Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

ミュージカル・クリエイター・プロジェクト特集Vol.2『PARTY』出演・樋口麻美インタビュー

f:id:MTJapan:20210513141014j:plain

樋口麻美 東京都出身。97年に劇団四季研究所に入所、『オペラ座の怪人』で初舞台を踏む。『夢から醒めた夢』『キャッツ』『クレイジー・フォー・ユー』『アイーダ』『ウィキッド』等数多くの作品でヒロインをつとめ、2014年に退団。『李香蘭』『鏡の法則』『ウエスト・サイド・ストーリー』等の舞台に出演している。

コロナ禍に屈することなく、逆に新たなクリエイターとの出会いの場を創出しようと、昨年ホリプロが企画した「ミュージカル・クリエイター・プロジェクト」。「音楽部門」「脚本部門」の2部門のうち、Musical Theater Japanでは「脚本部門」から生まれた新作『Party』に注目し、数回に分けて特集しています。

3月31日からパイロット版が無料配信されている本作は、2次選考の課題としてジェイソン・ハウランドさん(『生きる』)の楽曲を使い、横山清崇さんが書き下ろしたもの。NYの投資銀行に勤務する日本人女性ユリが、あるパーティーに招かれるが…という物語の中で、ユリが出会うゲストの一人、マダム・ランコムを演じているのが樋口麻美さんです。

劇団四季時代に数々のヒロインを演じてきた樋口さん。本作が在団中に非常に縁があった横山さんの作品であると気づいた時の興奮や、台本の中に見受けられる横山さんらしさ、そしてレコーディングを通して表現者として得たものなど、様々なお話をうかがいました。

論理的な人間洞察を
落とし込んだ、横山さんらしい
作品だと感じます

f:id:MTJapan:20210513160443j:plain

『PARTY』収録に集った豪華な顔ぶれ。写真提供:ホリプロ

――今回、この企画に参加されようと思った一番の理由は?
「最初にお話を伺ったときに、“ワークショップ”ということだったので、私はお金を出して参加するものだと思っていたんです(笑)。ジェイソン・ハウランドさんの曲を歌えて、彼に指導もしていただけるならぜひやってみたいな、と思って参加してみたら、こんな素敵なプロジェクトでした。ホリプロさんは以前から新しい才能を積極的に生み出しているイメージがありましたが、今回も素晴らしい試みで、参加出来てとても嬉しかったです」

――樋口さんは劇団四季でもオリジナル作品の立ち上げを経験されていますよね?
「オリジナル・ミュージカル自体はたくさん出演していますが、一から新作を立ち上げた経験としては、昭和三部作の一つ『南十字星』があります。いろいろなことがあって、ミュージカルを作るというのはこんなに大変なんだな、と痛感しました。私がオリジナル・キャストとして演じたリナ・ニングラットは架空の人物で、『李香蘭』のようにモデルがいたわけではなかったので、いかようにも作れたのが逆に難しくて。
音楽は浅利(慶太)先生がまず“このような感じで”とコンセプトを(作曲の)三木(たかし)さんに投げて、それに対して三木さんがどっと曲をお作りになって、それを聴いて浅利先生がインスパイアされ、さらに物語を展開していく…という流れでした。
今回はまずジェイソンさんの曲があり、それに対して台本を作られるという形で、こういうスタイルもあるのだな、とミュージカルの作り方の幅広さを感じました」

――台本の第一印象はいかがでしたか?
「常々思っていたことでもありましたが、親とのかかわり方がその人の人生を決めるんだな、ということを改めて感じました。
過去の出演作品でも、親と子の関係の複雑さや、それが人間に与える影響を感じましたが、今回も、主人公のユリちゃんが親から受けた影響が物語にも関連していて、そこが面白いなと興味深く拝読させていただきました」

――作者の横山清崇さんは劇団四季のご出身ですが、樋口さんと在団時期は重なっていましたか?
「それが、最初に台本を読んだ時には横山さんのお名前に気づかなくて、読み返そうと思ってもう一度表紙を見たら、“横山清崇”さんじゃないですか!“横山さん!横山さんが書いていらっしゃるんだ!”と嬉しくなって、すぐ連絡をとりました。
…というのは、私は在団中、かなり…“かなり”が5回ぐらい重なるくらいお世話になっていたんです。ひところ、彼はもう一人、藤川和彦さんという方とともに、浅利さんが“次世代を育てる”という意図でものすごく鍛えていらっしゃって、もうこれで劇団がこけても仕方ない、というくらい、訳詞から演出助手まで任されていたんです。私が『ウィキッド』の日本初演でセカンド・キャストのエルファバに入った時も、先生が横山さんに“麻美のエルファバを見てやってくれ”とおっしゃって、役作りをずっと見て下さいました。『南十字星』では(横山さんは俳優出身なので)共演もしていて、劇団には何百人もいる中でも、横山さんは本当にご縁のある方だったんです」

――そうだったのですね! 今回の台本について、横山さんらしさを感じますか?
「彼はものすごく頭が切れる方なんですよ。物事を常に順序だてていて、彼の頭の中には突飛なものはないんじゃないかと思います。『ウィキッド』の時も、すべての登場人物の思考回路について、こうなっているんですと説明してくださって、相関図を読み解く力もすごいんです。
そういう、ここがこう繋がって…という積み重ねであったり人物描写というのが、今回の作品にも反映されているように感じます」

