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『ブラッド・ブラザーズ』堀内敬子インタビュー:“肝っ玉母さん”の愛情深さ、力強さ

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堀内敬子 東京都出身。劇団四季在籍中『アスペクツ・オブ・ラブ』『美女と野獣』『ウェストサイド物語』『エビータ』『ユタと不思議な仲間たち』等でヒロインを演じ、退団後は『レ・ミゼラブル』『アナスタシア』等の舞台に出演する傍ら、映画『THE有頂天ホテル』、TVドラマ『エール』に出演するなど映像でも活躍している。写真は『ブラッド・ブラザーズ』より。撮影:岩田えり

 

双子であることを知らずに育った少年たちの数奇な運命を描く『ブラッド・ブラザーズ』。1983年の初演以来世界各地で愛され、今回久々に日本で上演される本作で、少年たちの母・ミセス・ジョンストンを演じるのが堀内敬子さんです。

劇団四季時代には『美女と野獣』『ウエストサイド物語』等、様々な作品でヒロインをつとめ、退団後は『パレード』『アナスタシア』等で新境地を拓いている彼女ですが、今回のミセス・ジョンストンもこれまでにないタイプの役柄。演出の吉田鋼太郎さんはじめ豪華な布陣でどのような舞台が立ち上がりつつあるか、じっくり語っていただきました。

【あらすじ】1960年代前半のリバプール。子だくさんのミセス・ジョンストンはさらに子を授かるが、妊娠中に夫に捨てられ、お腹の子が双子であることを知り、途方にくれる。家政婦として働いていたライオンズ家でミセス・ライオンズにこぼしたところ、子のない彼女は“一人譲って”と提案。毎日、仕事の合間に会えるならとミセス・ジョンストンは承服するが、出産後、契約通りに一人を渡すと、警戒した夫人によって解雇されてしまう。

時は過ぎ、7歳のミッキーは裕福な地区に住む同い年の少年、エドワードと知り合い、意気投合。実は生まれてすぐ引き離された双子であることを知らずに義兄弟の契りを交わすが、彼らの接近を知ったミセス・ライオンズによって仲を引き裂かれる。ジョンストン家はある事情で移住を余儀なくされ、彼らが引越した先には…。

“何が起こるか分からない”今だからこそ
心にぐっと刺さる作品だと思います

 

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『ブラッド・ブラザーズ』撮影:岩田えり

 

――今回演じるミセス・ジョンストンは、堀内さんにとってはこれまで演じたことのないタイプの役柄ではないでしょうか?

「そうかもしれませんね。映像では“貧乏なお母さん役”を演じることはけっこうありましたが、ここまで言葉遣いの荒いお母さんはなかったので、そのあたりは少し苦労しました(笑)。歌うキーも低いし、パンチのある役柄で、今まであまりなかった役柄だと思います」

――本作のことは以前からご存じだったのですか?

「劇団四季在籍中、『ジーザス・クライスト=スーパースター』のロンドン公演(1991年)に参加した時、現地ですごく人気があったのが『ブラッド・ブラザーズ』でした。私は観ることが出来なかったのですが、周りの仲間は沢山観に行っていましたね。日本初演がすごく話題になっていたのも覚えています」

――では出演が決まられて作品と向き合ってみての印象はいかがでしたか?

「まずCDを聴いたのですが、ナンバーが多くて、どれもパンチがあって大変だな…と思いました。だけどどの曲もとにかく素晴らしいんです。

少し前まで、日本では貧困の問題は多くの方には身近な問題として伝わりにくかったかもしれませんが、コロナ禍や紛争が起こっている今、世の中は何がいつどうなるかわかりません。そんな中でこの作品で描かれていることはぐっと心に刺さるのではないかと思います。私にとっては“いい作品に出会う”ことが何より大事なので、そこに参加させていただけることが大きな魅力でした」

――ある家族の悲劇を、ナレーターが運命論的に語ってゆく形式で、興味深い構造ですね。

「作品が何を伝えているか、私個人が”これ“という感じで打ち出してはいません。役柄を通して貧困の問題は見せたいけれど、俳優がそれぞれにキャラクターを生きることによって、作品が形作られる。それに対して、お客様がそれぞれに感じて下さればと思います」

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『ブラッド・ブラザーズ』撮影:岩田えり

 

――ではミセス・ジョンストンの人物像について具体的にうかがえればと思いますが、彼女は25歳にして7人の子持ち、そしてまたお腹に子供がいる…ということで、なかなかの“肝っ玉母さん”ですね。

「そうですね。私の知り合いに、同年代で5人の子のお母さんがいるのですが、子育てのことを聞いても“わからない、覚えてない”と言うんですよ。子宝に恵まれて、生まれては育てて、あっけらかんとしている。身近に彼女を見て、そういうお母さんっているんだなと感じて、参考にさせていただいています」

――子育ては一人でも大変ですが、それが7人も8人も…。想像を絶します。

「よく、離婚は3回目からは大したことでなくなる、と聞きますが、そういう感覚と似ているのかもしれませんね(笑)。一人、二人というところの人数の違いは大きく聞こえるけど、三人目からはあまり変わらなくなってしまうのかもしれません」

