Musical Theater Japan

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『スクルージ』武田真治インタビュー:ミュージカルとの出会いで得た、表現者としての自由

武田真治 北海道出身。1989年ジュノンスーパーボーイコンテストにてグランプリを受賞し、翌年俳優デビュー。主な出演作にTVドラマ『NIGHT HEAD』、映画『御法度』、舞台『身毒丸』等。2006年に『エリザベート』トート役でミュージカル・デビュー。以来『スウィーニー・トッド』『ロッキー・ホラー・ショー』等に出演。『オリバー!』では市村正親とダブルキャストでフェイギンを演じた。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

 

クリスマスと言えば思い出す物語の一つが、ディケンズの『クリスマス・キャロル』。偏屈な守銭奴の老人スクルージが、精霊たちに自身の過去や未来を見せられ、生き方を見つめ直すヴィクトリア朝の物語は、時代を超え、世界中で愛され続けています。
 
この物語の映画版を舞台化し、日本でも1994年から市村正親さん主演で上演されてきた『スクルージ』が、今年は3年ぶりに登場。スクルージの事務所で薄給に耐えながら働く、子煩悩のボブ・クラチット役を2013年以来演じ続けている武田真治さんに、クリスマスや本作への思いをたっぷりうかがいました。
 

『スクルージ』

 

――武田さんは、“クリスマス”と言えばどんな思い出がおありでしょうか?

「やはり特別な日でした。子供の頃、クリスマスと聞くだけでわくわくしましたね。両親が会社の同僚の方々や親戚を招いて、ホーム・パーティを開いてくれて、チキンを食べたりするのも楽しかったけど、何より、父や母が体を寄せ合って踊っている光景が素敵で。父は昔、社交ダンスを習っていて、踊れることがちょっと自慢だったみたいです。幸せな幼少期だったなと思います」
 
――大人になってからはいかがでしょうか?

「2013年に『スクルージ』に初出演したころはまだ独身で、お付き合いしている方もいなかったこともあって、市村さんのパーティによんでいただきました。お仕事関係の方、お子さんたちの同級生たちなどたくさんの方々とクリスマスをお祝いすることができて、これも楽しい思い出です」
 
――初出演から9年ということで、作品への思いはより深まっていらっしゃるでしょうか?

「作品もそうですが、何より、自分が演技者として成長し視野が広がれば広がるほど、市村さんの偉大さに気づかされます。だって市村さん、今年73歳でいらっしゃるのに、このミュージカルでは出ずっぱりなんですよ。台詞はもちろん、唄も、音楽のきっかけもあるし、こなすべきノルマが膨大、冷静な判断能力や情熱も求められるというのに、信じられないほど誠実に、演劇者としての在り方を見せ続けて下さっています」
 
――武田さんにとってはある意味、“師”のような存在でしょうか。

「師匠だと思ってます。技術的なことはもちろん真似たいですし、人としての心構えも、市村さんからは常に学ばせていただいています。
市村さんがいつもおっしゃっていることの一つに、台詞やきっかけ、動きは稽古で体に入るまで繰り返して、本番はなるべく楽しむんだよ、ということがあります」
 
――本番を楽しむ域に達するには、相当な稽古の蓄積がありそうですね。

「市村さんは、誰よりも稽古場で自分の出番を稽古しようとなさいます。今日は省エネしようみたいな発想は全くなく、ともすると“また市村さんの出番!ずるいよ~”なんて思うほど稽古されていて(笑)、あんなに繰り返し稽古されようとする俳優さん、観たことがありません。歌や台詞の分量が多いから体に教え込みたいというのもあるとは思いますが、やはりお芝居がお好きなんでしょうね」
 
――武田さんは筋トレを通して地道な努力に慣れていらっしゃるので、より深く共感されるのかもしれませんね。

「共感の域をはるかに超えて、敬服しています。小さいことを積み重ねてゆくことはとても大切です。でもそれ以上に、市村さんの世代で先頭に立ってミュージカルをやり続けるということがただただ、凄いことじゃないですか。市村さんにはぜひ、これからもスクルージ役を続けていってほしいです。人生の最後に自分の価値観を見つめ直すってとても難しいことだけど、スクルージにはそれが出来るのか、というのが本作の醍醐味なので、演じ手がベテランであればあるほど感動できると思うんです。皆さんにも市村さんのスクルージ、“絶対観ておいたほうがいいよ!”と声を大にしてお勧めしたいです」 

『スクルージ』前回公演より。撮影:田中亜紀

 

――『スクルージ』という作品自体については、どんな愛着をお持ちでしょうか?

「原作の『クリスマス・キャロル』は、180年前に書かれたものだそうですが、キリスト教圏以外にもというか、世界中に広まっていますよね。時々、キリスト教信者でないとわかりにくいお話かなと思う方もいらっしゃるので念のため申し上げますが、キリスト教はもちろんクリスマスさえきっかけであって、内容はいたって普遍的なお話です。一人の人間が、自分の過去や現在と向き合ったときに、このままではこういう未来にしかならないということを目の当たりにして、自分の在り方を見つめ直す…。本当によく出来た作品だと思います」
 
――武田さんが演じるボブ・クラチットは薄給にもめげず、守銭奴のスクルージのもとで誠実に働く事務員ですね。庶民であったり、つつましさの象徴のようなお役かもしれませんが、武田さんはどんな思いで演じていらっしゃいますか?

