Musical Theater Japan

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『アナスタシア』葵わかなインタビュー:“背中を押してくれる”おとぎ話

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葵わかな 98年生まれ、神奈川県出身。09年に女優デビューし、TVドラマ、映画、CMに幅広く出演。17年にはNHK連続テレビ小説『わろてんか』でヒロイン、藤岡てん役を演じた。19年『ロミオ&ジュリエット』でミュージカル・デビュー。©Marino Matsushima
歴史の“if(もしも)”の中でも特に有名な“皇女アナスタシア生存説”に想を得て、記憶をなくしたヒロインが混乱の時代に希望を持ち続け、“自分探し”の旅に出る様を描く『アナスタシア』。17年にブロードウェイで初演、世界各地で上演されている人気ミュージカルが、遂に日本に上陸します。
 
MTJでは仮台本を読ませていただいた段階で、インタビュー特集を決定。メインキャストのうち何名かの方々に、作品観や役作りについてうかがっていきます! 第一弾は、主人公アーニャをダブルキャストで演じる葵わかなさん。昨年『ロミオ&ジュリエット』でミュージカル・デビューしたわかなさんですが、今回はどんな思いで挑んでいらっしゃるでしょうか。
 
【あらすじ】ロシア革命後のサンクトペテルブルク。その片隅で孤独に生きていた記憶喪失の女性アーニャは、詐欺師の青年ディミトリと出会い、暗殺された皇帝一家のうち唯一生き残った“かもしれない”アナスタシア候補として、皇太后が住むパリを目指す。はじめは高額の賞金目当てだったディミトリと、一途に自分探しをするアーニャ。衝突しながらも二人はいつしか心通わせるようになるが、彼女の姿に何かを直感した将官グレブが、彼らをパリまで追いかけてゆく…。

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『アナスタシア』
アーニャのふつふつと溢れ出すエネルギーを体現したいです
――今回、この作品に挑戦したいと思ったのはなぜでしょうか?
「素敵なストーリーであることと、女性が主人公の作品は多くない中で、この作品はアーニャという女性が主人公だし、苦境に立たされても愛や夢といったまっすぐな気持ちで走ってゆこうとする姿がかっこいいと思えました。おとぎ話的でありつつ現実味もあって、たくさんの人の背中を押してくれるのでは、と思いぜひ挑戦したいと思いました」
 
――オーディションではたくさんの課題があったのですか?
「“Journey to the Past”“In My Dream”という2曲のソロと、ディミトリとのデュエット。そして登場シーンや皇太后との対面のシーンなどの台詞を練習してきて下さいと仮台本の抜粋を渡されまして、前後が分からないなりに、自分の中でイメージを膨らませて臨みました。当日は“アーニャは強い女性だから笑顔で感情を隠さなくていいんだよ。笑いたいときに笑い、泣きたいときに泣くというように自由にやっていいんだよ”と言われて、そういう女性なんだと思いました」
 
――計算すると、アーニャはこの時点で27歳ぐらいですが、葵さんはかなりお若いですね。自分の中で“大人の演技”を意識されたりは?
「現在、21歳ですが、アーニャで大事なのは、抑制された大人の雰囲気ではなく、子供のようにふつふつとあふれ出すエネルギーなので、“27歳だから”という意識はしてないです」

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『アナスタシア』製作発表にて。アナスタシア役のお二人は実際の衣裳を着用。(C)Marino Matsushima
――アーニャは17歳で記憶を失ってしまい、以来10年もの間、一人で生き抜いてきたという設定です。革命後の混乱期の都会でどれほどハードな日々を送ってきたのだろうと思いますが…。
「そうなんです。“In My Dreams”の中でもその日々について少し語られているので、想像を膨らませています」
 
――荒くれ者に絡まれ、アーニャが思わぬ腕っぷしの強さを披露する場面がありますが、あの強さはこの10年の間に…?
「ええ、この10年の間に培われたものだと思います。“(生きるために)なんだってやってきた”というような歌詞があるように、彼女は“サバイバー”なんだと思います」
 
