経験とリンクできるので、思い返して泣けてくるような気がします」

 

――男女のラブ・ストーリーですが、女性の観客からすると、特に“男ごころ”の参考にもなるような気がします。

佐藤「男性って意外とぐずぐずしがちですからね(笑)」

上田「弱いからね(笑)」

佐藤「もちろんいろいろな人がいるから一概には言えないけれど、恋愛では意外と、女性のほうがさっぱりしている人が多いようなイメージがありますね」

 

――一豪さんは執筆時にどんな思いが?

上田「そんなにこだわりがあったわけではないです。ただ、企画の段階で、お客様にも届きやすくて長さ的にも上演しやすい、少人数のラブストーリーを書くとなった時に、自分が想像しやすい感情線を軸にしたほうが書きやすいと思いました。女性目線でも書けるとは思います」

 

『Play a Life』過去の公演より 写真提供:Tip Tap


――本作には“あなたが消えれば世界も消える”という印象的なフレーズがあり、どこかデカルト的な哲学も感じられます。本作に登場する死生観に共感される部分はありますか?

佐藤「亡くなったおばあちゃんについて、“あなたの人生に溶けていくんだよ”という台詞があるのですが、すごくわかりますね。亡くなった人が、残された人の中で生きていく。実際の存在に固執せず、心の中で存在を感じるということはすごく感じます。

僕もコロナ禍で祖母を亡くしましたが、おばあちゃんは自分の中で生きているし、たとえ歴史に名を刻んでいなくても、自分の中に生きてるおばあちゃんのほうが大事ですよね」

上田「そういうことですよね」

佐藤「歌でいえば、歌手として偉大な人として名を残すことより、皆さんの心の中に生きていければ僕はそれでいい、という思いはあります」

上田「何をもって“生きている”とするか。人間は残された人の中で生き続けられると思うし、そう思えるとちょっと楽というか、喪失感が埋まるといいなと思って書いています」

――何かきっかけがあってこうした思いに至ったのでしょうか?

上田「私はずっと“生きるってなんなのだろう”ということを考えていて、毎回作品を書くときに、その時その時の答えというか、生きているということの意味ってこういうことなのかな…というものをベースに書いています。

小さい頃、自分がいつか消えるのも嫌だったけれど、親が先に死ぬだろうということも嫌で。大人になると怖くなくなるのかなと思っていたけど、大きくなってもそれは消えない。ではその恐怖を乗り越える術は何かと考えたときに“亡くなってはいない”とすることかな、と思いました。

僕の祖父は亡くなっているのですが、家庭の事情で、そのことを亡くなって1年後に知らされたんです。それまで生きていると思っていた祖父が、ええ?となって、やっぱり喪失感というのは認識でしかないなと、それまではその人は生きているのだと感じました。そうやって僕らは“死”を自分のものにしていくのかもしれない、と」

 

――“残された人の中で生き続ける”というのは、お芝居の本質にも通じる感覚ですね。お芝居は幕が下りたとたんに消えてなくなるけれど、観客の心に残ることで生き続ける、という。

上田「それは昔から感じてきました。この作品で照明を作ってくれている岩下由治さんは、私が学生時代にお芝居を始めたころに最初にご一緒した照明さんなのですが、その時に“舞台って死にざまを決める事なんだよ”と言っていただいたんです。小さいころから舞台をやってきたけれど、大学生の時にそう聞いて、なるほどと思った記憶があります。どの作品をやる時にも、それは感じますね」

 

――小澤時史さんによる音楽には、どんな魅力がありますか?

佐藤「初めて観たときに、こんなに音楽で繋がっている作品だと思っていなかったので、衝撃的でした。“本当にミュージカルなんだな”と」

上田「日本のミュージカルって、そういうところあるものね」

佐藤「芝居、歌、芝居、歌…ではなくて、芝居と歌がスムーズに繋がっているんです。個々のナンバーも耳馴染みがよくてキャッチーなものが多くて好きですが、ただ歌うのは難しいですね」

上田「そう?」

佐藤「早口で、ぎゅーっと(言葉が)詰まっていますから。一つ一つの言葉を大切にしっかり歌わないといけないな、と思っています」

 

――日本的な旋律だと感じますか?