――樋口さんが演じるマダム・ランコムも、二重に重なっているような存在ですが、論理的に重なっているな、と?
「そうですね。マダム・ランコムは、ユリの空想の世界では理想の母親で、現実に戻るとその真逆。理想と現実というのがはっきり描かれていると思いました。
それをさらに、旦那様役の(石川)禅さんが深く読み解いて、“確執があるのはどちらかというと(母親より)パパのほうだと思うんだよね、それを母が間に入ってなだめていたけど彼女(ユリ)は飛び出していったんだろうな”とおっしゃっていて、なるほど、そういう部分も台本には書かれています。短いコンパクトな台本ですが、そういった部分が落とし込まれた、現実世界にもありえる話だと思います。父親と娘の関係って、お父さんとしてはどう接したらいいかわからず、なかなか難しいと思うんですよね。そういうところがうまく描かれてるなと思いました。母親は愚痴を言いながらも、娘を味方しているけれど、支えられない自分のもどかしさというのが最後にきゅっと込められていて、演じながらすごくこみあげてくるものがありました」

f:id:MTJapan:20210513142017j:plain

『PARTY』収録での樋口さん。写真提供:ホリプロ

――実際よりずいぶん年上のお役でもありますね。
「そうですね、年上だし上流というか、住む世界が違う役で。個人的には、石川禅さんの妻役ということで、石川さんはマリウス時代から拝見していた私の中のレジェンドだけに、初めて(稽古で)お目にかかった時は“本当にいるんだ…”と感激しました(笑)。挨拶する時の言葉も震えたくらいで。その石川さんの奥様役ということで、(オーラを)合わせるのがすごく大きな作業でした」

――しかも声ですべてを表現しなくてはならないわけですよね。
「そうなんですよ。禅さんの言葉って一言一言、発するたびに物語に深みを与えて、その人の来し方がまるっと全部、現れるんですよね。だから通し稽古で録音したものを聞き返した時、すごい方ってこんなにも違うんだ、ということを痛感しました。字面だけではわからない要素を込める表現力、読み解く力、集中力。人生の深みがぱっと一言に出るものなのだな、と。今回ご一緒させていただいたことが、私にとって大きな財産になりました」

――ジェイソンさんの楽曲はいかがでしたか?
「『生きる』も拝見したし、これまでもジェイソンさんの音楽はいろいろ聴いていましたが、今回の曲はどれも前向きですごく耳馴染みがよくて、どれもずっと口ずさんでいたくなる、大好きな、いとおしい曲ばかりでした。ただし私の担当曲はすごく難しかったです(笑)。ずっと同じフレーズが続いていくなかで、どこで息継ぎしたらいいんだろう、という…」

――「子育てなんて」というナンバーでしょうか。ヘビーな内容とは対照的に、ファニーな曲調でしたね。
「そのあとのブリトニーのナンバーのほうが和のテイストであってるんじゃないかというくらい、哀愁漂う内容なのにあっけらかんとしていて、そのギャップが面白かったですね。嘆き節というよりレゲエというかラップというか、淡々としたメロディで、そこが逆に面白いと思いながら歌っていました」

――この後、この作品がどう成長して行くといいなと思われますか?
「まずは多くの方に見ていただきたいです。“この方々がよくぞ集まった”というメンバーでしたし、特に鈴木瑛美子さんの、楽曲にぴったり合った歌声は客観的にも世に広めたいです!
作品としても、『不思議の国のアリス』のような夢のある世界でいながら、現実をずばっと突いてもいる、魅力的な作品です。聴いて下さった方が“舞台版も観てみたい”と思っていただけたら嬉しいですね。そうして、一度パイロット版を作ってから舞台版を作る、というのが一つのスタイルになれば、私たちが第一歩を踏み出せたということにもなって、さらに素敵です。

f:id:MTJapan:20210513144942j:plain

コーラス部分は全員で担当。息のあった歌声も聞き逃せません。写真提供:ホリプロ

それとは別に、配信をご覧になった方が、“こういう曲、こんなストーリーはどうだろう”とインスピレーションを得てミュージカルを作ってみようと思っていただけたら、それも嬉しいですし、きっとそういう方がいらっしゃって、ミュージカルの世界がもっともっと膨らんでいくのではないかという確信があります。
今回は時間の関係で、お稽古は数回しかなかったけれど、一回合わせるごとに作品がどんどん深まって愛おしくなったし、もっとディスカッションしたり、演出の方からもいろいろ聞いてみたくなったし、プロデューサーからも熱量を感じました。最初に、お金を払うワークショップだと勘違いしていましたが(笑)、終わった今もお金を払ってもいいくらい、貴重な経験をさせていただいたと思っています。それほど、私にとって大きな財産になりました」

――最後に、次回作をお尋ねしてもよろしいですか?

f:id:MTJapan:20210513120912j:plain

5月には『ジェイミー』スペシャル歌唱パフォーマンスに出演。他のキャストとともに溌剌と歌声を披露しました。(C)Marino Matsushima

「『ジェイミー』で、主人公の通う学校の先生を演じます。(やはり劇団四季で共演経験のある)保坂知寿さんと共演できるのが、自分の中では楽しみです。頑張ります!」

(取材・文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*新作ミュージカル「PARTY」配信中。 YouTube チャンネル

*樋口麻美さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼントいたします。詳しくはこちらへ