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キャスト決定!『春のめざめ』オーディション・レポート&合格者コメント

 

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『春のめざめ』オーディションにて。(C) Marino Matsushima 禁無断転載

19世紀末のドイツを舞台に、10代の少年少女たちの思春期をロック・サウンドに乗せて描く『春のめざめ』。トニー賞で作品賞など8部門を獲得し、日本では2009年に劇団四季が初演、若手キャストの清新な演技が話題となったミュージカルが今夏、奥山寛さんの演出で上演されます。

本稿では昨年行われた本作オーディションの模様を、奥山さんや合格者のコメントを交えてレポート。またこの度決定したキャストもご紹介します!

ひたむきな思いが交錯する
最終審査レポート
 

自然光が射し込む審査会場。開放感のある空間にもかかわらず、足を踏み入れるなり、目に見えない緊張感が体を包み込みます。

最終審査とあって、あと少しで役が掴めるかもしれないという期待感の中、数十名の男女が審査員の前で整列。まるで『コーラスライン』のワンシーンのようですが、この作品では学生たちの見た目のバランスを取るため、身長なども選考のポイントであるようです。

女性役の実技は既に終わっており、女性たちは間もなく退場。和む間もなく、演出・振付の奥山寛さんの声がけで男性たちの審査がスタートします。まずはダンスから。

奥山さんが踊ってみせるのは本作のナンバーの一部、時間にすると1分ほどでしょうか。動きが大きく、コンテンポラリー的な要素のある、変化の多い振付です。「マスクつけながらだから無理しないで」と声をかける奥山さん。受験者たちも真剣な眼差しでその動きを追い、少しづつ体に入れています。何度も丁寧に繰り返した後、数人ずつに分かれて審査。完璧に振りをマスターしている方もいれば、途中で振りを失念してしまう方も。そんな中でも臨機応変に動いたり、できなくても終わったときに堂々とされている方は頼もしく映ります。(後ほど奥山さんに尋ねてみたところ、振りを忘れても懸命に周りに追いつこうとしていた方の意気は買ったとのことでした)

ダンス課題を踊ってみせる演出・振付の奥山寛さん。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

続いては歌唱。やはり本作のナンバーが課題曲です。ワンコーラス全部を同じトーンで歌う方もいましたが、歌詞の中で特定の言葉を立てたり、感情の折れを意識しているらしい方も。それが適切かどうかは別にしても、課題を渡されてからこの日までの間、研究し、工夫してこられたことがうかがえます。

ダンス審査より。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

二人組での台詞審査。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

台詞審査は主人公二人の会話がメイン。メルヒオールは″成績優秀”、モーリッツは″精神薄弱”といった説明がト書きにあり、受験者たちはこれを手掛かりに割り振られた役を演じます。今回の参加者はほとんどが20代前半と役の設定に近いため、ほとんどの組が無理なく学生たちの雰囲気を醸成。またあるキャラクターのモノローグ審査では、敢えて役名やト書きによる背景説明がなく、絶叫気味に喋る方もいれば、冷ややかに発する方も。様々な解釈の可能性が浮き彫りになりますが、ダンス、歌、台詞に共通して、舞台経験が多い方ほど表現に豊かさと工夫があり、さすがは″一日の長”と唸らされます。そこに新人俳優がどう太刀打ちするか。資料を拝見したところ、今回の最終審査ではプロの舞台経験ゼロの方も散見され、ここに辿り着いたことが既に快挙であることがうかがえます。最初は誰しも新人。彼らが無事″はじめの一歩”を踏み出し、ゆくゆくはミュージカル界を背負う存在に成長してゆくことを祈らずにはいられません。

さて、いくつか追加質問がなされた後、奥山さんの「終わりです」の一声で審査は終了。およそ2時間、張り詰めていた空気がふっと緩み、受験者たちは荷物を抱えて退出します。審査員たちの審議が始まるまでのタイミングで、奥山さんに手応えや審査のポイントを伺いました。

『春のめざめ』演出・振付 奥山寛さん。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

奥山寛「今回のオーディションは、まだ世に出ていない、ミュージカルスターの卵を発掘したい、という僕と主催のレプロエンタテインメントさんの意向で、一般公募という形でも募集させていただき、500人ほどの方々から応募いただきました。事務所に所属していないフリーの方、学生さんの応募も多かったです。

書類審査では歌唱の動画審査があり、次に2次審査で実技。そして今回が最終審査です。オーディションと並行してワークショップ・オーディションも行っており、4日間でワークショップを行ったのですが、今日の最終審査にはそちらの合格者も参加しています。

選考基準はまず″役に合うか”。この作品はいわゆるアンサンブルが無く、全員に役名があり、細かくキャラクターが設定されています。誰がどの役にはまるか、考えながら見させていただきました。

