全世界でコミック累計8000万部を超え、テレビアニメをはじめ様々なメディアミックスを繰り広げてきた「鋼の錬金術師」。昨年、石丸さち子さんの演出で上演され好評を博した第一弾公演に続き、第二弾の舞台『鋼の錬金術師』―それぞれの戦場(いくさば)―が開幕しました。
濃密に展開する舞台の魅力の一端を担うのが、殺陣。リアルに見えつつ視覚的な楽しさにも富む本作の殺陣は、どんな意図で作られているのでしょうか。
キレのいいダンスや殺陣で知られ、今回の舞台にリン・ヤオ役で出演する本田礼生さんと、今回は殺陣のみならず、リン・ヤオの臣下フー役で出演もする新田健太さんに、稽古大詰めの某日、お話しいただきました。
《あらすじ》幼い頃のエドワード・エルリック(エド)は、弟のアルフォンス・エルリック(アル)と、亡くなった母を生き返らせるため、“人体錬成”に挑んで失敗。エドは左足と右腕、アルは肉体の全てを失い、アルは鎧の中に魂を宿した。
失った身体を取り戻そうと、国家錬金術師となって“賢者の石”を探す旅に出た兄弟は、東の大国シンからやって来た皇子リン・ヤオに出会う。彼もまた賢者の石を探していたが…。
“演劇的なワクワク”に満ちた殺陣を目指しています
――お二人は以前から本作をご存じでしたか?
本田礼生(以下・本田)「子供の頃にテレビTVアニメを観ていましたし、漫画も読みました」
新田健太(以下・新田)「タイトルは知っていましたが、しっかり読み始めたのは第一弾のお話をいただいた時です」
――いろいろな漫画がある中で、本作に対してどんなイメージをお持ちでしたか?
本田「冒険!ハッピー!”というようなストーリーではなく、政治的な要素も含まれていて、キャラクターそれぞれの心の内面を描き出している、と感じます。僕らが子供の時と、戦争がより身近に感じられる今とでは、とらえ方が全然変わってくる作品だとも思います」
新田「エドとアルが少年でありながら、こんなにも過酷な運命を背負って、その運命に立ち向かっている。その周りの人たちも、それぞれに何かを背負っている。きれいなものばかりではないこの世界を、彼らが一生懸命に生きていく姿が、すごく目に焼き付いています」
――今回演じる役について教えていただけますか?
本田「僕が演じるリンと、新田さん演じるフー、星波さん演じるランファン、柿澤ゆりあさん演じるメイ・チャンは、“賢者の石“を追い求めてシンという異国から来た、新しい立ち位置の面々です。その中でもリンは“若”と呼ばれ、将来のシンの皇帝を担う可能性がある人物です」
新田「僕の演じるフーは、リン様の一族に代々護衛として仕えている家系のおじいちゃんです。孫娘のランファンとともに、不老不死の法を探すリン様を守っています」
――新田さんは前回、殺陣のみでの参加だったのですよね。
新田「はい。今回は殺陣でスタッフとして関わることが決まってから、キャストとしてフー役のお話もいただきました。裏方と出演者は全然違うものなので、両方やらせていただくことに対して、改めて気合を入れています」
――殺陣を作る時には、どんなことを心がけていらっしゃいますか?
新田「現場によって全然違いますが、“どう見えるか、どう見せるか”ということは、いつも意識していますね。お客様に“このキャラクターはこういう感情で動いている”と感じていただけるようにするには、どうしたらいいか。僕はそれを、役者の感情も踏まえた上で、客観的に見ながら作っています。
あと、例えばパンチが届いてないところでリアクションするとか、刀が届いてないところで斬られたり斬ったりしているように見えてしまうのは、僕は許せないんですよ。殺陣って、基本的に見せるためのお芝居であって、実際に殺し合いをしているわけではないという前提がありますが、その上でよりリアルに、みんなが闘っているように見せるよう、心がけています」
――確かに、新田さんの殺陣シーンを拝見していると、実際には当たっていなくとも、パンチを受けた側の痛みが感じられます。本田さんは、殺陣を演じる時に意識されていることはありますか?
本田「僕はまだまだ未熟ですし、その都度、気をつけないといけないことがたくさんありますが、今改めて自分の心に問いかけてみると、(殺陣で)常に意識していることは二つあります。
一つは、シンプルに“ワクワクする”こと。ハッピーでいるということではなく、例えば今おっしゃった“痛み”であったり、“生きるか死ぬか”という瀬戸際の感覚であったり、演劇的な“ワクワク”をもたらすこと。そのシーンが高揚する殺陣にすることが必須だと思っています。
もう一つは、(殺陣を演じる時には)台詞を言う時と同じ熱量の演劇をする、ということ。台詞を話す時より芝居の分量が減ってしまうと、殺陣はどんどん“振付”になってしまうと思うんです。危険もつきものなので、稽古中はどうしてもそういう(段取り的な)感覚で動く時もあります。でも大事なのは、本番で“一振り”を“一台詞”と同じ芝居の分量で出来るようにすること。そのために稽古をしているんだな…と今、言葉にして改めて感じました」
――本作の殺陣にはどんな特色がありますか?
