Musical Theater Japan

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舞台『未来少年コナン』加藤清史郎インタビュー:“この世の核心を衝く”作品を、インバル流に表現する意味

加藤清史郎 神奈川県出身。1歳でデビューし、映像、舞台、CMなど幅広く活躍。近年の出演作に映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』TVドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』ミュージカル・ピカレスク『LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』等がある。スタイリスト:古舘謙介、ヘアメイク:Ken Nagasaka <衣裳>ブルゾン/Barbour ジャケット、ネクタイ、パンツ/ともにKent Ave. シャツ/SENTINEL 時計/BRISTON(UNBY GENERAL GOODS STORE) ©Marino Matsushima 禁無断転載



最終戦争によって文明が失われた地球。“残され島”でおじいと共に暮らしていた少年コナンは、テレパシー能力を持つ少女ラナと出会うが、彼女は世界支配を目論む者たちによって誘拐されてしまう。ラナを助け出すため、コナンはいかだに乗って冒険の旅に出るが…。

1978年にNHKで放映されて人気を博し、宮崎駿監督の“原点”として知られるようになった名作アニメ『未来少年コナン』が、インバル・ピントの演出・振付・美術、ダビッド・マンブッフの演出によって初の舞台化。タイトル・ロールをつとめるのが『LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』『るろうに剣心 京都編』等で、ミュージカル・ファンにとってもお馴染みの加藤清史郎さんです。

身体表現を駆使した想像力豊かな舞台創りで知られるインバルとともに、彼は『未来少年コナン』の世界観をどう表現しているのか。幼い頃から活躍してきた加藤さんが、役の幅を広げるなかで昨年TVドラマで演じた衝撃的な役柄、自身の“演技”に確信を得た経験なども含め、たっぷり語っていただきました。

 

© NIPPON ANIMATION CO., LTD.
  “Incredible Tide” Copyright © 1970 by Alexander Key Stage performance rights in Japanese language arranged with McIntosh & Otis, Inc. through Japan UNI Agency, Inc.


僕がそこに“コナン”として居る意味を探しながら、この作品に向き合っています

 

――インバル・ピントさんの演出は以前からご存じでしたか?

「生で観劇出来たことは無かったのですが、映像では拝見していますし、先輩方から現場の話を耳にすることもありました。インバルさんは、俳優さん、ダンサーさんたちとともに“そこにその空間を作り出す天才”だな、と感じますし、今回、ご一緒する中で、初心に帰って芝居が出来ている感覚があります。

いろいろな技術を駆使する舞台も素敵ですが、インバルさんの現場では、全てを人間の体で表現することもできるんだと気づかせてくれます。人間が、人間以外のものになることもできるんです。知らぬ間に固まっていた概念を突き抜けさせてくれるし、表現って本来、そういうものなのかもしれないと感じられるのが、本作の醍醐味の一つになっています」

 

――インバルさんの表現と『未来少年コナン』の組み合わせはどう映りますか?

「インバルさんの演出で上演することに、大きな意味を感じます。彼女の演出では、具体的なだけでなく抽象的な表現も多くて、そこに呈示された後、観客が“その続き”を考えることが出来るんです。

『未来少年コナン』には、かわいいキャラクターがたくさん登場するし、ポップに描かれてはいますが、この世の核心的なところを衝いた作品です。環境の問題もそうだし、(様々な)人々がどう共存できるのか、できないのかを描いています。

しかし今回はそれをそのまま再現するのではなく、よりお客様の中に入り込みやすい形に溶かすというか、かみ砕いて呈示することが出来ているように感じます。」日々、“ここは敢えてこう表現するんだな”と素敵な発見ばかりで、こんなに人気のある作品がなぜ何十年も実写化も舞台化もされなかったのかということと、インバルで舞台化するということがかみ合って、ものすごく意味のある公演に参加させていただいていると感じます」

 

――この物語を2024年に上演する意義を感じますか?

「何も変わってないな、と僕は思いました。1978年の放映時に僕はまだ生まれていなかったけれど、時代が変わっても『未来少年コナン』が発しているメッセージは刺さり続けるのだな、と。

世の中の摂理とか、人間のあるべき姿、(それにもかかわらず)人間がなりがちな姿の詰め合わせのような作品です。

いつの時代にも、人と人とのいがみあいはあるし、互いの正義が対立する。文明と文化を発達させるために、犠牲になっていくものもある。挙げていったらきりのないほど多くの問題が、この地球上には存在し続けていて、今こうして話している間にも、いろいろなところで争いがあって、巻き込まれる人の数も増え続けています。

そんな中でインバルによる、皆の中に入り込みやすい表現を通して“コナン”をお届け出来るということに、すごく意味を感じています」

 

――コナンは11、12歳くらいの少年なのですね。

「アニメの年齢設定を舞台でどう踏襲するのか、というのは繊細な作業になってくると思います。“子供のフリ”をするのは絶対違うと思うんです。年齢を表現することより、“生まれてからずっと島で逞しく育ってきた僕”であることが必要なのかなと思っていて、そちらの作業を進めています」

 

――自然と共生し、優しさと勇気に溢れたコナンは、荒廃した世界の中で大きな存在感を放ちますね。

「コナンこそが、この作品のメッセージだなと思います。皆さんの中に入れたらいいなと思います。観て下さった方が、これから生きて行く中で、ふと“コナンはこういうことを言ってたな” “あれはこういう意味だったのかな”と思い出していただけたらいいですね」

 

――どんな舞台になるといいなと感じますか?

