Musical Theater Japan

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『メリー・ポピンズ』石川新太インタビュー:全てを忘れられる3時間に

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石川新太 1999年神奈川県出身。6歳でタップとジャズダンスを始め、08年『エリザベート』少年ルドルフ役でミュージカルデビューを果たす。以後、様々な舞台やライブ、映像等で活躍。最近の出演作に『アルターボーイズ』『ニュージーズ』『ポーの一族』『ジャージー・ボーイズ』等がある。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

心浮き立つ名曲の数々と魔法に彩られたミュージカルが、2018年の日本初演から4年ぶりに上演。今回の舞台でバンクス家の使用人、ロバートソン・アイ役(内藤大希さんとのダブルキャスト)で初参加するのが、石川新太さんです。

おっちょこちょいでどこか頼りないけれど、憎めないロバートソン・アイ。子役としてデビュー後、『ジャージー・ボーイズ』等で頭角を現しつつある若手ホープは、このキャラクターにどうアプローチしているでしょうか。プロフィールのお話含め、語っていただきました。

“使えない使用人”だけど一生懸命な、
愛すべきキャラクター

――『メリー・ポピンズ』は以前からご存じでしたか?

「日本初演を拝見しました。絵本を読んでいる感覚というか、おとぎ話のようなセットに視覚的な感動をいただきました。今回のオーディションを受けるにあたり、映画版も拝見しました」

――オーディションはどのようなものでしたか?

「リモートのオーディションで、日本は夜、イギリスは朝という時間帯に行われました。僕にとっては初めてのリモート・オーディションだったので、対面だったら自分をアピールしやすいけれど、画面を隔てることで伝わらない部分があるんじゃないかと不安怖さを感じていましたが、当日は稽古のような感じて進めて下さいました。一つ、二つシーンをやって、“仮にこういう心情だとしたらどう喋る?”とワークショップ的にやってくださっれて、リモートに対する不安は払しょくされましたね」

――オーディションを通して作品の世界観が見えてきたでしょうか。

「もちろん映画版も勉強していたので理解はしているつもりでしたが、どのシーンも何を伝えようとして、個々のキャラクターが何を思っているかがすごく丁寧に描き込まれているんだなということがわかりました」

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『メリー・ポピンズ』

――日本初演でこの役を演じたお二人とは持ち味が異なると思いますが、ご自身ではこの役について何が求められたと感じましたか?

「ロバートソン・アイはいわゆる“使えない使用人”ですが、一生懸命なんですよね。初演で演じたお二人もそのように演じていたと思いますが、バンクス家のために一生懸命であれば、あとの芝居はいろんなチョイスがある。役の“核”があれば何通りも楽しめる役だと感じました」

――ロバートソン・アイにはティー・パーティーの準備で奮闘するが…という見せ場(?)がありますが、ここではどの程度コミカルな芝居を意識されていますか?

「本作は全般的に、ある種デフォルメされている作品で、リアルさは忘れてはいけないけれど、すべての動きが絵本の中のようであってほしい、と言われています。かといって動きや台詞だけデフォルメすると、血の通わないキャラクターになってしまうので、リアルな人間から一歩膨らませたようなキャラクターにできたら、と思っています。

ティー・パーティーのところはコメディ要素の強いシーンですが、ロバートソン・アイとしては面白いと思ってる訳ではなくて、ただただ一生懸命準備をしていたら、側から見て面白い事態になってしまったという感じです。(笑)その健気さは出したいですね」

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『メリー・ポピンズ』ロバートソン・アイ(石川新太)

――“使用人”ということですが、具体的には彼のお仕事はどんな内容ですか?

「これもまた面白いのですが、彼は本当に仕事ができない人で、“この花瓶に水を入れて”と言われても割ってしまったりするんですよ。だから基本的に、任されていないんですね(笑)。ご主人のジョージが “鞄!”と言ったときに、ミセス・ブリルに“持ってきて”と指示されればようやく持っていけるという感じです。劇中、“一つだけ仕事あげる”と言われて、“これから家宝の下を掃除するから、あなたはそこを一歩も動かないで”と指示されたりもしますが、この結末は…(笑)。彼は日々、仕事が一つずつ増えていますが、それは彼の日々の頑張りによるものだそうです」

――ゲームのステージが上がっていくような感じですね。

「そうなんです。結局失敗しちゃうんだけど(笑)」

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『メリー・ポピンズ』歌唱披露イベントにて。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

――稽古の様子はいかがですか?

「この作品は決まりごとが多くて、小道具もたくさんあるので、まだ必死に覚えている状態です。でも全体的には内容柄、すごくハッピーな空気感の中で稽古できています」

――お好きなシーンは?

「ロバートソン・アイの見どころは先ほど挙がったティー・パーティーのシーンですが、個人的にはタップダンスが得意なので、“ステップ・イン・タイム”が好きですね。使用人という役柄なので自由に出歩けないので、このシーンには出ていないのですが、ナンバー終わりに(セットが)バンクス家に転換していくので、ちょっと出ています。それまでは袖でみんなのダンスを楽しんでいます」

――ビッグナンバーとしては“スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス”もありますが、こちらは…。

「こちらも出ていませんが、フィナーレに登場するので、例の手振りのところはやります。振り写しではゆっくりのスピードでやったので、本番で正規のスピードでちゃんと出来るか、不安ではあります。間違えると目立つので(笑)、本番までに頑張らないと!」

――どんな舞台になれば、と思っていらっしゃいますか?

