新たなクリエイターとの出会いの場を生み出すべく、ホリプロが昨年、立ち上げた「ミュージカル・クリエイター・プロジェクト」。「音楽部門」「脚本部門」の2部門のうち、Musical Theater Japanでは「脚本部門」から生まれた新作『Party』に注目し、数回に分けて特集しています。
3月31日からパイロット版が公開されている本作は、2次選考の課題としてジェイソン・ハウランドさん(『生きる』)の楽曲を使って書き下ろされた中から選ばれた、横山清崇さんの作品。NYの投資銀行に勤務する日本人女性ユリが、あるパーティーに招かれ、様々なゲストに出会うが…という物語に主演しているのが、『RENT』モーリーン役での好演が記憶に新しい鈴木瑛美子さんです。
ミュージカルは今回が3本目という鈴木さんですが、リアルな中にも不思議な風合いのある本作にどんな魅力を感じたでしょうか? 歌声に込めた“祈り”を含め、語っていただきました。
娘として、アーティスト
として…。共感できる要素
ばかりの作品です
――今回のプロジェクトにはどんな経緯で参加が決まったのですか?
「はじめにオファーを頂いたときには内容は分らなかったのですが、正直に言いますと私、今回お声がけいただいたプロデューサーさんが大好きなんです。
彼女はひとの内面を見て下さるし、ひとを大事にする方。私が何かに出演する度、いいところを褒めて下さって、とても優しいんです」
――人の良さを伸ばす方なのですね。
「そう思います。なので、お声がけいただいて迷わず参加を決めました」
――そのあとで台本に触れたのですね。
「はい、“今”という時代にすごく必要な作品だと感じましたし、自分の経験や考え方ともリンクすることが多く、何度読んでも涙が止まらなかったです。その後楽譜が届いて、台本と照らし合わせて読みながらも、入り込んでしまって。共感しかなかったです(笑)」
――それはどんな部分についてですか?
「本作はパーティーが舞台で、そこではボス・ジャックとマダム・ランコム、オーランドとブリトニー、そしてMr.D.D.という3組のゲストが歌うのですが、その内容が自分や周りの人たちに当てはまってしまって。
ボス・ジャックとマダム・ランコムのナンバーは(反抗的な)娘との関係についての歌で、私自身は親とは仲がいいし反抗期もなかったけれど、時には違う意見も持つし、いつかは親のもとを去ると思うんですね。親のことが大好きだからこそ(親心の歌に)共感できてしまって、聴くたびに泣いてしまいます。
オーランドとブリトニーはセレブの心情を歌っているのですが、私もアーティストとして活動していて、彼らのように“ずっとそのままでいて”という言葉をかけられることがあります。でも、これから変わっていったとしても、それが私の表現なので受け入れてほしい、と思うし、パパラッチに自分のプライベートが意図せず報道されることへの憤りは容易に想像がつきます。ユリ役としては、彼らの歌を聴いている時点ではそこまで感情移入してはいけないのだけど、聴きながら“それは私だ”と入り込んでしまうことが多くて。全ての歌を歌いたくなるほどです(笑)」
――ユリとしては彼らの心情を受け止めながら、最後に浄化されるようなイメージでしょうか?
「そうですね。彼らは実際はイマジナリー・フレンドであって、ユリ自身が同じことを感じているからこそ、それぞれの人物像が出来上がっています。そうなると、どの曲もユリ自身のナンバーですね。そして最後に“(ありのままの)自分のままで大丈夫”と受け入れる。私自身、ちょうど同じことを感じていたので、まさに“浄化”を感じました」
――綺羅星のようなキャストに囲まれながらの収録はいかがでしたか?
「私はミュージカルがこの作品で3作目なんです。まだ100%の自信はないし、これまで舞台を拝見してきた方々に囲まれたときはめちゃくちゃ緊張したし、“こういう場にいられてる”ことが嬉しく、自分を奮い立たせることができました」
――ひそかに参考にされていた方はいらっしゃいますか?
「(ロバート役の)伊礼彼方さんは、想像力が豊かで、七変化ぶりに驚きました。あと、石川禅さんは言葉の一つ一つをくみ取って、背景の細かいところまで頭の中で作り上げていらっしゃる。さらにそれを皆と一致させようとされていて、かっこいいなぁと思いました。お二人を見ていて、こうした“七変化”だったり“台本の読み込み”は今後、どんな作品であっても必要になってくるだろうな、とすごく勉強になりました」
――ジェイソン・ハウランドさんの楽曲はいかがでしたか?
「めちゃくちゃかっこよくて、どの曲も好きです。特に、ゲスト3組が歌った後でユリが歌うM10はアップテンポのカントリー調で、とても好きですね。
難しかったのは、恋心を歌うM11です。訳詞が最終的でないというか、つけられて間もない分、歌いやすいように歌ってみてくださいと言っていただいたのですが、どう歌ったら日本語を違和感なく音に合わせられるか、迷いました」
――鈴木さんにとってはこれが初のオリジナル・ミュージカルということで、0から1を生み出す作業はいかがでしたか?
「私自身はミュージカルの0から1を生み出す作業に関わったことがなかったので、間近で見ることができて新鮮でした。期間も短くて、衣裳もなく、台詞もいつもなら何度もダメ出しをいただいて練っていくので、それを経ないで不安もありつつ本番を迎えましたが、まだ未完成のようだけど完成…というのも新鮮でしたね。なかなか出来ない経験なので、きっとこれからの糧になると思いますし、作品作りの途中経過を知ったことで、今後他の作品に出演する時も、完成するまでの苦労を想像することができるようになるんじゃないかと思います」
――ご自身としても、手ごたえを感じていますか?
「間違えたところもあって、悔しいところもありますが、自分をレベルアップできた経験だと思います」
――今後、この作品はどう成長してほしいと思われますか?
「絶対、舞台化してほしいです。今の世界はデジタル化していたり、SNSが支配的ですが、私自身、訴えたいことはいっぱいあっても、こう言ったらこういうふうにとられるから言わないでおこうかなとか、葛藤があります。そんな中で、こういう作品で表現することによって自分の思いも一緒にぶつけられるし、作品によって自分も観た人も救われるということもあるんじゃないかと思います。舞台化によってアーティストたちの思いも浄化されるといいなと思いますし、観ている方も家族に対して感謝の気持ちを思い出したり、セレブの心情に思いを馳せて(SNSの)誹謗中傷について考えていただけたりとか、社会的にも何かが変わるきっかけになるといいなと思います」
――特にどんな方に観てほしいですか?
「どなたでも、どこか当てはまる作品だと思うので、老若男女、皆さんに御覧いただきたいです。親世代も子供世代も感動できるし、芸能人の方々も共感できる作品です。パーティーの3組目のゲストはMr.D.D.というユーチューバーなんですが、彼は誰かに「いいね」してほしいという承認欲求でSNSに頼る心理を歌っています。携帯、スマホを使っている全ての方に共感していただけると思うので、当てはまらない方といえば、赤ちゃんか…、あとは、動物でしょうか(笑)」
(取材・文=松島まり乃)
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