Musical Theater Japan

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『クリスマス・キャロル』松村雄基インタビュー:“人生は、いつでもやり直しが出来る”

松村雄基 東京都出身。1980年にTVドラマ『生徒諸君!』でデビュー。以後『スクール☆ウォーズ』等の大映ドラマで人気を博す。舞台出演作に『南太平洋』『女たちの忠臣蔵』『ロミオ&ジュリエット』『ソーホー・シンダーズ』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』等がある。©Marino Matsushima 禁無断転載


“世界で最も愛されているクリスマス小説”の一つと言われる、チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』。

ディズニー映画版(『Disney’s クリスマス・キャロル』)やミュージカル映画版『クリスマス・キャロル(原題Scrooge)』(1970年)、その舞台版『スクルージ』、劇団昴が長年上演している演劇版など、これまで様々な形で親しまれていますが、今回ご紹介するのは、西田直木さんが台本・音楽・演出(音楽は張替政彦さんも担当)を担うミュージカル版。原作のストーリーをベースとしつつ、元・共同経営者のマーレイが最後までスクルージに寄り添い、友情の大切さにも気づかせる点が大きな特徴です。

昨年は吉田栄作さんが主演したこの舞台で、今回、心を閉ざした守銭奴のスクルージ役を演じるのが、『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』のジドラー役が記憶に新しい松村雄基さん。映像作品のみならず、近年は『ロミオ&ジュリエット』等の舞台にも出演し、ミュージカル・ファンの間でも“気になる存在”です。開幕を前に、本作に対する思いやミュージカルの魅力について、お話しいただきました。

誰もが心を閉ざす可能性はあるし、
そこから戻ってくることもまた、出来る

 

――今年もクリスマス・シーズンが近づいてきました。クリスマスと言えば、松村さんは本作のPR映像で、心温まる思い出を披露されていますね。

「有難うございます。僕は子供のころ、祖母と暮らしていたのですが、祖母は詩吟の先生で“和風”な人だったもので、あまり洋風なお祝いをする習慣が無く、動画でお話ししたものが精いっぱいのエピソードです(笑)。でも、当時もクリスマス・シーズンになると『ジングルベル』が街で流れていたので、今もあの曲を聴く度、小学校時代にみんなで遊んだりしたことが思い出されて、むしょうに笑顔になりますし、心湧きたちます。あの音楽は鉄板ですね(笑)」

『クリスマス・キャロル』

『クリスマス・キャロル』写真提供:あなぶきエンタテインメント

――『クリスマス・キャロル』は原作小説はもちろん、映画に演劇といろいろなバージョンがありますが、松村さんはこれまで触れたことはありましたか?

「実は今回の舞台版が初めてで、とても新鮮でした。前年度おやりになった吉田栄作さんの舞台映像を観て、感動しましたね。いろんなメッセージが含まれているような気がしますが、僕にとって一番響いたのは、“人生、いつでもやり直しができる”ということです。

ずっと心を閉ざしていたスクルージは、亡霊のマーレイはじめ、いろんな人たちに触れることで心が動き、生まれ変わりたいと願います。そして病気の少年、ティムが治るようにと神様にお願いすると、それまでいた白黒の世界が総天然色へと、見違えるように変わるんです。人生というのはやっぱり、気持ち一つなんだな。同じものを見てもネガティブにとらえるのかポジティブにとらえるのか、決めるのは結局、僕の心なんだな…と思いました。そして、それに付随して、人は一人では生きていけない、感謝の気持ちを持って、出来れば笑顔で生きていきたいなと思いました」

――大きく変貌するスクルージですが、はじめは外界の全てに対して、固く心を閉ざしていますね。

「理解できます。僕の中にもそういう一面はあると思います。程度の違いはあるかもしれないけれど、一人になりたい、誰からも今は心を閉ざしたいと言うときはありますし、何かのきっかけで人間はたやすくそうなってしまうんですよ。