――そんな彼女は、記憶を失いながらも“パリに行けば自分の何かが見つかる”という思いに囚われていますが、彼女としては“自分が何者かが分からないままでは、先には進めない”ということなのでしょうか。
「そう思います。例えば(交通事故などで)記憶喪失になっても、普通は誰かが“あなたはこういう人ですよ”と教えてくれて、それによって自分が存在していると感じられるけれど、アーニャにはそういう人が誰もいなくて、自分って本当に存在しているの?と、地球上に自分しかいないような孤独を感じていたのではないかと思います。自分の存在を確かなものにしたい。そうでないと未来なんて見えない、という気持ちだったのではないでしょうか」
 
――ステファン・フラハティによる音楽はいかがですか?
「とても素敵ですが、歌うとなるとパワーが必要な曲が多くて、難しいです。曲調としてはキャッチ―で耳に残るし、特にアーニャのナンバーは親しみやすいのではないでしょうか。力強い声を出せるよう体づくりをして臨んでいきたいです」

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『アナスタシア』製作発表では歌声も披露。(C)Marino Matsushima
――ご自身的にテーマにしたいことはありますか?
「“女性らしい強さ”を追求していきたいです。今回、海外のクリエイティブ・チームとご一緒していますが、彼らはアーニャのようにパワフルだし、感情表現がストレートなんです。彼らの様子を見ているとアーニャのイメージが膨らみます。いっぽうで、今回は日本人キャストなので、私たちの心の機微であったり、日本人ならではの良さも出せたらいいなと思っています」
 
――どんな舞台になるといいなと思われますか?
「出演が決まってからスペイン版の『アナスタシア』を観に行ったら、家族連れのお客さんが多かったんです。実際、子供も楽しめる素敵な作品で日本でもぜひたくさんお子さんたちに来てほしいと思いますし、同時に大人にも訴えかける作品です。日本でも皆さんに共感していただける舞台になったらいいなと思います」
 
――プロフィールについても少しうかがわせてください。葵さんは10歳ぐらいで芸能界に入られたのですよね。当時はどんな目標をお持ちだったのですか?
「小さかったこともあって、当時はこれ、という決まった目標はありませんでした。事務所に入り、オーディションでご縁をいただいたものを辿ってきて今に至る…という感じです」
 
――葵さんというとやはり連続テレビ小説『わろてんか』ヒロインのイメージが強いかと思います。多くの日本人が毎朝、親戚のような心情で葵さん演じる“おてんちゃん”の奮闘を応援していたと思いますが、そういった空気感はご存じでしたか?
「当時は家とスタジオの往復で、家にいる時間も少なかったのでSNSやTVにも触れられず、“誰か観てくれているんだろうか”という感じだったのですが、放送が終わってからロケに行く度に“おてんちゃん”と呼んでいただけて、“観ていて下さったんだ”と実感できました」

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『アナスタシア』製作発表にて。(C)Marino Matsushima
――葵さんにとってさぞや大きな経験だったのでは…?
「大きかったです。前と後では、演技はもちろん、価値観や考え方もひっくり返るほど変わって、別人になったように感じるほどです」
 
――昨年「ロミオ&ジュリエット』でミュージカル・デビューされましたが、ミュージカルとの出会いは?
「以前から観てはいましたが、自分にとっては観るものというイメージでした。でも前回の『ロミオ&ジュリエット』を観た時に、それまでお仕事に対して“出来るものは何でも挑戦したい”というタイプだったのが、はっきりと“ジュリエットをやりたい!”と思えたんです。ミュージカル経験は無かったけれど、(『わろてんか』でも共演した)大野拓朗さんがロミオを演じていらっしゃるのを観て、もしかして自分も本当に努力したら可能性があるかも、と思って、猛練習をしてオーディションを受けました。(出演が叶って)自分にとってはジュリエットがミュージカルのすべてだったので“次”のことは全く考えていなかったのですが、公演が終わるころ、みんな“次は~~に出るから観に来てね”と言いあうようになって、そうか、みんなには次があるんだ、私も次があるといいなあと思うようになって、今回のチャレンジに繋がりました」
 
――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「マンモスがそうだったように、進化しないものってどんどんなくなってしまうと思うので、今いる場所に立ち止まらず、どんどん進化していきたいです。そのいっぽうで、魅力的であるには根底に変わらぬ土台がないといけないので、今はその土台を構築中です。日々経験することだったり感じることが生きる職業だと思いますので、プライベートの自分も大事にしていきたいです」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『アナスタシア』3月1日~28日=東急シアターオーブ、4月6~18日=梅田芸術劇場メインホール 公式HP
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