新田「いくつかあるのですが、一番大きいのは、エドとアルを筆頭に、登場人物が自分たちの肉体を駆使して、戦いを表現していること。セットを使ったアクションだったり、われわれシンの国のメンバーは少し中国武術をモデルにした動きを取り入れたりと、それぞれのキャラクターらしさを表現した殺陣にもなっています」
本田「いろんなアクションを見ることができます。今回の舞台では転換の度にセットの配置が変わるのですが、それを活かしたアクションになっていて、僕自身、見ていてワクワクします」
――ひとつのシーンの殺陣にはどれくらいの時間がかかっていますか?
新田「シーンによって(所要時間は)変わります。普段は僕と、本役ではない人とで殺陣を構築するのですが、とあるシーンは礼生くんがリン、僕が相手役として流れを作ったので、すごく早かったですね」
――振付の分野では、事前に全ての動きを決めていらっしゃる方と、現場で役者の動きを見ながら決めていかれる方と2タイプいらっしゃるとよく聞きますが、新田さんの殺陣はどちらのタイプでしょうか?
新田「半々ですが、本作に関してはちょっと特別で…。稽古始まりからシーンにあわせて作っていくという流れで、演出の石丸(さち子)さんの思い描いていることを具現化していく作業が、前半は多かったです」
本田「一般的には、稽古ではまず芝居を作って、殺陣の部分に差し掛かると“ここは後日やりましょう”ということになるんですが、石丸さんは、役者がどういう人間であるか、そのシチュエーションで殺陣がどうなるかというライブ感を大事にされる方なので、殺陣もその場で作るんです。同時進行で稽古初日から作っていくという、あまりないケースです」
新田「そうなんです。礼生くん、説明有難うございます(笑)」
――臨機応変に作っていらっしゃるのですね。
本田「まさに臨機応変ですよね」
新田「出来ているかはわからないけれど、なるべく柔軟にやっています」
本田「凄すぎます!」
――新田さんから見て、本田さんのアクションはいかがですか?
新田「身体能力で言うとバケモノですね(笑)。あと、殺陣っていかに“魅せる”かが大事で、このキャラは戦うとこう見える。殴っているように見える、斬っているように見える…というのを、礼生くんは、リンという役を背負った上で出来るんです。リンの感情を乗せて、何のために戦っているのかがはっきり見えるのが素晴らしいです」
本田「リンは、エドやアルとは違う国から来ているので、流派の違いを見せたいですし、リンの戦う意図は明確なので、そこから外れてしまうといやだなあ、意図通りに見えてほしいなと思いながらやっています」
――本田さんから見て、新田さんの殺陣はいかがですか?
本田「ご一緒するのは今回が初めてなのですが、この(殺陣の)世界に居て下さってよかった!と心から思える方です。
僕は石丸さんや新田さんの“創り方”が好きで、“演劇って本来そうあるべきだけどなかなかそうなれない”、というものに対して、すごく情熱的に向き合っている方がいらっしゃるということが、役者としては有難いし、またご一緒したいです」
――どんな舞台になったらいいなと思われますか?
本田「(第二弾の新登場キャラとして)僕たちが入ることで、少しでもプラスアルファになったらいいな、というのがありますよね。舞台『ハガレン』第一弾の旗揚げ公演が本当に素晴らしいものだったので、新たにシン国の僕らが登場する第二弾でさらに上に行かないと、僕たちが参加する意味がない、と思っています」
新田「その上で、前作に出ていて今回は出ていない方もいるので、彼らの思いも背負いながら、楽しみにして下さっているお客様に、本作の面白さをお伝えできればいいなという思いです。やる以上は前作を超えていく必要があるので、凄いものをお見せしたいです」
〈プロフィール〉
本田礼生 愛媛県出身。高校卒業後に上京し俳優デビュー。主な出演作品にミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン、THE CONVOY SHOW、MANKAI STAGE『A3!』、舞台『刀剣乱舞』等がある。
新田健太 大阪府出身。俳優として幅広く出演しつつ、殺陣/アクション指導でも活躍。殺陣を担当した主な作品に、舞台『東京リベンジャーズ』、『ワールドトリガー the Stage』‐大規模侵攻編、舞台「リコリス・リコイル」 シリーズ、舞台『鋼の錬金術師』等がある。
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 舞台『鋼の錬金術師』―それぞれの戦場― 6月8~16日=日本青年館ホール、6月29~30日=SkyシアターMBS 公式HP
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