シェイクスピアの名作戯曲をフレンチ・ロック・ミュージカル化し、世界各国で愛されている『ロミオ&ジュリエット』。2011年から数えて6演目となる今回の日本公演で、(内海啓貴さんとのダブルキャストで)ベンヴォーリオを演じるのが石川凌雅さんです。
主人公ロミオの幼馴染で、キャピュレット家、モンタギュー家の終わらない争いに辟易し、ロミオのため尽力しようとするベンヴォーリオ。偶然にも昨年、ストレート・プレイ版の『ロミオ&ジュリエット』でもこの役を演じている石川さんに、本作が投げかけるもの、そして再びベンヴォーリオを演じるにあたっての思いをうかがいました。
もしベンヴォーリオが登場しなかったら、もっと醜い結末だったかもしれません
――石川さんはストレート・プレイ版『ロミオ&ジュリエット』でもベンヴォーリオを演じられたそうですね。
「そうです」
――『ロミオ&ジュリエット』という作品の理解度も深くていらっしゃると思います。
「もちろん全部を知っているわけではないですし、座組や演出によっても全然変わってくると思います。だからからこそいろいろなところでこの作品が上演されているのでしょうね。
今、世界のあちこちで戦争や紛争が起きていて、SNSでそういった情報を目にしては悲しくなるし、世の中に“愛”が不足してるのかなと感じます。
『ロミオ&ジュリエット』は大きな意味で、“愛の力”をわかりやすく示しているので、愛が足りていない世間に対する一石のような作品なのかな、ととらえています。いつの時代も変わらないテーマであるし、生きる上で必要なものは“愛”なんだぞ、という作品なのかな…という印象を受けています」
――ベンヴォーリオという役について、ストレート・プレイとミュージカル版での違いを感じますか?
「どうでしょう。というのは、僕が出させていただいた『ロミオ&ジュリエット』では、ベンヴォーリオはマーキューシオが亡くなってから登場しなかったんです。後半に(ジュリエットへの)手紙を渡しに行く役目も、違うキャラクターが担っていました。
ベンヴォーリオは、どうしたら目の前の問題を解決できるか考えているキャラクターですが、演劇版よりミュージカル版では、それがより貫かれていると思います。ソロ・ナンバーでもそこが表現されていて、ベンヴォーリオがこういう気持ちだったということが、よりわかりやすく呈示されている気がします」
――ベンヴォーリオははじめ、“ここ(両家が対立する世界)に生まれたからにはたたかう”というスタンスだったのが、いつしか“このたたかいは止めなくてはいけない”というふうに変わって行きますね。
「きっと人が傷つくのが耐えられないというか、血で血を争う、そういうことが最善だと思えない性格だったのでしょうね。もしベンヴォーリオが登場していなかったら、この物語はもっと醜い結末になっていたかもしれないと思います。ベンヴォーリオの持って生まれた気質として、そもそもが争いを受け入れたくない、というものがあったのではないかな。
冒頭の台詞にしても、全面的に相手を制圧しようという意味だったのか。仲間のためなら立ち上がるけど、暴力で解決するのではなく、話し合いやふるまいで解決できるものがあるのでは、と考える性格なのではないかな、と思います」
――“大人”なのですね。
「すごく大人だと思います。ひょっとすると、両家のお父様お母様より大人なのかもしれません。“こうでなければ”という理想を追い続けた人、というか。両家の正義はどちらも尊重できるものだと思いますが、その二つがぶつかると、誰かが悲惨な目に遭う。それよりも理想を追い求めようとしたのがベンヴォーリオなのではないかな」
――ある種、政治家の資質もありますね。
「そう思います。自分の正義よりみんなの理想というか。“こうであってほしい”と一番願っていた人物のような気がしています。でないとあんなに悩むことはないと思うんです」
――その一方で、ロミオのお母さんから気安く“ロミオはどこなの”と話しかけられる様子からすると、大人たちから可愛がられているようですね。
「そこも上手なんです(笑)。スマートで、視野の広い人物なような気がしています」
――前作、今回と二度もベンヴォーリオにキャスティングされるということは、石川さん自身、このお役に近い方なのかも⁈
「僕はベンヴォーリオに憧れています。視野も広くて勇気もあって、感情が優先しそうなときに、ブレーキをかけられるというところに憧れます。似ているというより憧れです。どういう基準で僕を選んで下さったのかわかりませんが…でも、やっぱり似てると言ってもらえたら嬉しいです」
――今回はミュージカルなので、全編に音楽が加わります。
「僕が芸能活動をするきっかけになったのも、グループのオーディションを受けたことだし、演じることより音楽活動の時間のほうが長いこともあって、今回歌えることはすごく楽しみです。ただ、ミュージカルの歌唱で求められる質はものすごく高いので、その意識はしています」
――前半にはノリノリのナンバー「世界の王」を、ロミオやマーキューシオと歌いますね。
「自分はモンタギュー家を背負っているということに重きを置いて、歌い上げられたらと思います。(ナンバーの気持ちよさに流されず)役としての気持ちを持ちながら歌っていけたらなと思っています」
――後半にはロミオを助けたいもどかしさを歌う大曲「どうやって伝えよう」があります。
「すべてを出し切りたいですね。役者として、からからになるまで全部出し切りたいです。エネルギーを込めて歌い上げたいです」
――ご自身の中で、テーマにされたいことはありますか?
