Musical Theater Japan

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ダンスへの誘い:遊び心満載、“絵本のような世界”を紡ぐ CAT-A-TACクリスマス公演

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『Futari de ZUCCU』(C)藤堂正寛
ふだんは「歌(言葉)」×「身体表現(ダンス)」×「演技」から成るミュージカルを楽しんでいる私たちですが、たまには敢えて、「歌」わず、「動き」に特化したダンス演目を楽しんでみませんか? 言葉というよりどころがないからこそ、眠っている感性も大いに刺激されるのが、ダンスの楽しさ。数あるカンパニーの中でも、遊び心とアイディアに溢れた“ノンバーバル(言葉の無い)・ストーリーダンス”で人気の「CAT-A-TAC」(キャットアタック)クリスマス公演を、稽古場取材を交えてご紹介します!

身体表現の無限の可能性を楽しむ、“絵本のような”ストーリー・ダンス

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CAT-A-TAC短編2本立て『クリスとスマス』『愚者の贈り物』
赤い帽子とエプロンがトレードマークのクリスとスマスは、サンタさんの見習い。世界中の子供たちへのプレゼントと日々、格闘していますが、ある日病気の子供の手紙に心を打たれ、魔法の靴を探す旅に出ます。ようやくその赤い靴を見つけるも、それにはある重大な秘密が隠されていて…。

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『Futari de ZUCCU』(C)藤堂正寛
時として突き付けられる人生の選択を、ほのぼのとした物語の中にくるんでじんわりとした余韻を誘う『Futari de ZUCCU』。ダンス・カンパニー、コンドルズの創設メンバーとしても活躍する藤田善宏さんが、タップダンサー、村田正樹さんと組んで4年前に初演した代表作の一つですが、75分のこの作品を40分ほどに凝縮したのが、今回のクリスマス公演で上演される2作品のうちの一つ『クリスとスマス』です。 

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『Futari de ZUCCU』(C)藤堂正寛
台詞は無いながらも「ちょっとおっちょこちょいな同僚二人」の関係性はすぐに見てとれ、彼らの“大真面目なのにおかしな”動きに笑ったり、ある場面ではいっしょに謎解きをしたり。すっかりリラックスして観ていると、シチュエーションは突如シリアスな方向に転じます。究極の決断を下すまでの圧巻のダンス、それに続く、切なくも心温まる幕切れ…。人はどう生きるべきかを、無声劇だからこそのさりげなさ、優しさで問いかける佳作です。 

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『Futari de ZUCCU』(C)藤堂正寛
稽古場では子供のおもちゃ(⁈)を使って効果音を録音したり、細部の振付を阿吽の呼吸で確認しあうといった作業が積み重ねられ、粘土を足したり、そぎ落としたりしながら一つの彫像を作っているかのよう。台本をよりどころとしたミュージカル界の稽古とは全く異なる空気が新鮮です。「もともとの作品を、“ここはもっと情緒感が欲しいね”とか“ここはやっぱりいらないかな”と増減を楽しみながら作っています」と藤田さん。 

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『クリスとスマス』稽古より。(C)Marino Matsushima
もう一つの上演作品『愚者の贈り物』は完全な新作で、藤田さんもところどころ出演するものの、基本的には女性5人による“プレゼントの取り違え事件物語”。「女性オンリーの作品を振り付けるのは今回初めてなんですが、女性の身体って面白いですよね、柔らかくて。それをうまく振付に落とし込もうとしています」(藤田さん)。先ほどの『クリスとスマス』からがらりと変わり、シャープにしてキュートな動きが次々飛び出し、目を楽しませます。 

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『愚者の贈り物』稽古より。(C)Marino Matsushima
そもそも藤田さんがダンスに目覚めたのは、大学入学時、同級生から創作ダンス部に誘われたのがきっかけだそう。「はじめの1か月はかっこいいダンスばかりだったのですが、ある日、先輩に“水底に沈んだ丸い石になってみて。そこに急な流れがやってきた感じで”と言われて、面白いなと思ったんです。動きの中に心象表現だったり、いろいろなものを入れ込んでいく作業が妙に魅力的に映りました」 

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『愚者の贈り物』稽古より。(C)Marino Matsushima
そうこうしているうちに近藤良平さん率いるコンドルズの立ち上げに加わることになり、いつの間にかプロのダンサーに。自身の表現も追究しようと5年前に立ち上げたのがこのCAT-A-TACなのだそう。第72回文化庁芸術祭舞踊部門新人賞を受賞するなど、ダンス界の寵児として注目を集める彼ですが、理想としているのは“絵本”のようなダンス。 

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藤田善宏 福井県出身。振付家・演出か・ダンサー・デザイナー・パフォーマンスユニットCAT-A-TAC主宰、ダンスカンパニー・コンドルズメンバー。『ライトな兄弟』により第72回文化庁芸術祭舞踊部門新人賞受賞。舞台やCM等への出演・振付多数。(C)Marino Matsushima
「(抽象的な)深いダンスを追求するのも素敵ですが、僕はわかりやすく、3世代で楽しんでいただける、絵本のようなダンスを作っています。観終わって“あの主人公、あの後どうなったんだろうね”とコミュニケーションしていただけるような舞台が理想ですね。
 
言葉を持たないノンバーバル表現にこだわるのは、そこに“膨らみ”が持たせられるから。例えば“今日はいっぱい歩いたからおなかがすきました”と言葉で言うと、5秒で終わってしまう。でも、それをダンスで表現すれば、文字間や行間、いろんな隙間を入れられるじゃないですか。言いたいことにたどり着くまでに、いろんなものを含ませられる、ストーリーが膨らむ、それがいいなぁ、と思うんです。
 
振付のインスピレーションになるのは、まずは具体的な動き。“モノを拾って投げる”であれば、拾うから投げるまでの間にどう迂回させよう、どう膨らみを持たせようと考えます。それと、ユーモアも大事にしていて、チャップリンであるとかバスター・キートンの動きももちろんだけど、僕は志村けんさんやドリフターズの(スラップスティックな)動きは偉大だなぁ、と思っています」
 
ノンバーバルにこだわりつつも、音楽劇(『マリウス』)にキャストとして出演したこともあり、ミュージカルにも機会があれば携わってみたい、という藤田さん。
「ミュージカル“映画”ですが、昔、『ウェストサイド物語』を観たときには、カット割りから振付から、そのカッコよさに惹かれましたね。(不良青年たちの)闘いを表現するダンスは、今の僕のノンバーバル表現に影響を与えているかもしれません」
 
ではもし、ミュージカルで振付を担当するとしたら、試してみたい動きはありますか?と尋ねたところ、すぐに“歌っている人をリフトしたり横にしてみたら面白いかも”というアイディアが。
 
言葉のない世界の表現の無限の可能性を感じさせ、わくわくさせてくれる藤田さん。いずれミュージカルの振付にもお目見えするであろう人材として、チェックしておきたい方の一人です。
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 CAT-A-TAC(キャット・アタック)短編2本立て『クリスとスマス』『愚者の贈り物』12月14~15日=神楽坂セッションハウス 公式HP(過去の舞台映像を抜粋でご覧になれます)