
とある一室。父親殺しの罪に問われた少年を巡る裁判で、陪審員たちが評決に向け、議論を始める。
裁判で呈示された証拠や証人は少年に不利なものばかりで、陪審員のほとんどは有罪を確信しているが、陪審員八号だけが、慎重な論議を呼びかける。
証拠を一つずつ再検証する過程で、陪審員たちの心情には少しずつ変化があらわれるが…。
1954年のアメリカのTVドラマを、57年にシドニー・ルメット監督が映画化。舞台版も世界各地で繰り返し上演されてきた名作『十二人の怒れる男』が、故・いずみたくさんによる未発表のスコアが発見されたのを期に、イッツフォーリーズによってミュージカルとして上演されます。
シンプルかつ緻密に練り上げられた法廷劇の金字塔が、どのようにミュージカルとなって行くのか。
登場する十二人の陪審員(プラス守衛役の女性)のうち、
頑固に有罪にこだわる陪審員三号役、駒田一さん
誠実な陪審員六号役、おかやまはじめさん
慎重な議論をただ一人呼びかける陪審員八号役、神澤直也さんと
本作の音楽監督をつとめる田中和音さんの計四名に、本作の面白さ、佳境を迎えた稽古の手応えをたっぷりうかがいました。

刻々と状況が変わってゆく密室劇を
ミュージカル形式でさらにスリリングに
――皆様にとって『十二人の怒れる男』はどのような作品でしょうか?
駒田一(以下・駒田)「大昔に映画を観て、とても面白いなと思いました。日本でもいろんな形で上演されていて、それだけ題材として魅力のある作品なんだろうなと。今回このお話を頂いて、自分がやれるんだなと思った時には、すごく嬉しかったですね。
ましてや演じるのが陪審員三号という、一番興味のあった役だったから。映画を観た頃は若かったこともあって、まさか自分が三号なんて、これっぽっちも思っていませんでした」
おかやまはじめ(以下・おかやま)「僕もやっぱり映画を観て、面白いなと思って舞台版も2つほど観ています。
これね、役者がやりたくなる芝居なんですよ。やるのはしんどいかもしれないけど面白そうだな、とずっと思っていたので、この話を頂いた時も、“あ、『十二人』ならやるよ”と即答しまして。ただ、ミュージカルだというのを見逃してました(笑)」
駒田「それ大事です(笑)」
おかやま「大事ですね。これまであまりミュージカルをやってこなかったので、最初に気づいていれば、おおそうか、ちょっと考えさせて…、となったかもしれません。
でも今、やっていて楽しくて、参加して良かったとすごく思っています。ダンスも歌も、ギリギリまでみんなに教えてもらいながら挑んでいます」
神澤直也(以下・神澤)「僕はもともと、役者を志したのが高校卒業してからと遅く、舞台や映画をあまり観てこなかったので、『十二人の怒れる男』は今回初めて、映画で観ました。
第一印象としては、すごくしっかりした戯曲だなと感じました。誰かが死ぬわけでもないし、言ってみればただ話し合いが行われるだけなのですが、どんどん状況が逆転していって、これどうなっていくんだろう…とずっとドキドキして見ていました。
それを実際、自分で演じることになったのですが、僕が演じる陪審員八号は、いわば“全員が敵”というところから始まる役で。配役を見たらベテランの方々が並んでいて、怖い人たちだったらどうしよう…とびくびくしていましたが(笑)、稽古が始まってみると皆さんとても優しくて。年齢関係なく言い合いながら、自分たちがやりたいことをまずやってみる稽古場です」
駒田「演出の五戸(真里枝)さんが、俳優のアイディアをくみ取り、泳がせてくださっているね」
神澤「そうなんです。いろいろやらせていただけるので、どんどんみんなのアイディアが詰まっていって。皆で『十二人の怒れる男』をミュージカル化する過程がとても楽しいです」

田中和音(以下・田中)「僕は今回のお話をいただいて、そこから映画を観たり原作を読んだのですが、(音楽監督の)僕の視点で言うと、これをミュージカルに?どうしよう、大変なことになったなと(笑)。
ストレート・プレイとして完成された作品に音楽をつけるのですが、何でも装飾すればいいというわけではなくて、例えばトンカツに生クリームをかけたりはしないじゃないですか(笑)。“いい作品だな”と思う余裕もなく、どうしたものかという思いが稽古初日まで続きました」
――いずみたくさんが遺された断片的なスコアをもとに、田中さんが音楽を完成させたのですよね。どの程度の断片だったのですか?