ダンス審査は2次までは無く、今日初めて行いました。本作は歌と芝居が中心なので、凄いダンサーである必要は無いのですが、僕の演出は細かいので、そこにどうくらいついてくれそうか、ダンスを通して見たのです。

『春のめざめ』は時代を超えた子供たちの葛藤を、キャッチ―なロックに乗せて描く作品です。今回、若い応募者たちから僕らもたくさんエネルギーをいただき、さらに演出の構想がわいてきました。ぜひご期待いただけたらと思います」

奥山さん、音楽監督の濱田竜司さんら、審査員たちも真剣なまなざしで参加者のパフォーマンスを見守ります。(C) Marino Matsushima

それから数か月後、遂にキャストが発表されました。注目の配役は以下の通りです。

メルヒオール:石川新太/平松來馬
モーリッツ:瀧澤翼/東間一貴
ヘンスヒェン:成田寛巳/黒野優
エルンスト:熊野義貴/谷怜由
ゲオルク:木暮真一郎/町田慎之介
オットー:聖司朗/岡直樹
ヴェントラ:栗原沙也加/横山結衣
イルゼ:二宮芽生/小嶋紗里
マルタ:的場美佳/古沢朋恵
アンナ:小多桜子/久信田敦子
テア:中原櫻乃/大川由愛 
大人の男性:森田浩平/松井工 
大人の女性:尹嬉淑/魏涼子

この中から、ワークショップで合格した小多桜子さん、オーディションで合格し、大作含め様々な舞台に出演歴のある町田慎之介さんにコメントをお寄せいただきました。

小多桜子「『春のめざめ』のオーディションを知って、すぐに″出たい!”と思いました。しかし、私は元々緊張しいで、一瞬で全てを出しきらなくてはいけないオーディションへの苦手意識がありました。私のこと、私の芝居をじっくり見て判断してほしいと強く思い、ワークショップオーディションに参加しましたが、それは私にとってとても大切で、素晴らしい経験になりました。

初めのうちは自分一人で考えた表現を発表するだけだったのが、日を重ね、同世代の役者と芝居をぶつけ合って役を深めていく中で、思いもよらない感情が生まれたり、表現が生まれたり…本当に楽しい日々で、コロナ禍で一人で考え込みがちだった自分にとって″人と掛け合う”芝居の楽しさに触れられた事が何よりも嬉しかったです。演出の奥山さん、音楽監督の濱田さん、歌唱指導の安部さんもずっと暖かく見守ってくださり、役者としての私をきちんと見てくださった事にとても感謝しています。

今回は私と同世代の方々が多いので、沢山刺激を受けられるのではないかと稽古が始まる前からワクワクしています。私も、アンナとして作品の中で精一杯生きられたらと思っています」

町田慎之介「13年前に劇団四季版を観劇し、中学生だった自分は音楽と衝撃的で過激な内容と演出に魅了されました。ちなみに母と2人で観に行ったので観終わった後少し気まずかったのを覚えています。

そんな本作が上演されると聞き、まず、ワークショップオーディションを受けました。とあるシーンを一から作り上げたのですが、ミュージカル初挑戦の方もいた中で、一応何本か出演してるので手本になるよう挑みましたが、逆に(皆の)個性豊かな表現力に勉強になりました。

ワークショップでは残念ながら合格できませんでしたが、ゲオルク役でオーディションを受けてくださいとのご連絡をいただき、まだまだチャンスがあるなら是非!と思い再挑戦しました。

オーディションで印象的だったことが、2つあります。一つは2次審査の会場が、本公演を行う浅草九劇だったこと。普段は主催の劇団の稽古場や、貸しスタジオでの審査ですが、本番の会場での審査は新鮮でした。審査の緊張感もありましたが、本番でお客さんに見られている感覚になり印象的でした。

もう一つは、最終審査での台詞の審査です。普段は審査員に向かって台詞を喋り演じるのですが、今回のオーディションでは、一緒にオーディションを受けてる側の人に向かって台詞を言う形でした。自分の番になったときに、家で台詞を練習してこれで行こうってなったのとは違う感情が出てきて、本当にその場で自分の言葉で話してる感覚になれたのが印象に残ってます。

課題曲には苦戦しました。かなり響いてしまう声質なので、曲によっては、曲の良さを殺してしまい、歌詞の内容が伝わらなくなってしまう。何度も自分の歌を録音して、いろいろ試して最終的にたどり着いたのが、まず、喋るように意識すること。そうすることで自分なりにしっくりしたので今回は音楽にのりながら、喋るように歌うということを意識しました。

いよいよ動き出してきたので、稽古が楽しみです。
より多くの方にこの作品を届けられるよう励みます!」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*『春のめざめ』2022年7月=浅草九劇 詳細は後日発表