大人気漫画『鬼滅の刃』を末満健一さんの脚本・演出、和田俊輔さんの音楽で舞台化し、2020年にシリーズ1作目が上演された舞台『鬼滅の刃』が、第4作にあたる最新作を上演。今回、竈門炭治郎たち鬼殺隊の前にたちはだかる鬼、堕姫(だき)を演じるのが佐竹莉奈さん、妓夫太郎(ぎゅうたろう)を演じるのは、遠山裕介さんです。
ミュージカル・ファンにはお馴染みのお二人に、多くの人々から愛される本作の魅力を、じっくりお話いただきました。( ※取材は10月中旬に実施されました)
正義と悪、どちらにも感情移入できる深い描写
――お二人は以前から『鬼滅の刃』に触れていらっしゃったのですか?
佐竹莉奈(以下・佐竹)「私はテレビアニメ版を観て、遊郭編は映画館の大きな画面でも観ました(ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ)。今は漫画の方を読んでいます」
遠山裕介(以下・遠山)「私もアニメから入りましたが、はじめは“ブームには乗りたくないな”と思いまして(笑)。落ち着くのを待っていたけど、ますます人気が高まるばかりだったので、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が上映された頃に観始めました。案の定、その時点でアニメ化されている話は一気に観てしまいました」
――『鬼滅の刃』がこれだけ多くの人に愛されている理由を、どうとらえていらっしゃいますか?
佐竹「直感でお答えしますが、近年はどこにもぶつけられない気持ちを抱えている人が少なくないと思います。私もその一人として、正義と悪が闘うこの作品には、観ていてスカッとするものがありました。暗い描写もありますが、観ていてすごく励まされる部分があって、時代的にもツボにはまる作品なのかなと感じています」
遠山「炭治郎の家族愛に胸打たれる人もいると思うし、鬼が鬼になるまでの背景がしっかり描かれているのも大きいと思います」
佐竹「どちら側にも感情移入できてしまうんですよね。観ていていろいろなところで、 もやもやが晴れて行きます」
遠山「特に今回の遊郭編はそうですね。妓夫太郎と堕姫の兄妹を見ていると、私も双子の兄弟がいるので、“小さい頃からいろいろあったけど、彼がいたから一緒に乗り越えられたんだな、話せる相手がいるって最強だな”、と痛感します。だから最後の回想では、思わず号泣してしまいました」
佐竹「それぞれのキャラクターが深いところまで描かれていて、引き込まれるんですよね。遊郭編は特に、鬼の背景が深く描きこまれているような気がします」
――花魁として潜んでいた堕姫はしばしば、他人に向けて「不細工」という言葉を吐きますが、最後まで見るとその理由が見えてきますね。
佐竹「そうなんですよ~。もともと彼女に、人を美醜で区別するという価値観は無かったけれど、それにしがみつかないと生きていけなかった。それだけ、この兄妹は壮絶な環境の中で育ってきたんです」
遠山「ごめんね、その価値観は妓夫太郎が教えたものかも…(笑)」
佐竹「お兄ちゃん!(笑)。
でも、堕姫はお兄ちゃんに対しても、暴言を吐いたりするんですよ。これって、“甘え”なんでしょうね。自分が愛してることは伝わっているはずだから、これくらい言っても大丈夫でしょ、という感覚は、私自身、家族につい思ってもいないことを言ってしまったりするので、すごくよくわかります。(鬼ではあるけれど)人間くさいキャラクターなんですよね」
オーディションでは“そのアクション、やり続けて下さい”と(笑)
――お二人はオーディションでこの役に決まったそうですが、受けるにあたって何か準備されたことはありましたか?
佐竹「歌、台詞、アクションと盛りだくさんのオーディションで、かつ時間があまりなかったので、とにかく課題を体に入れ込むのに必死でした。
台詞に関しては、ちょうどそのころ実生活でちょっとリンクすることがあって、その感情を活かしながらすっと覚えることができたのですが、アクションが課題だなと思いまして。知り合いのアクションの先生にお願いして、当時他の作品の稽古期間だったのですが、深夜にスタジオで教えていただきました」
遠山「アクションは事前に映像で課題をいただいていたので、回し蹴りのような動きをひたすら繰り返して練習しました。
当日は課題の動きを10手くらい、一通り見て頂いて、これで終わった~と思ったら、“やり続けて下さい”と言われまして(笑)。“OKです”と言われるまで、繰り返しました」
佐竹「妓夫太郎は動き、激しいですからね…」
遠山「体つきに関しては、『キンキーブーツ』の時に筋トレをめっちゃやっていたんですよ。妓夫太郎もすごい体なので、いつもより多めに筋トレして臨みました。オーディション会場に入る直前にもやったくらい(笑)。
歌唱審査では、バラードを歌ったんです。“その曲を妓夫太郎っぽく歌ってみてください”と言われて、暗~い感じで♪いつ~も一人で生きて行く♪って。その後に“闘う系の曲、歌えますか”と言われて、何か知ってるかな…と一生懸命思い出したのが『北斗の拳』。それが決め手になった…のかもしれません(笑)」
人間の力を結集して“そう来たか!”と思える表現が続出
――舞台版ではどのように闘いが表現されるのか、多くの方が気になるところかと思いますが…。お二人とも、アクションは激しいものになりそうですか?
