
アメリカの音楽史に燦然と輝くポップス・グループ「フォー・シーズンズ」の栄光と影を描き、2006年にトニー賞ミュージカル作品賞を受賞、2016年以来、日本でも上演の度に熱狂の渦を巻き起こしている『ジャージー・ボーイズ』が、3年ぶりに上演されます。
4チーム体制で上演される今回、新たにTeam YELLOWのフランキー・ヴァリ役で出演するのが、小林唯さん。劇団四季を23年に退団し、昨年は『この世界の片隅に』、今年にかけては『レ・ミゼラブル』で清新な演技を見せた小林さんですが、今回は自身、思いもよらなかったというフランキー・ヴァリ役に挑戦し、みごとこの役を獲得。新境地となるであろうフランキー役への思い、俳優を目指したきっかけや表現者としての信念など、さまざまにお話いただきました。
【あらすじ】ニュージャージーの低所得層出身のトミーとニックは、音楽での成功を目指し、自身のグループに「天使の歌声」を持つフランキーを迎え入れる。作曲の才能あふれるボブも加入し、プロデューサーに認められたことで次第に運が上向き、ついに「Sherry」が大ヒット。“フォー・シーズンズ”の栄光の日々が始まる。しかしトミーが多額の借金を抱えていることが判明し、4人の活動はピンチを迎えるが…。

芝居としてのみならず、コンサート的にも楽しめるのが
『ジャージー・ボーイズ』の大きな魅力だと思います
――さきほど色紙に“Passion beats effort!!”と書いて下さいましたが、座右の銘でしょうか。選ばれたポイントなどありましたら教えていただけますか?
「孔子の論語で僕が好きなフレーズに、”才能のある者は努力する者に勝てず、努力する者は楽しむ者に勝てない”というものがあります。“Passion beats effort!!”は意訳したものですが、この仕事をする上で常に大切にしていて、自分のグッズにも使っています」
――才能や努力を前提とした上で、最終的にはご自身がどれだけ楽しめるか。それがパフォーマンスにも反映されるということですね。
「それをまさに体現されているのが、アッキーさん(中川晃教さん)だと思います。2016年の『ジャージー・ボーイズ』日本初演からフランキー・ヴァリを演じてこられていますが、歌っている時の体の動きにしても表情にしても、心から楽しんでいらっしゃるのが伝わってきて、本当に素晴らしいですよね。まさに“スター”だと思いますので、今回、稽古でご一緒するなかで、僕もその遺伝子のようなものを受け継いでいけたらなと思っています」

――フランキー・ヴァリ役は以前から挑戦したいと思っていらっしゃったのですか?
「まさか。『ジャージー・ボーイズ』という作品については、僕もずっとミュージカルをやってきたので、いつかご縁があればとは思っていましたが、どの役を目指そうかという時に、フランキーは一旦、最初に除外する役です(笑)。前回公演で(花村)想太さんが出られるまでは、フランキーのあの声を出せる人は(いらっしゃらない)ということで、ずっとアッキーさんが一人で演じて、伝説というか、神格化されたようなところがあったと思います。自分としてはボブ・ゴーディオ役で挑戦できたらと思っていたので、“ちょっとフランキーのあの曲を歌ってみてほしい”と言っていただいた時には、びっくりしました。
フランキーのような(ファルセットの)声を出したことがなかったので、想像もつかなかったのですが、やってみると、何か新しい道が開けたというか、自分でも楽しく歌えた気がして、“可能性があるのかな?”みたいなところから練習を重ねました。毎日、カラオケに通って5時間くらい、声が出なくなるまで歌いましたし、個人レッスンにも行きました。
フランキーの歌い方って、ミュージカルでよくある、ロングトーンで張り上げるようなものとは違って、もっと繊細なんですよね。ポップスの神様的な存在でもあるので、ある程度の再現性も大事だと思い、フォー・シーズンズに限らず、あの時代の音楽を聴き込むようにしました。
そのニュアンスを自分の中に落とし込んで歌ってみたところ、レコーディングしてボブ・ゴーディオさん本人に聴いていただけることになりました。確かに“このチャンスを何が何でも逃す訳にはいかない”とは思って取り組んではいたけれど、実際にボブさんから承認がいただけたと聞いた時には、信じられない思いでした。劇団を退団してまだ2年の自分を抜擢していただけて、本当に身が引き締まり、たくさんの方々の本作に対する思いを受け止めながら、自分なりのフランキーの世界を作り上げていけたら、と思っています」
――改めて、本作の魅力はどんなところにあると思われますか?
「まずは、音楽だと思います。登場するのがどれも、誰もが知っている唯一無二の楽曲ばかり。それを再現していけるのが、大きな魅力ですね。オールディーズで綴るミュージカルってなかなかないと思いますが、芝居の部分を楽しめるいっぽうで、コンサート的な感覚も味わえるのが、この作品ならではだと思います」
――4人編成のコーラスというのは、歌う側からするとどんな感覚でしょうか?
「4人で音を合わせていくというのは、僕にとって一つの挑戦です。これまで、出演者全員でのコーラスというのは経験していますが、4人でとなると一人一人の役割が大きくなると思いますし、さらにフランキーはリードボーカルとして引っ張って行くわけで。どこまでやれるか、楽しみでもあります」

