Musical Theater Japan

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平間壮一『RENT』2020インタビュー:エンジェルからマークへ、新たな挑戦

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平間壮一 90年北海道生まれ。07年に『FROGS』で初舞台を踏み、『レディ・べス』『オーシャンズ11』地球ゴージャス『The Love Bugs』朗読劇『私の頭の中の消しゴム』『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』『ロミオ&ジュリエット』『ゴースト』『ドン・ジュアン』『Indigo Tomato』など数多くの舞台で活躍している。写真は『RENT』より。©Marino Matsushima

日本では3年ぶりの上演となった『RENT』。夭逝したジョナサン・ラーソン渾身の楽曲に彩られたこのNYイースト・ヴィレッジの若者群像劇で、前回、前々回公演でエンジェル役を、そして今回はマークを演じているのが平間壮一さんです。愛に溢れたエンジェル役から、ストーリー・テラー的役割を担うマークへ。新たな挑戦をどうとらえているか、じっくり語っていただきました。

《あらすじ》イースト・ヴィレッジのロフトで暮らす映像作家志望のマークとミュージシャンのロジャーは、家賃(レント)を滞納するほど困窮。そんな中、階下に住むダンサー、ミミがロウソクの灯を求めて訪問する。ロジャーとミミ、コリンズとエンジェル、モーリーンとジョアンヌ…それぞれの愛の形に触れながら、マークは自分の夢を実現させようともがくが…。

決して単なる傍観者ではない、
“闘う若者”としてのマーク

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『RENT』製作発表より。(C)Marino Matsushima

――平間さんはエンジェル役を経て今回、マークを演じることになりましたが、“いつかマークをやってみたい”という思いがあったのでしょうか?
「もともと最初にオーディションを受けた時、マーク役で受けていたんです。でも途中で“エンジェルをやってみて”と言われて、エンジェル役に挑戦させていただいたら受かり、2回演じさせていただきました。そして2017年の時(日本版リ・ステージを担当する)アンディ(・セニョールJr.さん)から“そういえば、壮一はもともとマークで受けてたよね。ちょっとマーク目線で(この場面を)見てて”と言われたり、といったことがあって。そして今回改めてマークのオーディションを受け、演じることになりました」

――アンディさんとしては、エンジェルを経験したからこそ今回はマークに、といったお気持ちだったのかも…?
「一番最初にマーク役を受けた時は“にわかRENTファン”みたいな感じで、『RENT』を全然知らないでやっていたなぁと思います。エンジェルを2回経験させてもらった今だからこそマークができるんだなぁ、と。思えば、最初に受けた時は“『RENT』という作品のオーディションがあるよ”と聞いて、当時はあまりミュージカルにも出ていなかったので、どの役で受けたい?となった時、“じゃあ、マークでしょ”という浅い考えしかなかったです(笑)。
でも、エンジェル役でアンディの演出を受けるうち、役のために何か準備するといったことが邪魔だということがわかってきました。ふつう、ミュージカルを演じるうえでは、役についてよく考えて、どれだけ演じられるかが大事なんですが、『RENT』は特別な作品で、“演じ”た瞬間に『RENT』ではなくなるんです。今度はマーク役に挑戦するからといって、カメラを勉強しようとか、演技をしよう…というのが見えた瞬間にマークではなくなってしまう。平間壮一という人間がどういうことを感じていて、何か起こった時にどう反応するかがマークと合致していればアンディは選んでくれる、と思っていたので、特別な準備はしませんでした」

――その人自身の中に、演じる人物がいるかどうかが見られるのですね。
「アンディはそこをめちゃくちゃ見ていますね。エンジェル役で受けた時も、歌唱力を見るのではなくて、歌の内容を僕に語ってくれるだけで十分だからと言われました。だから普通なら歌うところを、“今日はラッキー・デー、黒人がリムジンでやってきて…”と話して合格したんです。一般的なオーディションとは全然違っていて、音楽もかからなかったし、(エンジェルはドラァグクイーンだからと)女の子立ちしようとした瞬間に“そういうの嫌い”と言われたし。仁王立ちで、男のまま喋って、と言われました。本当にその人の本質を見ているんだなぁ、と思いますね。」