というのは、今もこうして、世界では毎日、戦争が起こっていますよね。生まれたときは善良で無垢な気持ちだった人が、教育や(生きていくなかでの)経験を通して、人を殺すことを否としない人物になってしまう…というのは、そのあらわれじゃないでしょうか。誰の心の中にも、そういう方向に振れる要素はあるのでしょう。

僕の中にもスクルージのように、誰からの言葉も拒みたくなるような、自分の殻だけで生きているほうが楽と思えるような気持が芽生えることもありますので、彼みたいな人間が特殊だとは僕は思いません。彼の場合は妹さんが若くしてお金がないために亡くなってしまったこと、またその後の人間関係によって心を閉ざしてしまうわけですが、そういうきっかけがあれば容易に人は心を閉ざしてしまうのだと思います。でもそれと同時に、そこから戻って来る力も人間は持ち合わせている。そこに、僕はすごく共感しました」

『クリスマス・キャロル』スクルージ(松村雄基)

『クリスマス・キャロル』写真提供:あなぶきエンタテインメント

――現在・過去・未来を客観的にみつめることによって、彼は何かに気づくのですね。

「それはスクルージ自身が欲していたことなのだと思います。心を閉ざしながらも、誰かこの扉を開けてくれないかという思いが、かすかにあったのではないでしょうか。

赤ちゃんがお乳が無いと生きられないから母親を頼るように、人間は一人で生きられないと、僕らは本能的に分かっています。けれども大きくなると、まるで一人で大きくなったような顔をして高慢になったり、お金や権力を持つと人よりも強くなったような気がしてしまい、そうなればなるほど孤独になっていく。そしてどこかで、これは本当の自分じゃないと思うようになる。

スクルージもたぶん、心の中でそう叫んでいたのでしょうね。その思いを聞き入れてくれたのが、幽霊となったマーレイ。でもそれも、もしかしたら彼が心の中で作った存在なのかもしれません。彼だけでなく、精霊やイザベラもそうなのかもしれないですね。2幕で“クリスマスなんてくそくらえだ”と言った後に、スクルージはイザベラの写真立てに語り掛けるのですが、その瞬間は1幕前半の頃の、素直なスクルージが戻っているんです。でもまた、心を閉ざしてしまう。その瞬間瞬間に彼はSOSを出していて、僕の心を誰か解き放って!と心の中で叫んでいたのが、満を持してティムに出会って、決定的に彼が変わるきっかけになるのかなと思います。彼の心の叫びが繋がったのだと思います」

『クリスマス・キャロル』写真提供:あなぶきエンタテインメント

――ご自身の中で今回、テーマにされたいことはありますか?

「やはり、“人は再生できる”ということと、“孤独をどう表現するか”です。人は孤独では生きていけませんが、そのいっぽうでは、僕らは一人で生まれて、一人で死んでいきます。そのことを見つめた上で、どういうふうに他者と関わって生きていくべきだろうか。そしてそれだけで終わらせず、せっかく与えられた人生なのですから、出来れば周りの人もハッピーに生きていきたい…。御覧になる方にとっても、そう考えるきっかけになる作品なんじゃないかなと思いますので、意識してやっていきたいです」

 

――このテーマをミュージカルで表現する意義をお感じになりますか?

「音楽って、無限の広がりがありますね。言葉や芝居だけで伝えきれない雰囲気…例えば天国のきらびやかさや、北国の寒さを、ミュージカルでは音や映像だけでなく、音符やリズムによって伝えきることができます。

あと、基本的なことですが、歌って心を動かしやすいですね。先日、あるミュージシャンの人と喋っていて気付いたのですが、僕ら、よくイントロの一音で思い出せる歌ってあるじゃないですか。でも台詞で“あ”と言っただけで思いだせる芝居って、無いんですよ。思い浮かんだ曲とともに、当時の自分さえ走馬灯のように浮かんでくる…。そういうものとの融合という意味でも、ミュージカルには大きな力があると思いますね。スクルージがたどる現在過去未来を想像する上でも、とても意味があると思います」

『クリスマス・キャロル』写真提供:あなぶきエンタテインメント

 

――頑固な老人役ですが、歌を含め、声の工夫もされるご予定でしょうか。

「とにかくチャレンジしていきたいです。歌はまず、音符通りに、作曲家の意図をくんで歌うことを大事に。喋り声に関しては、僕の経験では、お年を召した方って意外に声が高くなる方もいらっしゃるので、高さや雰囲気はその時の状況に応じて作っていこうと思います」

――どんな舞台になったらいいなと思われますか?

