全寮制男子高校で、殺人事件が発生した。被害者は、校内で絶対的権力を持っていた生徒会長だ。
小さな出来事がきっかけで彼に睨まれ、嫌がらせを受けていた高宮絵愛(えちか)が、疑いの目を向けられる。寮での彼のルームメイトで、正義感の強い兎川雛太(ひなた)は、絵愛への嫌疑を晴らそうと奔走するが…。
注目の若手作家・楠谷佑さんの青春ミステリー小説が、作曲家の桑原まこさん、ジャズピアニストの桑原あいさん姉妹の音楽に彩られ、オリジナル・ミュージカルに。脚本と演出を担うのは、『魍魎の匣』でも推理小説を舞台化した板垣恭一さんです。
注目の若手男性俳優がずらりと並び、紅一点として青野紗穂さん、そしてベテランの鈴木壮麻さんも加わったキャストのうち、武藤潤さん(原因は自分にある。)とのダブルキャストで雛太役を演じるのが、小野塚勇人さん(劇団EXILE)。近年『精霊の守り人』『MEAN GIRLS』等の舞台できらりと光る演技を見せている小野塚さんですが、今回、ミステリーの主人公をミュージカル形式で演じることについて、どんな期待をお持ちでしょうか。ご自身のヴィジョンなども含め、率直にお話しいただきました。
ミステリーであると同時に、
凸凹コンビの成長のドラマでもあると思います
――本作に関しては、まず原作を読まれましたか?それとも台本が先でしたでしょうか。
「原作を先に読みましたが、犯人は…(明かされるまで)わからなかったです。いつもは、映画やTVドラマを観ていて、途中で結末が分かったりするのですが、今回はフラグが立って“この人かな~”と思ったけど…違いました(笑)」
――今回はこの物語をミュージカルで見せて行くのですね。
「(歌やコミカルな描写など)楽しめる要素がいろいろあるなかで、最終的に謎解きに向かっていきます。楽曲の力で導かれていく部分が少なくないんじゃないかなと思います。
演出の板垣恭一さんとは初めてご一緒することもあって、まだ断言できることはあまりないのですが、犯人候補が一人一人絞られていってクライマックスに真実が分かる瞬間まで、お客様が置いてきぼりにならないよう、スリルの持続する作品になるといいなと思っています」
――“学園もの”ならではの楽しさもあると思いますが、本作はそれに『ハリー・ポッター』的な“寮生活”への興味も加わります。男子校ということで、女性の観客にとっては未知の世界でもありますが…。
「僕自身は寮生活の経験は無いのですが、スポーツ強豪校の高校に通うなかで、寮生活をしている生徒もいたので、イメージはできますね。雛太は空手部に入っているのですが、部活のノリもわかるので、自分が高校生だったころを思い出しながらやっています」
――雛太は16歳という設定ですが、小野塚さん的には16歳は“ついこの間”という感覚でしょうか、それとも“遠い思い出”でしょうか?
「(当時と今とでは)僕はそんなに変わっていないんですよ。感情の出し方がちょっと変わったぐらいで、思っていることや基本的な性格は同じです。ただ、昔はそれを“若さ”ゆえに直接的に出していたのが、いろいろな経験を積む中で、一度引いて、相手の立場に立って表現することができるようになったかな。
本作のヒナ(雛太)も、相手の立場に立って一度引くというのが出来ず、自分が一度無理だと思ったら無理、と思いこむ性格です。そんなヒナがエチカという、自分とはまるで違う人間と出会ったことでどう変わっていくか…というのが、見どころの一つかもしれません。
中学や高校の頃って、いろんな人に影響されますよね。自分が正しいと思っていたことを正しくないと言う人もいるし、正しいけどやり方がよくないと注意されることもある。そんな経験を経て、大人になってゆく。ヒナはちょうどその成長のただなかにいて、変わっていく部分もあるし、自分を曲げない強さも持っています。そこを意識して、単純脳だけど情にあつい、そんなヒナの良さをお見せできれば、と思っています」
―― 一つの成長物語でもあるのですね。
「そう思いますね。おせっかいなところもあるヒナと、(天才肌だけど)転校前の学校で裏切られたり、家庭環境にも問題のあったエチカが凸凹コンビとして一緒にいることで、ヒナは気づかされることがあるし、エチカも、いつもは自分は勘違いされるタイプなのに、ヒナがこんなに信頼してくれる…という発見があって。そんな二人の成長ドラマでもあるのかなと思います」
