中世ナヴァール王国を舞台に、“3年間勉学に励むべし。そのため、恋愛もするべからず”と自らを律した国王とその学友たち。彼らが繰り広げる恋の騒動を描いたシェイクスピアの喜劇『恋の骨折り損』を、ポップにミュージカル化した『ラヴズ・レイバーズ・ロスト -恋の骨折り損-』が、上田一豪さんの演出で日本初演を迎えます。
学友のリーダー格・ビローン役の村井良大さん(インタビューはこちら)はじめ、今をときめく若手スターがひしめく中で、騒動のきっかけを作る国王役を演じるのが、三浦涼介さん。悲劇の皇太子ルドルフを演じた『エリザベート』や、犯罪者の家族として生きる葛藤を描いた『手紙』等、ミュージカルではシリアスな作品との縁が続いていただけに、“ラブ・コメ”ミュージカルの世界にどうアプローチしているか、注目が集まります。
本稿ではそんな三浦さんへのインタビューとともに、上田一豪さんへのミニ・インタビューも掲載。稽古も佳境に入った段階での手応えや、三浦涼介さんの“国王っぷり”を語っていただいています。お読みいただく中で、もうすぐ開幕する舞台がどんなものになるか、楽しく想像いただけることでしょう。
蜷川幸雄氏のもとで知った、シェイクスピア喜劇の面白さ
――今回はシェイクスピア劇をミュージカルに転換した作品ですが、三浦さんは2015年に『ヴェローナの二紳士』で故・蜷川幸雄さんの演出を受けていらっしゃいますね。いわば“王道シェイクスピア”を体験されているわけですが、シェイクスピア劇が500年にわたって愛され続ける理由について、気づかれたことはありましたか?
「僕はシェイクスピア劇に携わったのがその時が初めてで、それまで特にシェイクスピアをやりたい、観たいという感覚はありませんでした。そんな中で“ぽん”、とシェイクスピアの世界に入ってしまったので、衝撃は大きかったです。
というのは、シェイクスピアの戯曲って、ひとことで言い表せることを5頁もかけて表現したり、ここにたどり着くまでに非常に回り道をするということがすごく多くて。“なぜ?全然覚えられないよ…”と苦労しましたし、当時、蜷川さんは体調面で大変な時期で稽古場にもあまりいらっしゃらなかったけれど、いらっしゃったときは厳しい言葉をたくさん下さって。それらを受け止める中で、シェイクスピアへの魅力を考える間もなく本番を迎えそうでしたが、ある時点で、“愛してるという気持ちになれば、この5頁の台詞はすらすら出てくるんだよ”というアドバイスをいただいて、なるほど、と思いました。
台詞の多さばかりに囚われていたけれど、ポイントはそこではなかった。言葉にこめられた気持ちを考えて行けば、自然と台詞は出てくるんだ、とそこで初めてシェイクスピア劇の演じ方を知ることが出来たような気がします。無事に台詞も入りましたが、“魅力”が分かるまでには至らないまま本番を迎えて、無我夢中だったような気がしますね。
その後に出演した『ロミオ&ジュリエット』は、シェイクスピア原作とは言ってもかなりわかり易く構成されたミュージカルだったので、肩の力を抜いて“今”に引き寄せて演じることが出来ました。今回もわかり易いミュージカルにはなっていると思うけれど、蜷川さんが亡くなったことで、日本でシェイクスピア劇を上演する機会が少なくなってきていると思うので、(シェイクスピアの灯を守るという意味で)僕自身、すごく期待しているんです」
――ということは、『ヴェローナ~』を体験されたことで、言葉の豊かなシェイクスピア・ワールドについて、ポジティブな印象をお持ちなのですね。
「そうですね、『ヴェローナ~』の時にはその、言葉の豊かさということを感じましたし、喜劇の大変さをすごく感じました。蜷川さんがよく、“人を泣かせることなんて簡単なんだ、笑わせることのほうが大変なんだ。だから必死に取り組めよ”ということをおっしゃっていて、まさにそうだなと。もちろん簡単なことなんてどこにもないけれど、そこでの喜劇体験を、今回生かしていければと思います」
――“喜劇”というと、瞬間的なギャグに慣れている現代人にはわかりにくいけれど、シェイクスピアの“笑い”はあくまで言葉の表現なのですよね。
「そういう難しさはありますね。『ヴェローナ~』の時は、はじめ台本を読んでもどこが面白いのかさっぱりわからなくて。“これの何が喜劇なんだろう”と思ったけれど、慣れてくると、その人物が長々と喋っているのにどこかずれてる、どこか素っ頓狂で抜けてるというのが面白さなんだと思えてきました。それがシェイクスピアの喜劇なんだ。だから必死にやればやるほど面白くなってくるんだな、と」
――当初、三浦さんは国王役と聞き、意外にも思えましたが、先日『エリザベート』の皇太子ルドルフ役の三浦さんを拝見して、なるほどと感じました。というのはこの日、舞台上に大勢が登場する中で、皇帝フランツ・ヨーゼフ役の田代万里生さんとルドルフ役の三浦さんが、際立って“まっすぐ”な佇まいだったのです。単なる姿勢にとどまらず、一つの帝国を背負って生まれてきた者の宿命が立ち姿から匂い立つようで、今回のキャスティングの妙を感じました。
「キャスティングされた時点では、まだ僕のルドルフは初日を迎えていなかったと思いますが、まさにその“立ち姿”は、すごく意識していた部分です。というのは、演出の小池(修一郎)先生から(ロベスピエール役を演じた)『1789 -バスティーユの恋人たち-』の時から立ち姿・歩き方について、こっぴどく言われていたんですよ。“(この人物は革命家として)人の上に立って、彼らを引き付けていかなくちゃいけないのに、そんなんじゃ人はついて来ないぞ”って。
小池先生の言葉はいつも僕自身について気づかせてくれますが、この時も、確かに僕はプライベートで何人も引き連れたりはしないし、みんなの前でスピーチもしたことないなぁって。自分の知らない癖や、気づいていなかった自分を発見できるんですよね。だから指摘してもらったことは大切にしています。でないと、先生に怒られちゃう(笑)。小池先生は千穐楽まで、いつダメ出しがあるかわかりませんから」
“突拍子もない”劇世界への意外な共感
――ということで今回もやんごとなき身分の役どころではあるのですが、この若き国王は、26歳にして突然、学友たちに“これから3年間学業に励もう”と言い出します。国王がこんなことを言い出すって…ちょっと変わり者ですね(笑)。
「普通はそんなこと考えないですよね。でも作者のシェイクスピアが、そういう事を思いつく人なんですよ、きっと。だって『ロミオ&ジュリエット』のロミオなんて、“1000回愛してるって言っても足りないくらいだ”と言うけど、ふつう言いますか? “1000回”とか…(笑)。すごく衝撃的な表現だけど、それがシェイクスピアの言葉遣いなんですよ。だから今回の国王にしても、ぶっ飛んだことを言い出すけれど、シェイクスピアらしいんですよね。僕自身ちょっとわかる部分もあります」
――確か三浦さんは今、小池さんの勧めで“3年間ミュージカルを頑張る”期間中なのですよね?
