Musical Theater Japan

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渋谷真紀子の連載エッセイ『大夢想展』Vol.3「大きな愛が詰まったオージーミュージカル」

 

「大夢想展 大きな愛が詰まったオージーミュージカル」ピーター・アレンの出身地・テンタフィールドにて。撮影:渋谷真紀子 

 

東京は本格的に夏の陽射しになってきましたね。私は現在来日中で、東急シアターオーブで上演中のブロードウェイミュージカル『The Boy From Oz』の演出助手をつとめていました。本作は2003年にブロードウェイで開幕、2004年にオーストラリア人のヒュー・ジャックマンがトニー賞で主演男優賞を受賞した後、2005年には日本人キャスト版が青山劇場で上演されました。その後06年・08年にも上演され、今回は4度目の上演。22年版を無事にお客様に届けることが出来、ホッとしています。

主演の坂本昌行さんが演じるのは、アメリカのショービジネスを駆け上がったオーストラリア人シンガーソングライターのピーター・アレン。オーストラリアのカンタス航空に乗ると、彼の楽曲「I Still Call Australia Home」が出迎えてくれるほど、オーストラリア人の心に生き続けているアーティストです。ブロードウェイミュージカルとして知られる本作ですが、実は1998年にシドニーで開幕したオーストラリア産(オージー)ミュージカルなのです。

シドニー初演では、今年4月に日生劇場で上演された『ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』の演出家ダレン・ヤップ氏が演出助手を務めていました。彼からオーストラリア初演版の話を聞き、今回はブロードウェイ版演出のフィリップ・マッキンリー氏から、どのようにブロードウェイミュージカルに仕立てていったかを聞くことが出来、大変興味深かったです。オーストラリア版はピーター・アレン自身が人生を語るアットホームなキャバレースタイルでしたが、ブロードウェイではアメリカ人の大スター、ジュディ・ガーランドやライザ・ミネリの存在感を高める脚本に改訂され、曲順の再構成や歌うキャラクター変更も行われ、グランドミュージカルにショーアップ。日本に上陸しているのはこちらのバージョンとなっています。

ピーター・アレンの祖父ジョージ・ウールノーが働いたオーストラリア・テンタフィールドの鍛冶屋を筆者が訪れた際、ショーウィンドウに飾られていたタップシューズとマラカス。撮影:渋谷真紀子

 

実は日本では他にもオーストラリア産オージーミュージカルが上演されています。例えばミュージカル『プリシラ』。車社会のオーストラリアはポップ音楽がメインストリームで、コンサートやミュージックフェスが多く開かれるため、ミュージカルの市場は小さく、ジュークボックスミュージカルや歌が有名な映画原作が好まれるそうです。日本でも『ラブ・ネバー・ダイ』等を演出したサイモン・フィリップ氏が『プリシラ』始め、大型の新作ミュージカルを演出しています。

例えば『レイディース・イン・ブラック』、映画化もされた人気小説が原作で、ポップシンガーが作曲しています。まだ働く女性が珍しかった1959年を舞台に、クリスマス商戦のシドニーの百貨店で働く10代から50代の女性達の葛藤と新たな生き方を描いています。

次は『ミュリエルの結婚』。結婚で全ての夢が叶う!と信じて疑わなかった女性が、“結婚”という形に囚われず自分らしい生き方を見つける話です。どちらもブロードウェイには繋がっていませんが、オーストラリアでは人気の新作でした。

最近若手のイブ・ブレイクが作詞・作曲・主演を務め、大ヒットさせた新作ミュージカル『FanGirls』では、男性アイドルの熱狂的ファンの14歳の女の子のとんでもない妄想世界やファン仲間とのオンライン上の世界が入り混じり、観客は有りそうでない14歳の世界に巻き込まれていきます。この作品は、私も働いたクイーンズランド州立劇場でプレビュー・トライアウトの後、シドニー・メルボルン等のツアー公演を成功させ、今夏にシドニーオペラハウスで上演予定です。

オージーミュージカルから感じるのは、陽気なビーチや果てしない青空に包まれたらどんな事も愛おしくなる!というハッピーマインドです。20年以上前に『The Boy From Oz』『プリシラ』が作られ、最近はステレオタイプを打ち破る女性を主役にした新作ミュージカルが続いているのも、ジェンダーフリーが進んでいるシドニーの風を感じます。

ブロードウェイミュージカル『The Boy From Oz』はアメリカのショービズど真ん中の華やかさと、陽気で朗らかなオージーマインド、大きな愛を感じる大好きなミュージカルです。

(文・写真=渋谷真紀子)

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渋谷真紀子 東京都出身。全米演出家振付家組合準会員。ボストンエマーソン大学院演劇修士取得。ブロードウェイ版「アリージャンス」の演出家奨学生として、演出助手を経験し、日本版を翻訳。ブロードウェイアジア/ CBE「Neverland: The Peter Pan Immersive Entertainment」ニューヨーク と北京公演の演出助手を担当。 他、ミュージカル「KAGUYA織り成す竹取物語」「THE WIZ」「FAME」「星の王子さま」「BLOOM-Songs from WELL-BEHAVED WOMEN-」『遠ざかるネバーランド』等を演出。