――“お金が入ったら贅沢しよう”“(通信販売の)カタログ見よう”といった歌詞・台詞から、楽観的な方であることもうかがえますね。

「そこがこの人のダメなところで、つい買っちゃうのでしょうね(笑)。人間らしくて、なんだかいいですよね。彼女としては借金なんてダメ、とわかっていながら、子供にせがまれてそういう方向に流れてしまう。愛情の深さということもあるのだと思います」

――“テーブルに新しい靴を乗せると不吉”と、迷信に対して敏感な側面もあるようですね。

「いろいろな迷信を信じているし、義理堅いというか、約束を大切にする人ですね。だからミセス・ライオンズに“毎日会えるから”と言われて双子のうち一人を渡した後も、当たり前の権利だと思って赤ちゃんに接します。“約束は約束”という感覚が強いのでしょう。なので、その後離れ離れにならざるをえなくなると、悲しいというだけでなく、怒りの感覚もあると思います」

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『ブラッド・ブラザーズ』撮影:岩田えり

 

――終盤、ミッキーが叫ぶ、あの台詞は母親としては、立ち直れないくらい衝撃的に聞こえるような気がします。実際ミセス・ジョンストンとしてはいかがでしょうか?

「日によって変わります。とても悲しい時もあれば、“仕方がなかった…”という時もあって、それはそれでいいのかなと思っています。とんでもなく苦しいことではあるけれど、その背景には貧困というどうにもならない事実があって、ジョンストンの力強さを考えると、泣くというより“仕方ないじゃないか”というものがあるような気もしています」

――拝見する日のその瞬間、堀内さんのミセス・ジョンストンがどう見えるか、楽しみです。

「御覧になる方の中には、実際に子供のいる方もいれば、そうでない方もいらっしゃるので、必ずしもそこで響くということもないと思っています。それぞれにいろいろなことを感じていただければと思います」

――稽古の手応えはいかがですか?

「既にかなり通し稽古をこなしていて、体に入ってきています。そういう意味ではいつもよりかなりハイペースに感じますが、まだこれから何があるか、例えば誰かがコロナに感染するかわかりませんので、油断はできません。皆で最大限、出来ることを積み重ねています」

――柿澤さんから、今回はベテランの方も多いけれど全員が満足することなく、もっといいものを目指していらっしゃるとうかがっています。

「(吉田)鋼太郎さんが最初にエネルギッシュにひっぱって、パワー全開でやるというところにもっていって下さったので、今はそこから細かいところを修正する段階に入っています。よりよいものにするための、通過点なのかなという感じで、皆がいいものに向かおうとしている感じはすごくありますね。若いわけではないので(笑)、やみくもにやるという感じではないです。いろいろな経験を積まれてきて、言われたことをやれる方が多いと思います。ふつうは何人かはすぐに出来ない方もいて、引き上げる作業があったりしますが、そのあたりはレベルが高いです。でもそれに甘んじない気持ちを皆さんが持っていて、かなり出来上がっているけど、もう一つ何か、突き抜けるものがありそうで、皆で探っているところです」

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『ブラッド・ブラザーズ』撮影:岩田えり

 

――堀内さんのジョンストンについて、吉田さんからどういうものを求められていると感じますか?

「私だけでなく全体的に、ミュージカルに対する違和感を無くそうとしてくださっています。それがうまく作用するといいなと思っています」

――例えば、ミュージカルについてよく言われる“突然歌いだす”ということについてでしょうか?

「そうですね。ただ、台本上、段階的に台詞から歌に切り替わるものもあれば、構造的に突然歌いだすものもあるので、そのへんがどこまでうまくいっているかわかりません。でも、いつもよりはそういった違和感が少ないかもしれないです」

――(堀内さんの出身である劇団四季の)浅利(慶太)さんも吉田さんも、ストレート・プレイが原点。演出について、共通するものを感じますか?

「言葉を大事にするところは共通しています。結局、お芝居というのは言葉なんだ、みんなが言葉を大事にしていると感じられるのはいいことなんだ、と感じます。鋼太郎さんの場合、そこに演技が入ってきて、歌だけでなく演技もクリアできていないとダメだという感じがあります。浅利先生とはまた違った感じでいいなと思っています。

鋼太郎さんは(サミー役で)初演から再再演まで出演されていたので、当時の演出家の方の言葉が入っていらっしゃるし、それを踏まえた上で今回の作品作りになっていると思います。なので信じてついていける感じがものすごくあります。鋼太郎さんがいいと思う『ブラッド・ブラザーズ』を目指していきたいです」

――では最後に、今のこの激動の世界の中で、改めて芸術の価値について、感じることはおありですか?

「世の中のことに関しては怒りのような感情など、自分の中で色々と思うこともあります。でもこのパワーをどうしたらいいかというと、今取り組んでいる作品にぶつけるしかないんですよね。

ニュースで、国境の町でピアノを弾いている方の映像を見ると、やっぱり芸術は人間にとって大切なものなんだと感じられるいっぽうで、生きるために必須ではないのかもしれないという葛藤を抱きながら私たちもやっていますが、観て下さる方にパワーをお渡しできるという意味では、芸術には価値があると実感しています。観に来てくれた方々に、どうか楽しんでいただけたら。そんな気持ちでいっぱいです」

(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『ブラッド・ブラザーズ』3月21日~4月3日=東京国際フォーラム ホールC その後愛知、久留米、大阪で上演 公式HP
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