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CONCERT『THE BEST New HISTORY COMING』鑑賞レポート【後編】:帝国劇場という“特別な劇場”への思いを共有するひととき

CONCERT『THE BEST New HISTORY COMING』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

2月末に一時休館となる帝国劇場で連日、大入り満員を続けている CONCERT『THE BEST New HISTORY COMING』。【前編】に続き、本稿では初日前日に行われたゲネプロの、後半の模様をお届けします。

 

帝国劇場ロビーの吹き抜けを飾る、ステンレス・スチール製すだれ「瓔珞」。向かいのステンドグラスが角度によって様々に反射し、アーティスティックな空間を演出しています。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

この日、2幕は森公美子さんのトークとともに開幕し、『心を繋ぐ6ペンス』(1967年)をはじめとした“帝劇メドレー2”コーナーが続きます。王道ブロードウェイ・ミュージカルのしっとりとした名曲や華やかなタップ・ダンスが存分に目と耳を楽しませた後は、いよいよゲストコーナーへ。

 

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進行役の井上芳雄さんが迎えた、この日一人目のゲストは、鹿賀丈史さん。帝劇といえば、鹿賀さんはなんといっても(ジャン・バルジャンとジャベールを交互に演じた)『レ・ミゼラブル』初演(1987年)が忘れ難いそう。エチュード(稽古の一環としての即興)のエピソードを軽妙に語り、バルジャン役の造型に一役買った(?)人物の意外さに場内がどよめきます。

 

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そしてお待ちかねの歌唱は『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』から「砂に刻む歌」と、『レ・ミゼラブル』の「スターズ」。前者では、人生の酸いも甘いもかみ分けた男の胸のうちを味わい深く歌い上げ、後者では、孤高の男の強靱な決意を、その深淵を覗かせながら表現。鹿賀さんが拓いたジャベールという役の歴史が重なり、劇場空間がひととき、厳粛な空気に満たされます。

 

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続いて、ステージ上に大きく映し出されたのが、1969年から2023年にかけ、半世紀以上にわたって松本白鸚さんが主演し続けた『ラ・マンチャの男』の、過去公演のカーテンコール映像。世界に類を見ない偉業を成し遂げた白鸚さんは、スピーチの中で“(私達の人生の)苦しみを勇気に、哀しみを希望に変えたいと思って毎日演じてきました”と語り、英語で「見果てぬ夢」を歌う映像が続きます。

 

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“演劇人の矜持”を代表するかのような彼の言葉の余韻のなかで、(白鸚さんの次女であり、本作でアントニア、その後アルドンザ役をつとめて来た)松たか子さんが登場。ハリのある声で「見果てぬ夢」を歌い、“夢の継承”を感じさせます。

 

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続いては、東宝がこれまでに手掛け、帝劇で発信してきた“帝劇オリジナルミュージカル・メドレー”コーナー。『スカーレット 風と共に去りぬ』『ローマの休日』『Endless SHOCK』『風と共に去りぬ』『十二夜』『歌麿』『SHINKANSEN☆RX SHIROH』『ナイツ・テイル-騎士物語-』『SPY×FAMILY』『LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』『マリー・アントワネット』『レディ・ベス』『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』『王家の紋章』…と、独自の魅力を放つ作品がずらりと並びます。

 

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そしてこの日のもう一つの“ゲストコーナー”では、すっぽん(花道の七三にあるセリ。帝劇では数十年ぶりの使用だそう)から大輪の花が咲くが如く、大地真央さんが登場。『サウンド・オブ・ミュージック』のタイトル曲を丁寧に歌い、『マイ・フェア・レディ』メドレーでは、浦井健治さんとの掛け合いを活き活きと演じ、名作世界を楽しく蘇らせます。井上さん、浦井さんに挟まれてのトークでは、『風と共に去りぬ』(1987年)に出演していた本物の馬にニンジンをあげたがために起こった珍事(⁈)の思い出を、ユーモラスに披露。現・帝劇の全てを“さらって帰りたい”ほど愛しながらも、新しい歴史の始まりでもあるので建て替えを楽しみにしたい、という大地さんの言葉が共感を誘います。

 

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さて、“全編クライマックス”と言っても過言ではないコンサートもとうに3時間を超え、いよいよ終盤へ。『エリザベート』『モーツァルト!』等、近年も繰り返し上演されている大作のナンバーが、いっそうの熱を帯びて披露されます。

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そして井上さんの「では皆さん、新しい帝国劇場でお会いしましょう」を合図に、それまで音楽ジャンル的にも実に多彩な楽曲の数々を寸分の狂いもなく、エネルギッシュに演奏してきたオーケストラが奏で始めたのが、『レ・ミゼラブル』の「民衆の歌」。

 

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キャスト全員の力強い歌声が響き渡り、ステージ背後には劇場内外の写真、これまで上演された作品の宣伝ビジュアルが次々と映し出されます。皆の胸に様々な思いが去来するなか、帝国劇場という“特別な劇場”に捧げられたコンサートの幕が下りました。

 

帝国劇場ロビー。ブラックスェードの柱も、「帝劇Legacy Collection」のマテリアルとして活用される予定。

なお、コンサートは28日まで、出演者に応じてAからGまで、7種類のプログラムで上演。各プログラムごとにLIVE配信(生配信のみ、アーカイブは無し)が予定されているほか、2月28日13時公演は全国84か所の映画館でライブビューイングも行われます。

 

帝国劇場外観

また、現・帝劇は解体にあたり、110 年を超える帝劇の灯を絶やさず、新たなステージへと継承するべく、【帝劇 Legacy Collection】の名のもと、その様々なマテリアルを活用した商品開発が行われる予定。客席、ロビーの照明、柱の石などが家庭用の椅子・テーブル・間接照明といった家具から小物まで、幅広いアイテムへと生まれ変わるとあり、今後の詳報が注目されます。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 CONCERT『THE BEST New HISTORY COMING』2月15~28日=帝国劇場 公式HP 
*LIVE配信、ライブビューイングも有り。
帝劇Legacy Collection