「そうなんです(笑)。そもそもどうして“3年間ミュージカル”なのかという話もあるけど、先生に勧めて頂いた時、僕も(本作の国王の学友たち同様)“わかりました!”って即答しました。なのでこの作品、意外と共感できます(笑)。禁止事項を作ったのに、自分で破ってしまうところも」
――学業を頑張ろうというだけでもいいのに、わざわざ“女性とは付き合わないぞ”とか“睡眠は3時間以上とらないぞ”とか…厳しいことを言っておきながら、気が付けば守れていない。私たちがよくやる、“ダイエットは明日から”を彷彿とさせます(笑)。
「始めるって言っておきながら、“明日から”って先延ばしにするみたいな、その感覚すごくわかるな(笑)。もちろん僕、計画はしますよ。ここまでにはこうしておきたいという目標を決めたら、それまでに何をどうやっていかなきゃいけないか、計画を立てます。でも例えば3年でやると決めたことが、途中で“これ1年で達成出来るぞ”と思えたら、2年間は遊んじゃう。3年経ったときにできていればいいから、まぁ今日は頑張らなくてもいいかな、って(笑)。他人に厳しく、自分には甘いんですね、僕(笑)。
国王としてはたぶん、スポーツ選手が、よく試合前に“これとこれはやらない”と自制するのと同じで、自分が知る快楽であったり楽しいことを排することで、頑張れる。“俺も勉強頑張るぞ”という気持ちの表れとして、こういう禁止事項を作っているのかもしれません」
――今回、どんな舞台になるといいなと思われますか?
「今回のキャストは、お芝居好きな人がたくさん集まっている気がします。そこで個人プレーをするのではなく、互い(の存在)を感じながら、しっかり芝居が出来ればいいなと思っています。特にシェイクスピアの言葉の面白さは大事にしたいです」
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演出・上田一豪インタビュー:ショーアップされたシェイクスピアの世界を楽しんで
――本作はシェイクスピアが原作ということで、読者の中にはいささか緊張されている方もいらっしゃるかもしれません。
「そういう感じの舞台では全くないです(笑)。ショーアップされたコメディになっていて、あっという間に終わるイメージだと思いますよ」
――稽古も佳境かと思いますが、その中で、国王役の三浦さんはどんなご様子ですか?
「約束事がそれほどない作品なので皆さんに比較的自由にやっていただいていますが、三浦さんはそれがはまっていますね。個性的な感性が活きていると思います」
――『エリザベート』での、悲劇的な境遇から逃げられないルドルフ役の印象が強烈だっただけに、“自由”な三浦さんが想像しづらいのですが…。
「今回は自然な形だと思いますよ。三浦さんは一つ一つ構築していくというより、その瞬間、瞬間の発見を大切にするタイプ。予定調和的なお芝居ではなく、ユニークな感覚を持っています。彼にとって、今回はこれまでやってこなかったような役ではないかな」
――国王はどんな人物像ととらえればよろしいでしょうか?
「基本的には機転がきくタイプではなく、ストイックでこうだと決めたらそれを守ろうとする。そして誰よりも名誉を重んじる、という点で気品があるし、ちょっとした世間知らずの側面もある人物ですね」
――そんな“名誉”に生きる男たちが誓いを破って女性に恋してしまう、というのが本作の喜劇たるゆえんなのですね。
「本心を素直にさらけ出さずに格好をつけている人々が、誓いを破るほどの恋をしてしまう。それは情けなくも愛らしく、面白いというのがシェイクスピアの描いているものではないかと思います」
――肩の力を抜いて楽しめそうです。
「それと、今回は役名はそのままだけれど設定が原作とは違うところがあって、シェイクスピアの『恋の骨折り損』を知っている人が観たら“あれ⁈”となるかもしれません。原作をどう書き換えているか、照らし合わせながらご覧になるのも面白いかもしれないですよ」
(取材・文・写真=松島まり乃)
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