――今回のオーディションでは何が課題でしたか?
「アンディからはまず、オープニングの“91年のクリスマス・イブに始める”という一文を僕に教えて、と言われました。けっこう細かく演出を受けながらその一文を喋って、その後、一曲、“What you own”を歌って終わりでした」

――今回の喋りでは、エンジェル役の時とは違うものが求められていたわけですよね。
「そうだと思いますね。この台詞を喋った時にどう感じているか。それがマークらしいか。すごく不思議なのが、アンディは嘘が分かるんですよ。“元気か?”と聞かれて“元気だよ”と言った時に、それが嘘だと、見抜かれてしまう。だから自分で本当に感じていないと、感じていないのに“1991年のクリスマスイブに始める”とだけ言ってるな、と見透かされてしまうんですよ。そういうところをアンディは見たうえで、“大丈夫だよ、お前は(内面に)マークを持ってるから”と言ってくれたけど、自分では気づいてないから、やれてるのかなとと不安に思ったりもしました」

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『RENT』製作発表より。(C)Marino Matsushima

――そこまで見たうえでキャスティングされているなら、稽古場ではアンディさんはキャストを信じ、多くは語らず、でしょうか?
「それが、アンディは僕らが自分本位になってしまうと、必ず指摘します。例えば僕が“マークとして生きるには…”とか、自分のことばかり考えていると、“そんなこと考えるな”と言われます。心から相手のことを信頼して、相手を見ているだけでいい、それだけで生まれてくるから、と。そういう稽古ばかりしていますね。でも僕ら日本人は、誰かをじーっと見るということには慣れていないので、アンディのように相手が何をした、何を思ってるというふうに逐一見守ることが難しい。それが出来るよう取り組む毎日です」

――エンジェルの経験が今、役立っていますか?
「役立つかと思ったけど、ちょっと違いました。エンジェルの時は平間壮一自身が感じるままに動いていて、例えば目の前のものを見て今その瞬間動きたくなったら動いていいよ、という感じだったけど、マークに関してはある程度計算して、この時に何を思ったからこっちに行ってあの人をこう動かして…みたいな要素があるよ、とアンディに言われました。俺自身は思ったままに動きたいタイプだけど、そうじゃなくてちょっと頭を使って、俺がこう動いたらあの人はこう動くなと考えながらマークをやらなきゃいけないと言われたから、エンジェルの時とは違う演じ方を今、教わっています」

――本作ではHIVポジティブで、命のリミットを感じながら日々を過ごすキャラクターが少なくないわけですが、マークはそうではありません。そんな状況で、マークはどんな心の持ち方でいたでしょうか?
「マークは当時、登場人物だけじゃなく、例えば行きつけの店の人だったり、たくさんの人が“翌週にはもういないかもしれない”という状況におかれていたと思うんです。彼はきっと“自分だけが取り残されてる”“みんな死んじゃうなら俺も死にたいよ”という“仲間感”のようなものを持っていたんじゃないかな。いつ死ぬかわからない人たちに囲まれてると、自分の心を保っていられないというか。そこに負けないために、“今、愛する”しかない。でも誰かが亡くなると、ああ、みんないなくなっちゃうんだって、負けちゃうんですよね。そういう(精神状態の)行き来がマークにはあります。一緒にいたいから寄り添ってても“俺は死ぬだけなんだから”とつっぱねられちゃったり。マークとしては“俺だってそっちに行きたい人だよ”と思うけど、相手は“お前は病気にかかってないじゃないか”と腹を立てる。そのもどかしさはとてもリアルで、物語の中だけじゃなく、僕らの普段の生活にもよくあることだと思います。そんな思いを今、すごく大事にしています」

