Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

エリザベートやマリー・アントワネットで知られる一族の歴史を辿る『ハプスブルク展』プレスプレビュー・レポート

 

f:id:MTJapan:20191023205453j:plain

『ハプスブルク展』
オーストリアとその周辺を650年間にもわたって支配し、“日の沈むことのない帝国”と称されたハプスブルク家。彼らが代々築いたコレクションを紹介しつつ、帝国の歴史を彩る人々を振り返る「ハプスブルク展」が、日本・オーストリア友好150周年を記念して10月19日、国立西洋美術館でスタートします。
 
ハプスブルク家と言えば、ミュージカル・ファンにとっては数々の作品の主人公や重要登場人物を輩出した一族。今回の展覧会では『エリザベート』『マリー・アントワネット』等の作品でタイトルロールを演じ、彼らとの縁浅からぬ花總まりさんが、音声ガイドナレーターをつとめているのも話題です。オープン前日、プレスプレビューを取材しました。
 

f:id:MTJapan:20191020182113j:plain

「ハプスブルク展」展示の様子。右に「18」とあるように音声ガイド付きの作品については大きめの番号プレートが掲げられており、音声とともに鑑賞しやすい。中央はマルティン・ファン・メイテンス(子)による《皇妃マリア・テレジアの肖像》1745-50年頃

 

美術館地下の入口で音声ガイドを装着、さっそく1番を押すと、“皆様、本日はようこそ。”花總さんの気品溢れる声にいざなわれながら部屋に入り、まずは神聖ローマ帝国皇帝マクシミリアン1世の肖像(「ローマ王としてのマクシミリアン1世(1459-1519)」)と対面します。
 
13世紀後半にオーストリアに進出し、15世紀以降、神聖ローマ帝国の皇帝を独占したハプスブルク家は、その財を活かして屈指の美術コレクションを形成しましたが、その初期の立役者がこのマクシミリアン1世。妻がフランドル美術の盛んなブルゴーニュ公国の後継者だったことで、多くの芸術家を雇い入れたのです。次の間には彼の甲冑が展示されており、その背格好が想像されます。
 
ベラスケスにデューラー、ティツァーノ…。絵画史に残る画家たちの作品や財宝が並ぶなか、音声ガイドではそのうち20数点について、花總さんと声優の梅原裕一郎さんがかわるがる解説。主に描かれる主題が女性である場合、花總さんが担当しているようです。ルドルフ2世(1552-1612)お抱えの画家スプランゲルによる「オデュッセウスとキルケ」(音声ガイド番号8番)では、“ああ、あなたがオデュッセウスなのですね。さあどうか剣を鞘に納めてくださいませ…”と、花總さんがドラマ仕立てで魔女キルケによる誘惑シーンを朗読。ほんの数行ながら息をのむような臨場感で、絵画鑑賞が俄然、立体的な体験となってゆきます。
 
コレクションの中盤に現れるのが女帝、マリア・テレジア(1717-1780)の肖像。内政に外交にと手腕を発揮するいっぽうで、16人もの子をもうけた非凡な女性ですが、その末娘こそがマリー・アントワネット(1755-1793)。花總さんが『ベルサイユのばら』『マリー・アントワネット』『1789』で演じたフランス王妃で、その巨大な肖像画も、壁の一面を占有するように展示されています。
 

f:id:MTJapan:20191023204526j:plain

マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン《フランス王妃マリー・アントワネットの肖像》1778年、油彩/カンヴァス、Kunsthistorisches Museum, Wien 禁無断転載
異国に嫁いだ自分を心配する母マリア・テレジアに贈るため、王妃がお気に入りの女流画家ヴィジェ=ルブランに描かせたという優美な作品ですが、そこに描かれた髪型やドレスによって彼女のファッション・リーダーぶりが強調され、かえって母のひんしゅくを買ったのだとか。たしなめる母とそれを受け流す娘のかみ合わない手紙のやり取りが、可憐なハープの音色に乗せ、花總さんによっていくぶんユーモラスに読み上げられます。(音声ガイド番号19番)
 
そして最後の一室で登場するのが、68年の長きにわたって皇帝をつとめたフランツ・ヨーゼフ一世(1830-1916)と、その皇妃(本展では「エリザベト」という表記。1837-1898)の肖像。フランツ・ヨーゼフの肖像は晩年のものですが、目には力があり、生真面目な人柄がにじみ出ています。その向かいには、彼がチュニジアの太守から贈られたというピストルの展示が。金銀にイエローダイヤまでちりばめられた宝飾的な一品ですが、見るからにずしりと重い質感があり、ピストルで自死した皇太子ルドルフを連想せずにはいられません。 

f:id:MTJapan:20191023204918j:plain

ヨーゼフ・ホラチェク《薄い青のドレスの皇妃エリザベト》1858年、油彩/カンヴァス Kunsthistorisches Museum, Wien 禁無断転載
ここに掲げられているエリザベトの肖像画(ホラチェク画)は、私たちがよく目にする白いドレスではなく、コルセットでウェストを締め上げた薄青のドレス姿。支配者の象徴的衣裳である赤いマントの上に手を置く姿には、透明な美しさが溢れています。
 
この作品にたどり着くころには既に多数の絵画やエピソードに触れ、頭の中が情報過多になっている頃かとも思われますが、音声ガイド最後にある“ボーナストラック③”はぜひともお聞き逃しなく。動乱の時代、無政府主義者たちの恰好のターゲットの一人としてエリザベトが襲われ、のちに第一次世界大戦が勃発、“帝国”が潰えゆくまでが簡潔に語られており、『エリザベート』をご覧になった方ならば終盤の該当シーンがまざまざと、感慨深く思い出されることでしょう。ミュージカル・ファンにとっては“知っているようで知らない”ハプスブルク家の実像を、穏やかな中にも表情豊かな花總さんの声に導かれつつ、より深く知る機会です。
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
展覧会情報『ハプスブルク展』10月19日~2020年1月26日=国立西洋美術館 一般観覧料1700円、大学生1100円、高校生700円(当日) 音声ガイド利用料550円 公式HP
*この展覧会の招待券を読者プレゼントします。詳しくはこちらへ。