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『songs for a new world』風間由次郎インタビュー:J・ロバート・ブラウンの珠玉のソング・サイクルへの挑戦

風間由次郎 神奈川県出身。近年の舞台に、舞台『鬼滅の刃 其ノ伍 襲撃 刀鍛冶の里』、『ディズニー くまのプーさん』reading musical BEASTARS』、『SMOKE』、『チェーザレ 破壊の創造者』等がある。

『パレード』『The Last 5 Years』で知られるジェイソン・ロバート・ブラウンのデビュー作で、それぞれにストーリーを持つ楽曲を一つのテーマでまとめたソング・サイクル、『songs for a new world』がこの夏、上演。渋谷真紀子さんの演出のもと、“変化の瞬間”を描く16曲が、実力派キャストによって歌われます。

この公演にオーディションを経て参加が決まった“New Voice Cast”の一人が、風間由次郎さん。『キンキーブーツ』やreading musical『Beastars』等で活躍する彼が今回、本作に挑戦したいと思ったきっかけとは? 彼が歌う、魅力的だが“半端ない難度”の楽曲について、表現者としてのビジョンなど、じっくり語っていただきました。

 

『songs for a new world』


少年の夢、背伸び感、危なっかしさを
お洒落に表現した楽曲を担当します

 

――今回オーディションに挑もうと思われたきっかけをお教えください。

「僕は演劇を作っている人に会いに行きたくなることがありまして、それが俳優を続ける一つのモチベーションにもなっています。オーディションはもちろん緊張しますが、今回、演出の渋谷真紀子さんにお会いしてみたいという思いがありました。

そして、劇場が浅草九劇というのも魅力でした。『SMOKE』に出演以来、またあそこで演劇をやりたいなと思っていたんです。大きな劇場とは違うあの空間で、お客様に(芝居を)届けたいと思い、タイミングも重なって、(オーディションを)受けることを決めました」

 

――浅草九劇は100席前後のコンパクトな劇場ですので、本当にすぐ目の前に観客がいる状態かと思いますが、演じる側としては“逃げられない怖さ”のようなものはありませんか?

「それが逆に、虜になったポイントだと思います。『SMOKE』の時には円形にお客様に囲まれている状態で、例えばどれだけ鼻が痒くても、どこを向いてもそこにはお客さんの目があります。でも逆に、そこで僕が鼻を掻いても、お客さんは何か意味を見つけてくれます。自分の全ての動きをお客さんがキャッチしてくれるという感覚は、大きな劇場では得られないもので、怖いけれどとても魅力的です」

 

――オーディションはどのようなものでしたか?

「課題曲の中から好きなものを選んで歌うというもので、英語の歌詞も日本語の歌詞もありました。僕は“She Cries”という、女の涙に負けてしまうダメな男のナンバーを選び、綺麗に歌うべきか、どう歌おうかと迷っていたとき、渋谷さんから“どんな解釈でどんな人物をそこに生み出してくれるのかを見てみたい”というコメントをいただき、自分なりのストーリーを作って歌うことができました」

 

――ソング・サイクルへの挑戦は今回が初ですか?

「ここまで1曲1曲が独立した形式は初めてですね。ある曲では男と女の話だったのが次は家族の話になったりするので、切り替えていく難しさ、楽しさがありますが、それは役者だけの力ではどうしても無理で、照明やセットが大きな役割を果たしていくと思います」

 

『songs for a new world』稽古より。

 

――本番では“She Cries”ではなく、“The Steam Train”をメインで歌われるそうですね。アフリカ系アメリカ人の若者がバスケットボール・スターになる野心を語る曲で、『コーラスライン』のリチーのナンバーを彷彿とさせます。

「ダンス審査で即興で踊った時に、この曲のノリやグルーヴ感に合うと思っていただけたのかもしれませんが、めちゃくちゃ難しいナンバーです(笑)。今回、演奏がピアノ一本で、(バンドの)シャカシャカ刻む音がないので、それを歌詞で刻んでみようとトライしています。それによってビートボックスのように、自分の言葉がリズムになってきているのですが、コーラスとの兼ね合いが難しいし、台詞もけっこう挟まれているので遅れないようにするのが大変だし、自分でもいつ息継ぎしているのかわかりません(笑)」

 

――ジャズっぽい感じもするナンバーですね。

「ブルーノートというか、ちょっとジャジーな入り方をしつつ、“俺はこれからすごい奴になるぜ”と、少年の夢や希望、危なっかしさ、背伸び感をおしゃれに表現した曲です。
わくわく感もありますが、台詞の部分ではつらい環境を乗り越えていることもわかって、ポジティブにも聞こえるし、こいつ危ない方に行っちゃうんじゃないかという感じもあり、お客さんにどう伝わるか、勝負だなと思っています」

 

――もう1曲、“The River Won’t Flow”というナンバーもメインで歌われます。歌詞的には、運が巡ってこないことをシニカルに歌っているようでもあり、いや希望はあると歌っているようにも聞こえますが、どのように解釈されていますか?

「男二人が酒を飲みながら、一攫千金を夢見ているところから始まる、どちらかというと希望の方が大きい曲です。どこかお気楽で、どちらが裏か表かなんてわからないから、流れに乗ってみようぜという感じもあります」

 

――ジェイソン・ロバート・ブラウンの音楽についてどう感じますか? 