「(本作を上演することの)意味を切らしてはいけない、と思っています。この世のことって、きっとすべてに意味があるのだと思いますが、もし僕らが今回の舞台の意味を切らしてしまったら、その瞬間に物語は空虚なものとなってしまいます。

僕がそこにコナンとして居る意味を探しながら向き合うことで、かみ砕かれたメッセージがお客様の中に残ってほしいですし、心の中にコナンがい続けてくれたら嬉しいなと思いますので、そこを目指して頑張ります」

 

加藤清史郎さん。🄫Marino Matsushima 禁無断転載



自分の演技に確信を持てた、英国での学び

 

――プロフィールについても少しうかがいたいと存じます。加藤さんは英国で高校生活を送りましたが、現地でドラマスクールにも通われたのですよね。どのような学びがありましたか?

「一番の収穫は“中のこと”でした。すごく簡単に言うと、何かを伝えたいときに、言葉は要らない。自分の心が動いていれば、それは相手に伝わる…と再認識できたことです。

その課題は、何もしゃべらず、体も動かさない、というものでした。動きや言葉を使うと“手段”を用いるということになりますが、そうではなく、もっと深い部分で、俳優はどうすれば“伝える”ことが出来るのか。

これまで(演技をする中で)お芝居ってこういうものかな、と思っていたことを先生が言語化してくれて、新しい発見もありましたが、信じていた方向が間違っていなかったと思えたことが一番の収穫でした。それまで(自分の芝居の支えになる)何かはあったけれど、何かでしかなかったものが、ここでの経験を通して明確化され、余分なものを“落とす”ことが出来たと思います」

 

――近年は役柄の幅もぐっと広がってきたようにお見受けしますが、特にTVドラマ『最高の教師』での、ダークな高校生役は衝撃的でした。振り返ってどんな経験でしたか?

「とてもやりがいのある作品でした。社会的な問題を描く作品で、その要素の一つを演じるという責任感もありましたし、作品の核の一つになる、自分が“相楽”としてそこにいなかったらこの作品は成り立たないぞ、という意識を持って臨みました。

(演じていて)実際、深くて魅力的な役でしたね。相楽は自分の中で、クラスの中でどういたいのかを考えて考えて、リーダーとして存在していたので、僕も考えながら芝居をするのが新鮮でした。

でもそんな相楽がレスポンスを受けるようになると、守りに入っている彼が“やられる”のが僕にもダイレクトに伝わってきて、メンタル的にしんどかったです。ずっと心の奥で寂しさを抱えて生きてきたのが、クラスでも目に見えて仲間が減って、絡みも無くなっていって…。教室にいるのがつらかったなぁ。あの事件が起こって以降は特に、表に出さないほうがいいのに、寂しさがつい出そうになって、必死にカバーしていました。

結果的にはそれが作用して、“見せたくないものを見せないようにしている相楽”像が出来あがったのかなと思うので、あの時共演していた皆には、すごく感謝しています」

 

――そんな加藤さんにとって、舞台とはどのような場でしょうか?

「皆でその空間を共にする、ということが舞台の魅力だと思っています。その場でしか味わえないし、空間自体が芸術なので、作品の世界に没入できると思います。今回で言えばコナンと同じ世界で呼吸することで、何を感じるか。そして劇場から出た時に何を思うか。考えたり感じたりする段階がいくつもあるのが、素敵だなと思っています。

今後やってみたい作品ですか? 何度も上演されている作品であれば、僕が舞台にはまるきっかけになったのが『レ・ミゼラブル』なので、いつか戻りたい気持ちはありますが、特定の演目でなければ、侍役をやりたいです!

以前、徳川の三代目の幼少期を演じたり(明治座『春日局』)、『るろうに剣心』で殺陣に挑戦したこともありますが、どちらも“侍”ではなかったんですよね。安土桃山時代くらいの侍だったり、日本の話でなくても中国でもいいし…そういった役をちょっとやってみたいです」

 

――どんな表現者を目指していますか?

「いかに観ている人の中に入れるか、ということがすごく大事だなと思っています。“入っていける表現者”になりたいですね。どんな性格のキャラクターであっても、そう見えたいです。

“幅のある役者”という言葉を最近よく使うのですが、そういう意味では、演劇や映像といったジャンルの間には、隔たりがあるようでないので、隔たりを極限まで無い状態にできる役者というか、どんな役でもその世界で生きられる、そしてあわよくば、お客様の中にどんな形でもいいから、“何か”を残せる役者になりたいです」

 

(取材・文・撮影=松島まり乃)

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*公演情報 舞台『未来少年コナン』5月28日~6月16日=東京芸術劇場 プレイハウス、6月28~30日=梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ 公式HP

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