Musical Theater Japan

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『スリル・ミー』福士誠治インタビュー:緻密に、緊張感を以て紡ぐ物語

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福士誠治 神奈川県出身。02年にドラマデビュー。近年の主な出演作品に『十三人の刺客』『トップナイフー天才脳外科医の条件―』等のTVドラマ、『ある用務員』等の映画、劇団☆新感線『修羅天魔~髑髏城の七人Season極』氷上演劇『氷艶―月光かりの如く』『忘れてもらえないの歌』『OSLO(オスロ)』等の舞台、他に近年は演出やバンド「MISSION」のボーカリストと多彩に活躍。(C)Marino Matsushima

秘密の契約を交わして大罪を犯す青年たちを描く『スリル・ミー』。2011年の日本初演以来、上演の度に話題を呼ぶこのミュージカルに、2018年公演に引き続き出演するのが福士誠治さんです。初挑戦時にはミュージカルは2作目だったとのことですが、成河さんの“私”に対して演じる“彼”は、彼にとってどんな体験だったのでしょうか。当時の思い出から今回の抱負、プロフィールについてまで、じっくりお話いただきました。


【あらすじ】監獄で審理される、ある囚人の仮出獄。54歳のこの囚人は、審理官に事件の本当の動機、隠された真実を語るよう求められ、静かに当時を振り返る。19歳の“私”は幼馴染の“彼”と久々に再会。ある“契約”を交わした二人は、放火や窃盗を重ねるが、”超人”を自認する“彼”はそれに飽き足らず、“偉大なる犯罪”を提案する…。

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『スリル・ミー』
アンテナを張り、作品の
隠れたメッセージを拾うように
ご覧頂くと面白いと思います


――福士さんにとって『スリル・ミー』は、ミュージカル2作目にあたるのでしょうか?

「そうですね、『RENT』(2010年)に出た後、ロック☆オペラ「サイケデリックペイン」が音楽劇的な演目でしたが、ミュージカルとなるとこの作品が2作目です。
もともとミュージカルをよく観ていたわけではなかったのですが、『RENT』でお声をかけていただき、当時は20代でいろいろなことに興味をもって取り組みたい、ミュージカルもいつか挑戦してみたいと思っていたので、“今だ!”と飛び込みました。
ミュージカルについて、“音楽を通して伝えるというのは、どういうものなのだろう…”と思っていましたが、やってみると、難しさの一方で、エネルギー量の大きさを感じました。難しい分、成功すると熱が伝わりやすいのだな、と。以来、知り合いが出ているミュージカルも観に行ったりしています」


――思いが高まって歌になってゆく、というミュージカルの表現方法をどう感じましたか?

「“急に歌いだす”ととらえる人もいるかもしれないけれど、歌が言葉のように、当たり前にある世界だと認識したうえで取り組んだので、“ここでなぜ歌う?”と戸惑うことは全くなかったです。逆に、面白いなと思いました。緻密に訓練してゆくという過程も面白いし、楽譜というものがまず存在する中で、ストレート・プレイとはまた違う個性の出し方が求められるので、もちろん難しくはあるけれど、楽しさも感じました」


――『RENT』のキャラクターの中ではロマンティックなロジャーもお似合いな気がしますが、マーク役だったのですね。

「最初から“マーク役で”と言われていたので、役に対してこだわりはなかったです。でも実際にやってみて、マークでよかったなと。周囲を見回す役だし、みんなに翻弄されながら自分の在り方を悩む、とてもやりがいのある役でした」


――そこから数年のブランクを経て、18年『スリル・ミー』で再びのミュージカル。これはプロデューサーからのお声がけだったのでしょうか。

「そうだったと思います。それまでこの作品は観たことがなかったのですが、まず二人芝居ということで、たった二人で、緻密さと緊張感をもって物語を紡いでいく作業は以前にもやったことがあって、大変だけど久々にまたやってみたいと思いました。
それに相手役が成河君ということで、それまでご一緒したことはなかったけれど、彼の出た『100万回生きたネコ』や『春琴』を観て素敵な役者さんだと思っていたので、ぜひやりたいと思いました。台本を読んだらこれまで観たどのミュージカルより歌が多くて驚いたけれど、それも挑戦だな、と」


――久々の少人数舞台だったのですね。

「二人芝居ですが、ピアニストもいて下さるので、3人芝居に近いのかな。人間なので、二人芝居では相手役との相性も大きく影響すると思うのですが、成河くんとは喋っていると話が合うというか、似ている部分があって、根本に持つ何かが同じなんだろうなと感じました。芝居に関して、台本の読み方や役へのアプローチは多少違うところもあるかもしれないけれど、お互い、いい意味で縛られていない。その自由さが似ているので、“それ違うよ”ということがない。彼は僕より数多くのミュージカルに出ているし、僕は僕で歌舞伎の舞台(スーパー歌舞伎等)に出させていただいたりしていて、どちらも、いろいろな表現を面白がれるタイプ。なので、細かい違いはあっても、楽しくいられる二人ですね。お客様から観ても、面白いペアになっていると思います」

 

(*ここからの3問はやや“深掘り”になりますので、気になる方は鑑賞されるまで飛ばしてお読みください)


――「彼」は劇中、極端に残虐なことを思いつきます。ただ「超人」であることを示すために、そこまで必要なのかな?とも思えますが、ご自身ではどう感じますか?

「“彼”はニーチェの思想に影響を受けていて、“神になる”とまで台詞で言っています。普通の人がやらないようなことをやってしまうことで、特別意識を確認しているのかもしれないな・・と、前回の公演時に思いました。人がやらないようなことをやる、という意味で、残虐な犯罪に手を染めていけるのではないかな。ある種のカーストというか、自分の命は他人よりも位が高いような思いを持っているのかもしれません」


――「彼」は「私」に対して“契約書を作ろう”と提案しますが、いざ作ってからはきちんと守ろうとするスタンスではないようです。これはなぜでしょうか?

