Musical Theater Japan

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『おかしな二人』観劇レポート:二大女優がカラフルに演じるN・サイモン戯曲

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『おかしな二人』(C)Marino Matsushima


幕が上がると、そこは色の渦。都会の瀟洒なアパートと思しき部屋のいたるところに、色とりどりの衣類が掛けられ、目を楽しませます。

…が、見慣れてくればそれらはつまり“脱ぎ散らかし”。この部屋の主がとんでもなくずぼらに、けれど楽しく生きていることが一目でわかる空間(美術・松井るみさん、衣裳・有村淳さん)にて、その主オリーブは女友達たちと、クイズ・ゲームに興じています。

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『おかしな二人』(C)Marino Matsushima

TV局のプロデューサーで、どうやらかなりの高給取りらしいオリーブには、今日も別れた夫から金の無心の電話が。そんな彼女が仲間たちと、最近夫に離婚を切り出されたもう一人の友人、フローレンスの噂をしていると、まさにその彼女が玄関に! 傷心のあまり自殺でもしかねない風情のフローレンスに、オリーブはこの際、人生を変えてみたらと提案、二人の同居が始まります。

しかしこのフローレンス、実は筋金入りの潔癖症。アパートはあっという間に片づけられ、オリーブたちが遊ぶゲームのカードまで洗われてしまいます。次第に軋轢が生まれるなか、オリーブは気晴らしにと、同じアパートに住むスペイン人兄弟を食事に招くのですが…。

喜劇の第一人者ニール・サイモンの代表作の一つ『おかしな二人』(1965年)の女性版として、85年に発表された本作。おおまかな骨格は男性版そのままに、対照的な二人の女性が衝突を繰り返しながらも人生の“次なる一歩”に踏み出すまでが、コミカルに描かれます。前述のとおり、舞台を覆うポップな色彩が、人間関係というテーマの生々しさをほどよく中和。ミュージカル・ファンにとってお馴染みのキャストが多いこともあってか、ストレート・プレイのあちこちに伴奏付のワンフレーズ歌唱が差し挟まれるのも嬉しい趣向です。(演出・原田諒さん)

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『おかしな二人』(C)Marino Matsushima

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『おかしな二人』(C)Marino Matsushima

最大の見どころは何といっても、日本のミュージカル界で大きな足跡を残してきた大地真央さん、花總まりさんの共演でしょう。数々の大作で主演をつとめた大地さんは本作でも圧倒的な“華”を咲かせつつ、台詞の一つ一つをゆるがせにせず、戯曲の面白さをしっかりと観客に届けてくれます。一方の花總さんはコメディは今回が初とのことですが、技巧に走らず体当たりでドタバタ劇に身を投じる姿が清々しく、オリーブとの掛け合いの中で刻々と変わる表情も生き生き。二人の女友達をそれぞれ個性的に演じるシルビア・グラブさん、宮地雅子さん、平田敦子さん、山崎静代さん(特に山崎さんのほんわりとしたボケが和みの瞬間を生んでいます)、スペイン人兄弟をおおらかに演じる美声コンビ、芋洗坂係長さん、渡辺大輔さんも好演です。

二人の同居がフローレンスを慰めるべく始まったことから、オリーブはフローレンスに対して優位に立つようにも見えますが、終盤、あることで傷心。いっぽうでフローレンスには“瓢箪から駒”な展開があり、ある意味“どんでん返し”が起こります。何があるかわからない、そして人生は続いてゆく。そんなほろ苦い余韻の後には、“歌える出演者たち”ならではのスペシャル・カーテンコールで、晴れやかな気分に。芸術の秋のはじまりにちょうどいい、大人のエンタテインメントです。

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『おかしな二人』(C)Marino Matsushima

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『おかしな二人』10月8日~25日=シアタークリエ、11月5日~11日=梅田芸術劇場シアタードラマシティ 公式HP