「自分としては、“自分らしさをアピールしよう”といったものはなく、素直に演じているつもりです。原作の世界に音楽が加わったミュージカルの中で、ストーリーに沿って素直に演じようとしています」
 
――前半では、彼が子供たちと楽しそうにクリスマスの買い物をする場面が印象的です。母親ではなく父親が買い物をするこの場は、彼の子煩悩さを表現したものでしょうか。

「どうなんでしょう。でも、子供の一人、ティムが病気で次のクリスマスを迎えられないかもしれないということがボブにはわかっているので、つとめて明るくふるまっているのかもしれません。貧しさのゆえに、息子に適切な医療を受けさせられない、そんな負い目、ある種の覚悟をしている中で、せめて皆で楽しい思い出を作ろうとしているのではないでしょうか」
 
――明るく、楽しいシーンだけに、よけいつらいですね。

「この場面や二幕の家族のシーンがより印象に残ることで、後でスクルージが“最悪の未来”の光景を見せられて決定的に“自分を見つめ直さないといけない”と痛感するきっかけになると思いますし、もしかしたらお客様も、常に“来年”があるわけではないんだな、今生かされていることは奇跡なんだな、と感じていただけるシーンかもしれません」
 
――スクルージからの薄給に対しても、恨みがましいことを言わない方ですね。

「ボブとしては、スクルージから借金をとりたてられている人たちに比べればましだから…というふうに思っているのかもしれません。これ以上の贅沢は望めないなというふうに、想像して演じています」
 
――『スクルージ』には4回目のご出演となります。

「何か自分から肉付けするとおそらく蛇足になってしまうと思うので、素直に演じようとは思っていますが、子供に関しては予測不可能というか、突発的に元気に話しかけられたらお父さんも元気に応えないといけないと思うので、子役さん次第な部分はあると思っています。
『スクルージ』に出演する年は、11月から稽古を積み重ねていくことで、ふだんなら瞬間的に過ぎていってしまうクリスマスを大切に過ごすことが出来ます。僕にとってそれはとても贅沢なことで、素敵な時間を過ごさせていただいているなと思います。
ぜひ多くの方に触れていただいて、周りにいる人を大切にしたいなと思っていただけるような舞台になったらいいなと思っています」
 

『スクルージ』ボブ・クラチット(武田真治)

 

――プロフィールについても少しうかがえればと思います。武田さんは様々なジャンルで活躍されていますが、その中でミュージカルはどんな存在でしょうか?

「もっと早く(ミュージカルを)始められたらよかったし、子供の頃から専門のトレーニングをしていたらどうなっていただろうと思うこともあります。幸運にもこれまで素敵な役をいただいてきましたが、いつも明確に発見があるというか、課題が見つかるジャンルです。技術的なこともありますし、それを含めた感情表現についても。

ミュージカルって、表現者にとって圧倒的に自由が得られるジャンルだと思います。例えば言葉だけで、“今、僕らは空の上です”と言われても“どうした⁈”となってしまうと思うけれど(笑)、そこに“A Whole New World”のイントロがかかったら、僕らにはたちまち絨毯にのって雲の上にいるような感覚が得られるじゃないですか。表現の幅を広げようとしたら音楽を使うということは避けられないことだと思っています。表現者として自由になりたいと思ったらミュージカルと言うジャンルに自然に行き着いた感じです」
 
――では武田さんとしても、ミュージカルとは出会うべくして出会ったものだったのかも…?

「そう思ってます。はじめこそ、“挑戦するお仕事の一つです”という(平然とした)顔をしていたかもしれないけれど、『エリザベート』のトートでミュージカルに挑戦する前に、ストレート・プレイで、いろいろな情報を伝えようとすると台詞量が増えるということが避けられなくて、ここまで言葉を羅列しても、お客様を望んだ状況にお連れできているのかな、と考えてしまったことがありまして。もっとダイレクトに伝わることって何だろう…と考えたときに、(ミュージカルという形式で)音楽の力を借りるということに行き当たりました」
 
――以来、ミュージカル界で力強い存在感を放ってこられました。

「誰かを幸せにするようなことが出来たかはわかりませんが、少なくとも自分にとっては幸せな出会いだったと思っています。サックスなどで音楽をたしなんできたという背景もあったとは思いますが、今日まで20年近く(ミュージカル歴が)続いているということは、自分でも求めていた表現だったのでしょうね」
 
――これまでは海外ミュージカルへのご出演が多かった武田さんですが、ご所属のホリプロさんはオリジナル・ミュージカルにも近年、意欲的です。今後オリジナルに関わってみたいというお気持ちはおありですか?

「『北斗の拳』もミュージカル(『フィスト・オブ・ノーススター』)になりましたものね。『ルパン三世』なんてどうかな?(笑) あれはイケてるお兄さんじゃなく、ある程度年齢を重ねたおじさんがやるからいい味が出ると思うんですよ。調子に乗ってサックスとか吹き出しそうですよね(笑)。不二子ちゃんのオーディションには是非、審査員として参加したいですね(笑)」
 
――クリエイティブな活躍も拝見できるかも…。

「自分もこのジャンルでたくさん夢を見させてもらったので、いつか、後輩の背中を押していけるような仕事もしていけるといいですね。でも今はまだプレイヤーとして、なんせ市村さんという大先輩がいらっしゃって、常に“もっとこんなことしてみたい”という課題を下さるので、まだまだプレイヤーでいるかな。役者って、寿命の限り出来る仕事ですからね」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『スクルージ』12月7~25日=日生劇場 公式HP
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