佐竹「漫画だと確かにアクションは多いのですが、アニメ版をよく観てみたら、堕姫が闘っている時は、彼女の体というより帯が動いている印象が強かったんです。オーディションではアクションの審査もあったけどもしかしたら今回、それほど動かないのかもしれないと思いました。
でも稽古が始まってみると…、やっぱり私もめちゃくちゃ動くことが判明しまして(笑)」
遠山「演出の末満さんが、“演劇ならではのことをやりたい”とおっしゃっていて、凄いものになっているね」
佐竹「キャストとスタッフ、みんなで力を合わせて作っています。帯が動くところでも、私自身感動してしまうくらい、描写が細かいんです。私は折り紙や、空間図形的なものが苦手なので、一本目の帯がこうなって二本目はこうなって…と作っていくことに、はじめは脳みそが追いつかなかったのですが(笑)、だんだん形が見えて、みんなの息が合ってくることもわかって。絶対表現できないと思っていたことがこんなふうに表現できるんだ、というのが毎日更新されてきています」
遠山「(テクノロジーの進んだ今は)全てプロジェクションマッピングで表現できそうなのに、人間の力を合わせて“そう来たか!”という表現が次々出てきます」
佐竹「“不可能への挑戦”ですね」
――妓夫太郎は鎌を駆使するのですよね。
遠山「彼は殺陣をきっちりやるというより、素早い動きが特徴的なので、残像が印象に残るよう、鎌さばきを練習しています。妓夫太郎の子供の頃の遊び道具が鎌だったというのが納
得できるほど、自在に操れるようになりたいですね」
佐竹「見ていると、何が起きてるかわからないくらい早いです。(遠山さんは)もともとダンサーさんだから、さばき方が本当に凄いんですよ。私だったら(習得に)5年くらいかかりそうな技も、(遠山さんは)すぐ出来てしまって。あんな動きが出来る人、そうそういないです」
遠山「教えて下さる方も感心してくださったのですが、僕はそこから伸び悩むタイプで(笑)。でも、これから新たに二つ必殺技をつけていただくので、楽しみです」
――本作は“ミュージカル”ではないものの、要所要所に歌が登場しますね。
佐竹「どの曲をとっても、本当にかっこいいです。オーディションの課題曲になっていた(本シリーズの代表曲)『残酷謡』を聴いて改めて“絶対に出たい!”と思ったほどです。役の気持ちに沿って音楽が出てくるので、わかりやすいし、世界観が広がると思います」
遠山「感情が高ぶっている時に、すっと歌が入るんですよね。仮歌を初めて聴いた時、思わず泣いてしまいました。私がちゃんと歌えれば、皆さんにも涙していただけることでしょう(笑)。ぜひそこを楽しみにしていただきたいです」
佐竹「堕姫は闘いの中で歌う曲があるんです。闘いながら歌う、ってあまりないことだと思いますが、激しい言葉がかっこいいメロディに乗っていたりして、とても面白いです」
遠山「冒頭から時代を思わせる楽曲でとてもワクワクします。妓夫太郎の曲もメロディーが素敵で、一回聴いただけで感動しました」
コマとコマの間をどう埋めるか、探っています
――お稽古の手応えはいかがですか?
佐竹「とにかくスピードが速くて、一日4シーンくらいアクションがつくので、今は覚えるのに必死です。ストーリー自体、展開が早いので、頭の中を整理するのが大変です」
遠山「僕は後半に登場するので、まだ稽古では5行くらいしか喋っていないけど(笑)、みんなの様子を見ていて、ドキドキしています」
佐竹「一つ新鮮だったのが、役へのアプローチの仕方です。歌の中で“こういう動きをしたい”と思ったのですが、それは原作漫画の中には無いものなので、やってしまうと堕姫ではなく、私自身になってしまうんですね。俳優は(一般的に)役を自分に寄せることが多いと思いますが、今回は自分が役に近づいていく。正解が既にあって、それを目指していくというのが初めての経験です」
遠山「自分をどこまで出していいんだろう、というのはまだ探っているところですね。例えば妓夫太郎は体を引っかく癖がありますが、原作で引っかいている時以外にも、やっている瞬間はあるんじゃないか。どこまでOKになるかわからないけれど、妓夫太郎らしい動きが出来たらと思っています」
佐竹「漫画の絵と絵の間、コマの間をどの程度埋めていっていいんだろう、というところですね」
遠山「喋り方も含め、どうアプローチするのがいいのか、チャレンジだなと思っています」
――役者として、新たな引き出しが増えそうですね。
遠山「生まれそうです」
佐竹「あと個人的には、これだけ露出度の高い役は初めてです」
――(『ピーターパン』の)タイガー・リリーを演じられた時も、露出度は高かったような気が…。
佐竹「そうでした! でも、あの時より攻めています(笑)。今後、これ以上になることは無いと思います。
そういえば今回、この役をやらせていただくにあたって、私自身、気性が荒くなったらどうしようと思って、家族や周囲の人たちに“もし言葉遣いが荒くなったらごめんね”と言っていたのですが、稽古が始まってからは私、意外と穏やかなんです(笑)。日ごろのストレスを全部、稽古で堕姫が吐き出してくれているみたいで、これからも何かあったら心の中で堕姫になればいいんだ、と発見しました」
――“最強”の心の支えですね(笑)。では最後に、今回の『鬼滅の刃』、どんな舞台になるといいなと思われますか?
遠山「いろんなわくわく感を感じていただきながら、笑いあり涙ありの舞台になればいいかなと思います。そのために、僕は一生懸命、妬みます!(笑)。妬んで、汚い言葉を発して、散々嫌われることで、最後が活きてくると思うので…」
佐竹「コロナ禍を経た今は、観るにしても演じるにしても、前向きな気持ちになれるものしか観たくないしやりたくないな、という気持ちがあります。ですから、観て下さった方が、パワーをもらえるような作品になったらいいな。みんなの力を合わせてエネルギッシュな舞台に創り上げ、勇気や元気、パワーをお届け出来たらと思っています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 舞台「鬼滅の刃」其ノ肆 遊郭潜入 12月1~10日=TOKYO DOME CITY HALL 公式HP
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