佐藤「日本語に合っているなと感じます。翻訳の作品ってどうしても無理に言葉をはめることがあるけれど、本作ではこちらが言葉をしっかり歌えば伝えられるな、と感じます」

 

――例えばソンドハイム作品は英語のイントネーションとリンクしたメロディのように聞こえますよね。

佐藤「本作もそうですね。言葉の抑揚で気持ちを上げたいときには音も上がっていて、違和感がないです」

 

――“夫”役が歌うナンバーの中に、“the Movie Study”というものがありますが、R&B風のあの曲を佐藤さんがどう歌われるのか、興味津々の方も多いかと思います。

佐藤「これまでそういう役のオファーがなかったので、イメージが無いんですよね(笑)」

上田「でも、嫌いじゃないでしょ?」

佐藤「全然好きです! だから楽しいです。ただ僕、音大出身でリズムに弱くて、レガートに歌ってしまうんです(笑)。

これ、LE VELVETSでいろいろな方と共演する度に言われるんですよ(笑)。先日もあるミュージシャンの方とカラオケに行って、“シュガー、リズムだよリズム”と指摘されまして(笑)。でも、意識するとやっぱり変わるんですよね。自分でもいろんなCDを聞くようにして、トレーニングはしていますが、『CHESS The Musical』も大変でしたね、リズムをとらえにくくて。今回の“the Movie Study”も難しいけれど、トライしがいあるので楽しみです」

上田「シュガーの素晴らしい声であの曲を聴けるのが楽しみです。この作品では、毎回、出演者それぞれの良さが出るんです。音型とかキーも、その人のグルーブに合わせてカスタマイズして、~~版みたいな感じに作りますから。

普通、ミュージカルでは“テンポ105”となっていればいつもそれで歌うけれど、僕らはその日のテンポでやるから、毎日上演時間も微妙に違います。そのかわり、その瞬間にしか聴けない“味わい”が生まれてくるんですよ。今回も、シュガーくんの演じる日、(黒猫チームに出演する)相葉(裕樹)君のやる日、それぞれに違う良さが出てくると思います」

 

『Play a Life』2024年版キャスト 白猫チーム(佐藤隆紀、平川めぐみ、屋比久知奈)黒猫チーム(相葉裕樹、松原凜子、豊原江理佳)


――佐藤さん、教師役は初めてですよね?

佐藤「初、です。僕、実は教師を目指していたんです。小学校の先生になりたいと思っていました」

上田「教育界は優秀な教育者を一人失いましたね(笑)」

佐藤「先生っぽさ、にはこだわっていません。先生にもいろいろいて、緩い先生もいれば堅い先生もいらっしゃるので、僕なりの先生像を作っていきたいです」

 

――どんな先生になりたかったですか?

佐藤「小学校の時に、親身になってくれるかっこいい男の先生がいらっしゃって、僕も先生になりたいと思ったんです。何かの機会に温泉に連れていってくれるようなゆるみのある先生でした。とても好きで、この人のような親しみやすい先生になりたいなと思っていました」

上田「シュガーの先生姿、容易に想像できます。いい先生になるでしょう。僕はあまり先生に恵まれてこなかったので(笑)、いい出会いがあって羨ましいです」

 

「シュガーがぼろぼろになるところが見たいです」

 

 

――どんな舞台になったらいいなと思われますか?

