新緑の候、劇場街には日本初演の『BACKBEAT』、新作『パンピスの森』『Ukiyo Hotel』から名作『ジーザス・クライスト=スーパースター』まで、多彩な作品が登場します!
【5月の“気になる”舞台】
『BACKBEAT』5月25日開幕←製作発表レポート/『パンピスの森』5月22日開幕←稽古場レポートUP!読者招待有/『Ukiyo Hotel』5月24日開幕←読者招待有り/『ジーザス・クライスト=スーパースター』5月18日開幕
【別途特集の舞台】
『笑う男』←上田一豪さんインタビュー、観劇レポートUP/『レ・ミゼラブル』←観劇レポートUP/『パリのアメリカ人』←石橋杏実さん・宮田愛さんインタビューUP/『カモメに飛ぶことを教えた猫』←観劇レポートUP/『エリザベート』←古川雄大さんインタビューを掲載
知られざる“ビートルズ”青春の日々を描く『BACKBEAT』
5月25日~6月9日=東京芸術劇場、6月12日~16日=兵庫県立芸術センター、6月19日=刈谷市総合文化センター 公式HP
《ここに注目!》
ビートルズがまだ無名だったころ、彼らは4人ではなく、5人編成のバンドだった…。20世紀を代表するバンドの黎明期を、21歳で夭折したベーシスト、スチュアート・サトクリフに光をあてながら描いた映画(イアン・ソフトリー監督)の舞台版が上陸します。
親友ジョン・レノンに誘われてバンドに加わったスチュアートは、巡業先のハンブルクで女性写真家アストリッドに出会ったことで絵画への情熱を再燃させ、音楽との両立に悩むが…。
ビートルズの物語ということで、舞台上でキャスト(スチュアート=戸塚祥太さん、ジョン=加藤和樹さん、ジョージ=辰巳雄大さん、ポール=JUONさん、ピート=上口耕平さん)が実際に様々な楽曲を生演奏するのが大きな見せ場。猛練習を経て、彼らがどんな演奏を聞かせ、“まだ何者でもなかった”時代のビートルズと重なって見えてくるか、注目されます。
《製作発表レポート》
都内のライブハウスで行われた製作発表は、ビートルズ役の5人による楽曲披露からスタート。ビートルズが巡業時代によく演奏したC・ベリーの“ロックンロール・ミュージック”では加藤さんがエネルギッシュに、またスチュアートがアストリッドのために歌ったE・プレスリーの“ラブ・ミー・テンダー”では戸塚さんがボーカルを担当。
尾藤イサオさん、鈴木壮麻さん、演出家の石丸さち子さんが加わってのトークでは、ビートルズの初来日公演で前座をつとめた尾藤さんから彼らとのニアミスエピソードが語られ、一同大興奮。石丸さんも「ビートルズは17~18歳の頃にハンブルクで一日6時間以上、毎日演奏していました。当時セックス産業が盛んだったこの町で、彼らはどれほどのピュアさをもって音楽をやっていたか。私自身、何かを忘れそうになるとこの作品(原作映画)を何度も観てきました」と熱っぽく語ります。
続く囲み取材では戸塚さんが「(稽古期間が始まる前から)常に傍にギターを置き、練習しています。僕らなりにビートルズのかけがえのない青春を描きたい」、加藤さんが「今回は英語での歌唱だしジョン役ということでシャウト系の曲が多く、芝居をしながらの演奏という点で普段の音楽活動とは異なります。支え合いの精神で呼吸を合わせ、バンドとして成立させていきたい」とコメント。
また辰巳さんは「僕は一番初心者で、一日8時間練習してきました」、JUONさんが「(本来は右利きだが)今回はポールに合わせて左モードでほふく前進しています」、上口さんも「初めて皆で音を合わせた時は感動しました。何かが生まれてくる予感があります」と語り、最後に尾藤さんの「(今日は君たち)一夜漬けでよくここまでやったよ!とにかく5人がタッグを組まないと出来ない。皆で楽しくやりましょうよ」との愛あるコメントで締めくくられました。
“めまぐるしい”愛の騒動を実力派キャストで魅せる音楽劇『パンピスの森』
5月22日~6月2日=浅草九劇 公式HP
《ここに注目!》
林愛夏さん率いるHMCと、安倍康律さん率いる劇団ぼるぼっちょが初コラボ。森の伐採計画を阻止するため立ち上がった人間と妖精たちの“恋のから騒ぎ”が、林さん、安倍さんのほか神田恭兵さん、原田薫さん、木村花代さんら実力派スターたちによって描かれます。どことなくシェイクスピアの『真夏の世の夢』を思い出させる物語は肩の凝らない、かわいらしい作風で、空気の張りつめた作品が多い昨今、貴重と言えるかも。全席が特等席と言える小ぶりの会場、それにも関わらずチケットも4800円と大変お手頃。デートはもちろん、家族のお出かけにもお勧めできる作品です。
《稽古場レポート》
賑々しく登場する旅芸人の一座。順ぐりに観劇マナーを訴えると、皆でテーマ曲を歌い、物語を始めます。妖精二人組を演じるのは、滑らかかつ軽やかな動きの原田薫さんと、表情豊かな木村花代さん。呼び名を巡る他愛ない問答を繰り広げているところに、安倍康律さん・神田恭兵さん演じる木こりと、林愛夏さん演じる妹ベルーカが登場。妖精たちが浮かない表情の彼らの話に耳そばだてると、なんとこの森が伐採されようとしているとのこと。
森がなくなっては大変!と色めき立つ妖精たち。なんでも、伐採を計画している男爵はベルーカに片思い中で、彼女が男爵と結婚すれば計画は止められるかもしれないらしい。それなら娘を男爵に惚れさせればいいんだわ、と妖精たちは男爵を探しに行くも、ベルーカはベルーカである計略を秘めており、さらには男爵に長年思いを寄せる令嬢も登場、話はすっかりややこしいことに。果たして伐採計画の行方はいかに?