田中「リプライズを含めると20曲程度、ナンバーとしては12~13曲あったのですが、原作に忠実に書かれていたわけではなかったし、もちろん歌詞も今とは全く違うので、そのまま使えるものはあまりありませんでした。僕の作業としては、遺されたスコアからモチーフを引っ張り出してきて、これとこれを繋げよう、ここはちょっと自分で作って繋げようかと、パズルをはめていくように完成させていきました」
駒田「僕は45年前からいずみたくの音楽とやってきたから、今回の音楽を聴いた時、どこが(いずみたく)親分でどこが和音さんの作曲かわからないくらい、親分の匂いがすごくして、感動して正直、家でちょっと泣いたんです…。(レコーダーに近づいて再び)泣いたんです」
おかやま「聞こえてます(笑)」
駒田「すごくいろんなことが思い出されましてね。まさしくこれは親分だなっていう曲もあるんですよ」
田中「いずみたくさんの諸作品を参考にしながら書いていったつもりですが、今回、合計35曲と曲数が多いので、いずみたくさんの流儀だけでなく、ちょっとウィングを広げるというか、2026年に上演するので、少し“今”の匂いが入ってもいいかな、でも入れすぎると乖離しちゃうかな…と考えながら作っていきました」
――お客様の中には、『十二人の怒れる男』という緊迫した会話劇のミュージカル版が想像しにくい方も、少なからずいらっしゃると思います。
神澤「僕は曲を聴く前、すごく重々しい曲が来るのかなと想像していたのですが、蓋を開けたら、ポップというか、覚えやすいキャッチーなメロディが多いんです。勝手に重々しいイメージを持っていたので、ポップな作風でもこの作品って届けられるんだということにびっくりしました」
おかやま「稽古から家に帰って布団に入っても、稽古で歌っていた人のナンバーがふっと頭の中で再生されるくらい、僕もこの作品の音楽、既に体に入ってますね」
――おかやまさんは普段は台詞のみでお芝居をされていますが、ミュージカルという形式で演じることで、どんな違いを感じますか?
おかやま「ものすごく素人の立場で言うと、セリフが音楽に乗ることで、ストレートプレイの言葉よりも感情が増幅されるんですよね。
例えば神(澤)ちゃんの歌や、終盤の駒田さんの歌のところ、あれは言葉だけではあそこまで大きく広げられないな、なるほど音楽ってすごいな、と思いながら昨日も稽古で聴いていました。言語では伝わらない感情の幅っていうのが、音楽によって増幅するんだなと。それがミュージカルの良さですよね。セリフだとふーっと行っちゃうけれど、音楽だとお客さんの意識がそこでとどまるので、感じる時間が長くなる気がします」

――改めて、お三方それぞれのお役について少し教えていただけますか?
駒田「陪審員三号は、従業員三十七人を抱える社長なのだけど、息子との関係という非常に大きなテーマがあって、それが本作で“有罪”と言われている少年とどこかでリンクしているんですね。だから最後まで自分の意見を頑として変えない。自分との闘いでもあるし、意固地になっているのか、それとも本当にそう思っているのかというのは、僕の中では考えていますが、お客様からすると、いろんな捉え方があるんだろうな。
そして、最後にとてつもない曲があるんですよ。大曲というのではなく、なんだろう、“ドラマ”。この一曲が自分にとっての答えというのか…。またね、(神澤さんを向いて)この人が腹立つんですよ(笑)」
おかやま「(神澤さんに)褒められてる!(笑)」
駒田「凄いんですよ。(以前共演した)『魍魎の匣』から百倍も成長したんだなと、どこか陪審員八号が自分の息子に見えてきちゃう瞬間があったりして。それは(作品上は)多分違うと思うんだけど、その感覚もちょっと役者として利用できるなと思っています」
田中「陪審員三号が最終的にどうなるかというところに大きなドラマがあるので、僕としても三号と三号の息子、そしてその少年の関係性を(楽曲の中で)描こうと思って、作品の中で一度息子のモチーフを出し、それを改めてこの(クライマックスの)楽曲の中で使っています」
駒田「最初に自分の息子を語る曲があって、そのメロディが大きな土台となっているのだけど、今回、全員にそれぞれのモチーフがあるのが面白いんです。お客様も“僕は何番が好き”みたいなものが生まれてくると思うから、十二回…あ、守衛役を入れると十三回観たほうがいいよね(笑)」
――守衛さんも??
