ロアルド・ダールの児童文学『マチルダは小さな大天才』を、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが舞台化。2010年の初演以来、各国で人気のミュージカルが、遂に日本で開幕します。
能力を秘めながら家族の愛に恵まれなかった5歳のマチルダが、良き理解者に出会い、監獄のような世界に仕返しをしてゆく物語の中で、マチルダの不幸の原点とも言える“毒親”、ミセス・ワームウッドを(ダブルキャストで)演じるのが、大塚千弘さん。これまで演じたどの役とも異なるという強烈なキャラクターにどう挑んでいらっしゃるか、マチルダの“才能の開花”に思うことなど、楽しくお話いただきました。
――今回のミセス・ワームウッド役は、大塚さんが昨年『スラムドッグ$ミリオネア』で演じた弁護士役とは、かなりのギャップがありますね。
「そうですね(笑)、とにかくこれまでの役とは違います。救いようのない、悪い人ですね(笑)。
悪いとは言っても、少しはいいところがあるんじゃないかな~と思っていましたが、演出補のジョセフ・ピッチャーさんいわく、ミスター・ワームウッドは最後にちょっと救いがあるけれど、ミセス・ワームウッドには一切ないそうです。私たちが出ているシーンは毒が強くて、とにかく騒がしいし私たちが意地悪していて攻撃的なので、初めてラストシーンの稽古を見たときは“別の作品なのかな?”というくらい、心が癒されました(笑)」
――ミセス・ワームウッドは実の子のマチルダを、なぜこんなにも愛せないのでしょうか?
「私もそう思っていました。ジョーさんから言われて腑に落ちたのが、自分は“女の子たるもの、メイクにせよヘアカラーにせよ、ルックスに気を遣わなければいけない!”という主義で生きているのに、マチルダはそういう方面に全く興味がなく、読書ばかりしているというのが理解できないし、宇宙人並みに怖い。大きくなったらこの子に攻撃されるのではないか、という心理があって、だから上から押さえつけようとしている、というのです。
根本的に自分のことしか考えていないところもあって、マチルダを出産した日が“我が人生最悪の日”とも言っています。そこが一番のキーポイントで、本当に大切なものに気づかないお馬鹿さんですね(笑)」
――自分とは違うとはいえ、まだマチルダは5歳。母としてお洒落方面に導いていくことも出来たかもしれませんが、“怖い”と思ってしまったのですね。
「彼女が生まれた時から、ミセス・ワームウッドはその存在自体が嫌なんですよね。子供は一人産んでいるからそれで十分だと思っていて、自分の中から別の誰かが生まれてくるということに嫌悪感があるようです。それに時間は自分のもの、子供の為になんか使いたくない!とも思っていますね」
――ミセス・ワームウッドには“Loud”(騒々しく、声高にといった意)というナンバーがあります。社交ダンスのパートナーも登場するので、華やかなビッグナンバーになりそうですね。
「すごいサルサを踊ります!彼女はアマチュアのダンサーで、マチルダを妊娠したのも社交ダンスの世界選手権の準備中でした。といってもそれほど上手なダンサーではないのですが、このナンバーでは頭の中の想像で、めちゃくちゃかっこいいダンスをする、という設定です。なので、オーディションに受かった時から“ダンスを練習しておいてください”と言われ、8か月くらいダンス・レッスンに通いました。華やか…というか、とにかく激しく踊ります。こんなに体力使う?というくらい、大変な役ですね(笑)」
――このナンバーで、ミセス・ワームウッドは“頭はoff、心はon”と歌いますが、これは彼女の信条でしょうか。
「頭で考えるのではなく、心で感じたものをわーっと出さないとダメだと思っている、単細胞な人間なんですよね。相手を打ち負かす、攻撃するしか能がないというか。だから夫妻は常に“どちらがマウントをとるか”で喧嘩ばかりしていて、それで成り立っている夫婦なんです」
――よくぞこの夫婦にマチルダが生まれた、という…(笑)
「ミラクルですよね(笑)。そういう夫婦にすごい才能の子が生まれてきちゃうんですよね。才能って、持ってうまれたとしても、それに周りが気づくというのはものすごく大変なことだな、と私も子供を持ってみて思います。とにかくいろんなことをやらせてあげるしかないのかな、と。
例えばもうすぐ2歳のうちの子は、今はサッカーが好きで、休みの日にグラウンドに連れて行くとドリブルしまくるんですよ(笑)。ずーっと、集中が途切れずボールを蹴って蹴って、ゴールを見るとシュートしにいくんです。もしかしてこれが本当に才能だったらサッカーを続けさせてあげよう、と思っていますが、ワームウッド夫妻はとにかく自分たちが一番なので、マチルダの才能なんて気にもとめないし、本を読んでいることが気持ち悪いんですよね。お話聞かせてあげようか?と娘が言うと“気持ち悪いこと言わないで”とまで言っちゃう。凄い台本だな、と思います」
――4人のマチルダ役との共演はいかがですか?
