数々のオリジナル・ミュージカルを上演してきた音楽座ミュージカルが、サン=テグジュペリの『星の王子さま』を舞台化し1993年に初演、以来再演を重ねてきた『リトルプリンス』が、久々に上演されます。
東京・大阪・愛知・広島での劇場公演に加え、文化庁主催の各地の小中学校での巡回公演も予定。今年は劇団にとって“リトルプリンス・イヤー”となっていますが、その中で注目を集めているのが、大役に抜擢された二人です。
公演には★組と*組の2組が交互に出演しますが、そのうち*組で“リトルプリンス”こと王子を演じるのが山西菜音(やまにし・なお)さん、★組でキツネを演じるのは泉陸(いずみ・りく)さん。ともに今年入団5年目で、大役は本作が初めてだそう。
カンパニーの代表作の一つである本作に、二人はどんな思いで取り組んでいるのか。音楽座を目指した理由、入団してみて感じるカンパニーの良さ、そして今後のビジョンといった自身の話題も含め、様々に語っていただきました。
【あらすじ】夜間飛行の途中で、砂漠に不時着した飛行士。彼の前に、不思議な少年(星の王子)が現れる。世話をしていた美しい“花”と喧嘩をして小さな星を飛び出した王子は、さまざまな惑星を訪ねた後、地球に降り立ち、ヘビやキツネと知り合っていた。故障した飛行機の修理に手間取り、手持ちの水がなくなってゆくことに焦る飛行士を、王子は“井戸を探そう”と連れ出すが…。
“今ここに、一緒に生きている”ことの尊さを
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――お二人は2か月違いで音楽座に入られた、ほぼ同期なのだそうですね。いろいろな劇団がある中で、なぜ音楽座ミュージカルを目指されたのですか?
山西菜音(以下・山西)「私はもともとミュージカルが好きで、ダンスや歌のレッスンもしていましたし、いろいろな舞台を観ていました。でも小学4年の時に初めて音楽座ミュージカルの『とってもゴースト』という作品を観て、どうしようもなく涙が溢れてきたんです。言葉にならない感情が押し寄せてきて、ここまで人の心を動かすミュージカルがあるんだなぁと思ったし、カンパニー一人一人の人間としてのエネルギーを物凄く感じて、“ここに入りたい!”と思いました」
泉陸(以下・泉)「僕は小さいころからラグビーをやっていて、帝京大学に憧れていたのですが、中学生の時に『glee』という海外ドラマを観まして。ブロードウェイを目指す高校生たちの物語なのですが、海外への憧れも手伝って僕もやってみたくなり、専門学校でミュージカルを学びました。
卒業後はまずワーキングホリデーでオーストラリアに行く予定だったのですが、ちょうどコロナ禍とかぶってしまい、海外に行けなくなってしまいました。途方に暮れていた時、専門学校の恩師が、“一度ここの舞台を観てみなさい”と言ってくれたのが、音楽座ミュージカル。
それまで、僕の中には正直、“日本のミュージカルってどうなんだろう”という先入観があったのですが、音楽座の『SUNDAY(サンデイ)』という作品を観てみたら、山西さんと同じように、言葉では言い表せない感覚に襲われました。いわゆるキラキラしたミュージカルではなく、人間のどろどろとした感情を見事にミュージカルで表現していて。帰り道の段階で、オーディションを受けようと心に決めていました」
――合格し実際、音楽座に参加されてみていかがでしたか?
泉「他のカンパニーでは味わえない“何か”とはこういうことか、とわかったような気がしました。音楽座では舞台創造だけでなく、メンバー全員が何でもやるスタンスで、はじめは“なんでこんなこともしなきゃいけないんだろう”と思ったりもしたのですが、ここでは“日常の在り方が舞台に繋がる”という考え方なんです。舞台を成立させるために、必要なことをやる。その志や結束感が、僕が客席で感じた“目に見えない何か”だったんだな、と腑に落ちました」
山西「それは私も感じます。あと、ここは分け隔てが無いというか、私のような若手も年上の人に気を遣うことなくいられるし、作品をよくするために“とりあえずやってみよう”という心意気が浸透しています。それがどの作品にも反映されているような気がして、私はすごくいいなと感じています」
――一再演であっても公演の度に構成や演出を練り直すのが、音楽座ミュージカルの特色。今回の『リトルプリンス』では、振付をKAORIaliveさんが新たに担当し、演出面では長年上演される中でやや神格化されてきた“王子様”のイメージを変えよう、というチャレンジがなされているそうですね。まず、KAORIaliveさんの振り付けはいかがですか?
