一つの作品を鑑賞後、作り手を交えて感想を語りあうMusical Theater Japanのイベント“観劇を深める会”。自粛期間中の試みとして、『いつか~one fine day』をテーマに行った4月の会に続き、5月16日、現在無料配信中のミュージカル『ツクリバナシ』をテーマとした、オンライン版“観劇を深める会”が行われました。
今回の出演は演出の永野拓也さん、出演の遠山裕介さん、和田清香さん。皆さんほぼ同時刻に登場し、息もぴったりです。自粛期間中恒例の(⁈)最初の質問《健康習慣》に対しては、(なんと!)「何もしていません、舞台に出ないときは食が細いので随分体重が減りました」(遠山さん)、「散歩に出ると花を愛で…おじいちゃんのような生活です(笑)」(永野さん)というお二人に対して、和田さんは「ワークアウトとランニングで、毎日2時間ぐらい動いています」と、何とも対照的なご回答。ご覧になっている方からチャットで「永野さんのバーチャル背景は本作のセットなんですね!」と気づきのコメントが入ったところで、トークは本題に入っていきます。
2017年に小劇場の聖地・下北沢で初演、「若手演出家コンクール」で最優秀賞、観客賞をダブル受賞した『ツクリバナシ』は、ある“哀しい記憶”に囚われ、四コマ漫画の最終回がなかなか書けない漫画家とその妻の物語。もとは柴幸男さんによる20分の二人芝居だったのを、1時間のミュージカルに再構築したものだそうです。
最大の特色は、二人芝居を六人で、つまり一つの役を3人で演じている点。チャットには視聴者から
「三人一役と聞いて、最初はどんな効果があるものか想像がつきませんでした。でも見ているうちに、漫画の表現で葛藤を表す時に何人もの自分が現れて討論するというのを思い出して、この表現は漫画を読みなれてる日本人にはなじみのあるものだと感じました」
という感想が届き、深く頷く皆さん。そもそもなぜ「三人一役」で演じるのかというと
①一人の人物の人生を振り返ってみた時、一人以上の人格があっていいのではと思った
②歌舞伎では、お囃子の方々も登場人物の心情を表現するという考え方があると聞き、日本人は伝統的にそういう演出を受け入れられるのではと思った
③ある時は協調し、或る時は個性を出すのが得意な日本の俳優の強みを生かせると思った
と、永野さん。
「三人一役と聞いて、最初はどんな効果があるものか想像がつきませんでした。でも見ているうちに、漫画の表現で葛藤を表す時に何人もの自分が現れて討論するというのを思い出して、この表現は漫画を読みなれてる日本人にはなじみのあるものだと感じました」
という感想が届き、深く頷く皆さん。そもそもなぜ「三人一役」で演じるのかというと
①一人の人物の人生を振り返ってみた時、一人以上の人格があっていいのではと思った
②歌舞伎では、お囃子の方々も登場人物の心情を表現するという考え方があると聞き、日本人は伝統的にそういう演出を受け入れられるのではと思った
③ある時は協調し、或る時は個性を出すのが得意な日本の俳優の強みを生かせると思った
と、永野さん。
このアイディアを、初演に出演した和田さんははじめこそ理解出来なかったけれど、次第に(逆に)一人で台本を読むのが寂しく感じられるほどしっくり来たのだそう。
いっぽう遠山さんは人に合わせることが苦手な性分で、稽古中も(感情が)“そっちに行く? 僕は違うのにな”と四苦八苦したのがいい思い出だそう。
視聴者からは作品をじっくりご覧になっていることがうかがえる、鋭い質問が続きます。例えば「ラスト近くで6人がねぎらいあう描写の狙いは?」という問いに、“待ってました”とばかりに答える永野さん。
「“イマココ”というナンバーの後のことですね。実はここだけ、稽古の中で出てきたインプロ(即興)を再構築したものです。というのは、この作品は決まりごとがとても多く、俳優さんとしてはストレスが多いんですね。そんな中で一瞬、緊張が緩和する瞬間があると、一つのベクトルに向かっているものがさらにぎゅっとまとまります。それを見たかったので、インプロをお願いしたんです」