――過去に出演された方によると、例えば「ド」という音の中にも微妙に高さの違う「ド」があって、皆でそこにピンポイントで合わせる大変さがあるようですね。
「混ざりあう声の音質もありますので、ハーモニーというのはとても繊細なものだと思います。でも、ただ音が合っていればいいというものでもなくて、やっぱりお互いの意志というのが大事で、同じ音を出すにも、目を合わせて歌うと混ざりやすくなったりするんですよね。今回はチームに、劇団で一緒だった飯田洋輔さん(ニック・マッシ役)がいらっしゃるのですが、彼は昔、『ハモネプ』(アカペラ・コーラス日本一を競うTV番組)にも出ていたことがあるハーモニー・おたくなので、すごく頼もしいです」
――フランキーのファルセットですが、以前、『ジーザス・クライスト=スーパースター』でジーザス役をされていた方に、第一声の高音は毎回緊張するとうかがったことがあります。フランキーの場合、高音ばかりですが(笑)、発する度に緊張はあるでしょうか。
「あると思いますね。緊張もしますし、あの声を公演最後まで出し続ける体力というか、喉の使い方も大きなテーマになってくると思います。台詞がめちゃくちゃ多いし、出番も多い上に、歌も何曲もありますので、相当喉を使うと思います。そんな中で一連の公演を乗り越えていくための体力づくり、テクニックは必要だろうなと思っています」
――フランキーの人柄がよくわかるシーンに、後半、リーダー格のトミーに多額の借金があることがわかった時、それを“フォー・シーズンズとして背負おう”と言うくだりがあります。
「僕もそこははじめ、想像できませんでした。普通は言えないですよね(笑)。なぜそんな決断ができたのか。これから役を深めていく中で、フランキーの精神性に自分をリンクさせていって、あのかっこいい台詞を言いたいですね」

――プロフィールについてもうかがえればと思いますが、小林さんは高校では演劇科で学ばれました。当時、既に俳優を目指していらっしゃったのですか?
「いえ、興味本位で演劇科に行っただけで、演劇をやりたいという気持ちは特にありませんでした。でも卒業直前に『サウンド・オブ・ミュージック』を大阪で観て、1幕ラストの修道院長の“すべての山にのぼれ”を聴いて、衝撃を受けまして。1幕が終わった時点で立てなくなったのは、後にも先にも、あの時だけです。そこから舞台を目指すようになりました」
――もともと歌はお好きだったのですか?
「まったくです(笑)。友達にカラオケに誘われても絶対断っていました。自分が歌えるという認識は全くなかったけれど、高校の音楽の授業で、非常勤の先生から指導を受け、“ある程度歌えるな”と気づかされました。そこから徐々に声が出るようになって、気が付いたら劇団(四季)の研究所で、朝7時から夜まで踊ったり歌ったりしていました」
――研究所のカリキュラムは、高校の演劇科のそれとは異なるものでしたか?
「全然違いました。ダンスのレッスンがメインで、劇団に入ってからは踊りをすごく頑張った印象があります」

――入団後は比較的早く開花され、『パリのアメリカ人』『ロボット・イン・ザ・ガーデン』等で次々と重要な役を演じられましたが、劇団時代で得た一番大きなものは何でしたか?
「舞台に対する気持ちであったり、思いですね。“ここまでやらないとお客さんの前には出てはいけないんだぞ”という精神を刻み付けられたのは大きいかな。どこまでやっても“まだまだ”だという探求心というか、向上心というか、舞台に立つことをなめたらいけないぞ、ということを、(退団して自由に動ける)今、改めて自分自身で抱いていかないといけないなと思います」
――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「単なるパフォーマーというか、歌って踊るだけの人にはなりたくなくて、“あくまで役者でいたい”というのがベースにあります。そういう意味で、ミュージカルがメインだとしても、ストレート・プレイや映像の仕事だとか、ミュージカル以外の作品にも出て、お芝居をしっかり磨いていきたいです」
――では退団後第一作にしてソロ・ナンバーの無かった『この世界の片隅に』の水原哲役は、理想的だったのでは?
「そうなんです。それまで劇団で歌が前面に出てくる作品にたくさん出させていただいていたので、『この世界の片隅で』で、いったん歌を封印して舞台に立つという経験は、すごく勉強になりました。
その分、今回は『ジャージー・ボーイズ』でたくさん歌わせていただきますので(笑)、また新たな境地に行ければと思っています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*公演情報『ジャージー・ボーイズ』8月10日~9月30日=シアタークリエ(今回はTeam BLACK、YELLOW、GREEN、New Generation Teamの4チーム体制のキャストで、そのうち小林唯さんはTeam YELLOWに出演。)公式HP
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