「小さいお子さんとお芝居をすることがこれまであまり無かったので、10歳くらいの女の子ってしっかりしているんだなと感じますし、長い台詞も覚えてブルガリア語も話して、歌って踊ってと全てこなしていて、尊敬します。マチルダ役なので4人とも芯が強いけれど、個性はそれぞれ違いますね。まだ沢山お話した事は無いけれど、稽古場で見ている限り、さくらちゃんはちゃきちゃきしていて、みのりちゃんはのんびりやさんというか、ほんわかしています。ののかちゃんとみらんちゃんは舞台歴があることもあって、しっかり者ですね」
――どんな舞台になるといいなと思われますか?
「私は小学生の時に図書室で原作を借りて読んだ記憶があるのですが、その時は、“超能力”が出てくるところに憧れていました。目の力でモノを動かせたら(意地悪をされても)仕返しできるじゃないですか(笑)。
でも今、大人になってこの本に触れると、こんなにも個性を持って生まれて、みんなから“違う”と言われて理解されないマチルダが、自分の思いを貫く、芯の通った子であることに驚かされますし、いわゆるシンデレラ・ストーリーではなく、自分で未来を切り開いていく物語という点に、同じ女性として惹かれます。
日本では、それがある種の文化なのか、周りを気にしたり、“少数派の意見だ、どうしよう”と思いがちですが、皆と一緒でなくてもいいし、それを分かってくれる人も視野を広げればいるんだ、と勇気をもらえる作品です。今回の舞台版は音楽の力もありますので、さらに皆さんの背中を押してくれるものになっていると思います」
――近年のご活躍についても少しうかがわせてください。『スラムドッグ$ミリオネア』では、登場するだけで事態が好転しそうな信頼感溢れる弁護士役でしたが、どんなことを感じながら演じていらっしゃいましたか?
「インドを舞台にした作品は、難しいですね。インドの貧困問題について、映像資料を観たり、(演出の瀬戸山)美咲さんと勉強して臨みましたが、お客様はどれくらいスラムの過酷な環境をご存じかなと思いつつ、とにかくお客様にお伝えできれば…という思いで演じていました。私が演じたスミタはそんな逆境から、しかも男尊女卑のある国で弁護士として道を切り拓いた人なので、強く、聡明であろうと思いながら演じました」
――最後のしっとりとしたナンバーも素敵でした。
「最後にスミタが思いを吐露するナンバーでしたね。映画版のラストはボリウッド映画のような華やかさでしたが、舞台版は原作に基づいていて、違いに驚かれた方もいらっしゃったかもしれません」
――その一つ前に出演された『笑う男』では、主人公に惹かれるジョシアナ公爵役。強烈なお役でしたね。
「産後初の仕事にしてはけっこう重い役でした。衣裳も重かったですが(笑)。これまで貧しい子だったり、幸薄い役が多くて、あんなに豪華な衣裳を着たことがなかったんです。ここに来て、傲慢だったり罵ったり、虐める側の役が増えてきて、人生の転換期ですね。40代で“かわいそうなヒロイン”はできないので、演技の幅を広げるチャンスとして、虐める側もとことんやります(笑)。今回の『マチルダ』でも、ちゃんと悪者がいないとマチルダが戦えないしこの作品が成立しないと思っているので、良心のかけらもなく(笑)演じようと思います」
――どんな表現者でありたいと思っていらっしゃいますか?
「意地悪な人物から優しい人まで、いろいろなキャラクターを幅広く演じられたらと思います。いろいろなものを見たり、触れたりすることで人間的にも幅を広げるよう努めています」
――今後の大塚さんのご活躍、そしてお子さんの才能の開花を!楽しみにしております。
「ありがとうございます(笑)。私たちもFIFAサッカーワールドカップをTVで見ながら、うちの子もいつかここに行くんじゃない?と勝手に言っていまして(笑)。将来、彼の活躍があるかもしれませんので、宜しくお願い致します(笑)」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 Daiwa House presentsミュージカル『マチルダ』3月22~24日プレビュー、3月25日~5月6日=東急シアターオーブ 5月28日~6月4日=梅田芸術劇場メインホール 公式HP
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