刻刻と状況が変わってゆく2時間弱を、のどかな童話の空気感を漂わせながらも一気に見せてゆくのは、さすが実力派が揃ったキャストの手腕。前述の妖精のお二人はもちろん、ヒロインとしての華と安定感を兼ね備えた林さん、ちょっと内気だけど終盤の歌でびしっと場を締める神田さんも印象的ですが、特に強烈なのが林勇輔さん演じる男爵。様々な声色を繰り出しながらの怪演は、一度観たら忘れられないかも⁈ 何より皆さんの、大汗をかきながらも楽しそうな姿に、“こういう劇場体験もいいな”と感じられる舞台です。
《作・演出 安倍康律さんコメント》
劇団ぼるぼっちょは、僕自身がやりたいことをやろう!と思って設立した劇団。初めは平田オリザさんのような日常を描く戯曲を書こうとしていましたが、僕自身が童話好きということもあってか、結果的にファンタジーに落ち着きました。大人向けに作っていますが、お客様からはファミリーでも楽しめるとよく言われます。
今回は『夏の世の夢』はじめ、シェイクスピアの作品をいくつかパロディにしながら作っています。森を守ろう!とか言っていますが、環境問題を訴えているわけではありません(笑)。お客様に自由に楽しんでいただけたら嬉しいです。 (読者1組2名様をご招待します。詳しくはこちら)
伝説の娼婦を描くエネルギッシュなミュージカル『Ukiyo Hotel』トライアウト
5月24~26日=ラゾーナ川崎プラザソル 公式HP
《ここに注目!》
大正末期、横浜本牧に実在した娼婦をモデルに描かれた劇画『淫花伝・本牧お浜』を再構成した舞台『Ukiyo Hotel』。2015年に短編ミュージカルとして端を発し、朗読劇など紆余曲折を経てきた作品がこのたび、フル・ミュージカルとしてトライアウト(試演)を実施します。
ダンスホールと娼館が一つになった大人の娯楽施設を舞台に、世界にその名をとどろかせた娼婦ハマコと彼女を取り巻く人々が繰り広げる、愛と欲望の物語。劇作家・演出家の河田唱子さんがライフワークとして展開させてきた作品ですが、歌唱指導の市川祐子さんによると「田中和音さんによる音楽は全体的にジャズ色が強く、ビッグナンバーはダンスもあって華やか。またハマコを演じる関谷春子さんのセクシーで艶やかな歌声と、彼女を慕うヤエコ役・野田久美子さんのパワフルな歌声のコントラストもポイントです。みんなで意見を出しあう稽古場はとても雰囲気がよく、ミュージカルを見慣れていないお客様も違和感なく観ていただけると思います」とのこと。
トライアウトと言うと“未完成”と思われるかもしれませんが、要は一度観客のリアクションをうかがい、それによっては手を入れてさらに良いものにしたいという、時間と手間をかけた贅沢な作品。自分のコメントが作品に反映される可能性も大いにあり、観客にとっても楽しみな部分の大きい公演と言えましょう。(読者5組10名様をご招待します。詳しくはこちら)
世界に唯一無二の浅利版演出、再び『ジーザス・クライスト=スーパースター』
5月18日~6月2日=自由劇場、6月12日~7月7日=名古屋四季劇場 公式HP
《ここに注目!》
音楽市場で発表、主要曲がヒットチャートを賑わせた後にライブ版、舞台、映画版と発展し、日本でも73年に劇団四季が初演して以来不動の人気を誇るロックオペラが、浅利慶太さんの追悼公演第二弾として登場します。
キリスト最後の7日間を描く本作は若きロイド=ウェバー(作曲)、ティム・ライス(作詞)が実質的に世に出るきっかけとなりましたが、71年のブロードウェイ版に続く日本版を、浅利慶太さんは歌舞伎風のヴィジュアルで上演(後にジャポネスク・バージョンと命名)。その後、イスラエルの荒野を八百屋舞台(傾斜舞台)で表現したセットが印象的なエルサレム・バージョンが誕生、今回はこちらでの上演となります。
風刺味を強調するあまり海外ではやや重みに欠ける公演も見受けられますが、日本版は岩谷時子さんの程よくシリアスに練り上げられた訳詞の効果もあり、ユダやジーザス、ピラトらそれぞれの苦悩に寄り添いやすいのがポイント。彼らは何を愛し、信じ、伝えたかったのか、ロイド=ウェバーの情熱迸る音楽とともに堪能できることでしょう。