この部分について、和田さんが「冒頭に語られるように、この作品はずっと喋って歌って踊り続ける“ジェットコースター・ミュージカル”なんですが、この瞬間はその乗り物が登り切って無重力空間にいるような、不思議な感覚がありました。即興とは言え、役を演じてはいるので、自由と言う名の束縛がある。愛おしい時間でした」と振り返れば、遠山さんも
「それまでは“創られた自分”だったけど、“いつもの裕ちゃんを出していいよ”と言われたので、ここではちょっと解放してみよう…と思ったんですが、出し過ぎて怒られましたね(笑)」と懐かしみます。
「“イマココ”というナンバーの後のことですね。実はここだけ、稽古の中で出てきたインプロ(即興)を再構築したものです。というのは、この作品は決まりごとがとても多く、俳優さんとしてはストレスが多いんですね。そんな中で一瞬、緊張が緩和する瞬間があると、一つのベクトルに向かっているものがさらにぎゅっとまとまります。それを見たかったので、インプロをお願いしたんです」
この部分について、和田さんが「冒頭に語られるように、この作品はずっと喋って歌って踊り続ける“ジェットコースター・ミュージカル”なんですが、この瞬間はその乗り物が登り切って無重力空間にいるような、不思議な感覚がありました。即興とは言え、役を演じてはいるので、自由と言う名の束縛がある。愛おしい時間でした」と振り返れば、遠山さんも
「それまでは“創られた自分”だったけど、“いつもの裕ちゃんを出していいよ”と言われたので、ここではちょっと解放してみよう…と思ったんですが、出し過ぎて怒られましたね(笑)」と懐かしみます。
お二人がお好きなシーンを映像で振り返ったり、本番中のハプニング(配信中の映像にしっかり映り込んでしまっているそう!)を楽しくお話しいただいた後、永野さんから“いずれこの作品を海外に”という夢が語られ、前半トークが終了。ここで、遠山さんから“最近、練習しているんです”という某曲のギター弾き語りという素敵なプレゼントが! 配信特有のプライベート感の中で、ギターをつま弾きながら時折カメラを見やり、甘い歌声を披露する画面いっぱいの遠山さんの姿に、まるで自分一人のために歌ってくれているように錯覚された方も少なくないのでは⁈
和田さん「今、(『ツクリバナシ』を含め)たくさんの作品が配信で観られる状態ですが、同じ空間をともに過ごすという観劇の良さは、まだまだ日本では根付いていないのかもしれないし、逆に、これから舞台芸術が浸透してゆく可能性があると思うんです。広く、多くの方に見て戴けるよう、私たちも努力を続けたいです」
遠山さん「やっぱり僕らとしては、“生”でお届けして、そのリアクションを感じたいんですよ。これからライブ・エンタテインメントがどう進化していくかわからないけど、今は(配信で)舞台ってこういうものなんだと多くの人に知ってもらって、早く実際に劇場で観ていただけるようになるといいですよね」
永野さん「(コロナウイルス禍の中で)真面目に考えていると、どうしても一度は凹んでしまうんですよ。僕らの仕事には必然性があるのか、とか。でも、人類がスペイン風邪に見舞われた時だって、いろんな分野で変革して乗り越えていった人たちがいましたよね。“生”でやれないなら、何が出来るか。僕らの世代が、実験的なことをやっていかないといけないと思うんです。僕は今、オンラインを使ったあるプロジェクトを進行しているんですが、もしそこでお客さんに集っていただけたら、事態が収束した後にみんなで実際に集えるような(発展性のある)ものを考えています」
こうして、和やかな中にもポジティブな“気”が満ち満ちたトークが終了。その日のうちに視聴者より、「皆さんのお話に楽しく引き込まれ、考えさせられ、時間があっという間でした」とのお便りも寄せられました。コロナ後のミュージカル界では以前にも増し、オリジナル・ミュージカルへの需要が高まってゆくことが想定されますが、その充実のためにも一つ一つの作品をじっくり鑑賞し、作り手、演じ手、観る側が共に考え、思いを交わすことが意味を持ってくるのではないでしょうか。Musical Theater Japanではまた折を見て、こうした場を設ける予定です。