「柔軟性というものを大事にしたいです。本作の登場人物はそれぞれ、いろんなものにがんじがらめで、こうしなきゃというものが強かったりしますが、その中で一番柔軟に行動したり考える。そういうふうに演じられたらなと思っています」
――どんな舞台になるといいなと思われますか?
「3年前に黒羽麻璃央さん、甲斐翔真さん主演の『ロミオ&ジュリエット』を観させていただいたのですが、劇場から出る時にぱっと明るくなるような気持で出られたので、お客様にもそうなっていただけるような舞台になればと思います。悲しい話ではあるけれど、悲しみで終わらないというか、何か“気づき”みたいなものを受け取っていただけたらと思います」
いつか“背中で語る芝居”ができたら
――プロフィールについても少しうかがわせてください。今回、ぜひお話をうかがいたいと思ったきっかけが、昨年末の明治座での「るひま」の舞台でした。特に意志のこもった目の演技が素晴らしく、きらりと光るものをお持ちでした。
「『るひま』では、本読みの時、スタッフの皆さんが作品に対する思いや愛を、言葉より態度で示している姿を見て、本当に愛されているシリーズなのだな、それでこそ13年続いているのだなと体感しました。
ここで自分が出来る事って何かなと考えた時に、ああしてみたい、こうしてみたいというものを全部詰め込んでみようと思いました。まずは僕も好きになろうと考え、この役ならこうなんじゃないかなと考えながら全力で挑んだのが大きいかもしれません。演出の原田(優一)さんも“るひま”に対してすごく愛を持っているので、そういう方に対して僕も愛で応えたいし、(初出演だからと)恐縮するのは失礼だなと感じたので、自分をさらけ出して行ったら、受け入れていただけました」
――もともとアーティストとして活動していた石川さん。演技を始めたときには、どんな表現をされたいと思われましたか?
「演技だからこう見せたい、というのはなかったです。方向性は変わっていません。でも、出来ることは役者をやるようになって増えた気がします。
僕はもともと、ギターを弾いたり絵を描いたり、表現することが大好きでした。こういうふうに表現したいなというのは昔から変わっていなかったけれど、役者をやることで全部開放できるし、受け入れてもらえるという気がしています」
――演技のどんなところに楽しさを感じますか?
「発散できることですね。単純に、大きな声を出したり、“お前が好きだ”みたいに、人前で一度言ってみたかった台詞を恥ずかしげもなく言えるので(笑)、一つの発散になります。演技だから許されるところに魅力を感じますね。
活発な役が好きですが、今後やってみたい役どころとしては、たとえばヒットマン。寡黙なタイプもいいと思うし、“お前行ってこい”といわれて乗り込んでいって、一番最初にやられる舎弟もいいかな(笑)。
いっぽうでは、お父さんやおじいちゃん役にも憧れがあります。今この一瞬、一瞬に全力で向き合っているので、先のことは想像できないけれど、長く続けて、いずれ何年も経った時に“渋さ”で見せていく…背中で語る芝居が出来たらな、と思っています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』5月16日~6月10日=新国立劇場中劇場、6月22・23日=刈谷市総合文化センター、7月3~15日=梅田芸術劇場メインホール 公式HP
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