駒田「これがちょっと不思議で、十二人の怒れる男プラス1で、面白い存在なんです。今回、女性が演じているのだけど、そこにもちゃんと意味があって斬新なんです。この作品、どの役も追っていくと発見があるし、本当に面白い作品だよね」
おかやま「今回、客席も(前後から)挟み込みで、リングみたいな感じなんですよね」
駒田「サイドの無い後楽園ホールみたいな」
――陪審員六号はどんな方でしょうか?
おかやま「僕はあんまり喋らない、ちょっと不思議な人なんですよ。だから、何をどうするんじゃなくて、そこにしっかりいてやろうと思って。あんまり頭が良さそうではないけれど誠実な男が、みんなが喧嘩しているのを一生懸命聞く二時間になればいいなと思っています」
駒田「彼はポイント、ポイントで喋るんですよ」
おかやま「二人の(やりとりの)ところ、楽しいですよね」
――神澤さん演じる八号は、映画では名優ヘンリー・フォンダが演じた役ですね。
神澤「そうですね。両親含め、皆から“あの役をやるの⁈”と、プレッシャーをかけられています(笑)。
八号は、疑問を持つとそれが晴れるまで追求するタイプの人間。今の世の中、全員が“こうだ”と決めたことに反対意見を言う人ってなかなかいないし、僕自身それって怖いことなのですが、だからこそこの役を通して、何かを伝えられたらと思っています。
やっぱり疑問を感じることに対しては何か変えたいし、僕も考えすぎる癖があったりするので、似た部分はあるなと思ってはいますが、男十一人を相手に、私は違いますって言える度胸となると(笑)。言ったが最後、面倒くさいことになりそうな人たちだけど、それでもやっぱり“この少年が無罪だとは言わないけど、でも皆さん、彼が有罪だという確信もないでしょう?”という、その疑問を晴らすために、面倒くさくてもやるぞと、自分の信念を曲げないぞという思いで頑張っています」
――本作は、言葉を持つ人間ならではの奇跡と言いますか、絶対崩せないように見えた場の空気が、八号が投げかける言葉によって少しずつ変わっていくという奇跡のドラマのようにも映ります。
神澤「確かに、言葉ってそういう力を持っていますよね。僕は学生時代に野球部だったので、顧問の一言で、部員の気持ちがグッと引き締まるのをすごく感じてきました」
駒田「この作品、誰か一人が特別というわけではなくて、十二人とも心がどこか怒っているんですよ。その中で八号が、少年は本当に有罪なのかと言い出して、十二人のバトルが始まり、だんだん空気が変わってくる。そして最後に彼(神澤さん)が、こういう曲を歌ってみたいなと思わせるいい歌を歌いやがって(笑)…。この芝居って、響く言葉がいっぱいあると思います。
それをどこで感じるかはお客様によって違うかもしれなくて、いろんな視点で見られるから、宝物みたいな言葉がいっぱい散らばってる感じがしますね」
――田中さんは作曲しながら、この言葉をキーにしてみようと思われたものはありましたか?
田中「特定の言葉というより、書いてある言葉はどれもきちんと聞こえるようにしたいと常々思っているので、全部の言葉が立つようにしたいと思っています。
その上で、例えば歌の直前で同じことを一旦台詞で言っていれば、ここはそれほどきちんと聞こえなくても、メロディー優先でいいかなと考えて間引いたりしますが、全体の流れを見ながら、この流れだったらこれが聞こえた方がいいなと考えて、調整するという感じです」
――かなり以前に誕生した作品ですが、時代性は意識されますか?
駒田「(映画版は)七十年ぐらい前の話ですけれど、七十年前の人間にならなきゃということは、今回あまり感じていません。裁判のやり方は違うかもしれないし、こんな風にテーブルで陪審員が喋るということも今はないだろうけれど、そういう感覚ではなく、一人の少年に対して有罪なのか無罪なのかを討論をする、十二人の軍団だと思ってやっています。作品の普遍性が強いので、時代背景とか細かなアイテムがあんまり気にならないんですよ」
神澤「人間同士のぶつかり合いのドラマなので、僕も、この時代の人になろうということは考えずにやっています。観ている方も、そういう違和感はないと思います」
――稽古はかなり大詰めのようですね。
おかやま「順調だよね。もういつ本番やってもいいぐらいのところまで来ていて、あとはどうデコレーションするのかとか、細かい作業なのかなという感じはしますね」
駒田「五戸さんが細かく拾って、こうしよう、ああしようと細かくやってくれるけど、かといってがんじがらめではなく、役者がいろんな動きを自分たちで考えてやると肯定してくれて、すごく風通しのいい稽古場ですね」

――おかやまさんは今回どっぷりつかってみて、ミュージカル、いかがですか?