――マークという役は傍観者的にとらえられることもありますが、そうではなく、本作は彼自身のある種、成長物語ともとらえられるでしょうか?
「僕もマークは傍観者なのかなと思ってたけど、全く違うなと今回、演じていて思いました。マークはロジャーに薬を渡したりとか、外に出ろと言ったりして、すごく世話好きなんですよね。彼が何を訴えたいかというと、夢に向かって生きてる人たちが光を浴びることが出来ず、いっぽうではただルールを守っただけの人たちが幸せであるかのように生きているけど、それは本当の幸せじゃない、ということを言いたい。けれど生活していくためにはお金…というところに、マークは行っちゃうんですね。だから(放送局との)契約書にサインをするけれど、全然嬉しくない。俺の周りには死と闘いながらも生きたいように生きてる人もいるのに、俺はやりたくないことをやらなくちゃいけない。そんな自分にいら立ちを覚える。マークが闘っているのはそこなんだな、と思います。やりたいことに立ち向かっていけるのか。それを通して成長していけるのか、というのがマークのテーマであって、単なる傍観者ではないんですよね」

――もがいている人、なのですね。
「と、すごく思いました。単なる傍観者だったら物語の中心になれるわけがないし、もしそうだったら勝手に周りで物事が進んでいくだけで終わってしまいます。彼は“撮りたいものを撮る”という信念を持っていて、冒頭の歌詞でも“今じゃ現実のほうがフィクション、どうやってリアルを撮るんだ”ということを歌っています。そんな彼の内面に何もないわけがない。そう思うと、僕の演じるマークは自然に熱くなっていることもあります」

――エンジェル役として参加した2つのカンパニーと比べて、今回のカンパニーはどんな空気でしょうか?
「すごく穏やかなカンパニーです。その中から生まれ出る良さをみんなで作っていければと思うけれど、僕ら『RENT』ってこうだよね、という固定概念を持ちがちで、そういうものと闘っていかなくちゃいけない。マーク役にしても、今回は平間壮一が演じているわけで、前のマーク像は前のキャストさんが作り上げたもの。それにとらわれないよう、闘っている気がします」

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『RENT』製作発表より、ダブルキャストでマークを演じる花村想太さんと。(C)Marino Matsushima

――本作の初演は20年以上前の1996年。演目がクラシックと呼ばれるようになると、“あるべき形”が固定化されることがありますが、本作はそういう作品ではないのですね。
「どうなのでしょう。僕はもともとダンサーで、ミュージカルのルールを勉強してこの世界に入ってきたわけでなく、むしろミュージカルってこうあるべきということを崩してやってきたのでよくわからないけど、もし、(前任者が)やってきたことをやらなきゃいけないとなれば、アンディはたぶん俺を選ばなかったと思います。ただ人が入れ替わっただけの舞台にはしたくないなと思います」

――どんな舞台になればと思っていますか?
「2020年、特別な環境の年だからこそ生まれるパワー感が出れば。そして本当に一つになった『RENT』をお見せできたらいいなと思います。みんながライバルというか、パワーをぶつけあう中で、最終的には一つに、まるくなっていけたらいいなと思っています」

――プロフィールについても一つだけうかがわせてください。近年、平間さんは『ゴースト』でいわゆる悪役、『インディゴ・トマト』では表情の芝居を封じた役柄と新境地を開いていますが、ご自身の中で充実感はありますか?
「充実感はまだまだ、ないですね。自分自身何をやりたいんだろうと模索しながらやっている感じがあります。もともと、役というのは(自分で決めるものではないので)こういうものをやりたいと思って出来ることでもないし、その時その時、目の前にある事で自分は何を伝えたいかを毎日考えています。今回で言えばマーク役だから、『RENT』だから凄いとも思っていなくて、その時その時で大事なものを探しだそうとしています」

――今日を、今を大切に生きる。その連続で未来が見えてくる…という感じでしょうか。
「そういう感じです。だからいつも、すごく悩んでいます」

――青春、ですね。
「そうですね。一つの場所に落ち着くことのないように生きていきたいです」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『RENT』11月2日~12月6日=日比谷・シアタークリエ 公式HP
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