山西「素敵です!KAORI先生の人柄も大好きですが、振付もパッションが溢れていて、驚きの連続です。先生もこの作品をすごく愛して下さっていて、今回やりたいニュアンスや世界観を逐一伝えて下さりながら進んでいくので、新しい風が『リトルプリンス』に吹いています」
泉「キツネに関しては、シンプルだけどすごくかわいげのある、チャーミングな振付です。“友達ができたんだ!”という喜びがすごくわかりやすく伝わってくるんじゃないかな。
KAORI先生の振付を通して、改めて、ダンスってお芝居なんだと感じました。ダンスにもメッセージ性みたいなものが込められていて、納得すると僕らの体も自然と動きます。もっともっと先生のニュアンスをうまく表現したいなと思います」
“悪ガキ王子”と“さびしんぼうのキツネ”を目指して
――では王子の造型はどう変わったでしょうか?
山西「すごくリアルになった気がします。今までは、別の星から来た王子様ということでどこか神秘的というか、私だったらこうはできないなという部分も結構多くて、例えば最後に、飛行士にさよならを言うシーン。人との別れってそんなにきっぱりとできることじゃないな、と感じていたのを、今回、代表(作品の演出をつとめる相川タローさん)も最初に言ってくれたんです。思いが合致したことで、これまですごくやってみたかった王子像にチャレンジさせてもらっています。
代表からは今回、“(歴代の王子ではなく)山西の王子が見たい”と言われてすごく悩んだのですが、一つヒントになっているのが、今回変わった台詞。それまで二人称が“きみ”だったのが、今回は“お前”なんです。
あ、これかもしれない。王子は神秘的な存在ではなくて、“悪ガキ”なのかもしれない、と思えてきました。子供と触れ合っていると、どうしてこの子はこんなにエネルギーが有り余っているんだろう、こんなにうるさいんだろう、と鬱陶しく見えることもあるじゃないですか(笑)。そんな“悪ガキ”としての王子像を芯に置きながら今回、王子を演じられたらと思っています」
――泉さんはキツネ役。メインキャストは初めてだそうですね。
泉「はい、一俳優としてもっと高みに行きたいなというシンプルな欲がありまして、この作品の中で大好きなキツネ役でオーディションを受けました。
キツネがどういう背景を持っているのかについては、これまでの稽古の中でいろんなパターンを作ってやってみましたが、今は“ただ、友達がほしい”キャラクターに落ち着いています。今回、王子が“神聖”なイメージを払しょくしようとしているので、キツネについても、これまでのイメージをいったん壊して、僕が演じるならこうだよな、というものを模索しているところです」
――22年の東宝版では、井上芳雄さんが演じた役ですね。
泉「おこがましいけれど、すごく光栄ですし、ちょっとプレッシャーもありつつ、思いっきりチャレンジしたいと思っています。僕は体格的に、キツネ役にしては大きな体なので、どうしたらキツネに見えるのか。飢えている感じを目つきで表せないかとか、ジムに行けば鏡を見ながら“俺は野生だ”と暗示をかけながら走るとか(笑)、いろいろ研究しています」
山西「やっぱり日常生活からお芝居って始まっていますよね。私の場合、今回“自由奔放な悪ガキ王子”を演じようとすると、稽古の間だけだと難しいので、あえて稽古の前後も先輩に馴れ馴れしくしてみたり(笑)、“山西が笑ってるとみんな笑ってるね”と言われるくらい、明るい人間でいようと心がけたりしています」
――本作を通してどんなことが伝わるといいなと思われますか?
泉「僕が演じるキツネの台詞に“肝心なことは目には見えない”というのがあって、大人になると忘れがちだけど、本当にそうだな、と思います。このメッセージを、変に気張ることなく伝えられたらうれしいです」
山西「『星の王子さま』って、出会いと別れの繰り返しのお話なんですよね。花との別れから始まって、ヘビとキツネと飛行士と出会い、別れて行く。誰かと出会って一緒に時を過ごすことの尊さ、私たちが今ここにいるという尊さを、私たちが全力で演じるお芝居を通して、無意識に感じていただけたらいいな。そんなことを思いながら演じています」
――お二人はどんな表現者を目指していますか?
山西「明るく元気にポジティブに、欲深い表現者になりたいです。現状に満足せず、常に高みを目指しながら、唯一無二の存在になりたいです!」
泉「泉陸が演じていることで、観ている方に何か影響を与えられたらこれほど嬉しいことはないし、役者みょうりにつきると思っています。そして操り人形ではなく、主体的な俳優でありたいです」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 音楽座ミュージカル『リトルプリンス』6月6~15日=草月ホール、7月20~21日=梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、10月2~3日=Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール 11月14~16日=IMM THEATER、11月29日=はつかいち文化ホール ウッドワンさくらぴあ 大ホール 公式HP なお、本作は2組のキャストで上演。山西菜音さんは*組で王子役、泉陸さんは★組でキツネ(ほか)役を演じる予定。
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