Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

『アナスタシア』内海啓貴インタビュー:“成長”の物語に自身を重ねて

f:id:MTJapan:20200217134544j:plain

内海啓貴 95年生まれ、神奈川県出身。高校生でデビュー、TVドラマ『GTO』やEテレ『Rの法則』等、TVを中心に活躍。近年は『テニスの王子様』『黒執事Tango on the Campania』『陰陽師~平安絵巻~』『いつか~one fine day』など舞台でも活躍している。©Marino Matsushima
第70回アカデミー賞で歌曲賞、作曲賞にノミネートされた同名のアニメ映画をベースとして、記憶をなくしたヒロインが強い意志を持って“自分探し”の旅に出る様を描いた『アナスタシア』。17年にブロードウェイで初演、世界各地で上演されている人気ミュージカルが、遂に日本に上陸します。
 
MTJでは仮台本を読んだ段階で特集を決定。メインキャストのうち何名かの方々に作品観や役作りについてうかがい、その魅力に迫ります。第2回は混乱の時代をたくましく生き、ヒロイン、アーニャの自分探しに関わることになるディミトリを演じる内海啓貴さん。海宝直人さん、相葉裕樹さんという若手実力派スターとのトリプルキャスト決定に武者震いしつつ、尋常ならざる意欲をもって臨む日々をお話いただきました。
 
【あらすじ】ロシア革命後のサンクトペテルブルク。その片隅で孤独に生きていた記憶喪失の女性アーニャは、詐欺師の青年ディミトリと出会い、暗殺された皇帝一家のうち唯一生き残った“かもしれない”アナスタシア候補として、皇太后が住むパリを目指す。はじめは高額の賞金目当てだったディミトリと、一途に自分探しをするアーニャ。衝突しながらも二人はいつしか心通わせるようになるが、彼女の姿に何かを直感した将官グレブが、彼らをパリまで追いかけてゆく…。

f:id:MTJapan:20200214124141j:plain

『アナスタシア』
僕自身の“アングラ”感をディミトリ役に生かせると思います
――内海さんは昨年「いつか~one fine day~』でも好演されていましたが、ミュージカルの世界には最近いらっしゃったのですね。
「ミュージカルを初めて観たのは『モーツァルト!』。生オーケストラで歌う世界に魅了され、自分も目指すようになりました。音楽無しの演劇も好きですが、そこに音楽がプラスされた時の感覚って格別ですよね。『いつか~』の時も生バンドで歌わせていただいて、本当に楽しいなと思いました。いつかはブロードウェイ・ミュージカルにもと思っていたところに本作の話を聞き、曲を聴くだけで自分の世界が広がるのを感じ、もっと知りたい、絶対受かりたいと思いながらオーディションに挑戦しました」
 
――オーディションはどんな内容だったのですか?
「僕は1時間40~50分かけて、歌や芝居の相手役の方もいらっしゃる場で、丁寧に審査していただけました。これまで沢山のオーディションを受けてきているけれど、間違いなく、今回が一番楽しかったです。そこは音程が下がり気味だから注意してとか、細かく指摘していただきながら課題をクリアしていき、自分の出来ることはすべて出しきれたと実感できました。ソロナンバーの“My Petersburg”では、緊張しすぎてアーニャ役の方の手をずっと握っていて、歌い終わって“あなた手を握りすぎ”と言われましたが(笑)、情熱をぶつける歌から、最後にはアーニャに興味を持ってもらえるように語りかける歌唱に変化出来たような気がします」

f:id:MTJapan:20200217135156j:plain

製作発表ではナンバーを生き生きと披露。(C)Marino Matsushima
――ディミトリは“生きているかもしれない”皇女アナスタシアを探し出して…というか誰かをアナスタシアに仕立て上げ、皇太后のいるパリに連れて行き、賞金をせしめようとする過程でアーニャと出会うわけですが、どんな人物をイメージしていますか?
「貧困のはびこる“アングラ”な都会サンクトペテルブルクで父を亡くし、たった一人で生きてきた青年です。自立しているけれどチャーミングな一面もあり、アーニャと出会ってからは愛も知って成長してゆく。魅力的なキャラクターだし、僕自身もこの役を演じることで役者として成長していきたいです」
 
