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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』観劇レポート:コミカルな味わい一層、“人の絆”の物語

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部
胸躍るようなR&Bサウンドとともに、キラキラの舞台に登場する女性歌手デロリス。はじけるような笑顔を見せ、歌い踊るその姿はまさにスター…と思いきや、実はこれはクラブのオーディション。ギャングのボスでオーナーのカーティスは、愛人であるデロリスに非情にも不合格を言い渡し、さらにはプレゼントと称して本妻のコートを渡します。

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部

さすがに愛想が尽きたデロリスは、コートを突き返そうと彼の部屋に乗り込むものの殺人現場に遭遇し、逆に彼らに追われるはめに。命からがら警察署に駆け込むと、裁判の証言台に立つまで身を隠すよう幼馴染の警官エディに言われ、彼女はしぶしぶカトリックの修道院を訪ねます。 

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部
ジリ貧の修道院で慎ましく祈りを捧げる修道女たちの世界は、奔放なデロリスにとって全くの異次元。マイペースな言動で修道院長の顰蹙を買うも、お世辞にも上手とは言えない修道女たちのコーラスを指導することになり、ここで思わぬ才能を発揮。みるみるうちに上達した聖歌隊の歌は一躍、話題を集めますが、ギャングたちにも知られることとなり…。 

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部
天衣無縫なヒロインが危機に直面するサスペンスを軸として、“場末の歌手”と“修道女たち”が心を通わせてゆく奇跡を描いたハリウッド映画『天使にラブソングを』。その軽快なテンポはそのままに、本作のためR&B音楽を研究しつくしたアラン・メンケンによる、極上の楽曲に彩られているのがこの舞台版です。 

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部
今回が3回目となる日本版は、初演からの続投キャストと新キャストが混在するなかで、とりわけ彼らの軽妙なコメディ演技に一層の磨きが。“これぞミュージカル・コメディ”と呼ぶべき、不要な力を抜いた滑らかな芝居で、会場を笑いと涙で包みこみます。(演出・山田和也さん。ほぼ同時期に『ダンス・オブ・ヴァンパイア』も担当しており、その“離れ業”に感嘆せずにはいられません)。 

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部
この日のデロリス役・朝夏まなとさんは冒頭の登場から太陽のようなスター・オーラが半端なく、オーディションに落とされるのが信じられないほど。おそらくカーティスは彼女の芸の質などはどうでもよく、自身の権力を誇示するために不合格を突きつけたのであって、出会ったのが彼でなければ歌手としても成功していたかもしれない…と想像できるデロリス像です。聖歌隊指導のシーンでは、次第に歌唱力を高めてゆく皆の姿に目を輝かせ、足を跳ね上げるなど、全身を使った豊かな表現も魅力的。 

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部
このちゃきちゃきとしてあけっぴろげな朝夏デロリスと絶妙のコントラストをなしているのが、厳かな物腰・口跡にも関わらず、そこはかとないおかしみも漂う修道院長(鳳蘭さん)。知らず知らず院内の秩序を乱してしまうデロリスが疎ましく、“できるだけ早く出て行って”オーラを強烈に放っているだけに、終盤に向けての変化の過程からは目が離せず、さらにこのキャストでは、ともに宝塚OGであるからこその先輩・後輩愛が自然に投影、ラストの抱擁は大きな感動を呼び起こします。 

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部
“汗っかきエディ”とからかわれ、学生時代から三枚目人生に甘んじてきたエディ役・石井一孝さんも再再登板ですっかり“ぎこちないキャラ”が板につき、同じ側の足と手が同時に前に出てしまう“なんば歩き”から七変化(⁈)を見せるソロ・ナンバーもペーソスと愛嬌たっぷり。いっぽうこの日のカーティス役、大澄賢也さんは尊大なオーラを一瞬、フォッシー風の所作も交えつつ巧みに漂わせ、ちょっとまぬけな子分三人組役の泉見洋平さん、KENTAROさん、林翔太さんはそれぞれに個性を見せつつも要所で息をぴたりと合わせ、ドラマを明るくかき回します。 

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部
修道院の運営にやきもきするオハラ神父役の小野武彦さんにはにくめないお茶目さが滲み、好奇心と善良さの塊のようなシスター・メアリー・パトリック役の未来優希さん、“自分の道”を見出せなかった内気な少女から大きく脱皮する様を歌声に反映させるシスター・メアリー・ロバート役の屋比久知奈さんはじめ、修道院の仲間たちも一人一人が躍動。特に最長老(⁈)のシスター・メアリー・ラザールス役・春風ひとみさんは、ノリノリのラップを披露して頑張りすぎた後にサングラスから老眼鏡に替え、酸素吸入するなど、ディテールを作りこんだ芝居で作品の“コミカルな味”に大いに貢献しています。 

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部

レインボーカラーの電飾が美しいカーテンコールでは、パブロ(林さん)とジョーイ(KENTAROさん)のガイダンスで会場全体がダンス。合いの手を入れたり、手踊りをしたりとしどころもなかなかのもので、ペンライトを購入しておくと楽しいかもしれません。
 

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供:東宝演劇部
本作においては“音楽”の存在によるところ大でしたが、何かのきっかけさえあれば、人と人との距離は存外、簡単に縮めることができるのかもしれない。そしていったん生まれた絆は、奇跡さえ起こしうる…。とびきりの高揚感の中で、来場者はきっとそんなポジティブ・フィーリングに浸りつつ、帰途につけることでしょう。
(取材・文=松島まり乃)
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