「僕は父がクラリネットとコンダクターをやっていて、母も声楽とピアノの先生だったので、クラシックを聴いて育ち、その後バンドをやったりしていました。そんな僕からすると、彼の音楽はクラシックでありつつ、さきほどの“The Steam Train”みたいにブルーノート風のナンバーもあり、壮大なグランドミュージカルのような曲もあります。フリースタイルに近いものがあって、今、聴いていても新しく聞こえるなと感じます」 

 

――稽古は今、どんな段階でしょうか?

「昨日は衣裳をつけて通し稽古をしました。これまで、お客さんを巻き込むことをテーマに、やれることを盛りだくさんにやってきて、もしかしたらやりすぎている部分もあるかもしれないので、これからは渋谷さんから一つ一つコメントをいただきながら、“このルートで作り込んでいけばいい”というものを見つけてブラッシュアップしていく段階かなと思っています」

 

――どんな舞台に仕上がったらいいなと思われますか。

「お客様が“隣の人は泣いてるけど私は大爆笑してる”といった具合に、全員が違うものを受け取っていただいていいと思います。

あるモーメントにおける呼吸一つ、目くばせ一つに、それぞれに何かを感じていただけたらいいなと思っています」

 

『songs for a new world』稽古より。

 

――ご自身についても少し伺いたいのですが、資料によれば、風間さんは2001年にも舞台に出演されているので、子供の頃からお芝居をなさっていたのですね。 

「初舞台は小学校4年生です。母が、ある市民ミュージカルで声楽の指導をしていて、試しにと僕を(稽古に)連れていってくれたのですが、そこがえらく居心地がよかったんです。それまでいつもお兄ちゃんの真似をしてサッカーや習字をやっていましたが、初めて兄のやっていないことでやりたいことが見つかりました。

中学の時に映画のオーディションがきっかけで、前事務所に所属したのですが、ダンスも歌もやりたくてライブをやろうとしたりもして、“お前は何をやりたいんだ”と言われ(笑)、やっぱりちゃんと役者をやろうと思ったのが大学生の頃。その事務所の若手たちを集めて作った劇団が旗揚げするというので、そこに加わりました。ミュージカルのオーディションも受けてはいましたが全然駄目で、もっと頑張らなきゃ…と積み重ねて実ったのが、28歳の時。『キンキーブーツ』のエンジェルです」

 

――相当準備をしてオーディションに臨んだのですか?

「(ドラァグクイーンがいる)お店にも行きましたし、とにかく誰よりも綺麗な姿を見せようと思いました。ビジュアルからこだわり、キャミソールを捲り上げ、ホットパンツを履いていきましたね。やる気というか気迫です(笑)。

そこからいろいろとミュージカルをやれるようになり、劇団を辞め、ミュージカルを一生懸命やっていこうと心に決めました」

 

――昨年、きらりと光る演技を見せたのがreading musical『BEASTARS』での、ストーリーテラーを兼ねたジャック役でした。

「リーディングミュージカルは初めての経験でした。演出の元吉庸泰さんが、落語家や講談師のようなセンスでとおっしゃっていたので、台本を読み聞かせるだけではなく、ページをめくることすら芝居だと意識しました。ラップをやる時には、文字を指で実際に追いながら歌い、お客さんがどう感じるか委ねようとしましたね。

リーディングミュージカルをどう演じたらいいかという悩みが、キャラクターたちの“この世界でどう生きていくか”という悩みにも重なることに意味を感じた公演でした。秋に再演があるのですが、あれから1年経った自分として、また新たに向き合っていけたらと思っています」

 

――風間さんは日頃、どんな作品との出会いを求めていらっしゃいますか?

「“今の自分だからできること”を追求できる作品と出会いたいなという思いがあります。そのためには、今回のように自分からオーディションを受け、人に会うことって大事だと思っているので、今回の『songs for a new world』は僕にとってすごく嬉しい出会いでした。

僕たちはコロナ禍を経験したじゃないですか。 
あの頃、演劇を作ることってもう無理なんじゃないかな、と思ってしまった瞬間が僕にはあったんですよ。そんなふうにちょっと心が折れそうなとき、大変な状況下で演劇に携わって作っている人を見つけたときに、その人に会いに行くことがモチベーションになっていきました。彼らからエネルギーを吸収して、僕もいつか作品を作ってみたいなと思ったりします。今の自分だからできる表現が創造に繋がっていったらいいなと思っています」

 

――どんな表現者を目指していらっしゃいますか。

「あまり風間由次郎が前に出ず、演じている役が昇華されて行くような表現者になりたいです。自分が目立ってしまうのは、何か恥ずかしいんですよ。どれだけ自分を消せるか、みたいなことを考えます。

役を作り上げていく。その過程で、ふと由次郎が滲み出る。そんなふうに、さりげなく煮汁が出るようになっていけたらと思っています」

 

(取材・文=松島まり乃)
*公演情報 『songs for a new world』7月22~24日=浅草九劇 (日替わりゲスト、一部ダブルキャスト有)公式HP

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