エジンバラ・フェスティバル期間中は連日、大道芸人が街のあちこちでパフォーマンス。Photo by David Monteigh-Hodge (C)Edinburgh Festival Fringe Societyフェスティバル第一の特徴は、「審査が無い」ということ。“語りたい物語がある団体と、それを上演したい会場なら誰でも参加できる”というポリシーのもと運営されており、多種多様な作品が混在。娯楽に徹した作品もあれば、今年で言えば「気候変動」「人種差別」「精神疾患」「格差社会」等、様々な社会問題を反映した作品も見受けられます。
『Limbo: The Twelve』(C)RCS Robert McFadzeanいっぽう、学生といっても“本気度”が大きく異なっていたのが、Royal Conservatoire of Scotlandの『Limbo:Twelve』。15年連続で「フリンジ」に参加しているスコットランド王立コンセルヴァトワール(芸術学校)が上演した新作2本、既存作品1本(今年は『キューティー・ブロンド』)のうちの1本で、米国シカゴのノースウェスタン大学との共同プロジェクトとして、プロのミュージカル作家(作曲=Jonathan Bauerfeld、脚本・作詞=Casey Kendall)に委嘱した作品です。
『Limbo: The Twelve』(C)RCS Robert McFadzean物語の構造は名作映画『12人の怒れる男』を彷彿とさせ、必ずしも新味があるわけではありませんが、コンセルヴァトワールとノースウェスタン大の学生が混在するキャストの気迫が凄まじく、ただでさえ狭い会場が熱気でむんむん。一定の歌唱力を有しているだけでなく、その懸命な姿勢が、社会で“敗者”とされる人々に差し向けられる作者のエールと重なり、力強くもあたたかな感触の舞台となっています。
『Limbo: The Twelve』(C)RCS Robert McFadzean後で学校に問い合わせたところ、このプロジェクトでは学生たちが社会に出る前にオーディションの何たるかを経験できるよう、学生たちに希望する役を選ばせ、役ごとにオーディションを実施しているそう。だからこその、あの熱量なのでしょう。また本作の作家コンビはアメリカ人で、昨年からプロジェクトに参加。才能が豊かで、稽古場では学生たちに寛容に対応していた彼らが今年、再び参加してくれたことは非常にラッキーだった、と学校はとらえています。大西洋をまたいだこの共同プロジェクトから、今後、どんな作品が生まれて来るのか。またどんなミュージカル俳優が巣立ってゆくか。継続的に見守ってゆきたいところです。
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AIと人間の“らしからぬ”ふれあいを描く『You and I』
『You and I』Colla Voce Theatre今回、筆者が観た6本の中で、最も観客から熱いリアクションを得ていたのが、シェフィールド大学の卒業生たちが設立し、ユニークな題材選びを心掛けているという劇団“Colla Voce(コルラ・ヴォーチェ)”の本作。会場となったエジンバラ大学の階段教室を満席にするだけでなく、観客を度々笑わせ、ちょっぴりしんみりもさせ、カーテンコールでは誰もが自然に立ちあがり、笑顔で喝采。3人のバンドで半分は占められた、ごく小さな劇空間の芝居にも関わらず、です。
『You and I』Colla Voce Theatre人間の感情に人工知能が影響を及ぼすという点においてはディズニー映画『ベイマックス』など、既存の作品が思い出されるストーリーではありますが、そんなことなど吹き飛ばしてしまうのが、キャストの演技。ロバート役のLaurence Huntは、完璧にSiri的(?)な口跡とぎごちない動きで無機質なロボットを体現しつつ、その“間合い”のセンスでそこはかとないおかしみを漂わせます。また主人公フラン役のLindsay Manionも、孤独と喪失感を抱えた複雑な内面を、フォーク調の旋律に乗せて表現。二人の緻密にして生き生きとした演技が観客の心を掴み、突拍子もない物語に信ぴょう性を与えています。
『You and I』Colla Voce Theatre例え相手がAIであっても、人生は“出会い”によって変わりうることを描く本作は、アクティング・スペースが極めて限られた中ではフィジカルな見せ場はほとんどありませんでしたが、劇団によるとその後、オフ・ウェストエンドのThe Other Palace(ロイド=ウェバー・シアターグループ系列で、『アメリ』や『ファルセットズ』等を上演)のサポートで長編化が決定したそうなので、よりうねりのある物語、また視覚的にも見せ場の多い作品に発展してゆくかもしれません。「まだ何も確約されたものはないけれど、進展があり次第ツイッターやウェブサイトで発表します」とは、アウトリーチ・コーディネーターのダンさんの言。