佐藤「お客様を全員、泣かせたいですね」

上田「おお~(笑)」

佐藤「皆さんに“いいものを観た”と思いながら帰っていただきたいです。そのために全力を尽くしたいです」

 

――演じる人が泣くと観ている側は泣けない、とよく言われますが…。

佐藤「泣きそうだな。どうしよう(笑)」

上田「僕らの芝居ではそういうの、関係ないです。だって演じている側だって、泣きたいと思ってやっているわけじゃないのに、我慢していても泣いてしまう、だから感動する。それを観たいんです、僕らは」

佐藤「“そりゃ泣くよ”というところで泣いていれば、違和感はないと思います。リアルだったらいいですよね?」

上田「嘘をついていなければいいんです。泣かなくてもいいし、泣いた日は(観ていて)“よかったね”と思います。むしろ我慢できなくなるようにディレクションするのが私のお仕事だと思っています。崩れ落ちて泣かざるをえないくらいになるよう、いつもチャレンジしていますね。

今回も、シュガーがぼろぼろになるところが見たいです。シュガーはお客様が全員泣いてほしいと思っているかもしれないけれど、シュガーがぼろぼろになって、全部さらしてくれたら僕はOKです(笑)」

佐藤「僕が観た時と同じくらい、今回のお客様も泣いていただければと思います」

上田「観ていただいて、身近な人をより大切に思ったり、今日はちょっと早くおうちに帰ろうと思ったり、生きていくことにポジティブになれるようなものをお届け出来たら。それぞれの人生に何か一つ、あたたかいお守りみたいなものをお渡しできる作品を、今回、素敵なキャストでお届け出来ると思っています」

 

――日本ではお一人で観劇される方が多いかと思いますが、本作はカップルやお友達と御覧になるのにも向いている作品かも…⁈

上田「もちろん素敵だと思いますが、難しいのは、泣いた時にその姿を見せていい相手かどうか。僕だったらダダ泣きしたいときも我慢しちゃう(笑)」

佐藤「かっこつけて?(笑)」

上田「お互いさらしあえる間柄ならいいけれど、まだそこまでの方はちょっと注意したほうがいいかも(笑)。人生の貴重な時間をそこで過ごすにあたって、例えば上司が隣だったら気持ちよく泣けないじゃないですか(笑)」

佐藤「考えたことも無かったです(笑)」

上田「でも、大切な人と観るのにはお勧めの作品です」

 

佐藤隆紀さん、上田一豪さん。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

 

――佐藤さんは今回が初のオリジナル・ミュージカル作品なのですよね。今後、日本発のミュージカルにどう関わっていきたいと思われますか?

佐藤「僕の根っこは歌手で、ミュージカル出演は天からの授かりものだと思っているので、そこまでオリジナル・ミュージカルについて深く考えているわけではないのですが、どんな作品であろうと、いいものを観たと思って帰っていただきたいです。

これまでは翻訳ミュージカルで、一瞬でも“?”と思われないよう、どうやったら違和感なく聴いていただけるかということを考えて歌ってきましたが、オリジナル・ミュージカルは言葉がしっかり曲に合っているので、“しっかり届けて、感動していただく”ということがより、やりやすいのかなと思います。一語一語を大切に届けていきたいなと思っています」

 

――本作は2015年に初演以降、上演を重ねて今回は少しキャパシティの大きな劇場で上演されます。作品を育ててこられた手応えもあるかと思いますが、上田さんとしては今後オリジナル・ミュージカルにどう取り組んで行きたいと思っていらっしゃいますか?

上田「僕らとしては、“大きいところでやる”ということが目標ではなく、“いいものを作りたい”という思いでやってきていて、今回はたまたまこの劇場での上演となりました。

成功って、何をもって成功と呼ぶのか、答えはないですよね。僕らとしては、いい作品をいい環境で上演することが大事であって、例えばこの作品を帝劇のような大きなところでやっても、何もいいことはないです。登場人物の息吹やにおい、体温が届く空間で、地に足着いた状態でお届け出来ればいいなと思っていて、そういう作品を創り続けたいし、そういう作品が日本でバズることはないと思うので(笑)、求めて下さる方にうまく届くよう、発信をしていきたいです。

あとは、僕らが出来ることとして、同様の作品が韓国からたくさん来ていますので、日本からも持っていけるといいなと思っています」

 

(取材・文・撮影=松島まり乃)

*無断転載を禁じます

*公演情報 Tip Tap『Play A a Life』2月7~12日=銀座・博品館劇場 公式HP

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