――ネタバレになってしまうので詳しくは言えませんが、ラストのナンバーで“今を生きること”の大切さを語りかけているのが、ミュージカル版ならではですね。
「どの世代にもあてはまるメッセージだと思います。多くの人にとって、高校時代というのは、五感をフルに使っていろんなことを感じた3年間だと思います。だからこそ、高校時代に聴いていた曲って、ずっと後になって聴くと懐かしかったり、いろんなことを思い出せたりしますよね。そんな体験がある大人たちから、今の高校生たちに向けて“今この時を大切に”と語り掛けている曲なのかな、と思います。
いっぽうでは、社会人に向けてのメッセージも含まれていると思います。最近、“25歳過ぎたらあっという間だな”なんて言いながら目標無く生きてしまう人が多いと言われますが、彼らは仕事に慣れて、人生のアップダウンが緩やかになったことで、“なんとなく”時間が過ぎているように感じてしまっているのかもしれません。そんな人たちに、“(目標を持って)いろんなことに挑戦してみようよ”と語り掛けているような気もするんです」
――どんな舞台になったらいいなと思われますか?
「もちろんミステリーではありますが、10代の学生たちの話ですので、エネルギッシュにやりたいですね。僕らのそんな姿を楽しく観ていただいて、元気になって帰っていただけたら嬉しいです」
――プロフィールについても少しうかがわせてください。小野塚さんは当初、歌手を目指していらっしゃったのが、EXILEのダンススクールに通うようになったのですね。
「歌手というより、EXILEに憧れていて、自分もこうなりたいなというところから、スクールに通うようになったんです。そんな中で、人生にはいろんな選択肢があることを理解していたほうがいいよ、俳優という道もあるよと助言してくれる人がいて、そういう方向もあるのか、と思うようになりました。ずっとEXILEに入ることしか考えていなかったのが、この一言で俳優を目指すようになったんです」
――やってみて、演じるということの楽しさに目覚めたのでしょうか。
「はじめは恥ずかしくて、楽しくなかったです(笑)。でも、アンサンブルとして舞台に出させていただいたときに、カーテンコールで拍手をいただき、この感覚、この景色は最高だな…と思いまして。お芝居、そしてエンタテインメントが自分の気質に合っているんじゃないかと感じました。
そこから、いろいろ回り始めました。高校生の頃は、大学を卒業して公務員として体育の先生になるという選択肢もあるなと思っていましたが、やっぱりぴんと来なくて。もともと人と違うことをしたいなと思うタイプで、社会に出たいという気持ちが強かったです」
――いろいろな分野で活躍される中で、小野塚さんにとって“ミュージカル”はどんな場でしょうか?
「(根本的に)ミュージカルであっても、ストレートプレイであっても、芝居をすることには変わりないけれど、表現の仕方が違って、今も勉強中です。自分のポテンシャルの中で、たまたまこれまで歌をやってきたので、ストレートプレイの勉強を踏まえた上で、他のミュージカル俳優さんがやらないようなことも、うまく(表現の中に)落とし込めるといいなと思っています。ストレートプレイにはストレートプレイの良さがありますが、ミュージカルだと、歌うことでこんなに世界観が伝わるものなんだと感じることが多いです。ライブのような感覚があるのも魅力ですね」
――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「自分のゴールについて無茶苦茶考えたのですが、その答えは出ませんでした。だからこそこの仕事をやっているのかな、と思います。興味のあるものはいっぱいあって、映画もドラマも、ストレートプレイもミュージカルもやりたい。その時、自分が“これをやりたい!”と思った時にやれるのが、一番贅沢なことなんだろうと思います。ミュージカルをやりたいと思ったら、やれる。呼んでいただける。それが表現者として一番幸せなのかな。一つのことだけでなく、“全部やってやる!”という気持ちを持ち続けたいです。欲張りなのかもしれません(笑)」。
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 『ルームメイトと謎解きを』11月18~26日=サンシャイン劇場 公式HP
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