――ご自身と共通する部分もありますか?
「ありますね。彼はパリへの旅で自分の生き方を探しているのだと思いますが、僕自身も高校2年でこの業界に入って、20歳で一度やめているんですよ。友人たちが就職したり結婚してゆくのを見て、いろんな幸せの形があるけれど自分は幸せなのかな、と考えた時にそれを感じられなかった。で、ノートに自分の好きなこと嫌いなことを書き出して、自分は音楽をやりたいんだと思って路上でライブをやったりしていたんです。そんな“アングラ”感はディミトリ役にも生かせそうな気がします」
 

f:id:MTJapan:20200217135956j:plain

製作発表にて。(C)Marino Matsushima
――今回はトリプルキャストですね。
「初めてです。友人の三浦宏規君から“(他の人の稽古を)見る時間が多くなるから自分の役を客観視出来て勉強になるよ。いいなと思うところを盗んで自分の役作りに生かしていけばいいんだよ”と聞いて、なるほどなと思いました。製作発表の時に“My Petersburg”を3人で歌ったのですが、確かにその時にも解釈が三者三様のところがあって。ブレスの入れ方や声の伸ばし方など、勉強になりました。僕は発声そのものに興味があって、Youtubeでもよく見ています。最近はディカペラにはまって来日公演にも行ったりしていますが、何より現場で皆さんから、学ばせていただいてここまで来たという実感があります。『黒執事』の時も共演者の皆さんをよく観察しながら、ああこういう口の開け方をするから高音が響くんだな、と気づかせてもらったり…。今回もたくさんのものを得られたらと思っています」

f:id:MTJapan:20200217135319j:plain

トリプルキャストでディミトリを演じる相葉裕樹さん、海宝直人さん(C)Marino Matsushima
――トリプルキャストのお一人、海宝直人さんの発声探求は有名ですが…。
「そうなんですか!『イヴ・サンローラン』で海宝さんの声が好きになってアルバムも持っているほどなので、ぜひたくさん見習いたいです!」
 
――今回、ご自身の中でテーマにしていることはありますか?
「“自分の限界を超えること”です。挑戦しながら、自分の引き出しを増やしたいです。特に今、力を入れているのが歌唱法で、ミュージカルを始めた当初は違う歌い方をしていたのですが、今回、呼吸や響かせ方を工夫することで“楽な”というか、喉に負担のかからない歌い方を学んでいます。でもそちらに気をとられると、音程が不安定になりがちなのできちんと音程も保てるように、日々、努力を続けています」
 
――お客様に本作をどうご覧いただきたいですか?
「僕はこの作品に初めて触れた時、愛の物語であり成長の物語でもあるな、観た人が何かしら感じたり、考えられる作品だな、と思いました。華やかさもあり、楽曲もすばらしいので目にも耳にも残る。そして気分が落ち込んでいる人を勇気づけられるメッセージ性もある。心に残る舞台を、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います」

f:id:MTJapan:20200217135439j:plain

製作発表にて。(C)Marino Matsushima
――高校2年でデビューしてから25歳の現在までの間に、一度引退されて、また戻られて、ミュージカルに出会って、今回大作ミュージカルに…と、内海さんは濃厚な人生を歩んでいますね。
「常に何かやっていたいタイプなんです。そんな中でミュージカルと出会えたことは僕にとって大きくて、まだまだ勉強しきれていないけれど、本当に楽しい。生きがいが見つかって幸せです。沢山の作品にチャレンジしたいです。歌だけでなく、ダンス・レッスンにも通って、運動神経任せでないダンスが踊れるよう頑張っています」
 
――どんな表現者になっていきたいですか?
「この人、という目標はありませんが、作品ごとに毎回違う顔をお見せ出来たらかっこいいなと思います。舞台って映像と違って、カメラワークはないからステージに出たら全身をさらけ出すことになる。そこにはその俳優の人柄も、これまでの生きざまも見えて来る。“素敵な役者”に映るには、僕自身も充実した日々を過ごしていかないといけないな、と思っています」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*公演情報『アナスタシア』3月1日~28日=東急シアターオーブ、4月6~18日=梅田芸術劇場メインホール 公式HP
*内海啓貴さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼントいたします。詳細はこちらへ