「僕が前回公演を観てそうなったように、ほっこりした気持ちになって、明日も頑張って生きていこうと思っていただけるようになったら嬉しいですね。今回書かせていただいた色紙のコンセプトと同じように」

共演の杉本彩さん、吉田要士さんとともに増上寺で公演成功祈願をされた松村雄基さん。🄫Marino Matsushima  禁無断転載

――プロフィールについても少しうかがえればと思います。主に映像で活躍されていた松村さんですが、最近、ミュージカルでも拝見する機会が増えてきました。

「気が付けば出ていますね(笑)。以前、30歳くらいの時にオリジナル作品で『源氏物語』の光源氏をやったことはありました。あと、20数年前に滝田栄さん、一路真輝さんと『南太平洋』でご一緒したことがありますが、それ以降ですと、2年前の『ロミオ&ジュリエット』のキャッピュレット卿が久々のミュージカルでしたね。ロンドンの作品で『ソーホー・シンダーズ』にも出させていただきました。『ムーラン・ルージュ!』も含め、最近は白髪で髭の役が多いです(笑)」

――シャンソン歌手としても活動されている松村さんですが、ミュージカルで歌う時は、やはり心持ちは違うものでしょうか?

「違いますね。役として歌う時は自分の得意でない音域ももちろん歌わなければいけませんし、役柄も影響してきます。先日、シャンソンのステージに久しぶりに立ちましたが、そこでは僕一人で世界観を描くイメージです。ミュージカルではいろんな人たちと掛け合いするのが楽しいけれど、緊張もありますね」

――多くのミュージカル・ファンにとっては、やはり『ムーラン・ルージュ!』のインパクトが非常に強かったと思います。

「とても充実感がありました。みんなの足をひっぱらないようにと必死でしたが(笑)、作品を盛り上げ、引っ張っていく役でしたので、僕も役に引っ張ってもらった気がします。最後にカーテンコールで『カンカン』を歌うのですが、演出家の方が、僕を乗せるためにだと思いますが、“これまでの2時間半の芝居はあなたのための前座だった、ここからはあなたのショーだと思ってやってください”と言って下さって。最後に思い切り“できるキャンキャンキャーン!”と言ったら、客席からもどーんと“キャンキャンキャーン”とレスポンスをいただいて、まさに“僕のコンサートにようこそ”という感じでアンコールのパフォーマンスが出来ました。とても気持ちよかったです」

――これからミュージカルで挑戦してみたいことはありますか?

「僕の年齢的に、どんな役が合うか、逆に皆さんにうかがいたいです。市村正親さんは40代からスクルージ役を演じていらっしゃると伺ったことがありますので、僕も今回をきっかけに、機会があればこの役を極めていけたらいいですね。今年還暦を迎えましたので、これから新しい人生が始まると思うと、これまでやってみたことのないようなことでも、もしお話をいただけたら挑戦していきたいと思っています」

――どんな表現者でありたいと思っていらっしゃいますか?

「考えたことは無いですが、そうですね。これまでは与えられた仕事をこなすことで精いっぱいでしたが、観て下さった方から、“これからも頑張れます”といった感想をいただくと、やはり観て下さる方に少しでも笑顔になっていただけるような、生きることは素敵なことだというメッセージを表現できるようになっていきたいと思います。

ミュージカルは技術があってこそ、それを超えたところで何かがお客様の心に届くものだと思いますが、僕はまだまだだと思っているので、ミュージカルでも松村を呼ぼうと思っていただけるよう、勉強を続けていきたいと思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 ミュージカル『クリスマス・キャロル』11月19日=能代市文化会館大ホール、11月20~21日=きゅりあん大ホール、以降福井、広島、兵庫、岡山、香川、名古屋、豊橋、京都ほかで上演。公式HP

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