「こんなご時勢ですので、お客様がこの作品をご覧になっている3時間の間は、全てを忘れてわあ!と夢中になっていただけるような、そんなミュージカルになれば、と思っています」

ミュージカル俳優で音楽家
という感覚を大切に

――プロフィールについても少しうかがわせて下さい。石川さんは子役出身ですが、始めたきっかけは覚えていらっしゃいますか?

「TVでタップダンスを見て、まねしていたら出来る気がして、親にお願いして近くのカルチャーセンターに通い始めたのがきっかけでした」

――その2年後に『エリザベート』のルドルフを演じたのですね。

「たまたまスクールの先生が今の事務所の方で、隔週のレッスンだと足りないという話になって、事務所でのクラスに通うことになりました。それで事務所から声をかけて貰い、ミュージカルのオーディションを受けることになりました」

――突然、歌も歌うことになったのですね。

「“歌ったことある?”と聞かれて、“小学校の音楽の授業で歌ったことがあります”と答えていました(笑)。タップダンスしか習ったことのなかった僕が『エリザベート』に出て、その後もいろいろな作品を通して鍛えていただけて、つくづくラッキーボーイだったなと思います」

――オーディションで選ばれるコツのようなものはありましたか?

「子役の時は、オーディション会場では自分が一番うまいと思うようにしていました。小学生の頃は会場でかなりの数の子たちが、“自分なんて…”となってしまうのを見ていました。そうなると、自分の番になっても委縮してしまうんですよ。それを見て、僕は練習もしてきたしきっと出来ると思って、その場を楽しむ様にしていました。今はとても“自分が一番”なんて言えないけど(笑)、それくらいの意気込みで、先生方もお客さんだと思って、技術を評価していただくのではなくパフォーマンスを楽しんでいただく、ということは、今も心がけていることでもあります」

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石川新太さん。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

――これまで出演された中で、特にご自身の役者観に影響を与えたと感じる作品は?

「初舞台の『エリザベート』には訳も分からず飛び込みましたが、ミュージカルってこんなに素晴らしいんだなと体感させていただきました。以来、楽しいな、楽しいなと思いながら子役をさせていただいて、大人になっていくにつれて、お仕事としてミュージカルをやっていくようになってからは、僕はけっこういろんな作品に出させていただいていると思います。

玉野和紀さんの『Gem Club』だったり、『ジャージー・ボーイズ』、『レディ・ベス』、『グレート・ギャツビー』、『ニュージーズ』…。例えば『ジャージー~』ではハーモニーを作ることの楽しさ、厳しさを教えてもらったし、『ニュージーズ』では久々に踊り狂ったので(笑)、ダンスを踊ることの楽しさを改めて教えてもらったなと思います。一つ一つの作品、それに関わる方々からいろんなことを教えていただいてきました」

――いろいろなタイプの演目を経験されていますが、ご自身のアピール・ポイントはどこだと思われますか?

「最初はタップダンスでこの世界に入りましたが、その後、歌うことって楽しいなと思ってミュージカルを続けるようになって、もうすぐ卒業ですが音大でも学びましたし、ミュージカル俳優ではありますが、音楽家でもありたいなと思っています。広くくくったら僕は“歌の人”だと思うけれど、ダンスをするにしても音楽があるし、お芝居をするにしても音楽がかかっていて、音楽とミュージカルって切り離せません。音楽に向かっているという感覚は常にあります。『エリザベート』『モーツァルト!』のような綺麗なメロディラインのある作品も好きですし、ロックミュージカルも好きなので、そういう作品にも出ていきたいと思っています」

――今、年齢は…。

「22歳です」

――その若さでここ数年、コロナ禍にみまわれ、活動に不自由が生じられたことで、さぞやフラストレーションがたまったのでは?

「僕は幸運なことに、関わった作品はほぼほぼ上演されていて、『ニュージーズ』もいったん中止になりましたが、昨年リベンジできました。
これまで当たり前と思ってたことがそうでなくなった時に、改めて劇場でパフォーマンスできることのありがたさ、そこにお客様が足を運んでくださることのありがたさを噛み締めることができたので、必ずしもマイナスばかりではないな、前を向いていきたいな、と思っています」

――どんな表現者をめざしていますか?

「もちろんミュージカルが好きなのでミュージカルをやっていきたいですし、僕にしか歌えない歌を歌えるようになりたいです。ミュージカルは今、少しずつ客層が広がってきていますが、学生が映画を見にいく感覚で“週末ミュージカル行こうよ”というような世界になったら、もっと幅も広がるし楽しくなりそうですよね。そんな世界を夢見ながら、頑張っていきたいです」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『メリー・ポピンズ』3月31日~5月8日(プレビュー3月24~30日)=東急シアターオーブ、5月20日~6月6日=梅田芸術劇場メインホール 公式HP
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