おかやま「僕は演劇自体、観るよりもやる方が好きなので、ミュージカルもこれまであまり観てこなかったんです」
駒田「ME TOO! 観ていると“あの役やりたいな”って、悔しいだけだものね(笑)」
おかやま「そうそう(笑)。ナショナル・シアター・ライブ(英国ナショナル・シアターの舞台映像の劇場上映)なんかは観に行ったりしますけれど。だから今回ミュージカルに浸かってみると、やっぱり世の中には知らないことがいっぱいあるな、触れたいなと思いますね。だって楽しいもの」
駒田「いらっしゃいませ(笑)。僕、この作品でおかやまさんと出会えて良かったなと思うし、おかやまさんもこの作品でミュージカル好きになってくれているんじゃない? こういう作品、ぴったりでしょう」
おかやま「こういうの、いいですよね。今の年齢を考えると、舞台はあと10年できるかだと思うから、ミュージカル含めていろいろやってみたいですね」
駒田「今回、僕より先輩が二人いらっしゃるけど、お二人とも元気だし気持ちが若いんです。先輩方とやるのも楽しいし、若い人たちもパワーのある先輩方とやるなかでグーッと力蓄えているのがわかって、いいカンパニーですよ」
――おかやまさんはTVドラマや映画にもひっぱりだこでいらっしゃいます。これまで舞台に縁遠かったけれど、今回の記事を見かけて“この方、ミュージカルにもお出になるのね”と興味を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
おかやま「そうなるといいですね。ミュージカルに限らず、最近は演劇自体が弱くなってきているので、劇場に来ていただくということがすごく大事だと思います。
例えば 80年代には、ちっちゃい劇場でも人がワーッと詰めかけて、一つの娯楽になっていたけれど、今はなんでもスマホで観れてしまうし、娯楽が多いですよね」
駒田「映画だって、僕らの若いころは映画館で観るしかなかったしね」
おかやま「劇場に足を運ぶということ自体が、もっと楽しくなればいいなと思いますよね」

――今回の『十二人の怒れる男』、どんな舞台になったらいいなと思われますか?
神澤「なんでもスマホで完結してしまう時代に、“生”で男たち十二人が、喋りあって歌い合ってる姿を見てほしいなと思います。
『十二人の怒れる男』というタイトルで男性キャストばかりと聞いて、敬遠される方もいらっしゃると思うんですよ。でも観終わってみると、全然むさくるしくなくて(笑)、なんだかさっぱりして気分よく帰れる作品だと思うんです。騙されたと思って、観に来ていただけたら、ちょっと演劇って楽しいかもと思っていただけるんじゃないかな。
今回はストレート・プレイや2.5次元で活躍されている方もいて、いろいろなジャンルの方がいるので、いろいろな目線で観れる楽しい舞台になっていると思います」
田中「一度観ていただけたら、そういえばさっきの場面で、何号はどんな反応してたんだろう? ああ、見逃した~、みたいなことが多々あると思うので、きっとリピートしたくなりますよ」
おかやま「あれ、この人どこで意見を変えたんだろう…とかね」
神澤「実は細かくやっていたりするんですよ」
駒田「この作品は世界中で上演されているけれど、ミュージカルでやるのはたぶん、これが世界初ですよね。イッツフォーリーズって、コアなファンのいる作品ばかりミュージカル化しているけど(笑)、それが意外とうまくいっているチームなんです。
今回もこれをやると聞いて、“えっ、親分(曲を)書いてたの?”と思ったぐらい意外でしたが、実際に参加してみて、ミュージカル化してよかったなと思います。
とてもとっつきやすいし、わかりやすい。そして、あの映画を音楽で表現するとこうなるんだ、と思わずにやっとしたくなる音楽です。今回記事になるから言っているわけじゃなく(笑)、心から面白いし、観てほしいと思える舞台になっていますよ。原作者も観に来ればいいのに…」
――あの世から?(笑)
駒田「そう、あの世から(笑)」
田中「実はもう稽古を見に来ているかもしれませんね(笑)」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 『十二人の怒れる男』2月6日~15日=浅草九劇 公式HP
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