「契約書は“私”を納得させるための手段として持ち出したものだと思いますが、当時は契約社会であったことを思うと、その重みは今よりもずっとあったのではないかな。だから、いやいや守るんですよね。“彼”は“私”の一番の理解者であり、利用者であり、“押してダメなら引いてみろ”的に人の心を弄ぶことが出来る存在で、契約書を作ることでお互いに責任を感じつつ、共犯関係を作っていったという感じだと思います」


――「彼」を演じるにあたって、ここが肝だな、と感じるのはどのあたりでしょうか?

「子供を殺める瞬間というのは、彼の中ではピークのような気がします。それまで放火や窃盗をしてきて、それも違法なことだけれど、人の命を殺めて完全犯罪を成し遂げたと感じた瞬間は、普通なら怯えたり後悔しそうなものだけれど、彼の場合は高揚感を感じている。そこが彼のピークだったのでしょうね。そのあと、警察の尋問を受けますが、僕らの頭脳があれば警察ぐらい出し抜けると思っていて、まだ焦っていない。
でも実はその完全犯罪は穴だらけで…と気づき、ふがいなさに打ちのめされる。神ではないと宣言されたようなもので、あのあたりの心の動きも面白いです。殺人を思いついても、そこで踏みとどまっていれば、偉業を成し遂げていたほどの頭脳の持ち主だったのに、何か、悪魔のようなものにとりつかれていた気がします。お客様としては観たくないシーンかもしれませんが…」


――本作は“愛の物語”と呼ばれることが多いですが、お話をうかがっていると、むしろ“彼”と“私”のパワーバランスの側面が強く感じられます。

「僕は前回、初めてこの作品に取り組んだときに、(台本に出てくる)“愛”という言葉が難しいな、と感じました。愛という言葉は、(定義が)広いんですよね。この作品の愛はどういうものなのかというと、男女間の間で語られるような(ロマンティックな)愛の物語には僕にはあまり思えなくて。時代背景だったり、思想だったりが大いに関わった、複雑なもののような気がします。
モデルになった実際の事件はちょうど100年ぐらい前に起こったものですが、現代でもこういう残忍な事件は起こっていて、それを単純に愛による事件と呼ぶかというと、違うと思う。ある種の憎しみだったり嫉妬だったり、欲望の成れの果てのようなものであって、一概に“愛の物語”とは呼べないような気がします。
もちろん観る方の自由ではありますが、そういった隠れたメッセージのようなものを拾っていただけると、もっと『スリル・ミー』の奥深さが見えて、人間として教訓にしていただけたりするかもしれません。ご自身のアンテナから電波をばんばんに飛ばしながら観ていただけたら嬉しいです」


――ご自身の中で、今回テーマにしたいと思っていることはありますか?

「僕は“再演”って初めてで。再演…素敵な言葉ですよね。その間にいろいろな経験をして、成長して再び取り組めるのですから。同じ台詞や歌を発するにあたっても、2年前に考えていたことがどう変わったか、どう肉付けしていけるか、自分も楽しみだし、お客様にもご覧いただきたいです。今の成河君と僕なりの“完成形”に近づけていけたらと思います」

 

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福士誠治さん。(C)Marino Matsushima

――プロフィールについても少しうかがわせてください。福士さんのキャリアは朝の連続テレビ小説『純情きらり』でのヒロインの相手役など、正統派二枚目としてスタートされたと思いますが…

「二枚目…とは全然思っていないです(笑)」


――近年はスーパー歌舞伎など、活躍の幅が非常に広くなっていらっしゃいます。“スーパー歌舞伎"といえど、古典芸能という一つの確立された世界に飛び込まれるのはとても勇気の要ることかと拝察しますが、福士さんは“チャレンジャー”タイプなのですか?

「そうだと思います。やったことのないことに挑戦できるのは、単純に楽しいじゃないですか。歌舞伎は猿之助さんとのご縁で声をかけていただきましたが、即答で“やります”とお返事しました。挑戦してそれがどんなに大変であっても、自分としては一ミリも損は無い、という確信があります。たとえうまくいかなくても、一生懸命取り組んだ経験は自分の財産になる、と思っています」


――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「こういうジャンルをやりたい、というような分け方はしていません。昨年末には本多劇場で演出の仕事をさせてもらって、そういうモノづくりも素敵だと思っていますし、演劇が一枚の絵だとしたら、そのどこにいるか、ぐらいの違いで、皆、その絵の中にいるのは同じだと思うので。プロデューサーがキャンバスを用意してくれて、演出家が筆を持って、俳優が色付けをする。一枚の絵を完成させようという思いはみんな同じで、誰が欠けてもいけない。モノづくりの魅力はそこにあると思います。考えさせるような芝居も、コントのような笑いに特化したものも好きですね。その時々のタイミングで、自分が楽しいと思えることに出会えるような表現者になっていきたいですね」


――ミュージカルには今後も?

「もちろんです。何らかの形で刺激になるような作品に、いいタイミングで出会いたいですね。昨年は『ビューティフル』を観て、帝国劇場で仕事をしてみたいな、と思いました。完全な好奇心ですが、あの舞台からの景色を見てみたいです。もちろん、そのためには努力もいっぱいしなくてはいけませんが。ともあれ、近々叶うのは東京芸術劇場での『スリル・ミー』ですので、そちらをご覧いただけたら嬉しいです」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『スリル・ミー』4月1日~5月2日=東京芸術劇場シアターウエスト 公式HP
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